集まれ〜江戸時代藩内政シミュレーション〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「この度江戸藩邸にいらっしゃる当主の宮永成継様と藩邸留守居役を任されている仙様により御用商人に任された本間でござる」
春になり本間殿がこちらに立ち寄ると、当主である成継と仙の連名で本間を御用商人にする旨が書かれた書類を持ってきた。
「つきましては本間家は拠点を酒田から日高に移し、活動していく所存でござるよ。交易は任せてほしいでござる!」
「ちょ、ちょっと待て、急展開過ぎて話が追いつかない。本間殿が御用商人になってくれるのはありがたいが、まだうちの基盤も整っているとは言い難いが拠点を移しても大丈夫なのか?」
「それは問題ないでござるよ。冬の間に一族も説得してきた故に、こちら側の許可が取れ次第移住を考えていたでござる」
ちなみに本間は日高側から欲していた着物類はちゃんと運んできており、船の数も前より増えて300石級の船を6隻率いて来ていた。
どうやら椎茸や真珠が想像以上に高値で捌けたらしい。
「本間殿、屋敷で持て成すから来てくれ」
「感謝するでござるよ」
本間殿を接待しながら売れる商品として酒類や砂糖の製造を行なっていることを伝えると、本間殿も驚きながらも、更にこれらを江戸で売りさばければ金になりますぞと喜んでいた。
とりあえず本間殿を持て成している合間に転生者達は集合し、江戸に滞在している人との連携を強化しないといけないと話し合った。
「手紙のやりとりだとどうしても時差が出てしまい、今回の本間殿の様な重要な事がこちらには何も知らされずに決まってしまうのは恐ろしい」
「となるとこの領地を生き来できる能力を持った角栄が行くしかないんじゃない」
「そうなるな」
「ちなみに角栄はどれくらいの物を持って瞬間移動ができるの?」
身につけている物に限りだから……できても籠を背負って、その中の物と一緒にくらいか……と説明する。
「書類関係は運べるか……やっぱり角栄に行き来してもらうしかないな。うちの強みは転生者達の数だ。兵隊も領民の数も国力もどれも足りてない状態では転生者達の知恵で打ち勝っていくしかない」
「了解だ。本間殿が江戸に向かう際に一緒に行かせてもらう。片道十数日になるだろうから、その間は活動できないが」
「ああ、そこら辺は心配しないでくれ。冬の間に俺らやるべきことは進めていたし、あとは領民と妖精の力でどうとでもなるだろうからな。こっちの現状をあっちに伝えてきてくれ。あと俺らは仙が父上の当主を引き継ぐのは問題ないからな」
「おう、伝えてくる」
というわけで俺は砂糖や真珠細工を満載した本間殿の船に乗り込んで江戸に向かうのであった。
船旅では、船酔いでゲロゲロ吐いてグロッキー状態になっていたが、何とか江戸に到着した。
「江戸に到着しましたよ角栄様!」
「お、おう……うぷ……ふう……何とか生きて着けたか……」
陸地に沿って南下しているが潮に流されて陸地が見えない位置まで流されれば、太平洋は海流の関係で北アメリカ大陸方向まで流されてしまう。
そうなったら転移使える俺以外は死ぬしかないからな……。
他にも日本の技術では嵐で簡単に沈没する強度の船しか無い為、一度海が荒れれば簡単に転覆するのである。
まぁ確率にすると5%未満ではあるが、それでも20回に1回沈没する可能性があるって考えると十分に高いな……。
そんなこんなで江戸に到着し、本間殿は積み荷を仲間の商人達に卸売り、砂糖に関しては半分は自由に売っていいが、半分はうちの江戸屋敷組が活用するので、屋敷に運んでほしいって言っていたので、大八車(荷車)に詰め替えて移動する。
江戸の町を見渡してみるが、時代劇みたいな感じでは無く、どこもかしこも建設途中の家々や屋敷が多いこと……。
江戸だけでなく、今日本中がそんな感じで、江戸幕府が成立したことで、物や人の行き来がしやすいように宿場町の整備が行われており、まず徳川家の縁の地である東海道から整備されていた。
この東海道の宿場町が53駅整備されたことで東海道五十三次という言葉が生まれたのである。
「何者だ!」
藩邸前に到着すると門番に停められたが、俺が宮永家の家紋が入った身分証を見せ、
「蝦夷から来た宮永成継の息子、宮永角栄だ」
「し、失礼しました!」
すると門番達も慌てて俺を中に通すのであった。
「よぉ、角栄。1年ぶりか?」
「父上もお元気そうで」
「元気も元気よ! 殆ど江戸城勤務は仙の奴がやってくれてるから、藩邸の管理ばかりだがな」
俺は転生チートで瞬間移動をするために藩邸にマーキングをしに来たということと、日高の領地との連絡を密に取ることで連携を強化したほうがいいとして来た旨を話す。
「うん、確かにその通りだな。今江戸の状況は日高の連中はどれぐらい知っているんだ?」
「一応本間殿から色々聞いてはいますが……」
俺としては江戸屋敷で養鶏と卵売り、それに家臣達に狩りをさせて獣肉を売っているくらいしか知らない。
「あとは藩邸の一部土地を商人達に貸し与えているくらいだな」
「土地貸しもしていたんですか」
「土地貸し……いや賃貸か。ここは元々埋め立て地じゃなかったから井戸を掘れば塩気の無い水が湧き出るのも相まって、商人達からの評判も上々だ。道に面した部分は全部商人達の店で埋まってるし、路地裏は長屋を幾つか建てて、面倒見のよい家臣を大家に任命してそこそこ稼いでいるな……」
そんな商売をしながら藩邸の経営をしていると聞き、あと西軍の一族や家臣も雇ったと言っていた。
「西軍の家臣達も一部雇い入れてな。屋敷で働いてもらっているよ。銭払いだけどな」
「なるほど……大名というより商人に近いんじゃないですか?」
「確かに……日高の方はどうなってる」
俺は父上に今年で米の収穫量が人口分賄えそうであること、甜菜の栽培が始まったので、今後は真珠、椎茸と並び藩の根幹商品として売れるであろうということを説明した。
「あとは芋で作った酒も本間殿は売れるとして今回持ち込んでいます。藩にはこれほどの利益が出る予想で」
「うむむ……なるほど……角栄が週一でもこちらに来てくれるのであれば、本間とのやりとりでそっちにどれだけの物資を送れば良いか分かるか……」
「それと、とにかく人手を送ってください。玄武が異世界人召喚するのも限界がありますし、できれば女性を!」
「女性は江戸は少ないし、田舎から流れてくるのは殆ど浪人ばっかりだ。男で良ければ送るが……蝦夷に行きたい女はほぼ居ないぞ」
「それもそうですか……ところで、持ってきた砂糖はどうするので?」
「一定量は徳川家に贈る。贈って機嫌とって、中屋敷と下屋敷の場所取りをさせてもらう」
大名は江戸にて幾つか屋敷を持つことが許されており、当主が住み、江戸城への登城がしやすいように江戸城に近い上屋敷。
少し離れて隠居した先代や子供の養育する場所として使う中屋敷、江戸郊外に財力にあわせて広い土地を所有してよいことになっている別荘や江戸詰めの家臣の住居を置く下屋敷というのがある。
まだ制度化されていないが、今のうちに恨みを買わなそうな良さげな土地を押さえておきたいのだとか……。
「上屋敷は広さが限られているから、下屋敷に広い土地を押さえて、色々内職できるようにな。ジャガイモとかサツマイモを窮困作物として将軍様に献上しようと思う。うちの米はも時期を見て献上して天領で栽培してもらい、増収となれば、恩も売れるだろうからな。あと大坂の陣が終わり次第隠居するからよろしく」
「後継者は仙で?」
「そうなる。残りの転生者達は一門だけど家老職に就けるから、日高の統治はほぼ任せる」
「了解です。あとできれば牛を購入したいです」
「牛かぁ……本間に頼んだ方が早いと思うぞ」
「わかりました……後で仙にも伝えてください。俺はすぐに本間殿の方に合流することになっているので」
「おう、滞在する時はゆっくりしていけ。あと転移場所は上屋敷のほかに下屋敷も設定しておけ。江戸は火災が多いからな。火事や災害でもどっちかは残るだろう」
「了解しました」