お金はな、お金より大切なものを守るためにあるんだよ
―でんじゃらすじーさん―
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高度育成高等学校、東京に位置する国主導の高校。進学、就職率はほぼ100%を誇り、学費も全額免除、まさに至れり尽くせり勝ち組確定の、夢のような高校である。
「いやはや、事前に入学説明で見たとはいえ、実際に見てみると壮観だねぇー!」
そんな独り言をつぶやきながら、そんな夢のような高校の門をくぐる。まさかのまさか、自分がこんなところに入学できるとは、改めて喜びを噛み締める。清潔感あふれる校舎、明らかに金がかかってそうなこの土地、さすがは国主導といったところだ。
一つ文句を言うとすれば、そこまでするのであればここへ来るまでのバスも、貸し切りなどにして欲しかった...と思ってしまう。こういう粗探ししてしまう癖は直さないとなぁ...と、そんなことを考えながら、田舎者のサガか、しばらく周りをきょろきょろと見回しながら、大きく貼りだされていた一年生のクラス名簿を見に行く。しばらく探したのち、自分の名前が見つかった。
『1年Cクラス 辰見 鱗』
と、いうことで向かうはCクラス。どうやら1学年で、A~Dの4クラスがあるようだ。何というかCって中途半端だよねぇ...CクラスのCは中途半端のCだってか⁉
などとしょうもない思考にふけっているうちに、Cクラスに辿り着いた。入って早々、すでに8割ほどが揃っているであろうクラスメイト達の顔ぶれを見て、少し違和感を感じる。
明らかにガラの悪い男、机の上に堂々と足を置いてる男、おまけになんかそういう感じのマンガに出てきそうなゴッツい黒人...ここへ来るまでの通り道でちらっと見えたA、Bクラスとは明らかに人間の質というか、治安というかが明らかに悪い。本当にここって進学・就職率100%の高度育成高校?地方のヤンキー高とかじゃないよね?心なしか空気も乾燥、というかピリピリしているように思えてきた。
そんな不満を抱きつつも、中央最後列、自分の席へと座る。幸か不幸か、隣の席は机の上に足を置いていた男であった。男にしては長めの紫髪に整った顔、そしてガタイを見るにケンカ慣れもしていそうだ。名前を聞こうか、何か話そうか...見るからに活発なタイプではなさそうだし、いきなり不興を買って殴られるのはゴメンだ。しばらく迷っていると、前の席にいた女の子に声をかけられた。
「わざわざ無理して話しかけること無いんじゃない?あっちもウェルカムって感じでもないしさ。」
やはり目に見えて迷っていたのか、割と図星を突かれる。というか、間違いなく彼にも聞こえていそうな声量で言うの、何というか肝が据わっているよなぁ...
「アタシは西野武子。そっちは?」
「あたしは辰見鱗。辰年の辰に見るの見、逆鱗の鱗で辰見鱗。よろしくね、西野ちゃん!」
ファーストコンタクトは上々、この学校での一人目の友人が作れそうだ。
しばらく西野ちゃんと他愛ない会話をしていると、いつの間にやらチャイムが鳴り、先生らしき人物がやってきた。角ばった感じの眼鏡をかけた、真面目で厳格そうな雰囲気の先生だ。年齢は30代中~後半くらいかな?
しばらくして生徒たちも静かになり、先生が口を開く。
「Cクラスの皆様、ご入学おめでとうございます。私はこのCクラスを担当することになりました、坂上数馬と申します。担当教科は数学ですので、授業でも会うことがあるでしょう。」
良くも悪くも見た目通りというかなんというか、真面目な感じの先生だった。あたしの苦手教科が数学、というのが何とも申し訳ない。
「本校においては、3年間のクラス替えが存在していません。よって、このクラスのこのメンバーで、3年間過ごしていただくことになります。これから3年間、よろしくお願いします。」
3年間クラス替えがないのは初耳であった。できれば耳を塞いでいたかった事実ではあるが。
「これから1時間後、入学式が体育館にて執り行われます。それまでにこの学校のルールなどに関しての説明をさせていただきます。それに関しての資料と学生証を配布いたします。こちらの学生証は、この学校内の施設などを利用したり、敷地内での商品を購入したりと、重要なものですので、紛失しないよう気を付けて下さい。」
事前に聞いていたように、この学校では基本的に現金が利用されておらず、このポイントでのみ買い物などができるそうだ。支給されたスマホでも生徒間のポイントのやり取りができるそうだ。100%キャッシュレスなのは近未来的でハイテクではあるが、人によっては悪用できそうなシステムである。あたしが悪用するかは置いておいて、だ。
「それから、ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれるようになっています。現在既に、生徒一人ひとりにつき10万ポイントが支給されているはずです。」
そうなのか。生徒一人につき10万ポイントが支給されているのか。10万かぁ......10万!!!???
一人につき10万なんて太っ腹なんてレベルではない、腹の太さがご神木レベルだ。一学年につき40×4で160、3学年分で480、一月で4800万もの金が動いているということである。一年分ともなると4800万×12で5~6億もの金である。いかに我々が日本の未来を担う人材とはいえ、とんでもない量の金である。こういうときだけ計算が早くなるのは自分でもどうかと思う。
とはいえ、もらえるものはありがたく貰ってしまおう。据え膳食わぬは男の恥だが、据え銭貰わぬは人の恥というわけだ。
「~以上で説明は終わりです。何か質問はありますか?」
それから、当たり障りのないルールの説明が終わり、質問の時間になった。とはいえ、ほとんどの生徒はこれから10万をどう使うか、何を買おうかで頭がいっぱいで、質問するほど話を聞いていなかっただろう。西野ちゃんも明らかにそわそわと挙動不審だ。可愛いね。
「無いようですので、説明はこれで終了とします。それでは皆さん、入学式で会いましょう。」
そう言って先生が去った瞬間、クラス中がざわつきはじめた。それはまあ当然だ。生活費や食費も含まれているとはいえ、10万なんてこれまで見たこともないような額だ。おそらくみんな、胸が躍りすぎてブレイクダンス状態だろう。
「ねぇ辰見!10万だってさ!!あとで何か買いに行かない?」
西野ちゃんもハイテンションだ。
「確かに、どんな店があるかとかも知りたいもんね...入学式終わったら行こっか!」
ただ、隣の男、彼だけはほかの生徒とは違い、動揺や浮かれもなく不敵な笑みを浮かべている。その姿が、あたしにはどうも引っかかった。
その後、さして問題や衝撃的な出来事が起こることもなく、入学式が終わった。教室に戻った後も、Cクラスのみんな、遊びや買い物の約束などをして和気あいあいと過ごしていた。そんな時、突然、隣の彼が立ち上がり、教卓へと歩いていく。ほとんどの生徒は気にも留めず、会話を続けていた。
次の瞬間、机を叩く大きな音が鳴り響いた。その音の主はもちろん言うまでもないだろう。周囲はしーんと静まり返り、必然的にみんなの注目は彼に向かう。
「俺の名前は龍園翔。今日から俺がこのクラスの王だ。異論があるやつからかかってこい。」
周囲は当然のように騒然としていた。当然はいそうですかとなるわけがない。ガラの悪そうな男が彼、龍園に異論があるといわんばかりにケンカを売...る前に殴り飛ばされた。「ふざけんじゃねぇ!」のふざ...の辺りで殴り飛ばされていた。もう少し何というか、手心というか...
腕自慢の男たちは彼へと向かっていく。一方我ら女子たちは逃げるようにそそくさとクラスから出ていった。
「いやぁ...龍園くんだっけ?初日からかますねぇ...」
「いや辰見アンタ、なんでちょっと満足そうな表情してんのよ...」
西野ちゃんは呆れたような、うんざりしたような感じだ。
「だってさぁ!初っ端『俺がこのクラスの王だ』だよ?何というかカリスマ性のようなものを感じたね!」
「それで騒ぎになって停学や退学になったら元も子もないっての...」
ぐう正論である。
結局、あの状態のクラスに戻るのもアレなので、2人で併設の大型ショッピングモール「ケヤキモール」に行くことになった。
「一通り見たけども、とんでもない品揃えだね...」
正直なところ、想像の数倍の規模と品揃えであった。10万も支給されていたのだから、山頂価格ほどではないにせよ、色んなものが多少割高なんじゃないか...?なんて思っていたが、そんなことはなく適正価格そのもの。さらには店によっては無料の商品もある有様だ。正直、よほどの浪費家でもない限り、生活ができなくなるような状態にはならないだろう。それどころか、ある程度の生活必需品などを買い揃えた後では、金を持て余す者もいるだろう。
あたしの七色の脳細胞が、さまざまな可能性を思案していく。結論としては、これは使えるかもしれない。
その日は結局、西野ちゃんとカフェで食事をした後別れ、いくつかの生活用品を買って帰った。モール外のコンビニにも、当然のように無料商品のコーナーがあった。そして、無料商品の棚の、『お一人様一つまで!』との表記がある棚の商品は、数品しか残っていなかった。それはつまり、複数の人間がこのコーナーを利用していることの何よりの証拠であった。
「おかしい...10万も支給されているのに無料品コーナーにはいくつか空きがあった。財政面でもしや、どこか知らないところで、大量の金が動いている...?」
辰見 鱗 1年Cクラス
学力 B-
知性 C
判断力 B-
身体能力 E∔
協調性 B
学力、判断力を加味した場合、AもしくはBクラスへの配属が妥当であるが、身体能力の低さや、中学時代の事件を鑑みて、Cクラスの配属を妥当とする。