『簡易神域かあ。便利なものを教えてもらったねー』
《そうだねー》
すみれとユキは、例の森を遠く離れて電車に乗っていた。今はもう実体化している。神域から遠く離れたところでは無制限には実体化出来ず、時間制限がつくわけだけど、それでもかなりの間保つし、それに久しぶりに電車に乗ってみるのもいいな、ということでもう実体化しているのだ。
簡易神域は、例のすみれを押し花にしたものをそれとして持っている。流石に鉢植え持参で電車に乗るわけにはいかないのでそうしている。あと、ユキはすみれに執着している地縛霊なので、すみれが行ける場所ならどこにでも行ける。
で、すみれは流石にいつもの着物を着ていない。麦わら帽子に、白いワンピースといった服装をしている。捧げ物にあった服からユキが選んだ。ユキの趣味である。そのユキはTシャツにショートパンツというラフな格好をしていた。2人はそんな感じで姉妹みたいな感じで電車に乗り込んでいた。
電車内ではこの2人、特にすみれはかなり目立っていた。
「ね、ね、見て! あの子可愛くない?」
「え? わ、ほんとだかわいいー!」
「可愛いよねー!? それに、なんかすっごい雰囲気があるっていうか・・・・・・どっかいいとこのお嬢様とかなのかな?」
車内にいる二人組の女性が、すみれを見てそんなふうに話している。その二人組を、ユキがギロっと睨みつけた。
「ヒッ」
「やば。なんか怖い人いる・・・・・・」
「やっぱりいいとこのお嬢様だったんだよ! なんか姉っぽく見えるけど、実は変装したSPとかなんだよきっと!」
まさか因習村の怪しげな神と幽霊少女だとは夢にも思うまい。
『・・・・・・全く。都会は油断ならないところだね』
《え? まあ確かに私もやっぱり都会よりあの村の方がいいなって思うけど・・・・・・》
『いやそういうことじゃなくて・・・・・・すみれちゃんはこんなにもかわいいんだから、誘拐されないように気をつけてよねってこと』
《なんだそれ・・・・・・そんなこと言って前回誘拐されてたのユキだし・・・・・・それは私のセリフなんだけど》
まあそんなこんなで、2人は電車に揺られながら目的地最寄りの駅まで行く。途中で、すみれが同じ車内にいたお婆さんからお菓子をもらったりなどした。
「あら、かわいいお嬢ちゃんだねぇ」
《え?》
すみれはそう言われて一瞬誰のことかわからなかった。久しぶりに電車に乗ったことで、無意識に元のおじさんに戻ったかのような錯覚を抱いていたのだ。
けど、瞬時に自分のことだと理解したのでとりあえずお礼を言った。知らない人からかわいいなんて褒められた時の対処法なんて、元おじさんの頭の中にはないのだ。
《えっと、ありがとうございます・・・・・・》
幸いなことに、その慣れてない感じが子供らしく可愛らしいはにかみに見えた。
《あっ、ここ、座ってください!》
「あらあら、偉いねぇ」
お婆さんは褒めてくれて、お礼にすみれに飴をくれた。
『まずは私が毒味をします』
《いいから。っていうか飴の毒味ってなんだよ》
『えっと、一旦舐めてから出して・・・・・・』
《嫌すぎる》
すみれはお婆さんへお礼を言った。
《飴ありがとね。お返しにいいことが起こるおまじないをかけておいたから!》
「おやおや、ありがとね」
まあ、そんな感じで無事目的地最寄りの駅についた。
《よし、ここだここ》
『あとは目的地まで行くだけだねー』
まあ目的地に行くまでにも色々あった。すみれがアイドル事務所のプロデューサーを名乗る男からスカウトされたりなどした。
「君! アイドルにならないか!?」
《・・・・・・え、私に言ってる?》
「もちろんそうだ!」
《あ、アイドル・・・・・・? 私が・・・・・・? いや、ならないけど・・・・・・》
「そんなこと言わずに! その清らかでいながら、それでいてどことなく小悪魔的な雰囲気! 君なら絶対にトップアイドルになれるはずだ!」
《こ、小悪魔・・・・・・?》
(小悪魔とか・・・・・・元おじさんから対極の位置にある言葉だろ・・・・・・)
《いや、やらないよ。アイドルとか。忙しそうだし》
『そうだよ! そんなえっちな営業とかさせられる業界になんか、うちのすみれはやれないからね!』
《それはエロマンガの読みすぎだから・・・・・・》
まあそんなこともありつつ、2人は目的地まで辿り着いた。その目的地とは──
『・・・・・・ここだね』
《ああ。ここだ》
『ここが・・・・・・すみれちゃん、いや、シュロさんの実家だね』
2人の目的地。それはすみれ、シュロの実家である。
『・・・・・・』
《・・・・・・》
今まで色々と会話なんかしながらここまで来た2人だが、流石に今は黙ってシュロの実家を眺めていた。
しばらく眺めたあと、やがてシュロ、すみれが言った。
《・・・・・・じゃ。行こっか》
『え、もういいの?』
《うん。まあ、どうせこの姿じゃあ多分わからないだろうし。だから変わりなく過ごせてるみたいでよしって感じかな》
『そっか・・・・・・』
《それに、他に行きたいところもあるしね》
『行きたいところ?』
すみれはなんでもないことのように、明るく笑いながら言った。
《私が──俺が入ってるお墓だよ。自分のお墓参りに行こうと思ってね》