夜。
何やら服のようなものが謎の光とともに空から祠の前までするーっと降りてきた。逆アプダクションだ。
『あ、また実家から仕送り来たよ〜』
《またか・・・・・・》
すみれは、はあ、と呆れたようなため息をついた。
仕送り、というのは実家からのお供え物のことだ。あのあと、妹がよく仏壇にコスプレ服をお供えしてくれるようになったのだ。
『シュロ』にお供えされたものだと思うのだが、多分今の『シュロ』の姿を頭に浮かべながらお供えしてるからなのだろう。お供えされたものが森の祠の前に来るのだ。
おかげで、毎日のようにユキに色々と着せ替えされたりして大変なのだ。
《それで、今日は何が来たんだ?》
『えーっと・・・・・・今日は執事服が来たみたいだね』
《執事服う?》
てっきり、メイド服やら地雷服やらの女の子らしいものが来るかと思っていたのに、執事服が来たらしい。
《なんでだよ。妹に着せる服っていったら普通かわいい服じゃないのか?》
『お、妹としての自覚が出てきたね〜。そんなにかわいい服着たかったんだ?』
《い、いや別にそんなことはないけど・・・・・・》
『えー? ほんとー? ほんとはちょっと着たかったんじゃないの〜?』
《うるさいなあ・・・・・・》
と、まあそれはおいといて。
『逆だよ。むしろかわいい妹にこそ執事服を着せたいって思うんだよ。それで、ちょうど少年と少女の中間の存在にして、性別の境目にある存在を楽しむんだよ』
《なんだそれ・・・・・・怖いなあ・・・・・・》
『あと、自分より背の低い女の子執事に「お嬢様」とか呼ばれてエスコートされたいし、背伸びしても棚の上の物が取れなくて、結局お嬢様に取ってもらってしょんぼりしているのを見たいんだよ我々という存在は』
《どんな存在なんだ? それは・・・・・・》
まあとりあえず、執事服を着ることになった。
《で? 着てみたけど・・・・・・》
すみれは執事服を着た。いつもは長く垂らしている髪の毛も、ポニーテールにしている。手には白い手袋をしていた。
《どう?》
『・・・・・・────っめっっっっっちゃくちゃにいいね〜!!!』
《声でか》
『え、ちょっとお嬢様って言ってみてお嬢様って言ってみて!』
《えっと・・・・・・》
すみれは少し顔を赤らめながら、やや上目遣いで言った。
《お、お嬢様?》
『・・・・・・────本当に食べちゃいたくなるね』
《は? こわ・・・・・・》
と、まあそんなことをやっていた時のことだった。
ガサッと何か物音がした。
2人が音のした方へ振り向くと、そこには1人の少女が、スマホのライトで辺りを照らしながら歩いてきていた。
「ううー、暗いなあ。散歩してたら変なところまで来ちゃったよ〜」
どうやら、そこら辺を歩いていたところ、迷って森の中へ入ってきてしまったらしい。今は夜だ。夜の森に女の子1人だけっていうのは普通に危ない。
《女の子がこんな夜中に1人で森の中に・・・・・・因習村関係無く普通に危ないなあ》
『どうする? いつもなら菫を摘んだらアウトで、摘まなかったらそのままだけど・・・・・・』
《うーん・・・・・・でもこのまま夜の森の中に放っておくっていうのもアレだし・・・・・・森からの出方を教えてから、ちょっと脅かしてすぐ帰らせようか?》
『そうだね』
と、いうことですみれは一旦実体化したわけだけど・・・・・・
「え? 何? 小さい女の子執事!? かわいいー!!」
《あっ》
うっかり執事服を着たままで出てしまった。
「うわー、かわいいねえ。飴食べる? うんち型の!」
《い、いやいいかな・・・・・・》
すみれがいきなり現れた謎とか、そんなことはもうどうでもいいみたいで、少女はめちゃくちゃにすみれのことを可愛がっている。
《えっと・・・・・・》
可愛がられながらも、とりあえずすみれはちゃんと帰り道を教えてあげたのだが、この少女、帰ってくれそうにない。
《どうしよう・・・・・・》
困ってしまって、すみれは色々と考えていたが、やがて
(そうだ、確か元々怖がらせて早く帰らせようとしてたんだったな。よし、最初の予定とはちょっと違っちゃったけど・・・・・・やってみるか)
そう考えたすみれは、浮いてみた。実体化している状態でも、浮くことは出来るのだ。
「え!?」
流石に驚いている少女。すみれはその少女を少し上から見下ろすようにして、顎に指を這わせ、クイっと顔を持ち上げて自分の方へ向けると言った。
《もう、お嬢様。こんな夜中の森の中にいつまでもいたら・・・・・・悪い神様に、食べられちゃいますよ?》
そう言って、すみれは笑った。
(よし、これで怖がって帰ってくれるはず・・・・・・!)
「あの、いくら払えばいいですか・・・・・・?」
《は?》
なぜかさらに帰ってくれなくなったという。