今川の梅の木   作:こうよう

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第六話『戦国の世』

 氏勝が友野屋を出た頃、柘植殿が外で待っていた。

 

「どうかしたか?」

「長尾景虎が関東越山したと」

「何?詳しく申せ」

 

 長尾景虎は北条に敗れた関東管領・上杉憲政を保護していた。その憲政の要望で越後から関東へと軍を進めたのである。その数はどんどん膨れ上がり、十万となったそうだ。そのまま北条氏康のこもる小田原城を囲んだ。ところが氏康も稀代の名将で、小田原城は落ちなかった。そこで、長尾景虎は兵をまとめて鎌倉に引いて、上杉憲政から上杉の苗字と関東管領職を受け継いだ。……

 それを聞いて氏勝は震え上がった。自分には十万の兵に囲まれて守れるとは思えなかった。胸が苦しくなって少し急ぎ気味で屋敷へ戻った。氏真に報告したあと、九日間休息した。評定の前日は正綱と手合わせをした。

 

「いやあ!」

 

 正綱の張り上げた声を聞いて、左にかわす。そして剣を振るう。四度目で、正綱は降参した。

 

「……さすがでございます。またいつでもお相手いたしましょう」

 

 日が暮れる頃、また柘植殿が正綱の屋敷の外で待っていた。

 

「どうかしたのか?」

「はっ、武田信玄殿が長野業正のこもる箕輪城を攻めたようです」

「なんじゃと?武田が?……詳しく申せ」

 

 甲斐の虎とも名高い武田信玄が上野国の長野業正を攻めた。業正は上杉憲政の家臣だったが、憲政が越後に移ってからも北関東に勢力を張っていた。北条と同盟を結んでいた信玄はそんな業正を攻めたが、箕輪城は落ちなかった。

 この戦いで戦の虚しさを悟った上泉秀綱が隠退した。彼は野にくだり、開国修行に出たのである。秀綱は後に信玄から偏諱をもらい、信綱と改名する。彼が新陰流の創始者で、後に伝説の剣豪と呼ばれるのだ。

 

「……そうか。報せに感謝する」

「はっ」

 

 シュン、と布の擦れる音がするが早いか、柘植殿の姿は見えなくなった。武田信玄も北条氏康も父と同世代で、互いに渡り合ってきた。武田信玄と北条氏康は我が家と同盟しているから今は安心だがいずれ、──氏勝は冷や汗が出てきて考えるのをやめた。そしてまた評定の日がきた。

 

「早速評定を行う」

 

 相変わらず家臣一同は氏真に頭を垂れている。関口氏広と葛山氏元が先頭に、順々に座っている。末席に氏勝と菅沼定盈が並んでいた。

 主命結果はやはり氏勝がいちばんだった。その次に元信がきていた。今回の褒美は大きな真珠一つだった。歯がゆく噛み締める菅沼の姿が見えた。

 

「それでは、今後についてだ。今月は内政を行いたい」

 

 相変わらず氏勝への命は修行であった。廊下へ出る時、正綱の後ろ姿が見えた。氏勝は声をあげた。

 

「次郎右衛門殿!」

「若殿、どうしました?」

「これから師事したいのだが、よろしいか?」

「おお、ぜひ。先に屋敷で待っております」

 

 正綱はそのまま廊下を歩いていった。勝手門のところに小さく立っている男がいた。柘植殿だった。

 

「どうした柘植殿」

「大浦為信が南部家に対して謀叛を起こしたとの報せを伝えようと……」

「なんと……北の方でも動きが……ありがとう」

「はっ」

 

 柘植殿は消えた。氏勝は何か嫌な予感を感じた。勝手門から屋敷に戻った後、すぐに正綱のもとへ走った。




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