集まれ〜江戸時代藩内政シミュレーション〜   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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徳川家後継者問題

 1613年慶長18年。

 

 江戸に居る俺こと仙は商人達や幕府の動きから、どんどん仲が険悪になっていく豊臣家と徳川家の対立の様子を眺めていた。

 

「とは言っても俺にできることはほぼ無いからなぁ……」

 

 演奏をしながら情報収集をし、普請の負担が軽くなるように父上に代わって賄賂を渡す。

 

 江戸城詰めの武士達でうちがどれぐらい儲かってるか把握できている人はおらず、藩邸の維持で四苦八苦しているように見せている。

 

 本間から砂糖を運んでもらっているが、蝦夷はいまだに米が取れない土地と見なされて、江戸で職に就いてない人物を集めて、蝦夷行きか鉱山送りか選ばされて、一部こっちに回してもらうくらい人が足りてない場所として見られていた。

 

 まぁ徳川家康様のご配慮であるので、なんとも。

 

 そんな俺の最近は秀忠様の演奏をした後にその息子達にも演奏を聴かせる事が多くなっていた。

 

 歌のリズムに併せて庶民の生活を伝えたり、武士の苦悩だったり、徳川家康様や家臣の皆様がいかに弱小勢力から成り上がったか……みたいな伝記風の歌……教育的な歌を歌うように指示されていたのである。

 

 使う楽器はバイオリンで、角栄と昨夏経由で取り寄せてもらい、それを江戸藩邸お抱えの職人にバイオリンの複製を依頼して、作らせていた。

 

 3年かけてまだそこそこの質であるが、バイオリンと言っても良い物が出来上がってきたので、音楽好きの商人を夜に集めて演奏の練習を藩邸内で行ったり、俺の息子に教えたりもしていた。

 

 で、江戸城内で一番神経を尖らせているのが秀忠様の息子の次男の竹千代様と三男? の国松様のことである。

 

 国松様の三男に? が付いているのは、噂の範囲だが、秀忠様の側室が国松様の前に出産していたらしいのだが、秀忠様がその子供を自分の子として認めずに、家臣預かりにしてしまったのらしい。

 

 あと竹千代様が次男なのは、長男が既に早世していたからである。

 

 なので一応国松様が三男となっている。

 

 この点でもややこしいのに、嫡子の竹千代様は決して容姿が優れているとは言えず、あと吃音持ちで、上手く自分の意思を伝えられないのと、少々引っ込み思案な性格をしていたので、両親から嫌われてしまい、乳母の福殿が母親の代わりとして面倒を見ていた。

 

 この福殿も濃い人生を送っていて、父親は明智光秀の重臣で明智光秀討伐後に磔にされ、旦那は小早川秀秋の家臣で、関ヶ原の戦いで徳川方に付くように進言し戦に勝利したものの、小早川秀秋がその後直ぐに病没したために浪人生活を送った上で酒乱に愛想を尽かし、子供を連れて離縁したというなかなかな人生を送っていた。

 

 そんな彼女が乳母に成れたのも、生まれた当初から正室が自分の子とは思えない容姿の悪さに距離を置き、他の乳母候補者達も正室を恐れ候補者が降りていったが故に、彼女にお鉢が回ってきたのである。

 

 その為、福殿は吃音だろうが容姿に優れてなかろうが竹千代様を自分の子の様に愛し、そんな福殿経由で俺に演奏を聴かせて欲しいと願われたのである。

 

 一方で三男の国松様は容姿端麗で、活発な子であり、秀忠様も正室様も溺愛しており、江戸城に詰めている大名や家臣達も国松様が次期将軍であると噂していたのである。

 

 もちろん国松様に演奏する際は秀忠様と正室様と3人でお聴きになり、俺から見ても、国松様が優遇されていることが分かる。

 

 ただ天啓によると、将軍になるのは竹千代様の方で、竹千代様が将来の徳川家光様であると教えられた。

 

 教科書にも出てくる徳川将軍の中でもネームバリューがある将軍故に取り入っておきたい気持ちはあるが……このままだと将軍に成れないのではないかと不安に思っていた。

 

 ただ、芸術的なセンスは人一倍あり、俺が弾いていたバイオリンを欲しがり、子供用のバイオリンを与え、弾き方を教えると、1ヶ月程度で簡単な音楽が弾けるようになり、半年後には俺がゆっくり弾けばついてこれるまで上達したのである。

 

 吃音故に上手く自分の気持ちを表現できない竹千代様は音楽を通じて気持ちを伝えようとして練習をしたのだろう。

 

 そんな彼を見ていると、取り入ろうという邪な気持ちよりも、必死に努力して人並みになろうとしている姿に心を動かされて、なるべく竹千代様に音楽を教える時間を長く取るようにしていた。

 

 そんなある日、福殿が俺に相談をしてきたのである。

 

「このままでは竹千代様が廃嫡されてしまう可能性がございます」

 

「それを外様の私に言ってもよろしいので?」

 

「外様と言えば私も同じでございます。竹千代様の教育係の者でさえ、怪しい動きをしている場合がございます」

 

「ふむ……それはなんとも」

 

「もうしばらく後に仙殿は駿河にいらっしゃる大御所様(家康様の呼ばれ方)に演奏を披露する予定があると耳にしました……その際私も連れて行ってはくれないでしょうか」

 

「なんと……その間の竹千代様は」

 

「私の信頼する侍女達で固めております。何卒竹千代様の未来を思いお頼みします」

 

 俺は葛藤した。

 

 失敗すれば今の地位だけでなく改易もあり得る暴挙である。

 

 ただ竹千代様の事を思うのであれば……。

 

「わかりました。協力しましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 その後、福殿は伊勢参りと俺と都合を合わせて東海道で駿河の国にある駿府城に向かった。

 

 駿府の地は家康様が人質時代の幼少期を過ごされた思い出の地で、苦悩が多かった三河領主時代の三河ではなく、駿府に隠居地を置いたのは幼少期の思い出と、より江戸に近い様にしたからであろう。

 

「おお、よく来た仙よ。久しぶりお主の演奏を聴きたくなってな」

 

「は、時間の限り心地よい時を約束致します。ただその前に1つ会って欲しい人物がございます」

 

「ふむ?」

 

 福殿が頭を下げながら入り、俺の横で土下座する。

 

「竹千代様の乳母を務めております福でございます」

 

「おお、福か。どうした?」

 

 ちなみに福を最終的に乳母と決めたのは家康様である。

 

 なので互いに面識があるのである。

 

 そこで語られる江戸城内での竹千代様の窮状。

 

 それに家康様は黙って聞き。

 

「うむ、話は分かった。仙も竹千代を思って彼女を連れてきたのか?」

 

「は! 竹千代様は私の音楽の弟子でもございます。確かな才を持ち合わせており、決して将軍としての才気に乏しいとは私は思いませぬ。誓って私は幕府の政務に関わらないと血印状をお出しします」

 

「うむ、そなたらの覚悟は分かった。福」

 

「は!」

 

「今しばらくしたら儂自ら江戸に向かう。そこで決着をつける」

 

「はは!」

 

「悪いが仙、気分の晴れる曲にしてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 その数カ月後、家康様は豊臣家との政争をしている最中であるが、江戸城に向かい、秀忠様と正室様を叱責。

 

 更に家臣達の前で竹千代様には菓子を与えたが、国松様には竹千代様の家臣に将来なるのだから竹千代様から分けてもらいなさいとハッキリ宣言を行った。

 

 これにより将軍の後継者問題は竹千代様がなることで決着するのであった。

 

 ただ国松様は自身より劣っていると思っていた兄が将軍になることに精神を少しずつ病んでいき、正室様が亡くなったことで発狂してしまい、家臣や侍女を無闇に殺傷した後に自殺するという最後を迎えることになるのであった。

 

 

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