『ね、すみれちゃん。実は渡したいものがあるんだけど・・・・・・』
ある日、ユキがすみれにそう言ってきた。
《渡したいもの?》
なんだろうか。すみれがそう聞くと、
『うん。渡したいものっていうかプレゼントなんだけど・・・・・・』
ユキはやや照れくさそうにそう言ってすみれにそれを渡してきた。
《これは、しおり・・・・・・?》
それは、しおりだった。透明なフィルムのようなものの中に、すみれの押し花が挟まっている。
『うん! 捧げ物の中に簡単しおり作りキットみたいなものがあってさ、作ってみたんだ! 前にお墓参りに行った時すみれの押し花を簡易神域にして持ってったでしょ? でも、押し花って失くしやすいんじゃないかなって思ってさ。だから、これなら押し花をそのまま持ち歩くより失くしにくいんじゃないかなと思って!』
ユキは笑顔でそう言った。
《確かに・・・・・・》
『いーっぱい想いを込めて作ったからね!』
《はは、ありがとね》
素敵なものをもらった。大切にしようと思いながら、すみれはそれを懐にしまった。
◇
朝起きると、また祠が壊れていた。
《また祠壊れとる!!》
しかも、なぜか──
《大人になっとる!!》
すみれの体は、なぜか大人になっていた。見た目からすると、二十代前半くらいだろうか。そのくらいになっている。太ももは太めだし、胸もデカい。着物もいつの間にか変わっていて、漫画とかの妖艶系お姉さんが着るようなものになっている。太ももは結構出ているし谷間が出るまではだけている感じの着物だ。
で、ユキはというと、それを見るなり早速すみれの胸元に顔を埋めていた。
『すー、はー・・・・・・』
《なんなんだよお前は・・・・・・》
『太ももでテニスの壁打ちしていい?』
《ダメだよ、なんの意味があるんだよ・・・・・・》
まあユキの暴走はおいといて。
《いや・・・・・・なんでこんなことになってんの? なんでいきなり大人化とかしてんの私・・・・・・》
『うーん・・・・・・多分、祠が壊れたことの影響じゃないかな』
《祠が?》
『うん。実はこの祠っていうのは、このすみれ村の人たちがちゃんとした儀式をして、さらに信仰心を注いだ上で作られたものなんだ。まあ、大事なのは儀式より信仰心の方だけど・・・・・・とにかく、これは村人からの信仰の証で、この村という土地自体とのつながりを表しているものなんだ。だから、土地とのつながりがちょっと不安定になって、すみれちゃん自身も不安定になってるんだと思う』
ユキはそう説明した。すみれの存在が不安定になったが故の現象らしい。
《それって大丈夫なのか・・・・・・?》
『まあ土地とのつながりって一朝一夕で消えるようなもんじゃないから。大丈夫だよ。それに、もしつながりがなくなったとしてもすみれちゃんが消滅するとかそういうことは起こらないから』
《なるほどね・・・・・・まあとりあえず村長に頼んで直してもらおう》
とりあえず村長を呼んで、直してもらおうとしたのだが・・・・・・
「申し訳ありません、すぐには無理かと思われます・・・・・・」
そう言われてしまった。
《そうなの?》
『あれ? 前回はすぐ直ってなかった?』
「あれは、正確にいうと直したのではなく、あらかじめ作っておいた予備の祠と交換したんですよ。でも、もう予備の祠はなくてですね・・・・・・今から新しく作るとなると、儀式と信仰心を注ぐ作業に時間がかかりますので、しばらくお待たせしてしまうと思います」
村長はそう言った。
《そっか。まあ仕方ないな》
『そうだね。まあ大丈夫でしょ』
《ん? ってことはしばらく・・・・・・》
『この姿でいなきゃならないってことになるね』
そういうことらしい。このむちむちしててやたらと妖艶な大人バージョンでしばらくいなければならくなってしまった。
「ひじょーに残念ですよ。今度は首輪つけてもらおうと思ってたのに、私のストライクゾーンから外れてしまいました」
《神に対して失礼だな本当に・・・・・・》
「でもまあ、これはこれで客寄せパンダにはなりそうなので、今日も実体化して宿のお手伝いをお願いします」
《ん? ・・・・・・うん》
「まあ、つながりが弱くなって、実体化も多少継続時間が短くなってるかもしれませんが、それでもお客様が就寝されるまでは保つと思うので・・・・・・」
《なるほどね。まあ手伝うよ》
と、いうことでまた手伝うことになった。それで、今度用意された衣装は、半袖のポロシャツにスキニージーンズ、それに宿屋の印付きのエプロンというものだった。
《なんか、またちょっと宿屋というより海の家みたいな格好だな・・・・・・》
まあ、とりあえずやることになった。
◇
(私の名前は上杉クロ! 女の子好きの大学生!)
この日、すみれ村に1人の少女がやってきた。この少女の名前は上杉クロ。名前に反して白い髪と白い目を持つ、本人も言っている通り女の子がものすごく好きな女子大生だ。いや、もちろん友愛とかではなく性的な意味でだ。
(因習村ってなんかえっちな雰囲気あるよね!! いい子が見つかるといいなー!!)
そんなことを考えながら、クロは宿屋へと入っていった。
・・・・・・
(うーん。けっこう色々な属性のいい子たちがいたな・・・・・・でも、あの村長さんが一番だったかな? 今のところあの人が一番良かったかも。因習村のちょっと閉鎖的でありながら、どこかエロティックな雰囲気の中で、あの凛とした村長さんと関係を持つ・・・・・・なかなかいい感じかも!)
と、そんなことをクロが考えていた時だった。
《失礼致します。遅ればせながら、お茶をお持ちしました》
クロがついて早々、宿屋から出てかわいい女の子探しの徘徊をし出したから、出すタイミングが遅れたサービスのお茶を持って、すみれが入ってきた。
(・・・・・・!!)
そのすみれを見た時、クロは息を呑んだ。
清らかで、綺麗な印象があるのに、どことなく妖しい雰囲気を纏わせた美人。まさに、『因習村』というもののエロティックな部分を体に纏わり付かせたような、けれど触れるのを躊躇わせるような、汚したくないような綺麗さも併せ持つ、不可思議な雰囲気の美人だった。
あと胸がデカい。普通に。
「・・・・・・」
《あの・・・・・・?》
「あっ、すいません!」
(思わず胸を凝視しちゃったな。危ない危ない。まあ、きっと気づかれてないはず・・・・・・!)
(なんでこの人胸の部分をじっと見てたんだろう・・・・・・? なんか変なところでもあったかな・・・・・・?)
すみれは普通に気づいていたが、なぜこの少女が胸を凝視していたのか、その理由まではわからなかった。
(よし、滞在する間、なんとかこの人を堕として・・・・・・)
と、クロが考えている時だった。
《あれ?》
すみれが何かに気づいた。すみれが見ている方を見ると、そこには小さな瓶に挿さったすみれ草があった。窓からは入る風に、小さくゆらゆらと、ノスタルジーみたいに揺れている。
《えっと・・・・・・そのすみれ草、採っちゃったんですか?》
「ええ、そうですけど、そこの森で・・・・・・えっと、すいません、何か因習とかありましたか?」
《はい・・・・・・それは採ってはいけないという因習がありまして・・・・・・》
クロは来て早々、因習を破ってしまっていた。
(マジか・・・・・・)
どうしよう、と色々考えを巡らせていると、いつの間にかすみれがすぐ近くまで来ていた。今のすみれはけっこう背が高い。だから、クロのことを見下ろすように間近から覗き込んでいた。
(え、なになに!? 近い近い・・・・・・ていうか顔がいい!! え、やば・・・・・・肌きれい・・・・・・目もきれいだし・・・・・・!)
と、そんなふうにクロがドギマギしていると、すっとすみれがクロの頬へ触れてきた。
《すいません、嫌かもしれないんですけど、因習なのでさせていただきますね・・・・・・!》
すみれはそう言った。
(な、何をするつもりなんだろう・・・・・・? も、もしかしてえっちな罰とか与えられちゃう・・・・・・!?♡)
クロはすみれの顔から目が離せない。そのすみれは、すっと両腕を伸ばすと──
「!?」
ぎゅっと、クロのことを抱きしめてきた。自然と、クロの顔がすみれの胸に埋まる形で。
「・・・・・・!?」
クロはいきなりのことに頭が混乱する。息をするとすみれの香りが深く入り込んできて、クロの脳を優しく刺激した。
《よしよし、よしよし・・・・・・》
すみれは、そのまま頭を撫でてくる。
《君のお名前はなんていうのかな?》
「え、えっと、クロ、といいます・・・・・・」
《クロちゃん。君は、普段どんなことを頑張ってるのかな?》
「え、えっと、将来留学とかしたくて、英語の勉強を・・・・・・」
《そっか、えらいね。ちゃんとした目標があって、そのために頑張れるなんてえらいよ、クロちゃんは。よしよし・・・・・・》
しばらく、クロはそうやってすみれからの甘やかしを受けた。
《えっと、ごめんね? あのすみれを採った人には、赤ちゃんプレイをしてあげるって因習があって・・・・・・》
しばらく経って、すみれはそうやって弁解する。
(なんていい因習なんだ・・・・・・!)
クロは喜ぶと同時に。
「すいません、延長いいですか・・・・・・!?」
《えっ?》
「大丈夫です! 赤ちゃんプレイに必要なものは、すべて鞄に入っているので! いつも持ち歩いてるんです!!」
《一体何を想定して・・・・・・?》
すみれに厄介なファンが出来たのかもしれない。