因習村の怪しげな神にTS転生した話   作:大崎 狂花

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第2話 経緯

 なぜ普通のおじさんサラリーマンだった谷谷シュロがこの因習村の怪しげな神になるに至ったのか。

 

 話は十日ほど前のことになる。

 

 谷谷シュロは疲れた顔をしながら、電車に揺られていた。電車の窓から見える夜景は、初めて見れば綺麗に見えるだろうけど、いつも眺めていれば飽き飽きして嫌になる。

 

(今日も疲れたなー・・・・・・)

 

 シュロは疲れて働かない頭でそんなことを考える。シュロの会社はブラックというほどではないが、ホワイトというほどでもない。それ相応に疲れる。特に最近は忙しくてめちゃくちゃに疲れてしまっていた。

 

 最寄りの駅に着いたので、疲れた体に鞭打ち立ち上がって、改札を出ると家路についた。

 

 都会の夜は明るい。コンビニの明かり、ビルの明かり。都会の夜は騒がしい。パトカーのサイレン、酔っ払いの叫び声・・・・・・。都会の夜は癒されない。

 

 疲れたシュロが、自分の住んでいるマンションの階段を上っていた、その時だった。

 

 階段の一番上まで来た時に、うっかり足を滑らしてしまったのだ。

 

「・・・・・・え?」

 

 気がついた時にはもう遅い。シュロは自分の体が宙を浮くのを感じた。階段の一番上から一番下まで落ちていく。時間が遅く感じられる。

 

 そんな時、シュロの頭に浮かんだのは走馬灯などではなく──

 

(ああ、どうせ死ぬんなら、異世界とかに転生して自然に囲まれた田舎の中でスローライフを送りたいなあ・・・・・・)

 

 そんな思いだった。

 

 シュロの脳裏をそんな思いが掠めた時。

 

《──見つけた》

 

 聞いたことのない少女の声が、シュロの頭の中に響いた。忌まわしくもどこか安心する、少女の声。聞きたくないけど聞いていたい、少女の声。

 

《あなたには、私の代わりになってもらうから》

 

「──え?」

 

 そして、シュロは死んだ。頭を強く打って死亡した、はずなのだが──

 

《あれ?》

 

 シュロは目を覚ました。さっきまで都会のマンションにいたはずなのに、シュロは深い森の中にいたのだ。月の光がわずかに射す。白い霧がまだらに黒い森の中を彩っている。そして、シュロの座っている祠の前には、すみれが群生していた。

 

《すみれ・・・・・・『山路きて 何やらゆかし すみれ草』っていう句が確かあったけれども・・・・・・》

 

 松尾芭蕉の句に確かそんなものがあったはず。シュロは古典の授業かなんかでそれを習ったことを思い出した。

 

《そういえば、すみれなんて最近全然見てないな・・・・・・》

 

 最近、すみれなんて・・・・・・いや、そもそも花自体をこうしてまじまじと見ることなんてなかったような気がする。都会にも、道端なんかには花が生えてたりするのかもしれないが、少なくともシュロには見る余裕というものがなかった。それだけの心の余裕を持っていなかったのだと、シュロはこうしてすみれをまじまじと見ることで初めて気がついた。

 

《この森も、なんとなく空気がいいように感じる・・・・・・このすみれも、確かに何やらゆかしという言葉が合っている。見ていると、このすみれの心地いい紫色が心の中に染み込んでくるみたいな感じがする・・・・・・》

 

 しばらくすみれを眺めて、ふと、シュロは顔を上げた。

 

 すると・・・・・・

 

《あれ? なんだ? なんだかあの霧・・・・・・キラキラしてるなあ》

 

 霧の中に、何かキラキラしたものが混じっているような気がした。シュロがそれを不思議に思うと

 

『それは霊気だよ。この森の霧には特殊な霊気が混じっているんだ。神域だからね』

 

 そんな声がした。

 

《!? なんだ!?》

 

 シュロが振り向くと、そこにはセーラー服を着た高校生くらいの少女がいた。こんな夜の暗い森の中に、高校生くらいの少女が1人でいるということ自体奇妙なことなのに、その少女はさらに奇妙なことに半透明で、浮いていた。

 

《えっ!? き、君透け・・・・・・! ていうか浮い・・・・・・!》

 

 シュロは驚くが

 

『いや、それよりももっと驚くべきことがあるから。ほらこれ』

 

 そう言って鏡を手渡された。小さい手鏡である。

 

『それに自分の姿を映して見てみ?』

 

 聞きたいことはかなり色々とあるのだが、シュロはとりあえずその少女の言う通りに自分の姿を鏡に映してみた。

 

 そこに映った自分の姿は、見慣れたおじさんの姿ではなく──

 

 まるで生きていないかのように真っ白で、しかし美しい肌。目の前にあるすみれと同じ濃い紫色の美しい髪と、目。人間離れした美しさの顔立ち。それにさっきまでスーツだった服が着物になっている。

 

 シュロはどこからどう見ても、16歳くらいの美しい少女になっていた。

 

《・・・・・・は?》

 

 半透明の浮いている少女は、何が何だか分からずに呆然とするシュロににっこりと笑いかけてこう言った。

 

『これからよろしくね! 二代目すみれちゃん!』

 

《・・・・・・は?》

 

 ◇

 

《まさかこんなことになるなんてなあ・・・・・・》

 

 シュロ改め二代目すみれは、祠の上に座りながらそう言って嘆息した。

 

 あの後、事情を聞いたのだがシュロはどうやら儀式に巻き込まれたらしい。『土地神が土地を離れるための儀式』──それに巻き込まれたのだ。

 

 なんでも、その儀式は土地から土地神を離れさせる代わりに、『この土地を好みそうな者の魂』を新たなる土地神として土地へ呼び寄せるらしいのだ。

 

 その儀式をやっている時、ちょうどシュロが死んだのだ。まあ、死んでなくてもどっちにしろ呼び寄せられたとは思うが・・・・・・とにかく、それでシュロはこの土地の忌まわしき土地神、二代目すみれとなったのだ。

 

『初代のすみれちゃんはこの土地で生まれ、この土地以外を見たことがなかったんだ。それで、彼女はもっと広い世界を知りたい、もっと色々なところを見てまわりたいし、学校とかに行って勉強をしたりとかもしたいと願っていたんだ。だから、私が友達として力を貸してあげたんだ。オカルト雑誌で知ったこの儀式が、成功するかどうかは半信半疑だったけど、無事成功出来たみたいで良かったよ』

 

 そう半透明の浮いている少女──幽霊少女のユキは言った。このユキは色々と事情があり、この土地の底なし沼に沈んで死んでしまった人間の少女で、初代すみれの友達だ。死んだのはけっこう最近で初代すみれとの付き合いは短いが、それでも親友と言って差し支えない関係だったらしい。

 

《いや良かったって言ってもさあ。代わりに俺──》

 

『私』

 

《あっ、私がこの土地に縛り付けられることになったんだけど、それは良いわけ?》

 

 シュロ、現すみれは不満そうにそう言った。

 

『いやでも、都会での生活に飽き飽きして、自然に囲まれてスローライフ送りたいって思ってたんでしょ? いいじゃん。異世界転生は出来なかったけど、これだってまさに理想の生活じゃんか』

 

《・・・・・・そりゃまあ確かにここはいいとこだな。そこに異論はないよ。前住んでたマンションで浴びる朝日は憂鬱だったけど、ここで浴びる朝日は気持ちいい朝日だ》

 

 この森も朝になれば日の光が入ってくる。現すみれがここ最近浴びた覚えのなかった、気持ちのいい朝日だった。自然の中で浴びる朝日はやっぱり気持ちがいい。会社に行かなくていいっていうのもいい。

 

『ね、良かったでしょ? すみれちゃん』

 

《いや結果的にはね? 結果的には良かったけど、ユキ、君けっこうヤバいことしてるからね?》

 

『はいはい、これでも一応反省してるよ、一応ね』

 

《軽いな・・・・・・人を因習村の怪しげな神にしといてその態度はどうなんだよ・・・・・・》

 

 ちなみに、今の現すみれの姿は初代すみれの姿そのものらしい。土地神になったから変質したのだろう。そして初代すみれはシュロの姿になっている・・・・・・というわけではなく、普通女子高生になっている。初代すみれが人間だった場合になっていたであろう存在に置き換わっているらしい。

 

『でもすみれちゃん、この十日間でけっこう、その因習村の怪しげな神も板についてきたじゃん。昨日すみれを摘みにきたあの男二人組を追い返した時のすみれちゃん、すっごい超常的存在って感じでカッコ良かったよ』

 

《そうかな? 別に、ただ赤ちゃんプレイをしただけだけどね》

 

『は? 赤ちゃんプレイ?』

 

《そう。赤ちゃんプレイ。俺・・・・・・いや私も経験あるから知ってるんだけどさ。やっぱり都会で働いてる社会人には癒しが必要なんだよ。あの2人は都会から来てる人っぽかったし・・・・・・だからなでなでよしよしして赤ちゃんプレイしたわけ。そしたらあの2人もわかってくれたみたいだし、良かったよ。前は殺してたみたいだけど、私はやっぱり人は殺せないからね》

 

 あはは、と朗らかに笑いながら言うすみれ。それを見て、すみれに聞こえないくらいの声でユキは呟いた。

 

『この人、自分がどんなオーラ出してるかわかってないのかな・・・・・・? 超常的存在にあんなことされたら、普通に殺されるより怖いと思うんだけど・・・・・・ていうか、しっかりと呪いかけてたし・・・・・・まあ、この感じを見る限り無意識みたいだけど・・・・・・』

 

《? 何か言った?》

 

『いや、なんでもない。まあすみれちゃんの思う通りにやるといいよ』

 

 まあ意識してなくともちゃんと出来ているのでよしとすることにした。

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