見渡す限りの青い海、青い空。麦わら帽子にサングラスを身に着け、あたしは豪華客船のデッキにてくつろいでいた。片手にはなんかオシャレな果物が刺さったドリンク、高そうな椅子に身を預け、パラソルの下でくつろぐ。あぁなんというセレブであろうか。
「辰見あんた...何というか、順応が早いわね...」
誰かと思えば西野ちゃんだ。あたしのこのセレブスタイルに気圧されたのか、何というかすごいものを見るような視線でこちらを見ている。
「どうよ、このセレブっぷり。右に出る者は居ないってね。」
「いや、セレブ度合いでなら明らかな格上があっちにいるわよ。」
目線の先には高円寺がいた。サングラスに高そうなアロハシャツ、さらに、よく見ると体が濡れ、水が滴っている。プールで泳いできたのだろうか。どちらがセレブっぽいかなど、言うまでもないだろう。
「ま、負けた...」
流石は高円寺財閥の御曹司、たたずまいからして格が違う。似非セレブの自分では敵う筈もない。ちっぽけな自尊心が削れたのを感じ、しばらくの散策の後、西野ちゃんと部屋に戻ることにした。
「あら、西野さんに辰見さん。お早いお帰りですね。」
4人一組の部屋にて、あたしたちを出迎えたのは、こんな場所でも変わらず本に齧り付いている椎名ちゃんであった。
「セレブ度合いで負けちゃってね...」
「ええと...どういう事でしょうか...?というか、何ですか、そのサングラスは...?」
「まぁその辺は放っといていいんじゃない?そういえば、伊吹はどこいったの?」
「『いろいろ設備を見てくる』といって、先ほど出ていきましたね。」
あたしが言えたことではないが、伊吹ちゃんも結構はしゃぎ気味だ。
「ま、一時間後には戻ってくるんじゃない?ちょうどそのぐらいに、無人島に着くみたいだし。」
今回の豪華客船クルーズの旅の予定は、今日の昼辺りに無人島に着き、そこのペンションで1週間、その後船上で1週間、といった感じのようだ。
その後、しばらく他愛もない話をしていると、船内にアナウンスが鳴り響く。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂だけるでしょう。』
何とも意味深なアナウンスだ。経験上、こういうアナウンスには裏があるものだ。ここで行かないほど逆張りでもあるまい、椎名ちゃんと西野ちゃんも連れて、デッキに向かう。
デッキには、4クラス入り混じった多くの生徒がごった返していた。後ろの方から景色を見ていると、島が見えてきた。無人島と言っても案外大きく、みんな大騒ぎだ。そのまま船は、島の周囲をぐるりと一周して、船着き場のような所に到着した。周囲が興奮冷めやらぬ中、ひとり冷静な椎名ちゃんが声を掛けてきた。
「辰見さん、この一周でペンション、というか建物って見えました?」
「......見えてないかも。」
外周部分にないだけで、普通に存在していると信じたい。それか、クラスの序列に応じて宿泊場所が変わる、なんて可能性も...嫌な予測がぽつぽつと出てきてしまう。
「まぁ流石に、野宿なんかさせるほど、学校側も鬼じゃないでしょ~!」
「これより、今学期最初の特別試験を行う。君たちには、今から一週間の期間、この無人島で集団生活を送ってもらう。」
鬼だった。前言撤回、この学校はどうかしている。バカンスという甘い餌で我々を釣り、その結果がこれ。悲しくて涙がちょちょ切れそうである。実際、無人島に上陸するなりこの発表を受けた周囲の生徒たちも、困惑と萎えを明らかに隠しきれていない。かくいうあたしも、正直テンションは駄々下がりだ。
暫くして、先生の説明が終わり、ルールが通達された。ざっくり言うと、
・各クラス対抗で、1週間無人島で生活する。
・試験専用の300ポイントが配られ、最低限のテントや衛生用品以外はそこから消費して購入する。このポイントはマイナスにはならない。
・試験終了時点で、残っていたポイントがそのまま、クラスポイントに加算される。
・リタイアは可能ではあるが、その場合所持ポイントから30ポイント引かれることとなる。
・無人島にはスポットなる地点が存在し、クラスのリーダーが持つキーカードの使用により、スポットを占領できる。占領の有効期限は8時間であり、一度の占有につき1ポイントが終了時に加算される
・キーカードを使用できるのは、リーダーとなった生徒のみであり、正当な理由なくリーダーの変更はできない。
・最終日の点呼の時間、他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。こちらを的中させた場合、的中一つにつき50ポイント入手できる。しかし、外してしまった場合は逆に50ポイントを失う。また、他クラスから的中を受けてしまった場合、50ポイントを失い、スポット占有で得たポイントも失ってしまう。
・環境汚染、他クラスが占有しているスポットの無断使用などの違法行為を行った場合、ペナルティとしてポイントが引かれる。
・暴力行為は即失格。
こんな感じだ。極論ではあるが、限界まで頑張れば4~500ポイントも入手できるビッグチャンスではある。どのように戦い抜くべきか...最悪、Dクラスとの契約の破棄を条件に無理やり手を組むのもやぶさかでは...?などと考えていると、
「ひより、金田、辰見。ちょっとこっち来い。作戦を考えた。」
と、リーダーとなった龍園に呼ばれた。この短時間でこうもすぐに作戦を立てるとは、流石である。さて、その作戦とやらを聞かせてもらおうじゃないか。
「で、その作戦って?」
「俺たちはこの試験、クラスポイントの入手を諦める。」
「「「はぁ?」」」
得意げな龍園の宣言に、あたしたちの声がハモる。さすがに何かほかの目的があるのは分からなくはないが...そう考えていたのもつかの間、金田くんが手を挙げて反論する。彼は金田悟、学力も高く知略にも長けていたためか、こうしてあたしら同様参謀的立ち位置にいる、キノコヘアーがチャームポイントのイカした男だ。
「お言葉ですが龍園氏、それは愚策かと。その場合、他クラスとのAクラス争いに大きく後れを取ってしまいます。少なくとも、何の目的もなしにする行動では無いかと。」
「安心しろ、金田。別の目的はちゃんとある。他クラスに物資を売りつける、それが俺の策だ。」
「そういうことかぁ~...」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。確かにそう考えればかなり良い策だ。物資を売りつけるだけ売りつけて、その後自分たちは悠々自適に豪華客船で過ごしてしまえばいい。そうすれば、クラスポイントはともかく、プライベートポイントは大量に手に入る。それに現状、他クラスに比べてCクラスはリーダーに対して不満がたまっている。豪華客船で過ごしてもらえば、それのガス抜きにもなる、というわけだ。他二人もすぐ理解したのか、納得したような表情をする。
「理解しました。それで龍園氏、肝心の物資を売りつけるクラスはどちらにする予定で?」
「Dは論外として、AかBのどっちかにするつもりだが,,,お前ら、どっちが良いと思う?」
「あたしはAクラスが良いと思うな。」
迷いなく答えたあたしに、龍園が問いかける。
「その理由は?」
「理由は簡単、『Aクラスは一枚岩じゃないから』だよ。」
「どういう意味だ?」
「まず、Aクラスが内戦状態にある、ってのは知ってる?葛城くんの派閥ともう一人、坂柳ちゃんって子の二人が対立状態にあるの。」
「坂柳さん...あの杖をついている小柄な女子のことですか?」
「そうそう、椎名ちゃん詳しいね。」
「ええ、図書室で以前見かけまして。」
「彼女、坂柳ちゃんは先天性の病気か何かで、今回の試験は欠席だそうなの。つまり...」
「葛城の派閥がこの隙に功績を挙げようとしている...そこに付け入るってわけか。」
「その通り!」
今回坂柳ちゃんが居なかったのは幸運だった。彼女の頭脳なら、こっちの交渉の際に優位に立たれそうだったしね。
「よし、それじゃ葛城の方に交渉を持ちかけてくる。金田、ひより、お前らはうちの連中に要件を伝えてこい。辰見は付いてこい。なんか役に立つかもしれんしな。」
「了~解。」
二人が去っていった後、あたしは龍園に声を掛ける。
「どうせならさ、リーダーの指名権も売っちゃわない?どうせうちらは0ポイントなんだし、全クラスに指名させて学年全体のポイント流通量を増やした方が、オンカジも儲かるしさ。ほら、リーダーの龍園だけは最後まで残ってもらってさ。」
「安心しろ、ハナからそのつもりだ。特にB、Dのメンツはオンカジの利用者も多いだろうしな。」
「はぁ...はぁ......やぁっと見つけた...」
「お前、そんな体力無いのか...」
暫く森を探し回り、Aクラスの集団がいる洞窟に着いた。大方、ここがスポットなる場所なのだろう。あたしと龍園が近付くなり、入り口のAクラス数名は警戒を露わにする。
「お前、Cクラスの龍園と辰見だな。これ以上近付くな。」
「ククク、そうまで警戒する事ぁ無えだろ。お前らを指揮してるやつ、葛城に用があるだけだ。少し取引がしたくってな...」
「取引?...仕方ない、葛城のところに連れてきてやる。ただし、少しでも不審な態度を取った瞬間、ペナルティとして報告するからな。」
「ハッ、ずいぶんと警戒されたもんだな。構わねぇよ。」
こうして、あたしたちはAクラス生徒に連れられて、葛城のもとに辿り着いた。葛城と、その側近らしき小柄な男、確か弥彦といった名前だったか?は、明らかにこちらを警戒している。暫くの沈黙の後、葛城が口を開く。
「して、何の用だ?わざわざ俺の元まで来たんだ、大事な話であることは想像がつくが...」
「ハッ、流石はAクラスのリーダー、話が早ぇじゃねぇか。要件は単純だ、こちらがテメェらAクラスに、200ポイント分の物資の提供と、こちらのリーダーの指名をさせてやる代わりに、それに応じたプライベートポイント、一人頭月2万5000ポイントを払え。」
葛城はそれを聞いて、しばらくの思考の後、何か理解したような表情になる。
「つまり、お前たちはこの特別試験を降りる、というわけか。」
「まぁ、そういう訳だな。リーダーだけは残ってもらうことになるがな。実際、この契約が成立すれば、200ポイント分の収入は手に入るんだ、ポイント的にはそこそこだしな。」
すかさず援護射撃をぶつける。
「それに、この契約はそっち側、特に葛城くん派閥にとっていい契約だと思うんだ。坂柳ちゃんがいない今こそ、リーダーとして活躍するチャンスじゃない?」
「...そこまで知っているか。良いだろう。この契約を受けよう。」
「後から契約破棄とかはするんじゃねぇぞ?」
「葛城さんがそんな卑怯なマネするわけないだろ!適当言うなよCクラス!」
横に居た弥彦くんが吠える。残念ながら一切龍園は怯んでいないが。もちろんあたしも。
「弥彦、そう騒ぐな。その件に関しては、第三者...先生に見届け人になってもらおう。少なくとも、不正はないはずだ。」
そうして、物資の提供に関する契約は、それに加えて、双方リーダーは不可侵、という条件を追加して成立した。
交渉も終わり、洞窟から出る際、あたしはとある女子生徒に声を掛けられる。
「いやはや、見事でした辰見鱗、鮮やかな交渉の手口でしたよ。」
「貴女は?」
「ほう、この私の名を知らないと。私は森下藍です。是非この名前を脳髄の奥深くに刻み込んでくださいね。」
なんというか、奇妙奇天烈な人だ。よく見ると、右手に木の蔓のようなものを持っている。
「先ほど私の順風耳で聴きましたが、Cクラスはこの試験を早期にリタイアするのですか?」
「そうそう、ほとんどはそのつもりかな。実際、うちのクラスは龍園のパワーによるワンマンだからね、溜まった不満のガス抜きも兼ねて楽をしようかなって。森下ちゃんは大丈夫なの?見たところ、そんなサバイバル慣れはしてなさそうだけど...」
「分かっていませんね辰見鱗。これでも私は密林のアマゾネスと呼ばれた女ですよ?この程度、赤子どころかアメーバの手を捻るのと同義ですよ。」
そう言うと、アマゾネス...じゃなかった、森下ちゃんはふんすと鼻を鳴らす。
「だったらいいんだけど...じゃ、あたしはもう行くね。」
「待ってください。話を聞いてくれたお礼です。こちらを持っていきなさい。頂き物に感謝して咽び泣いても良いのですよ?」
そう言って、アマゾネスはカボチャを渡してきた。...半分ぐらい欠けたものを、だが。
「カボチャ?こんなのどこで見つけたのさ?」
「リタイアするのでしたら教えても構いませんか。アマゾネスの衝動が抑えきれず、森を探索していたらいくつかのカボチャの群れを見つけまして。一つ拾ってきたのです。」
驚いた。この島にはカボチャが生えているのか。さすがに高校生がサバイバルをするのは難しいから、救済措置のようなものだろうか。
「ちなみに、なんで欠けてるの?」
「持ち帰る最中、そちらのカボチャが巣に帰りたいと喚きはじめましてね。運んでいる最中、私の手元をするりと抜けていってしまったのですよ。そうしておむすびのごとく坂を転がっていってしまい、気づいた時にはその姿で事切れていたのです。」
「つまりは落とした...と。」
「そういう言い方もありますね。まぁ、頑張れば食べれますので。感謝してもいいですよ。」
絶対に在庫処分を押し付けられた形だが、感謝はしておこう。
「どうもありがとう...」
「ではまた。」
こうして、アマゾネスこと森下藍ちゃんと別れた。本当に、つかみどころのない女の子であった。こちらを待っていた龍園のところに向かうと、案の定、カボチャに突っ込まれた。
「何だそれは...?」
「見ての通りのカボチャだよ。さっき話してた森下ちゃんに貰ってさ。なんか自生してたみたい。」
「自生...そうか。まぁいい、戻るぞ。」
そうして、Cクラスの集まりに戻るなり、龍園は
「お前ら、話は金田たちから聞いたな?作戦通り、200ポイント分の物資と、リーダーの指名権の売りつけに成功した。これで毎月、一人あたり2万5000、40人分で100万の収入を手に入れた。」
これを聞いて、Cクラス中はわっと湧いた。
「そして、だ。残った100ポイント、せっかくのバカンスだ。お前ら、好きに遊べ。遊び終わったらリタイアしろ。」
「「「うおおおおおおお!!!!!!」」」
Cクラスが歓声に包まれ、皆がマニュアルを取り合うようにして、何を頼むか話し合い始めた。一連の流れを見ると、やっぱり龍園はカリスマ性や扇動力が強いんだなぁ、と感じてしまう。
そして、それから夕方まで、ビーチバレーに泳ぎ、バーベキューやスイカ割りなどを存分に楽しんだ。
夕方、遊び終えたクラスの皆が、次々とリタイアしていく。それを見てあたしも、
「さて、と。じゃあね龍園!あたしもリタイアするわ!」
と、言ったところで、龍園に肩をがしっと掴まれる。
「ククク、辰見、お前と後何人かは残ってもらうぞ。まだやってもらうことがあるんでな。」
ちらりと横を見ると、石崎とアルベルトが同類を見つけたような視線をこちらに向けてくる。恐らく二人も居残り組なのだろう。
「ま、うすうす分かってはいたけどね...」
あたしたち初の特別試験は、まだ始まったばかりであった...
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にしても森下のエミュがむずいことむずいこと。コツとかあるんですかね?