そんなわけで最終話投稿です
「叔父上が亡くなられただと?」
項羽の言葉に敗戦で逃げてきた将の肩がぶるりと震える。項羽の傍らで控える范増の視線も鋭い。
二人の視線に萎縮しながらも将は言葉を震わせながらも言葉を続ける。
「秦将・章邯が定陶を奇襲。油断していた我が軍は逃げるのが精いっぱいで……」
「それで一人残った叔父上を貴様らは見捨てたのか」
項羽の言葉に将は肩を震わせる。その姿をみて項羽は腰に下げていた剣に手を伸ばす。
「羽よ! 抜くな! 抜けば兄上の遺命を果たせなくなるぞ!」
「伯叔父」
そこに急いで入ってきた項伯が項羽を止める。項羽が剣から手を放すのを確認し、項伯は安堵の溜息をつくと、逃げてきた将に労いの言葉をかけて天幕から出す。
「伯叔父、叔父上の遺命とはなんだ?」
項羽の言葉に項伯は懐から一本の竹簡を取り出す。
「これは兄上が死後に羽に渡すように言っていた竹簡だ」
項伯の言葉に項羽は驚いた表情になり、奪うように竹簡を受け取ると中身を開く。
それをみながら項伯は言葉を続ける。
「兄上は言っていた。『羽こそが項一族の悲願を果たせる者だ』と」
その言葉を聞きながら項羽は項梁の竹簡を読み進める。
『これを読んでいるということは私は無事に死んだということだろう。いくつかここに書きつらねる。私からの遺命と思え。
一つ、秦は必ず滅すべし。これは私の父、そなたの祖父・項燕の遺命であり、項一族の悲願である。
一つ、士卒が戦の要。士卒を大事にすべし。
一つ、范増の言を私の言と思い、父のように思え。
一つ、龍且などの壮士を愛し、重用せよ。
一つ、秦将・章邯は有能な壮士である。仇と思わず降ってくれば赦すべし。
以上五つ。必ず守り、お主は……』
「覇王となれ……」
項羽は項梁からの竹簡に書かれていた最後の言葉を呆然と呟く。
呆然としている項羽を叱咤するように項伯は言葉を荒げる。
「羽よ! 兄上は秦の『理』を破壊するのは己では不可能であると言っていた! それをできるのは『理』から外れることができる羽だけだとも!」
「『理』から……外れる……」
項伯の言葉に項羽は呆然と呟く。
「范増殿」
「何か?」
「叔父上では秦を滅ぼせなかったのか? 俺は叔父上の下で秦を滅ぼそうと……」
「非礼を承知で申し上げるが、武信君では秦に『勝つ』ことはできても『滅ぼす』ことはできなかったでしょう」
その言葉に項羽の怒りは頂点に達し剣を抜いて范増に向かって振るう。
そして斬り捨てる直前で項梁の遺命を思い出して剣が止まった。
止めようとした項伯を視線で制すると范増は言葉を続ける。
「武信君は正しく英傑であったのでしょう。己の役割を理解し、そして必要であると判断して自ら死んだ。それは誰にも真似できることではない。その武信君が項羽殿こそが秦を滅ぼす者だと判断した。項羽殿、既に武信君の矢は放たれています。貴殿はどうなさる?」
范増の言葉に無言で范増を睨む項羽。それを黙って見つめ返す范増。
そして項羽は剣を鞘に戻した。
「范増殿、叔父上の遺命でもある。今後はあなたのことを亜父と呼ぶ。あなたも私の覇道のために献策せよ」
「承知」
項羽の言葉に范増は拝礼する。
そんな項羽の姿をみながら項伯は涙を流す。
「羽よ、すまぬ。お主ばかりに重荷を背負わせる」
「伯叔父、構いませぬ。それが俺の天命なのでしょう」
項伯も涙ながらに項羽に拝礼する。
そんな二人の拝礼を受けながらも項羽は天幕から出る。
項羽が夜空を見上げると綺麗な月と星が出ていた。
「うおおおおぉおぉおおぉおおぉおおぉお!!!!!!!!!!!」
西楚の覇王・項羽。その産声は慟哭の叫びと共に上がった。
項羽
覇 王 爆 誕
范増
項羽の参謀。まさか項梁が自ら死ぬとは思わなかった
項伯
色々な重荷を背負わされた末弟。史実では劉邦に下って項一族の血筋を残した
最終話投稿してなかったやんけ!
気付いて慌てて最終話投稿です。武信君・項梁のお話はこれで終了。やろうと思えば長編で書けますが、とりあえずは短編連作という形で完結
そして項一族の全てを背負わされた項羽。最後の慟哭だけは最初から決まっていました。
この楚漢戦争時代にも面白い人物はいるんですよね。章邯とか彭越もいつか小説にしたいと思っています。龍且も個人的には結構好きです。
そしてsteamで本日から早期リリースされた三国志BONDというゲーム。ゲーセンで三国志大戦をやっていた人は是非やってみてください。自分はデモ版からやってますがめっちゃ面白いです。
呂蒙と高順の実装をお願いします!