項梁を知らない?じゃあこれで興味持ってくださいね!
負芻五年(紀元前二二三年)、中華統一を目指す秦王・政は大将軍の王翦と蒙武に六十万もの大軍を預け、楚を平定するように命じた。
これに対抗するのは幾度も秦の侵略を撃退してみせた楚の名将・項燕。負芻三年の李信と蒙恬の侵攻は撃退してみせた項燕であったが、秦の名将・王翦の戦術に敗れ、戦死の目の前となっていた。
項燕の次男・項梁は秦の兵士を斬りながら父に向かって叫ぶ。
「親父殿! もう無理だ!!」
項梁の叫びに先陣で槍を振るっていた項燕は怒鳴り返す。
「たぁけ! 無理なのはわかっておるわ! それでも勝たねば楚が滅ぶ!!」
「もう滅んでいるようなものだろう!!」
項梁の言葉通り昨年に楚王・負芻は既に秦に捕らえられ、項燕は楚の公子で秦の重臣であった昌平君を擁立して反抗している状況であった。
そこに項燕の末子の項伯が顔を真っ青にして駆けてきた。
「父上! 昌平君がご戦死なさいました!!」
その言葉に項燕は天を仰ぐ。その隙を秦の兵士達が突こうとしてくるが、項梁が駆け寄ってそれらを斬りはらう。
「親父殿!! 我らの負けだ!! 逃げよう!!」
項梁の言葉に怒りで顔を真っ赤にして大きな叫び声をあげる項燕。その叫びに呼応するように楚軍の兵士は『大楚』と叫んで果敢に秦に襲い掛かる。
「梁!!」
「応!!」
秦の兵士を貫きながら項梁は項燕の叫びに答える。
そして項燕は戦場の外を指で指し示しながら叫ぶ。
「お主は逃げよ!!」
「な!?」
その言葉に項梁は思わず怒りのこもった瞳で項燕を睨む。この戦いで項燕の長子である項超はこの戦いで既に戦死しており、項梁はここが死に所と覚悟して戦っていたのだ。
そんな項梁に項燕は顔を近づけて鬼気迫った顔で口を開く。
「秦は中華を統一するだろう。だが、なんとしてでも我が項一族で秦を滅ぼすのだ。まずは梁が! 梁が死ねば伯が! 伯が死ねばその子供達が!!」
その言葉に項梁も思わず息をのむ。そこには死期を悟り、国が亡びる無念を持った項燕の姿があった。
「梁!! わかったな!!」
「……承知!! 親父殿、あとは任せよ!! なんとしても秦は我らが滅ぼす!!」
項梁の言葉に項燕は莞爾と笑った。
「親父殿!! さらば!!」
その言葉と共に項梁は項伯と手勢を率いて戦場から離脱する。
それを見届けてから項燕は大音声で告げる。
「吾こそは項燕!! 秦の弱卒どもよ!! この首とれるものならとってみよ!!」
最終的に項燕は自害し、楚軍は瓦解。これによって楚も滅び秦によって中華が統一された。秦王・政は自らを始皇帝と称し、秦の時代が始まるのである。
楚が滅んだ後、項梁は弟・項伯を始めとした一族を率いて東方に流れた。呉の会稽群に流れ着いた項梁はここで顔役として動き始め、多くの人々に慕われるようになった。そして呉の有力者となり人賦の差配などもするようになった。
始皇三十七年(前二一0年)、会稽に始皇帝がやってくることになった。その目的は祭祀のためであった。
(ふん、人の分際で神にでもなるつもりかよ)
今回の始皇帝の行幸で色々と手回しした項梁も始皇帝の行列をみる機会を得た。そこに項梁は自分と亡き兄の息子である項羽を連れてきていた。
並外れた体躯を持ち、特別な『重瞳子』であった項羽を項梁は買っていた。
武勇は桁外れに強く、項梁が教えた戦の戦術もあっという間にものにした天才・項羽はまさしく戦の申し子であり、項梁は父の遺命である秦を滅ぼすのはこの項羽しかいないと思っていた。
長い人の列をみながら項梁は隣に立つ項羽に話しかける。
「羽よ、どうだ?」
育ての親である項梁の言葉に項羽は獰猛な笑みを浮かべて口を開く。
「彼取りて代わるべき」
その言葉に項梁は大笑いしそうになるのを必死に耐える。
今や始皇帝に反すべき人物はいない。だが項羽は始皇帝を『彼(あいつ)』と呼び、さらには『とってかわることが可能だ』とまで言い切った。
その言葉は秦の官吏などに聞かれれば処刑されてもおかしくないものであった。
だが、反秦の思想を持つ項一族としては最高の言葉であった。
そんな項羽に項梁は会稽の有力者として叱る。
「愚か者!! そんなことが聞かれては一族処刑されてしまうわ!!」
そして項梁より高い位置にある項羽の頭を掴んで少し屈ませる。
そして項梁は小声で項羽に言い聞かせる。
「まだだ。時がくれば我ら項一族は立ち上がり、奴を滅する。その時こそがお主が飛躍する時ぞ。よいな、羽」
項梁の言葉に獰猛に笑う項羽。それをみて項梁は満足して頷くと項羽を頭を離すのであった。
項梁
父親から戦場から逃がされ秦への復讐を目指すアヴェンジャー
項燕
楚の名将。項羽の祖父として有名
項羽
名は籍。有名な羽は字。楚の項一族の最終兵器
項羽飛躍のきっかけを作った項梁はもっと評価されるべきでは……?
そう思ったので書きました。
楚漢戦争時代は有名どころ以外にも項梁とか章邯とか名将と呼べる人物が多い
ちなみに全4話です。カクヨムには全話投稿済みです。