「で、あたしたちを残らせたのは何が目的なのさ?」
夕方までバカンスを楽しんだあと、あたしを含めた龍園と一部の生徒は、偶然見つけた海辺の洞穴で集まり、会議をしていた。ちなみに、残ったメンツは龍園、石崎、アルベルト、金田、伊吹ちゃん、そしてあたしである。分かりやすく言うと、龍園の側近グループだ。
あたしの問いかけに、龍園は答えだす。
「お前たちにやってもらうことは3つ。1つ目は『食べ物の入手とそれの転売』だ。」
「食べ物?その辺の雑草でも取って来いって言ってんの?」
「まぁ、おおかた伊吹の言う通りだ。ただ、取るのは雑草なんかじゃ無ぇがな。この島にはもっとちゃんとしたモンがあるはずだ。辰見、お前なら分かるよな?」
そう言って龍園は、あたしがアマゾネス...じゃなかった、森下ちゃんから押し付けられた半欠けのカボチャを取り出す。森下ちゃんはその辺で拾ったなどと言っていたが、この気候や環境でカボチャが生えているわけがない。つまり、
「このカボチャみたいに、学校側からの救済措置として作物が植わっているかも...って事でしょ?」
「ククク、大正解だ。流石に学校側も、食うに困って雑草とかを食いだされちゃ困るだろう、こんぐらいの救済措置はあるみたいでな。その証拠に、これだ。」
そういって龍園は、後ろから何が入っているであろう大きなバッグを取り出し、中に詰まったものを取り始める。そこにあったのは、まんまると実ったじゃがいもであった。
「お前らが遊んでる間、辰見が手に入れたらしいカボチャの件で思い当たってな、ちょこちょこ森を探索してたんだ。これがその結果だ。」
「うおおお!すげぇっす龍園さん!!」
「つまり、龍園氏はこういう島に生えている作物を採集し、他クラスに売りつけると。」
「その通りだ金田、これが1つ目の仕事ってわけだ。そして、2つ目の仕事は、『Cクラスのリーダーの指名権をB、Dクラスに売りつける』事だ。」
「Aクラスにやったみたいに?」
「あぁ。どうせうちはハナから0ポイントだ。そっから他のクラスのリーダーを当てて100ポイントほどクラスポイントを稼ぐって手もあったが、今回はそれよりもポイントを学年全体に流通させること、それが大事だと踏んでな。」
「...例のオンカジのためってこと?」
伊吹ちゃんの言うとおりだ。ちなみに、ここに居るメンバーと椎名ちゃんのような、クラスの中心のメンバーにはオンカジについて話してある。...8億ポイント計画なんてものはまだ教えておらず、あくまで「退学回避や生徒の引き抜きなどに使えるかも」という名目ではあるが。
「実際、50ポイント分のプライべートポイントを毎月譲渡する、なんて条件で売れれば上等だ。クラスポイントは増えれば増えるほどいい、とはどこのクラスも思ってるだろうからな、プライベートポイント的には得が無くとも、特に断る理由もないはずだ。」
「俺らにもデメリットは無いっすもんね。」
「ただ、そこに付け込まれる可能性だって無きにしも非ずだ。特にDクラスの連中は、『どうせそっちにデメリットが無いんならもう少し条件を緩和しろ』なんて言ってくるかもしれねぇからな。既に似たような契約をしてる分余分にな。」
実際、Dクラスには賢い生徒もそこそこいる。...少なくとも、学力の高い生徒の数で言ったらCクラスよりも多いぐらいには。交渉の難易度はBクラスよりも高くなりかねない。先ほどから、龍園の持っていたカボチャをいそいそと焼いている石崎を見ると、余計にそう思ってしまう。
「下手な奴が出向けば、ゴミみたいな契約を掴まされかねねぇ。例えば、この空気で堂々とカボチャを焼いてる石崎みてぇなアホだとな。だから、Dとの交渉は辰見か金田が行け。Bの方は俺がやる。」
「すんません龍園さん!どうせ欠けてるしもう今食った方が良いかなって...」
「...話を戻すぞ。俺たちがこの島でやること3つ目は、『他クラスのリーダー情報を入手し、それを売る』だ。食べ物の入手、それの販売に乗じて探りを入れ、あわよくば情報を手に入れる。これは他2つと違って、あくまで努力目標ではあるがな。」
「Aクラスの情報は売っちゃだめだよ?一応とはいえ同盟関係なんだから。」
「あぁ、そんぐらい分かっちゃいるさ。そもそも今回の試験、AとDが大敗することは避けたいからな。」
「なんでっすか?」
「Aクラスは葛城と坂柳の対立状態にあるだろ?葛城が大敗すると、その対立状態が崩れちまう。俺の見立てだと、リーダーの実力としては坂柳の方が高い。その分、ここで葛城には勝ってもらう、とまでは行かねぇが、大敗は避けてほしいんでな。」
「Dの方の理由は?」
「それは簡単な話だ。ここでクラスポイントを増やしてもらわねぇと、契約分のポイントが払ってもらえねぇ。それに、Dにはオンカジのカモ候補が大量にいるんだ。ここで大金を手に入れてもらって、カモを増やさねぇとな。」
「了解です、龍園氏。となると、Bクラスのリーダー情報が最優先でしょうか?」
「そうだな。Bクラスは懐事情もそこまで悪くねぇ。食べ物も高額で買ってくれるだろうしな。チャンスは十分にあるってワケだ。」
「それじゃ、俺たちは明日から食べ物の採集を頑張りますね!」
「あぁ、石崎にアルベルト、お前らのフィジカルが頼りだ、任せたぞ。最悪、ペナルティの出る行為もしちまっても構わねえ。どうせ減るポイントは無えんだしな。」
カボチャを頬張りながら石崎うなずく。なんともダーティである。学校側も、ペナルティを踏み倒すような奴はなかなか想定しないであろう。だが、実際それは一理ある。暴力レベルの失格行為以外なら、不法投棄でも環境汚染でも、どんな違法行為でもやり放題なのだ。何でもあり。そう、何でもありである。何かしらグレーな行為を色々と考えていると、ふと、天啓の如き閃きが浮かぶ。
「ちょっと待って!あたし、すんっごい名案を思い付いたんだけど、聞いてくれる?」
「どうしたの、急に大声出してさ。で、その名案って?」
「ねぇねぇ龍園、売りつける用の食べ物、この数名じゃ手に入る数に限りがあるとは思わない?それに、他クラスとも取り合いになるかもしれない...」
「で、何が言いてぇ?」
「あるのよ、他のクラスとの取り合いもする必要が無く、労力も費用も大して掛からずに大量の食べ物が手に入る方法が!」
あたしは、トランシーバーを手に、にやりと笑った。
そして、夜10時ごろ、ゴムボートにペットボトルを括り付けた即席の小舟で、あたしと石崎はクルーズ船の近くの海上に居た。船沿い、とある場所の真下に小舟を動かした後、トランシーバーで連絡をとる。
「こちら辰見。金田くん、準備はオーケーそう?」
「はい、いつでも大丈夫ですよ、辰見氏。受け取りの用意ができたら言ってくださいね。」
「もうこっちもオーケーだよ!降ろしてちょうだいな!」
あたしがそう言うと、クルーズ船のベランダから、糸に括り付けられたクーラーボックスがゆっくりと降りてくる。それを、上手いこと石崎がキャッチする。
「おっとと...結構重いな...」
「大丈夫そ?」
「こんぐらい全然平気っすよ!にしても辰見さん、悪どいこと考えつきますね...リタイア済みの生徒から、クルーズ船の食べ物を輸送してもらうなんて...」
「どうよ、よく考えたと思わない?」
そう、あたしの名案とは、リタイア済みの生徒からクルーズ船の食べ物を運んでもらう、というものである。別に、ルールには「島内以外からものを貰ってはならない」なんて書いてないしね。仮にこれが問題視されたら、「たまたまリタイアしたCクラスの生徒が落としてしまったものを、こちらが拾った」という建前にしてしまえばいい。パチンコの三店方式も真っ青である。ちなみに、船からの連絡役として、金田にはリタイアしてもらった。
その後、しばらく食べ物を受け取り、あたしたちは本島に帰っていった。ちなみに、あたし一人だと船を漕いでもろくに進まなかったので、石崎に同行してもらっている。...というかそもそもこれ、あたし要らないな?
島の浜辺に到着するなり、龍園たちに出迎えられた。
「ククク、その大荷物を見た感じ、作戦は成功したみてぇだな。」
「誉め言葉なら石崎に言ったげてよね?あたしひ弱すぎてろくに貢献できなかったし...」
「そうだな、よくやった石崎。」
「あざっす!」
こうして見ると、石崎の下っ端適性の高さには感嘆してしまう。こういうところが、この学力でDクラスにならなかった理由なのかもしれない。
「そういえば、一食分いくらぐらいで売るの?」
「20万ぐらいだな。」
「20万ん!?ちょっと高すぎない?」
伊吹ちゃんがぎょっとした声を上げる。だが、実はそこまで法外というわけでもない。
「そうでもないよ伊吹ちゃん。1食分が最低でも2ポイントとなると、一人あたり毎月200ポイントの損失になるじゃん?×40で8万、それが卒業までで約30か月。ここでの2ポイントの損失は、24万ポイントの損失になるってわけ。むしろ、20万はちょっと安いぐらいなんだよ?」
「言われてみればそうなんだろうけど...なんか納得できない...」
それに、普通のカロリーバー以外にも、いくつかは船内ビュッフエからとってきたもののような豪華な食事もある。食事の質だけを考えるとよりお得ではあろう。
「まぁ。目先の事しか考えられねぇ馬鹿でもなけりゃ、これが得なことはすぐ分かるってワケだ。馬鹿でもなけりゃ、な。」
目先の事しか考えない馬鹿...どこのDクラスだろうか。
「ともかく、今日はもう寝るぞ。この人数だ、体調崩してリタイアになるわけにはいかねぇからな。」
そういって、あたしたちは本拠地である浜辺の洞穴に向かった。この人数とはいえ、テントを男女に分けてくれたのはありがたい。龍園は見かけによらず紳士なのかもしれない。そんなことを考えながら横になっていると、横から伊吹ちゃんに話しかけられた。
「...辰見、体調崩してリタイアしないでよね。」
意外にしおらしいことを言うものだ。せっかくだ、からかってみよう。
「どしたの?寂しいの?...いでっ!」
「そういうのじゃないから!単純に、あんたがリタイアしたら女がアタシだけになって肩身が狭くなるってだけ!」
太腿の辺りを蹴られた。別にツンデレという訳もなく、それが本心のようだ。
しばらくすると、男衆のテントから大きないびきが聞こえてきた。恐らく石崎であろう。
それにつられるように、あたしも徐々に眠くなっていく。そしてそのまま、眠りについた。こうして、一日目の夜は更けていった。
今回は説明・準備会なのでちょっと内容少なめです。ゆるしてちょ