集まれ〜江戸時代藩内政シミュレーション〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「ドナドナドーナドォナー子牛をのーせーてー」
「やかましい! 兄貴! なんでこの場面でドナドナなんだよ!」
「いや、だって親父やばくない? まだ実年齢で9歳と8歳の俺達を蝦夷地送りにするって」
「いや、それは親父も頭ぶっ飛んでるけど」
俺の名前は宮永成増(なります)こっちの弟が宮永成秋(なりあき)……俺達は宮永家の宗家に産まれた男子である。
そんな俺達は本間殿の商船に乗って蝦夷に向かっていた。
曰く武家諸法度で嫡子は江戸藩邸で養育しなければならない決まりが始まるらしいので、それまでに本領の蝦夷でしっかり勉強して来いとのこと。
「だったら角栄おじさんに転移で連れて行ってもらえれば良かったのに……」
「それに頼ると角栄おじさんが居なくなった時に困るから、最初は船旅に慣れておけってさ……というか兄貴は良いじゃん、嫡男だからそのうち江戸藩邸に呼び戻されるけど……俺次男だから兄貴にもしもの事が起こらない限り江戸に戻ることもないかもしれないからな」
「でも角栄おじさんが蝦夷も良いところだぞって言ってるけど……寒いし、僻地だろどうせ……」
「そんなことを言わないでくれよ兄貴……俺まで萎えてくるから……」
そんなことを言っていた2人であったが、船旅で約1週間後。
仙台の港で補給をして一気に蝦夷の日高まで航海。
風さえ掴めれば陸路で行くよりも圧倒的に速い。
「参勤交代が制定されるの当分先らしいけど、その時は隠居しててぇ……」
「隠居って……爺さんが大坂の陣後に隠居するって言ってたから、親父が2代目日高藩を引き継ぐだろ。その親父が隠居する頃って……」
「多分兄貴が当主になった頃がちょうど参勤交代始まるんじゃね?」
「うわぁ! 嫌だぁ! 長旅したくねぇ!」
「喚いても仕方ねぇだろ……」
そんなやり取りを2人でしていて、船員達も困惑していたが、本間殿に雇われている船員なので、深くは突っ込まない。
「若達、そろそろ到着しまっせ!」
俺達は日高の方を見るとポツポツと屋敷が建ち並んでいた。
「思ったよりはしっかりしてそう?」
「かもしれねぇな」
そんな印象を抱きながら日高の港に上陸。
日高の港には様々な商品の入った樽や箱、俵が並んでおり、到着した商船が積み荷を入れ替えていく。
やり取りしている役人と思う武士の身なりも良く、良い着物を着ていた。
そんなのを眺めていると、
「よっす! 若達来たか」
「「角栄おじさん」」
角栄のおじさんが迎えに来てくれた。
俺達も転生者ではあるが、肉体に精神年齢が引っ張られるのか、知っている大人が居ると安心する。
「しっかし仙の奴も凄いことするな……若達を家臣付けずに蝦夷送りにするとは……」
「角栄おじさんも江戸に行った際に言っておいてくださいよ! 親父に!」
「はは、言っておくよ。さてと、じゃあ若達が生活する場所に案内するからな」
角栄おじさんに言われて、俺は後ろをついて行く。
町中を通るが男性は殆どおらず、女性ばかりの印象を強く受けた。
「女性が多い?」
「いや、今男達は開墾作業か今行く領主の屋敷で仕事中だ。あと船大工達は港近くのドックにこもってるから男が見当たらなくてもしゃーない。子供達は藩校に通ってたりするし」
「藩校……学校ってこと?」
「そうそう。転生者も知識が一部欠落してたり、常識を覚える意味で通ってる奴も居るな」
「俺等も通った方が良い?」
「まぁ自由にしていいぞ。働いて金稼いでも良いし、学校通って友達探しても良いし」
「江戸とは比べ物にならないくらい自由だな……」
「江戸というか蝦夷から南はどこもそんな感じだろ。うちが自由過ぎるってのもあるが……」
すると近場でいざこざが発生していた。
明らかに武士っぽい男性と、仏頂面の商人っぽい男性である。
「何事だ?」
「新しく蝦夷に来た侍が女将の髪色を馬鹿にしたんですよ。それで旦那さんが怒っちゃって」
「あー、ちょうどいいわ。若達見てろ。うちの領民達普通じゃねぇから」
すると武士っぽい男は刀を抜いたが、商人っぽい男性は振り下ろされる刀をヒョイッと避けると、強烈な右フックが武士っぽい男性を直撃し、武士っぽい男性は十数メートル吹き飛ぶ。
そのまま刀を踏んでへし折ると、
「うちの女将の髪色が赤いから何だって?」
「ひ、ひぃぃ、ば、化け物」
「俺が化け物? おいおい……日高の領民は皆こんな感じだよなぁ!」
「おう、そうだそうだ」
「熊にも負けねぇぞ」
「日高の町を知らねぇ侍に負けっかよ!」
白熱しそうになっていたが、流石に角栄おじさんが止めに入り、侍は町人の女将さんに土下座で謝罪し、女将さんも許したことで終わりとした。
「とまぁ、うちの連中は一部強化人間だったり、肉体改造や遺伝子操作されてっから滅茶苦茶強いのがゴロゴロいるから喧嘩はなるべく売らないように。普通にしてれば温厚な人達だから」
「「う、うっす……」」
そんなこんなで領主屋敷に到着すると、磯臭いから風呂入ってこいと風呂場に案内された。
「おお、風呂場も広い……」
「最近覚醒した奴にどこでも温泉掘り当てるチート持ちが居てな。お陰で領内どこでも温泉入り放題だ。何なら色んな温泉があるぞ」
「色々とは?」
「そうだな」
角栄おじさん曰く、炭酸が吹き出す炭酸温泉に、温泉の色が乳白色の重曹が混じった温泉、泥炭が混じり、お湯が黒く変色した泥炭の湯だったり、湯源が高温のため、その上に小屋を建ててサウナ代わりにした蒸し風呂などなど、色々な温泉が楽しめるらしい。
「すげぇ……その点だけでも江戸超えてるわ」
「江戸藩邸にもその人物呼べない?」
「そのうち送るから」
風呂を堪能し、食事が用意された。
「おお、めっちゃ立派な鮭」
「んん! そうか米の味が同じって蝦夷の米をこっちでも使ってたのか」
「そうそう、多分普通の米食うと味が違い過ぎて混乱すると思うぞ」
「味噌汁も美味いし……あぁ幸せ」
「兄貴昇天するな! 戻ってこい!」
極めつけは畳の部屋にフッカフカな布団が用意されていた。
「おお! 布団だ!」
「江戸藩邸だと着物を何重にもかけられて寝ることになってたから結構重い割に寒さがあんまり凌げなかったけど……これなら」
布団をめくるとちゃんとした毛布まである。
毛布は異世界から召喚した職人が領内の材料でも作れるようにしたらしい。
綿由来の毛布で暖かさは抜群。
「現状でも江戸より住心地良いんだけど……」
「悪い兄貴、俺ずっとここに住むわ」
「お前なぁ」
そんな会話をする俺達兄弟だった。