俺だってなりたくて女の子になったわけじゃないんだ! 〜天下無敵の女子中学生・葛葉ちはやの知られざる悲哀より〜 作:蘇芳ありさ
初投稿です。よろしくお願いします。
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【重要なお知らせ】
差出人:〒100-8××4私書箱4946「転生管理局・第七推進課」
担当:転生担当職員(猫型・自称)
拝啓
このたびはあまり幸福でない人生を送られる方々を対象に、厳正なるランダム抽選を行った結果、あなた様が「異世界等転生候補者」として選出されましたことをお知らせいたします。
誠におめでとうございます。
なお、本通知は現時点においてあなた様の転生を確約するものではありません。
下記の本人希望確認の項目に記入して、署名捺印された返信用の封筒がこちらに届かないかぎり、あなた様の転生が行われることはありません。
また、あなた様のご希望が公序良俗に違反する場合も同様です。
どうかご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。
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あなた様にご提案する転生プラン
現在ご案内可能な世界は以下の通りです。
□ 剣と魔法の王道ファンタジー世界
* 魔王あり
* ドラゴンあり
* ギルドあり
* ブラック企業なし(ただし王国軍は例外)
□ 超科学SF世界
* 宇宙船あり
* AIあり
* 惑星間通販あり
* 「パスワードを忘れました」が銀河規模で発生
□ スローライフ世界
* 農業推奨
* 戦争イベント発生率 0.03%
* 主人公補正ほぼなし
* なぜか隣人が伝説の勇者
□ 魔王として転生
* 部下が多い
* 書類も多い
* 意外と会議が多い
* 勇者が定期的に押しかける
□ 完全ランダム
* 過去利用者満足度:89%
* 苦情件数:11
* 苦情内容の一礼:「なぜ私はインテリジェント大根になったのか」
なお、上記のいずれにも希望する転生先がない場合は、下記備考欄にあなた様の要望を直接ご記入ください。
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ご希望のチート能力
第三希望までご記入ください。
第一希望
第二希望
第三希望
※人気能力ランキング
1. 時間停止
2. 無限収納
3. 全魔法適性
4. 鑑定
5. どこでも昼寝しても怒られない能力
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備考欄
上記の項目があなた様のご希望に沿わない場合は、こちらの備考欄から直接お伝えください。
なおその場合でも、あまり無理のある条件は叶えられません。
せっかくの機会を無駄にすることのなきよう、節度ある要望をお願いいたします。
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注意事項
以下の事項をご確認ください。
☐ 転生先での死亡により元の世界へ戻れる保証はありません。
☐ 「思っていたのと違う」という理由による返品・交換はできません。
☐ ステータス画面が日本語で表示されるとは限りません。
☐ ハーレム形成は本人の努力を要します。
☐ 「俺TUEEE」を希望される場合、周囲の敵も相応に強くなる場合があります。
☐ 魔王討伐クエストは強制参加となる場合があります。
☐ 転生先で税金制度が存在する可能性があります。
☐ 神様もたまにミスをします。
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よくある質問
Q. 転生後もスマホは使えますか?
A. 世界によります。 なお、魔法世界では「圏外」が標準です。
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Q. 家族や友人も一緒に転生できますか?
A. 原則として不可です。 ただし強い縁がある場合、偶然同じ世界になることがあります。
偶然です。
本当に偶然です。
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Q. チート能力を全部ください。
A. ダメです。
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Q. 転生したくありません。
A. もちろん辞退可能です。
その場合、次回抽選(平均待機期間:約487年)までお待ちください。
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最終確認
以下のいずれかに○を付けてください。
○ 転生を希望する
○ 少し話だけ聞いてみたい
○ とりあえず担当者と面談したい
○ まず世界のレビューサイトを見せてほしい
○ 「異世界」ではなく「来世で朝に強い人間」になりたい
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追伸
本書を返信用の封筒に同封の上、郵便局のポストに投函されたら契約完了です。
担当者一同、あなたの新しい人生を心より応援しております。
敬具
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※本通知は汎人類評議会制定宇宙転生法第88条「なんか面白そうな人を選んでよい」に基づき送付されています。
※転生先で得た伝説・偉業・黒歴史は広報資料として利用される場合があります。
※猫を助けたことがある方は当選確率が若干上昇しています。次の機会を狙う場合は困っていそうな野良猫を探してみるといいかもしれませんね。
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署名 印
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──猫の鳴き声で目を覚ました。
昨日の会社帰りに助けってやった猫だろうか?
雨に打たれて震えていたから拭いてやろうと思ったら全力で威嚇され、そのくせ付かず離れず追いかけてきた子猫だ。
途中のコンビニで購入した猫の餌を与えたことから、与し易しと思われたのだろう。
そう思ってアパートの外に出たが、周囲に昨夜の子猫は見当たらなかった。
……代わりというわけではないだろうが、郵便受けに奇妙な封筒があった。
こちらの住所や宛名が一切記載されておらず、もちろん切手も貼られていない。
誰かがこっちの郵便受けに直接投函したと思しきその封筒は、所謂ひとつのダイレクトメールと呼ばれるものだった。
内容はなかなかにシャレが利いている。
どうやら俺は厳正なる抽選の結果、見事に異世界転生の機会を獲得したらしい。
内容が内容でなければ信じてしまいそうな書面。
こちらの希望を可能な限り汲み取ろうとする項目。
さらには、同封された返信用の封筒まで。
悪戯にしては手が込んでいて、俺は何度も感心させられた。
……もちろん本気にしたわけではない。
形としては誰かの怪文書に付き合わされ、朝の時間を浪費したことになるわけだが、俺はそんなに悪い気はしなかった。
遠慮なく投函される営利目的の広告に比べたらよっぽど気が利いている。
そう思った俺は最後まで付き合う気になったのだ。
とりあえず自分の部屋に戻った俺は、朝メシの前に本人希望欄を埋めることにした。
……くどいようだが本当に信じたわけじゃない。
冒頭の挨拶には「あまり幸福でない人生を送ってる人間を対象に」とあったが、俺はそこまで不遇な人生を送ってるわけではない。
両親は健在。最近は何を言ってもキモイとしか言わなくなったが、歳の離れた妹もいる。
仕事もある。陰なる者を自認するこの俺に飛び込み営業をさせる鬼のような会社だが、最近は取引先にも認められて案件がもらえるようになった。別に不遇ではない。
だからただの冗談。久しぶりに笑わせてもらったお礼に、こちらも担当者が笑えるような要望を書いてやろうと思ったである。
さて、そうなると適当に項目を埋めるのはナシだな。
別にファンタジーやSFの世界に興味がないわけではないが、やっぱりよく分からないところに送り込まれるのは怖い。
転生先は備考欄に「現代日本」と書くことにした。
ついでに「13歳の日本人女性に転生希望」と書いたのも他意はない。お袋から歳の離れた妹がいつも楽しそうにしていると聞いていたから、なんとなくそう書いたのだ。断じて同じ女の子なら俺にだけ辛辣な妹も、もっとこう、なんというか……手心を期待できるんじゃないかとか、そんな切なる願望が込められているわけではない。ないったらない。
……さて。なんか熱くなったわりに面白みのない要望になったが、まぁこんなものだろうと納得する。
あとはチート能力だが、こちらは何にしよう……?
あまり詳しいわけではないが、同じ現代日本に転生するならそこまで強力な能力でなくてもいいだろう。
よって、第一希望の能力は「誰からも好かれる国民的美少女」と書いた。
これはどうせ女の子になるならと、その程度の熱意で書いたものだ。
第二希望の能力を「痴漢とかストーカーから余裕で逃げ切れる身体能力」と書いたのも、なまじ美人に生まれたために苦労してる妹を知ってるからだ。重ねて他意はない。
だが、第三希望の能力を「十分な資産と安定収入」と書いたのは少しだけ他意というか、個人的な悲哀が滲み出た。
転生先でも税金や社会保障費で給料の半分近くを差っ引かれる生活は、さすがに御免被りたかったからだ。
最後に署名と捺印を済ませると、またもや猫の鳴き声が聞こえてきた。
急いで外に出て確認するも、やはり昨夜の子猫は見当たらなかったが、ちょうど良かったので近くのポストに返信用の封筒を投函しておいた。
そうして誰かの悪戯に付き合わされた後で、その日は何事もなく時間が過ぎていった。
まだまだ夏も真っ盛りのお盆前の出来事だった。
寝苦しい夜を迎える頃には奇妙なダイレクトメールに返信したこともすっかり忘れ、安物のベッドに横たわった俺は異常なほど快適な睡眠を享受するのだった。
──そして翌朝にアレが冗談じゃなかったことを思い知らされる。
異変には目覚めてすぐに気がついた。
いつもと同じ部屋にも拘らず、この目に映るすべての物が微妙に
微妙な、本当に微妙な──しかして気の所為と断じることのできない視線の低下。
そして着ている服も妙にブカブカで、特に下は押さえていないと勝手に脱げそうだった。
まさかそんなワケはない。
本当はどうしてこうなったかとっくに理解してるのに、目を逸らしたまま駆け込んだトイレの前で決定的な現実を突き付けられる。
洗面所の鏡に見慣れない女の子の姿が映っていた。
異常なほど整った顔立ちのその子は驚きに目を丸くしたまま、俺と同じブカブカの部屋着に身を包んでいた。
「……マジかよ」
漏れ出した声は初めて聞くものだったが、それは間違いなく俺の口から出たものだった。
ジッと鏡を見つめたまま動けなくなる。
鏡の中の女の子がこっちの動きに連動したらもう否定できなくなる。
認めたくない。だが、いつまでもこうして突っ立ってるわけにもいかない。
俺はトイレのドアノブに手を伸ばした。
鏡の中の女の子がどう動いたかは不明。
顔を背ける前に目を瞑ったからだ。
俺は下を見ないように気をつけながら履き物から手を離し、便座に腰をかけて用を足した。
ただそれだけなのに居た堪れなくなったのは、きっと俺が男だからだ。
……いや、そろそろ認めるしかないだろう。
俺は、女の子になった。
その証拠に出すものを出し切って紙で拭いたときに、あればそれなりに邪魔になるモノがまったく手に当たらなかった。
原因は昨日のダイレクトメールしか思いつかなかった。
ああ、たしかに俺は「転生管理局」とかいうふざけた連中のダイレクトメールに返事をしたさ。
割とノリノリで、現代日本の国民的美少女になりたいですって書いたことも認めるよ。
…………でも冗談だと思ったんだよ。
まさか本気でこんなコトになるとは思わなかったんだから、仕方ないだろう……。
とりあえずパンツとズボンを元に戻して、片手で固く保持した俺はトイレから出て、そこでえらく不景気な顔をした女の子の姿を認め、もう一度途方に暮れそうになった。
手を洗わないといけないという状況があって助かった。
もしなければ、そこでどれだけ時間を無駄にしたか判ったものではなかった。
そこから俺は洗面所を出て、玄関に目を向けたときにあるものを見つけた。
買った覚えのない買い物袋と、封の閉じられていない薄茶色の封筒がそこにあった。
この段階になると、俺の頭に「誰が、どうやって運び込んだ」という疑問は湧かなかった。
犯人の心当たりなど一つしかなく、俺を寝てる間に女にするようなヤツらなら、この程度の細工はお手のものだろうと中身をあらためる。
まず、買い物袋の中身は服だった。
どこかの学生服と思しきブラウスとスカート。
ついでに下着と靴。
あとは女物のやたら小さい鞄。
こちらは後であらためるとして、次は茶封筒の中身だ。
通知書と銘打たれたペラ紙には次のように書かれていた。
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【転生おめでとうございます】
このたびはこちらの封書にご返信いただきありがとうございました。
まずは厳正なる協議の結果、あなた様の要望はすべて叶えられ、すでに転生作業が完了したことをお伝えします。
つきましては、あなた様の要望が現代日本、それも年齢と性別を指定しての転生だったので、当局の権限で転生先のカバーストーリーと身分証を発行しましことをお伝えします。
新しいあなた様の「今日に至るまでの記憶」に関しては、本日23時59分59秒以降に思い出せるように取り計い、あなた様の素敵な転生ライフを阻害しないよう努めます。
また、以前のあなた様の「昨日までの記憶」に関しても保持が認められました。
以前の家族にお会いして転生の経緯を説明しても罰則等はございません。
これは上記の項目をインターネットやSNSに書き込んだ場合も同様です。
新しいあなた様がこれからどう生きるかは、すべてあなた様に一任されています。
どうかご後悔のない転生ライフをお送りください。
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俺はそれを何度も見返し、そのたびに溜め息を吐いた。
なんとも一方的な告知だが、いまさら文句を言える筋合いじゃない。
悪いのは、よく考えもしないで正体不明のダイレクトメールに返事をした俺だ。
俺は折り畳んだペラ紙を茶封筒に戻して鞄のなかを調べた。
……すると新しい身分証とやらはすぐに見つかった。
高華院大学附属中等部麻布学園と書かれた学生証のなかに、脱衣所の鏡に映っていた女の子の写真と、その子の個人情報が記載されていたのである。
名前は
住所は港区、麻布十番──これはまたセレブなお嬢様だなと感心しながら、俺は着替えを手に取った。
もうここに居られないことは理解している。
家族の元へも帰れない。
告知書には家族に事情を打ち明けても罰則はないと書かれていたが、こんなコトをどう説明しろというのか。
だから着替えが終わったら出て行かなきゃいけないし、家族に書き置きも残せない。
それでもここの大家から家賃を催促されたときに困らないよう、以前の通帳と印鑑だけは見えるところに置いておいた。
それと未練がましいとは思ったが、いくつかの小物は鞄のなかに入れた。
とあるVTuberのグッズ。「お兄ちゃんこういうのが好きなんでしょ?」とドヤ顔の妹がプレゼントしてくれたものが、これだけは持っていきたかった。
……そうして外に出て鍵をかける。
俺はこの鍵をどうすべきか少しだけ迷ったが、ドアポストの隙間から部屋のなかに落とすことにした。
外は暑いはずだが不思議と汗を掻かなかった。
まだ若いからだろうか。
俺はそれ以上不思議に思わず、歩くと30分近くかかる駅を目指して歩いていった。
何処からか猫の鳴き声がした。
きっと野良猫が多い地域なのだろう。
俺はそんなふうに思いながら、自分自身の異様な健脚に驚くのだった。
◇◆◇
「お兄ちゃんと連絡がつかない?」
「そうなんだよ。今年はまだ帰省してないし、その所為であんたの機嫌も悪いからね。お盆には帰ってこいって急かしてやろうと思ったんだけど、電話に出ないんだよ」
「……なにそれ? お兄ちゃんの帰省どうたらで、あたしの機嫌が変わるわけないでしょ」
と言いつつも、兄のLineに苦情を入れてみる。
内容は「お母さんが心配してるからさっさと電話に出なさい」でいいか。
ものぐさな兄だがあたしのLineだけはソッコーで反応する。
そういうところもキモいと言えばキモいのだが、あんなのでも兄は兄だ。
子供の頃は懐いていた記憶もあるし、偶に顔を合わせた時ぐらいは優しくしてやるか。
そんなふうに思いながら、あたしは兄の返信を待ち構えるのだった。