息子の帰還~去年に繋がった異世界から死んだと思った息子が超やんごとなき方として戻ってきた件~ 作:oosima
○2026年3月31日朝 地球 日本国 鹿児島県南部
「…はあ、何とか被害拡大は防げてこの辺りも親戚の農園だったから示談で済んで良かった…」
「まあ、ほとんどはお前の
「…ええ、異世界と繋がったばかりの頃の
異世界由来のシンゲ菌による巨大化及び狂暴化した動植物の後始末を、息子からの連絡を受けて来てくれた帝国の工作部隊にも手伝ってもらって(というか、向こうがほぼしてくれて私達はほぼ事情聴取くらい)どうにか済ませた後、私達は農道を息子が用意してくれた車に乗って家への帰り道に入っていた。
「…まあ、
「いやミカエル、光代ちゃんと比べたら今どきの其の他はほとんどプチボンビー苦労譚にしか聞こえんだろ」
「え? どういう意味ですか?」
「…いやね光代ちゃん、以前に車窓から見えるこのサトウキビ畑を眺めながら、君が田舎へ旅行に出かけた深層の令嬢のような落ち着いた佇まいで語った、サトウキビ農園の富豪貴族に昔の君が捕まった時の話に比べればー…」
「光代さん、あなたって何か妙なところ―…というか根っ子が色々とずれている気がーやっぱ―…」
その車には息子ミカエルの同級生にして弟子である光代の何処か戸惑っている様子と、途中で親戚が経営する浜辺のレストランへ私用で行っていて私達が途中で拾ったマリアが微妙そうな顔で乗っていた。
「…それを言うのなら、今の私としてはー…先生が用意してくださったこの車の方が今はアレだと思うのですがー…」
「…まあ、たしかにね…ねえ、お兄ちゃんさぁ…これ、どうにかならなかったの?」
天然さと今は隠されている裏の経歴から向けられてきた微妙そう且つ憐れむものを見る眼差しに、光代ちゃんは気まずさを覚えて私の息子に逸らそうとするが、実際に私達のその視線は息子に向けられる。
「…いや、だってさぁハイディナ先生にあの巨大化サトウキビ倒壊の現場で怒られた時に、今回は自分でお帰り下さいって言われたからー…歩いて帰るには遠目だからー、だから僕の魔術で用意したのにー…」
「…いやね…用意してくれたのはありがたいし嬉しいのよ…ただねー…この…祟●神みたいなのは何!?」
それに戸惑い少し困り顔な息子に対し、我が娘は数秒間のプルプルとした震えの後に今の自分達が乗る、息子が魔術のゴーヤで形作った巨大な箱を基礎としてそこから触手のようなゴーヤの束で出来た何本もの手足で、車顔負けの速度でサトウキビ畑の中を突き進むゴーヤ多脚カーに怒鳴った。
「●り神って何!? ここは東北でも蝦夷の隠れ里じゃないから! モデルにしたのはネコ●スだからー!」
「それでも●が無いと普通にアウトでしょーがー! この蜘蛛みたいな足がきしょいし何より祟り●感が拭えないのよ!」
「だって仕方ないでしょ! まだ
「そういうとこばっかどうして細かいのよお兄ちゃん!?」
「…おい! 我が子達よそれ以上ジ●リに知られたりしたら睨まれそうな言動は止めろー!」
「そ、そうです! マリアちゃんが寄っていたあのお店でこの前のお店直下農園での問題解決のお礼でもらえたこの“黒砂糖フレンチトースト”でも食べて落ち着きましょう!」
そのまま某アニメ会社に怒られそうな口論を始めた子供達をどうにかなだめようと、光代ちゃんはその手に持つ紙袋から、ここ甘富産の黒砂糖とサンゴ塩を使用した香ばしい匂いを放つ狐色の菓子を取り出した。
「…そ、そうだね…ちょっと興奮しすぎてたよ…」
「お母さんの分は残しておかないとね…もぐもぐ…あーー、黒砂糖の自然な甘みとサンゴ塩の自然な甘辛さがマッチしておいしー…」
「あの異世界ショックの影響で色々な店が潰れたが…この味が守られたのはこの島の誇りだなー…」
脳が怒りと焦りで酷使されていた後にその甘菓子は本当に癒しとなってくれ、私達は先ほどまでの興奮が嘘のように和やかなドライブの空気へ変わっていく。
「…さてと、この分はお母さんの分だから閉じなおしましょう…」
だが、マリアが残りの入っている紙袋を閉じようとしたところでその空気は台無しになる。
「ちょっと待ちたまえマリアお嬢さん、この僕コクトー・シュガルスキー使用フレンチトーストの感想をこちらに書いてもらえないかな?」
残しておいたフレンチトーストから平面な板チョコのような形をした黒砂糖に簡単な手足を生やしているが顔のない生き物が現れ、アンケート用紙を娘に差し出してきた。
「…………」
すると我が娘マリアは無言無表情でそのフレンチトーストを車窓から思いっきりぶん投げた。
「ちょ!? 何をするのだーーーーーーー!?」
「「「オロロロブウウウゥウウ!!!!!!」」」
その生き物が悲鳴を上げていきながら遠くなるのを後押しするジェット噴射のように、私達三人は胃に入ったばかりなのが分かるフレンチトーストを噴水の如く噴出した。
「…ゲホゲホ…い、いつのまにコクトーさんはあの店の黒砂糖に侵入を…!?」
「…ううぅ、い、胃が汚された気分だよ…」
「か、彼の下半身は残りのフレンチトーストと一体化したままの状態だったから…●ニをしゃぶらされていたことに気付いたような気分だ…」
「…ちょっとお兄ちゃん…何とかあのどっかの黄色いアフロが主役の漫画に出てきそうな変態食品と関係を切れないの!?」
「…そ、それはさすがにー…まあ、結構な頻度で絶交したい悪友って感じはさせられるけどー…!?」
十数秒後、私達が胃の中をリバースしつくして今度は息子に非難が集まりそうになったその時、後ろから何かが猛追してきている爆音が鳴り響いてきた。
「…え? 何この海外のバギーみたいな音は―――!?」
「ちょっとー! まだアンケートに感想を書いてもらってないぞーーーー!!」
我が娘が後ろを振り返ると、そこには19世紀辺りを彷彿とさせる古風な黒に近い茶褐色の車を爆走させて追ってくる先ほどの珍生物コクトーの姿があった。
「―――あいやアアアアアアアアアア!? 変態がどっかの天空城を目指す空賊が街中や線路で爆走させてた奴みたいなのに乗って細い農道からまたしても追ってきてるううぅぅううぅううううぅ!!」
「コ!? コクトー!? そんなのどうやって作ってそこまで速度出してるんだー!?」
「ハーッハッハ! さっきリバースされたものの中に君の魔力が多めに宿ってたのがあったからそれを魔術で肥料代わりにしてこの辺りのサトウキビを過剰成長させて砂糖を搾りだしてこの車を作ってきたのだよー!!」
「変態だけど無駄に芸が細かいのばっかだなうちの息子の異世界の友は!!」
我が娘に悲鳴を上げさせて息子を驚かせたその珍生物の名はコクトー・シュガルスキー君。
息子ミカエルの異世界における幼少期からの友の一人で、人工霊的な生命体のために“仮体”と呼ばれる依り代に魂を宿らせることで現世にて活動しやすくし、科学的要素が強い科学式魔道学に強い種族“
ちなみに、コクトーは見た絵通り黒糖をその仮体としており、そのためか黒砂糖を異常に愛してそれを魔術で作って操るのが大得意だが、それに任せて今回みたいな暴走変態行為をしまくるというとんでもない存在でもあった。
「お兄ちゃーん! 早くあの変態から逃げてよー!」
「うわー! マリアあんまり押すなー! 押されるとスピードが更に出そうにー…うわー!?」
そのことを息子との再会の時から嫌というほど思い知らされてきた我が娘は半泣き顔でその身に抱きつき、今度は兄に悲鳴とスピードを上げさせていく。
「…幾ら車じゃなくてもねぇ。あのスピードはなぁ…」
「「…はい…本当にすみません…」」
数分後、異世界の帝国側の警察に取っ捕まって我々、特に息子とコクトー君は厳重注意をされていた。
日本ではなくて帝国側なのは、捕まった場所が日本ではなく、そこから帝国が借り受けた租借地であったためである。
ちなみに厳重注意で済んでいるのは、先ほどの爆走は性格にはコクトー君は我が身から黒砂糖を、我が息子はその身から生やしたゴーヤを束ねて車の形を成した状態であったので“あくまで超高速の徒歩”という形に、うちの息子が裏から手を回して押し通させたためである。
他にもコクトー君が勝手に使用したサトウキビは、使った分はその後で彼が別に生やしていつもの状態にした後だったので、取り扱われないようにうちの息子がそこも手を回してくれた。
いつの世も身内に持つべきなのは権力者であることを冷酷に示す現実を、私とマリアは大人しく甘受するほかなかった。
次回、ファンタジー作品では定番の“あの立ち位置”のキャラが登場します。
ちなみに、今回登場した甘菓子の参考にしたものはこちら(https://x.com/kaioosima/status/2069763614622486652)にあります。