《あった。ここだよ》
『シュロ』の実家からそこまで遠くないお寺の敷地内に、それがあった。元シュロ、現すみれのお墓だ。
《ちゃんと私の・・・・・・俺の名前も刻まれてあるな。戒名もつけてくれたんだな。まあ当たり前だけど・・・・・・でもちょっと読めないな》
ははは、とすみれは笑う。自分のお墓の前だというのにけっこう明るい。
逆に、ユキは少し暗かった。
『あの、すみれちゃん・・・・・・』
《そんなに暗い顔しなくていいよ。前にも言ったじゃんか。俺はあの村での生活、けっこう気に入ってるんだって。このお墓に来たのは、なんというか・・・・・・区切り、みたいなものをつけるためなんだよ》
すみれはそう言った。
『・・・・・・区切りはついた?』
《うん。もう十分だよ》
そのすみれを見て、ユキは元気を取り戻していつも通りのテンションに戻って話し出した。
『すみれちゃーん、このお墓の前で泣いちゃダメだよ? ここにシュロさんはいないからね?』
《それはまあ本当にいないからなここには・・・・・・》
『千の風になってみる?』
《ならない・・・・・・》
『じゃあ千のしゃけになろう!』
《なんでだよ意味わからんわ!》
と、2人がそんなふうに話している時だった。
誰かの足音がした。
《あっ、やばい誰か来たぞ!》
『マジで? どうする?』
《色々深く聞かれたりしても面倒だし、ここは一旦元に戻ってやり過ごそっか?》
『そうだね』
元に戻る、というのは元の神様状態、幽霊状態に戻ろうという意味だ。実体化を解除して、元に戻るとお墓の上にぷかぷかと浮かんだ。
お墓のところへ来たのは──
《あれ・・・・・・? ヨシノじゃんか》
『え? 知り合い?』
《知り合いも何も、妹だよ。俺の》
『へー・・・・・・っては!? 妹!? 妹いたのすみれちゃんって!?』
《うん。言ってなかったっけ?》
どうやら、今来た女性はすみれがシュロだった頃の妹だったらしい。自分の家のお墓の前にいる知らない女の子2人とか、なおさら隠さないとマズい相手だ。
だからとりあえず、見えない状態のままでやり過ごそうと思っていたのだが・・・・・・
「・・・・・・」
そのお墓の前に来た妹が、じっと、なぜかすみれたちの方を見てきた。
《・・・・・・あれ?》
『なんか、すごい見られてる気がするんだけど・・・・・・あれ? 妹さんって霊感とかあるタイプじゃ・・・・・・ないよね?』
《い、いやそんな話とか聞いたことないし、そんなのは全然ないはず・・・・・・》
しかし、見られている。明らかに見られているのだ、この妹に。
すみれは意を決して聞いた。
《あのさ、ひょっとして見えてる・・・・・・?》
「うん、見えてるよー」
妹のヨシノは驚いたりするような素振りもなく、なんでもないことのようにすみれを見ながら、そう言った。
「えっと・・・・・・ひょっとして、お兄ちゃん?」
すみれとユキの話を聞いていたのだろう。そう問いかけてきたヨシノに
《はい、お兄ちゃんです・・・・・・》
すみれは観念してそう応えるのだった。
◇
『多分、すみれちゃんが神格を得たから、その影響で妹さんにも霊能力が発現したんだろうね』
《なんだそれ・・・・・・霊能力ってそんなジョジョの幽波紋みたいなシステムなの?》
あのあと。
2人はシュロの家に来ていた。両親は2人ともいない。というか、両親には会わない方がいいだろう。両親はヨシノと違って、2人とも常識人なのだ。だから、こんな突拍子もない事態を受け入れられることは出来ないだろう。ただ、ヨシノはちょっとぽやっとしたところがあるので普通に受け入れている。
《しかし実家とか、ずいぶん懐かしいな・・・・・・》
もう来ることもないと思っていたわけだけど、偶然ヨシノに会ったことでこうしてまた帰ってくることが出来た。えらく懐かしい感覚がする。ほっと安心する。
「しっかしこれがお兄ちゃんかー・・・・・・ずいぶん可愛くなったね!」
それで、そんなすみれをじろじろと眺めたヨシノが、目を輝かせながらそう言った。
「すっかり抱っこしてなでなでしやすいサイズ感になっちゃってー!」
《何テンション上がってんだよ・・・・・・》
「ちょっとスカートめくってみていい?」
《は?》
「隣の男の子に紹介しようかなー! きっと初恋相手になるよ!」
《は? は?》
と、まあ久しぶりの兄妹のやり取りをしていた時だった。
『あの・・・・・・本当にすいません!』
いきなり、ユキがヨシノに謝ってきた。
「えっと、ユキさん・・・・・・だったかな? いきなりどうしたの? 顔を上げてよ!」
ヨシノは何を謝られたのかよくわからず、明るくそう言った。ユキは普段と違って真剣な表情で、謝罪の内容を口にする。
『いや、お兄さんを勝手にこんなふうにしてしまって・・・・・・』
どうやら、ユキはシュロをすみれにしてしまったことに対して謝罪しているようだ。
『本当にすいません・・・・・・前々から、ご家族の方にはちゃんと謝罪しておきたいと思ってたんです。本当に、すいません』
ユキはそう言って深々と頭を下げた。
「顔を上げてよ、ユキさん!」
ヨシノは変わらず明るい笑顔で応えた。
「謝るなんてとんでもない! 私は、むしろユキさんに感謝してるんだよ」
『え?』
「だって、ユキさんがお兄ちゃんをこんな感じにしてくれたおかげで、私は霊能力を持てて、またこうしてお兄ちゃんと話が出来たわけでしょ? それにさ、別にお兄ちゃんが亡くなったのはユキさんは関係ないんでしょ?」
『ええ、それは別に関係ないですね・・・・・・』
「というか、むしろこうやってお兄ちゃんをこの世にとどめてくれたおかげでこうして話が出来てるところない?」
『確かに、シュロさんがすみれちゃんになったことで輪廻転生の円環から外れてこの世にとどまることが出来ましたね。おっしゃる通りです』
「だから、さ。むしろこちらとしてはありがとうって感じだよ!」
ユキの謝罪の応えとして、ヨシノは逆にお礼を言ってきた。お礼を言われるとは思っていなかったのだろう。ユキはどう反応していいかわからない様子だった。
『え、えっと・・・・・・どういたしまして?』
「仲良くしようね!」
『う、うん・・・・・・』
どうやら、この2人仲良くなりそうだ。すみれは微笑ましげにそれを見ていた。
そしてその後──
「さてと、ユキちゃんと仲良くなれたことだし・・・・・・お兄ちゃんの着せ替えをしようか?」
『お、いいねーそれ!』
《は?》
なぜか、そういう話の流れになった。
「私、妹が欲しかったんだよ! それで、妹が出来たらいっぱい着せ替えして遊ぼうと思ってたんだ! まあ、妹じゃなくてお兄ちゃんだけど・・・・・・もう実質妹みたいなものだから、いいよね!?」
《良くねえよ! お前はTSモノの妹キャラかよ!》
『よーし、じゃあ着せ替えさせちゃおうか!』
「よし、じゃあ最初はバニー服で!」
《お前は妹にバニー服着せるのか?》
「それでそのあとは逆バニー!」
《お前は妹に逆バニー着せるのか!?》
と、いうことでなぜか色々なものを着せられることになってしまったのだった。
「首輪つけよー!」
《ちょっと特殊なTSモノの妹キャラかよ》
その後、なぜか仏壇にコスプレ衣装がお供えされるようになって、両親を激しく困惑させてしまったという。