6月3日、俺、石崎大地は生徒会室に居た。理由としては、先月の末に俺と近藤と小宮が、龍園さんの命令で須藤相手に起こした暴力事件についての話だ。俺たちは須藤を監視カメラの無い場所に誘き出し、あいつの過去のやらかしをネタに煽り、暴力を引き出した。正直、あいつ相手に一方的に殴られ続けたのは堪えたな...
ここに居るのは俺たち3人と須藤とその付き添いに堀北と綾小路という生徒、それとお互いのクラスの担任、茶柱先生と坂上先生だ。
須藤は部屋に入ってから今の今まで、ずっとこちら側を睨んでいる。いくら睨んだって、お前の有罪は確定してるってのによ。なんだって、俺達には龍園さんがついてるんだからな!
しばらくすると、副会長の南雲?という名前の先輩が来た。先輩はこちらをちらっと見た後、俺たちと須藤の間に立ち、話し始めた。
「今回の事件の概要としては、『須藤くんに石崎、小宮、近藤くんら三名が暴力を振るわれた』というものですが、間違いは無いか?」
「はい。間違いありません。」
小宮が口を開く。それを聞いた須藤は、顔を真っ赤にして反発する。
「違えよ!元々お前らが俺のこと煽ったのが原因じゃねえか!」
「ほう。須藤くんの言い分によると、こちらの3人が先に煽った…と。その辺り、もう少し詳しく教えてもらえるか?」
「ああ、こいつらが、『暴力でレギュラーを取った』だの、『日頃からみんな俺に鬱憤が溜まってる』だの言ってきやがってよ…」
すぐさま堀北が付け加える。
「もし、須藤くんへ掛けたこの言葉が真実であるのなら、これは双方に非があるはずです。少なくとも、こちら側が100%悪い、とはならないのでは無いのでしょうか。」
くそっ、痛いところを突かれた。実際、これにもうすこし侮辱的なニュアンスを加えたようなセリフを、俺たちは喋っている。そこを軸に話をされるとマズいぞ…
そう考えていると、意外な方向から助け舟が出された。
「少し失礼致します。果たして、この言葉は不当な言いがかりなのでしょうか?前者は兎も角、後者に関してはあながち不当とも言い切れないのでは?ということです。」
「は?何を言って…!」
「須藤くんは中学時代、暴力事件を起こしたという前歴がありますね。それにその体格と強気な口調、本人の知らず知らずのうちに周囲の鬱憤を溜めてしまっている、という可能性は十分にあるのではないでしょうか。実際、彼の素行は傍目から見ても褒められたものではありませんしね。」
坂上先生の言葉に、顔を真っ赤にしてキレる須藤。
「ふざけんじゃねぇ!中学のことは関係ねぇだろ!」
「須藤、少し落ち着け。」
坂上先生は、凄んできた須藤にもビビらず、メガネを直すような動作をしたあと、淡々と告げる。
「ほら、今もカッとなってしまっている。もしかすると今のように、最初は軽い注意で小宮くんたちが言ったセリフを、過剰に受け取ってしまったのではありませんか?」
「ッ…!それは憶測です。明らかに色眼鏡で見ているのではないでしょうか!」
「そうですよ。憶測です。当事者の証言以外に証拠がない以上、我々のような部外者は、その内容から憶測するしかないでしょう?」
黙り込む堀北。さすがは大人、まるで赤子の手をねじるような弁論だ…!しばらく須藤を宥めた後、南雲先輩はこちらに向き、証言を求めた。
「須藤の証言はこうだったが…加害者側の話だけ聞いてもって話だしな。誰か、そっちの言い分はあるか?」
それを聞いて、近藤が話し始める。ちなみに、俺は龍園さんに「お前が話しすぎるとボロが出そうだからなるべく黙っててくれ」と言われたんで基本的には黙っておく。
「俺と小宮は、前々から須藤に不満があったんです。自分がバスケが上手だからって、俺ら含めた同級生に高圧的な態度を取っていて…特に5月なんてそれはもう酷くって、自分が0ポイントだからって、明らかCクラスやBクラスの奴らに当たりを強くしてて…俺たち以外も、少しずつ不満を溜め込み始めていたと思います。」
「ほう。それで?」
「なので、バスケ部の中でも、腕っぷし...といいますか、そういう場にある程度慣れている俺たちが、一度面と向かって注意しようと思って、須藤くんを事件の場所に連れ出しました。その際に、やっぱり自分たちでは不安だったので、喧嘩が強い石崎くんに付いてきてもらったんです。」
「何故、事件の場所に...人気のない、それこそ監視カメラすらない場所に呼び出したんだ?」
近藤は、迷ったような、葛藤しているような表情(の演技)をしてぽつぽつとしゃべり始める。
「それは...みんなの、そして須藤くんのためでもあったんです。大勢のいる場所で注意したら、須藤くんのプライドを傷付けてしまうと思って...それに、今回は俺たちが被害にあいましたが、人気の多いところだと、他の生徒にも危険が及びかねないと思って...」
「つまり、須藤のプライドのためと、周囲への被害を考えた結果、と。」
「はい。結局は、そんな考えも全部おじゃんになっちゃいましたけどね。」
近藤は傷を押さえ、須藤の方を見る。須藤はさっきから、顔を真っ赤にしてキレっぱなしだ。
話がひと段落したところで、南雲先輩がしゃべりだす。
「双方の意見を聞いた結果、判決を述べさせてもらう。この事件は......」
「ちょっと待ってくれ。この事件に関する、重要な証拠をこちらは持っている。判決の前に、それを見てもらってもいいか?」
重要な証拠ぉ⁉...これはちょっとまずい。もしその重要な証拠ってのが、こっちが因縁吹っ掛けてる動画とかだったら...まじぃよ、俺が龍園さんにぶん殴られちまう...神様、仏様、あとアルベルト...頼む、お願いだ!
「...何だ?その証拠ってのは。」
「悪いが、証拠を持ってるのは俺じゃなくってな。...佐倉、来てくれるか?」
そう言うと、部屋にピンク髪の内気そうな女子が入ってきた。首にはカメラを下げている。終わった...動かぬ証拠だ...
「は、はい...偶々放課後に、この4人が争っている場面を目撃して...写真を撮ったんです...これが、その写真です。」
佐倉という生徒が出した写真には、須藤が俺たちと揉み合いになっている様子が映し出されていた。ああ...終わった...ちくしょう...殴られる前にマウスピースでも買っておくか...
「はぁ。これが証拠だと...」
坂上先生も落胆している。もうおしまいだ...グッバイ俺の前歯...
「確かに、動かぬ証拠ですね。...須藤くんの暴力の。」
「なっ...!?」
坂上先生!?さっきといい本当にありがとうございます...いままで真面目に授業聞いてなくって申し訳ねぇっす...
坂上先生は続ける。
「この写真から分かるのは、『須藤くんたちが取っ組み合いになっていた』という情報のみです。むしろ、この事件が仕組まれたものではない、という証明にもなりますね。須藤くんを嵌めるのなら、石崎くんたちがこうも取っ組み合いをする理由がありませんので。」
「何を言って...!」
そうなのか...確かにそうか!静止画だけじゃ確かに分かんねぇもんな!助かった...
「佐倉さん。わざわざ来てもらって悪かったですね。おかげで、事件解決の手掛かりになりました。」
坂上先生も嫌味ったらしいな...でも今回は感謝します!あざっす!
「決まりですね。今回の事件、生徒会としての判決は、須藤くんの退学が妥当と考えます。」
「嘘だろ...」
須藤が膝をつく。こっちが嵌めた結果だから、少し申し訳ないな。それを聞いて、堀北が声を荒げる。
「どうしてですか、副会長!今事件、退学はやりすぎだと考えます!」
「理由が知りたいか?まずは今回の事件は『小宮、近藤両名の注意に逆上し、須藤が暴力を振るった』というものだ。」
「それで退学はやりすぎです!停学あたりが妥当では!?」
「普通はそうなんだがな...場所が問題でな。4人の証言によると、近くには階段があったそうなんだ。俺たちは現場を見ていないから確かなことは言えないが、場合によっては暴力によって階段から突き落とす、なんてこともあり得たわけだ。その場合、後遺症が残るレベルのケガ、最悪の場合死んでいた可能性もある。それが理由だ。」
「そんな...俺まだ辞めたくねぇよ...!」
須藤がすがるように言う。それを聞いてか、南雲先輩は言う。
「普通だと、退学処分が妥当なんだが...まだ一年が始まって2か月で退学者が出る...ってのはどうもいろんな方面に都合が悪くてな。どうだ?この事件、C、Dクラス間での解決に舵を切らないか?双方のクラスで話し合って、折衷案を見つけるってことだ。お前たち、どうしたい?」
龍園さんの希望通りだ!クラス間での和解に話を持っていけ、というのが龍園さんの命令だ。これで俺が殴られるのは避けられそうだ...ありがとう坂上先生...俺は二人と目くばせをする。
「俺たちはそれで構いませんが...」
「そうか。Dクラスの方は?」
「はい...そうするしか無いですものね...分かりました。こちらも異論はありません。」
「決まりだな。じゃあ、この場はお開きだ。お互い、和解を頑張ってくれよ。」
南雲先輩のその言葉を皮切りに、皆が生徒会室を後にする。俺は部屋から出る前に、坂上先生のもとに向かう。
「あの...先生、今日は本当にありがとうございました!色々フォローしてくれて...」
「かばうだなんて聞こえの悪い...私は、この事件が不当な方向に進むのを防いだ、それだけですよ。」
「先生...!俺、今度から授業もちゃんと聞くようにします!!」
「......それは最初からそうして欲しかったですね...」
眉間を押さえる坂上先生をあとに、おれは部屋を出た後龍園さんに電話する。
「龍園さん!俺、やりましたよ!」
「......との事だ。アイツらは上手くやったとよ。」
「やったじゃん!根回しの甲斐があったってもんね!」
あたしと龍園は、ケヤキモールのカフェにて石崎からの速報を受け取る。龍園は飲みかけのアイスコーヒーを一気に飲み干すと、あたしに聞いた。
「そういえば、具体的にどんな事したんだ?」
「ふふふ、それはね......」
話は一昨日に遡る...
あたしは3日ぶり2度目、南雲先輩の部屋のチャイムを鳴らす。
「せんぱーい?居ます?」
しばらく待っていると、南雲先輩が出てきた。
「お前か...どうせあの件だろ?」
「その通りです!ちょ~っとお願いしたいことがありまして...」
「要するに、『クラス間での和解』に司会として自然に誘導してほしい...と。いいぜ。今のとこ、その事件は堀北先輩持ちだが、俺に任せてもらえないか頼んでみるよ。」
「ほんとですか?ありがとうございます!」
「ただし、タダってわけじゃないぜ?」
茶菓子をつまむ手が止まる。まぁ、予想はできていたことだけども...
「成功報酬はどれぐらい取れそうだ?」
「100~200万ぐらい?」
「もうちょい毟り取る...ってのは厳しいか。いいぜ、30万で受けてやる。」
「ありがとうございます!任せましたよ!」
あたしは山盛りの茶菓子を片手に、先輩の部屋を後にする。
「......今度から、あいつに茶菓子出すのを辞めるかね...」
先輩の部屋の次は、職員室に向かった。
「坂上先生?ちょっといいですか?」
坂上先生は、あたしの顔を見るなり、微妙そうな表情を浮かべる。月初めから面倒ごとに巻き込ませちゃって御免なさいね...
「...あの件ですか?もしや、龍園くんだけじゃなく貴女も裏で糸を引いていたんですか...?」
「違いますよ!ただ、お願いをしたくって!」
「何ですか?はぁ...」
「今回の事件、坂上先生にはあの三人の味方をして欲しくって...」
それを聞くと、先生は少し気が軽くなったような表情に変わった。
「...そんなことですか。そもそも、私は最初からそのつもりですよ。」
「ほんとですか!?」
「自分のクラスの生徒を守り、味方に立つのが教師としての仕事です。違いますか?」
正直驚いた。何というか、正直あたしらCクラスの生徒に、特別な感情を何一つ持っていなかったと思っていた。が、見た目や第一印象とは違い、思ったより熱血系な先生なのかもしれない...それならば、渡りに船だ。これもお願いしてしまおう。
「だったら、ついでにお願いしたいんですけど...」
「はぁ、クラス間での和解に持っていきたいと...良いでしょう。貴方たちがそうしようとする、理由や思惑は問いません。聞いてどうこうする気もありませんですしね。こちらでも努力はさせていただきます。」
「ありがとうございます!感謝カンゲキ雨霰ですよ本当に!」
「それはどうも。そちらも頑張ってくださいね。」
「...と、いうわけよ。」
「ハッ、よくやってくれたな。想像以上だ。」
「そりゃどうも...二つ名はともかく、こういうの得意ってのは嘘じゃなかったでしょ?」
そう言った次の瞬間、龍園のスマホに通知が来る。恐らくあの三人のうちの誰かだろうか?
「今石崎から連絡が来た。あっちから、話し合いは明日の放課後だとよ。」
「そうなの?こっちからは龍園と他に誰が行く感じ?」
龍園はしばらく考えた後、話し始める。
「ボロを出しかねない、あの三人は置いていくか...あとは、それこそ辰見、お前来るか?」
「了解!口八丁で言いくるめて見せるから任せて頂戴な!」
伊達眼鏡をカチャカチャと触り、あたしは胸を張り、ぽんぽんと叩いて見せる。決戦は明日、200万どころか1000万ぐらい毟り取ってしまおうじゃないか。
言い忘れていた辰見ちゃんのビジュアル設定ですが、髪は焦げ茶色のウェーブのポニテ、身長は中の上、プロポーションや容姿は上の下(櫛田、一之瀬レベルには劣る感じ)です。
果たしてこの情報が役に立つことはあるのでしょうか...?