崩壊:アイオニオン   作:Hakone8510

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目覚めると一面の岩山が自分を囲んでいた。あまりにも殺風景な視界に辟易しながらも、ヘルタたちとの通信が途絶した今外部からのバックアップを受け取れない状態にあった。この状況を打破するため、この世界について知るため行動を共にできる仲間を探そう。


開拓者よ、永遠の地に再び足を踏み入れよ

 野原に金属同士のぶつかり合う音と、弾が風を切る音が響き渡る。黒と白の軍団がそれぞれ剣を交え、銃を向け合い、巨大な鉄の巨人が向き合っていた。線になった光が互いの陣地を飛び交い、草むらを灼いていく。爆発が起こり、人と武器が吹き飛び、大地が抉れる。何度も削られたような地面や壁面が、この戦いの凄惨さとかつてあった戦いの歴史を物語っていた。

 やがて聞こえてくるのは人々の絶命の悲鳴と、攻勢の雄叫び。黒が白を次第に押していき、ついには白が戦線を後退していく。黒の側は白の方がすでに撤退を始めているにも関わらず、追撃の手を一切緩めることなく細い道まで一気に追い込んでいく。ただ、そこから先までは黒の側も無闇に追おうとはせず、白い軍服が完全に見えなくなったのを見て各々帰還の準備を始めた。

 次々と黒の兵士たちが来た道を戻って行く中、立ち止まってその様子を前線で眺めていたのは、黒い軍服に身を包み黒い髪を頭の後ろに結んだ、青い瞳の青年だった。

「不治ヶ原の方に行ったのか……」

 彼は渓谷の方へ逃れていく白い兵士たちを見送ったのち、眼下の戦場跡に目を向ける。白黒混合の骸の数々が山のようの積み重なって、その体から赤い粒子を発していた。

「おいノア、さっさと帰って進軍準備しねーと軍務長に怒られるぞ」

 彼の後ろから近づいて来たのは、大剣を背に抱えた大柄な男。筋骨隆々なその体の色はグレーを基調とした独特なもので、機械の接合部のような線がいたるところに走っている。ノアと呼ばれた青年は、顔だけを呼びかけてきたその大男に向けた。

「ランツ、少し待ってくれ。彼らを“おくり“たいんだ」

「またアグヌスと一緒にか?敵だぜ、あいつら」

「ケヴェスとかアグヌスとか、死んでしまったら関係ないだろ」

「言っても無駄だよ、ランツ」

 そう言って二人の後ろからやって来たのはランツと呼ばれた大男と同じような体色の、しかしランツの険しい顔と比べて柔和で穏やかそうな顔をした青年だった。

「そーそ。ノアがアグヌスもおくるなんて、いつものことだろ」

「そうも。いつものことなのにランツは覚えが悪いも」

「んだとぉ!?」

 さらにその後ろから、頭に鳥の羽のようなものが生えたグラマラスな茶髪の少女、そして水色とも緑色とも言い難い毛色のもふもふした生き物が歩いてくる。

「ムンバ、そっちはもういいのか」

 ノアは体ごと後ろを向いて、仲間たちの方を見て言った。

「ヘルプに行った部隊は無事帰還できたよ。お前の指示のおかげだ、ノア」

「そんなことはないさ、ムンバの腕が良かっただけだよ」

 急に褒められたムンバは、照れたように頭をかく。

「おい、やるなら早くやっちまえよ。お前が帰らねーと私たちも帰れねーだろうが」

「ユーニもこう言ってるも。お風呂で土汚れを落としたいも」

「わかったよ、ユーニ、リク」

 ユーニと呼ばれた茶髪の少女とリクと呼ばれた毛玉生物に急かされ、ノアは黒い笛を取り出し演奏の構えをとる。

 息を吸い、目を閉じ、息を吐く。

 伸びやかで抑揚のある、なんとも物悲しい戦慄が戦場に響く。戦いの雑音とは違う調和の取れた音は、一つの音であるにも関わらず和音のような重厚感をもって、帰っていく兵士たちの心にも行き渡っていく。いつのまにか兵士の骸の山から出ていた赤い粒子は白に変じ、風に乗って空へと消えていった。

 吹き口から唇を離し、目を開ける。紺色の空へ昇り星になっていく命の粒子を見届けていると、一際輝きを放つ星が瞬いたのが見えた。

 次の瞬間、その星が斜め下へと黄色の線を描いたかと思うと、空からこぼれ落ちて近くの高台の方に落ちて大きな衝撃が辺り一体に響き渡る。

「うわあっ、なんだぁ!?」

「補給物資の投下にしては揺れが大きすぎる……一体何が……!?」

 突然の揺れに仲間たちがバランスを取ろうとする中、ノアの視線はずっと星の落下点へと向いていた。

「……どうやら、空から星が落ちてきたみたいだ」

「星ぃ?お前何言って……」

「落下点に向かおう、何かあるかもしれない」

 ノアは仲間たちを一瞥すると、落下点に向かって走り出す。

「おい!お前勝手に……」

「とりあえず、ついて行ってみよう」

「ムンバ!お前なぁ……」

「もし僕らに利益のあるものだったら、残っていたアグヌスが回収してしまうかもしれない。もし危険なものだったらコロニー9に被害が及ぶ前に対処しなきゃいけない。どっちみち行かなきゃいけないんだ、僕らで様子を見て、無理そうだったら応援を呼べばいい」

 ムンバの説得にランツは押し黙るしかない。理論勝負でノアとムンバに敵わないのは、いつものことだ。

「はぁ……せっかく帰れると思ったのによぉ……羽の汚れも落としたいってのに……」

「まったくも」

 ぶつくさと文句を言いながらも、いつものことだと言わんばかりにノアについて行く三人と一匹。運命の転換点へと自ら近づいていくのを、この時の彼らはまだ知らない。

 

 

 

 目が覚める。何度目とも知れぬ落下からの目覚め。言っても二回くらいだが。二回だったよね?

「いたた……」

 頭を抑えながら上半身を起こす。地面を見れば、綺麗な円形のクレーターが自分を中心に刻まれている。自分の耐久性には、いつも驚かされるばかりだ。

「どこ、ここ……?」

 辺りをキョロキョロと見回すが、周囲にあるのは岩山と地面がせり上がったかのような壁ばかり。オンパロスの時と比べて何とも目新しさに欠ける景色だった。

 朦朧とした意識が次第にはっきりしてきて、ゆっくりと立ち上がる。背後から近づいてくる足音を耳に入れながら。

「おい、そこのお前!」

 振り返れば、そこにいたのは全身を白い装束で纏った、なんとも珍しい見た目の兵士が数人。といってもその意匠は仙舟の雲騎軍の鎧に似ている、ような気もする。

「何?」

「その黒い格好、見たことないがケヴェスだろ。お前の命、もらってくぜ」

 あまりにもセリフが小物、もはや彼らの結末が見え透いていて涙すら出てきそうだ。……というジョークを初対面の相手に飛ばしてもきっと相手にしてもらえないと流石にわかってきたので、当たり障りのない言葉を返す。

「ケヴェス?何それ」

「はぁ?とぼけてんじゃねぇ!」

 逆上させてしまった。会話というのはえてして難しいものである。

「しゃあねぇ……本当にわかってねぇなら、体でわからせてやんよ……!」

 白い兵装の四人は一斉に各々の武器を取り出す。四人の装備は双剣に小銃、片手剣に槍……中々にバランスの良い構成だ。声をかけて来たリーダーと思しき少年は、双剣をカチカチとぶつけて音を鳴らしてこちらを威嚇している。カマキリみたい、と思ってしまったのは内緒。

「じゃあこっちも、私が何者なのかその体に叩き込んであげるよ……!」

 そっちがその気なら、と虚空から自らの武器を取り出そうとしたところで。

バシュッ!!!

 白服の一人が吹っ飛んだ。後ろから飛んできた「何か」に吹き飛ばされたのだ。

 後ろを振り向くと、黒の装備を来た四人組が走ってこっちへ向かって来ていた。両手剣、大剣、小銃……それに狙撃銃?のような何かをそれぞれ携えた四人は、(せい)を背にして囲んで守るように立つ。

「大丈夫か?」

 黒髪を頭の後ろに結んだいわゆるポニーテールの髪型をした青年が、顔だけをこちらの方へと向けて聞いてくる。

「え?ああ、うん……」

「色々と聞きてぇことはあるが……今は後回しだな……!」

「そうだな、今はここを切り抜けることを考えよーぜ」

 筋肉質な大男と、天環族のように頭に翼の生えた少女が武器を構え、戦闘体制に入る。武器種を見るに先ほど敵の一人を吹っ飛ばしてくれたのは、狙杖を持った翼の少女だったのだろう。

「よくわかんないけど……助かったよ」

 そう言うと(せい)は自分の手から己の武器を取り出す。持ち手は細く、打点は太く、原始の時代において人間が手にしたもっともシンプルな武器……ではないがおおよそ用途を同じくした道具、バットである。ヘルタ秘蔵の宝物であるそのバットは、彼女がその手にした瞬間先端を白く発光させ、電磁波のようなものが流れ始める。

「はあっ!」

 せっかく駆けつけてくれた四人を置き去りにして、彼女は飛び出した。

「「「「!?」」」」

 当然、置いてかれた四人と一匹は慌てて彼女についていく。

「このっ!」

 一番先頭にいたリーダー格の白い兵士が、何も考えず真っ直ぐ突っ込んでくる(せい)に向かって二本の剣を振りかざす。しかし彼女の方は当たる直前で二本とも回避し、彼の懐に入り込む。

「まず、1アウト!」

「ぐはぁっ!?」

 バッドの先端を突き刺すように前へと押し出し、足の浮いた彼の腹へ直撃させる。それは見事な放物線を描いて、先程狙撃されて吹っ飛ばされた兵士のところまで飛んでいった。

「ご、ごふ……」

「リーダー!」

 思わず視線を逸らし再起不能となった二人の方を振り返った、タンク役と思われる剣と盾を持った兵士は、勢いそのままに背後まで迫って来ていた星に気づいていない。

「馬鹿、後ろだ!」

「え……」

「これで……2アウト!」

 ホームランを打つが如くおおきく振りかぶって今度はバットの打点が相手の腹に直撃、同様に飛ばされて後ろまで運ばれていく。

「こ、このやろおっ!」

 槍を持った兵士が脅威的な速さの突きを連続で、それも退路を潰していくように仕掛けてくる。先程の仲間への注意喚起といい、彼がもっとも年長者のようだ。

「お、筋がいいね」

  バットの彼女はその猛攻を時には避け、時には受け流し、時には受け止めながら素直に相手を褒める。その様子が逆に、彼の神経を逆撫でしていた。

  ッ!」

 感情を抑えきれなくなり、穂先を横に振り払う。しかし顔を上げると既にそこに彼女の姿はない。

「い、一体どこに……」

「上だ!」

 リーダーの言葉に反応し空を見上げると、直上にバットを構え白い光を瞬かせる星の打者の姿があった。

「でも、丹恒ほどじゃないね」

 ズドン、とバットの先端が彼の目の前の地面に振り下ろされ、地面がひび割れる。

「うわあっ!?」

 その衝撃波によって、持っていた槍を落とし、彼自身は地面を転がりながら仲間三人のところまで吹き飛ばされた。

「う、うぐ……」

 痛む頭を押さえながらもなんとか体を起こそうと手をつき、前を見据えようと目線を上げる。眼前にあったのは、自分を衝撃波だけで軽々と自分を場外送りにしたバットと、それを握り先端を首元まで持っていく灰色髪の少女だった。

「ゲームセット、ってね」

 

 

 

 四人と一匹は言葉を失っていた。倒れ込むアグヌス兵たちに自分の武器(ブレイド)を向ける少女は、此方の助けなぞいらないほどに強靭であったからだ。

「……すげー。あいつ、一人で三人に勝っちまった」

 最初に口を開いたのはユーニだった。己のブレイドによる狙撃で一人は制圧したとはいえ、それは相手が油断していたからの話。そもそも複数を相手に一人で立ち向かうなど、いくら気が強く男勝りな性格の彼女でも憚られる行動だった。

 しばらくしてアグヌスの兵士たちに何かしらを話しかけた灰色髪の少女は、それきりブレイドをしまって踵を返し、こちらへ向かってくる。アグヌス兵の方はというと、怪我で痛む部分を各々押さえながらも仲間たちの行き先の方まで逃げ出して行った。ノア一行の前で少女は立ち止まり、静かに微笑んだ。

「初めまして、私はセイキュウレッシャのナナシビト、名前はセイ。よろしくね」

「セイキュウ、レッシャ?」

 聞き馴染みのない言葉を反芻するも、やはり理解が及ばないと首を傾げるノア。ランツやユーニ、後ろで聞いていたムンバやリクも同様に首を捻って困惑の表情を浮かべている。

「それは所属しているコロニーの名前か?」

「コロニー?セイキュウレッシャはそんなところじゃないよ」

「そもそも、あんたはケヴェス兵なのか?さっきまでアグヌス兵と争っていたが……」

「ケヴェス?アグヌス?さっきの白い人も言ってたけど、何それ?」

 好奇心を抑えられないノアは次々に質問を投げかけるが、それに対する答えはどれも要領を得ない。

「もしかして、何も覚えてないも?」

「覚えてない?……まぁ、三年より前の記憶はないけどさ。単純な記憶喪失とも違うっていうか……」

 リクがノアの前に出てきてセイに疑問を呈するも、明確な答えは得られない。

「それよりも、ひとまずこの世界について色々教えてくれない?わからないことだらけでこっちも困惑してるの」

「あ、ああ。すぐそこにノポンキャラバンのキャンプ場があるから、そこで話そう」

 ひとまず場所を変え、コロニー9の勢力圏へ逃れなくてはならない。こんなところで長話していては、あのアグヌス兵が増援を呼んでくるかもしれない。

「あ、そういえば言い忘れていたんだけど」

 そう思った矢先、彼女はまるで何かしらの当番をすっぽかしてしまったとでも言うような口調で、こんなことを口にした。

 

「私、この世界(アイオニオン)の外から来たんだ」




補足説明
「天環族」
 スターレイル世界における種族の一つ。ハイエンターと同じく後頭部から鳥のそれのような翼が生えており、加えて天使の輪のような神聖な「天環」を頭上に浮かべている。「調和」の神から祝福された種族である彼らは人の心を動かす特殊な能力を持ち、また接近した相手の思考を読み解くことができるのではないかとまことしやかにささやかれている。星穹列車の乗員にも天環族の青年がいるため、星はユーニに対し親近感を抱いているようだ。
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