2日目の点呼後、あたしは肩に大きなクーラーボックスを掛け、Dクラスの占有しているスポットに向かっていた。要件は二つ、リーダー指名権の販売と食べ物販売の提案だ。これと同時期に、龍園がBクラスの方に、石崎は船での食料調達、伊吹ちゃんとアルベルトは森などの島内での食料捜索をしている。
しばらく歩いていると、Dクラスのスポットである、川沿いのスポットに到着する。あたしを見るなり、何人かのDクラスの生徒は露骨に敵意を向ける。まぁ、毎月1万徴収の契約を結ばされたのだ、多少嫌われるのは当然ではあるが...
「お前、Cクラスの辰見だな?ここはDクラスのスポットだぞ、さっさとどっか行けよ!」
「池くん、そんな邪険にしなくても...」
「でもよぉ、桔梗ちゃん...」
案の定の対応だ。もとはと言えば龍園の独断であったのに、ここまで嫌われるとは悲しいことだ...むしろフォローしてくれてる櫛田ちゃんが優しすぎるぐらいだ。彼の発言を華麗に聞き流し、あたしは用件を伝える。
「あたし仲良しこよしをしにきたわけじゃないよ...できるとも思ってないしね。端的に言うと取引がしたい。だから、クラスのトップを呼んでもらえる?」
「クラスのトップ...って言うと、やっぱり平田くんと...あとは堀北さんかな?分かった、呼んでくるね!」
そう言って、櫛田ちゃんはどこかへと去っていった。
しばらくすると、平田くんと堀北ちゃん、それと平田くんの彼女の軽井沢ちゃんがやってきた。他二人はともかく、堀北ちゃんは明らかに機嫌が悪そうだ。
「Cクラスの貴女が何の用かしら?噂によると、Cクラスはもうこの試験を捨てたのじゃあなくって?」
「まぁそれはそうなんだけど...あたしたち一部のメンバーはやることがあってね、まだ島に残ってるの。」
恐らくこの噂を流したのは龍園の指示であろう。この噂によって、「Cクラスは無害」という印象を植え付けるのが目的だろうか。
「その『やること』が貴女がここに居る理由なのかしら?」
「あれま、勘が鋭い。その通り、この取引のためにここに残ってるってワケ。」
それを聞き、先ほどから静観していた平田くんが口を開く。
「まずは、その取引の内容を教えてくれるかな。話はそこからにしたい。」
「オーケー、じゃあ単刀直入に言うね。うちのクラスのリーダーの指名権、それを買わない?」
「......値段は幾らかしら。」
Aクラスに固執している堀北ちゃんは、予想通り食いついてきた。
「この指名によって手に入るクラスポイント50、これに相当するポイント、額にして毎月20万ポイントが値段だね。」
「はぁ!?高すぎでしょ?」
「僕も軽井沢さんに同感かな。その契約じゃ、こちらへのメリットが薄い。」
案の定、反発が返ってくる。ならば、ここからがあたしお得意の口八丁の出番だ。
「でも、デメリットも一切無いんじゃない?この契約を受けても受けなくても、手に入るプライベートポイントは変わらない...だったら、少しでもクラスポイントを増やすため、この契約を飲むのがいいと思うけど?」
実際、これはすべて事実であり、その通りである。ただ一つ、こちら側に毎月20万のプライベートポイントが入ることによる今後の影響、その事象に何一つ言及していないことを除けば。ふと二人を見てみると、こちらの言うとおりだと誤解してくれたようだ。ならば、最後の一押しだ。
「まぁ、DクラスがAクラスに興味が無い、ってのなら話は違うけど...」
「そんな事は無いわ。私たちは間違いなく、Aクラスを目指しているわ。この試験を捨て、呑気にバカンスを楽しんでいるあなたたちCクラスと違って、ね。」
ほぉら、大きな魚が釣れました。名付けてホリキタフィッシュ。こうもどでかい釣り針に引っかかるとは、堀北ちゃんのAクラスへの執着はとんでもないもののようだ。
「じゃあ決まりだね。この契約は成立でいい?」
「辰見さん、もう少し安くできたりはしないかな?情けない話だけど、Dクラスは常にポイント不足でね...僕はDクラスのみんなにもう少しましな生活をして欲しいんだ。」
「それはムリな話だよ、平田くん。そもそもポイント不足の根本は、一月でポイントを全部吐き出したそっちの落ち度でしょ?」
「それは...そうだね...」
「あたしも独断じゃなくて、龍園に頼まれてやってるからね...あたしの裁量でどうこう、ってのは厳しくって...」
別にそんなことは無いが、龍園に泥をかぶってもらう。
「分かったわ。私はこの契約を飲むべきと考えているわ。二人はどう思う?」
「僕も賛成かな。ただ、Dクラスの他のみんなの意見も聞きたいな。もう何分か待ってくれるかな。」
「私も、平田くんが賛成なら賛成~。」
「じゃ、ここで待っておくから決めてきて頂戴な。」
平田くんは他のクラスメイトを集めると、しばらく話し始めた。10分も経たないうちに、平田くんはこちらに戻ってきた
「他のみんなも賛成みたいだ。契約は成立でお願いするよ。」
平田くんは立会人として先生を呼んできて、契約を結んだ。細かい条文として、
・この契約をCクラスが破った場合、毎月これによって得るはずであった分のポイントをCクラスがDクラスに対して補填する
というが追加された。まぁ、こちらに裏切る理由もメリットもないのでほぼ死に設定ではあるが。
これで一つ目のやることは済んだ。となると二つ目、食べ物の販売に取り掛かっていこう。あたしは先ほどの3人にもう一度っ声を掛け、集まってもらう。
「そういえばさ、Dクラスは食事ってどうしてる?」
「食事~?まずい携帯食のバーとか、誰かが採ってきたトウモロコシとか...」
「少なくとも、食事に余裕は無くて、泣く泣くポイントを使用している...って事?」
「まぁ、そうなるかな。採ってきた食べ物だけじゃ、とても全員の食べる量には足りないからね。」
「それは丁度いい!だったらさ、いろいろあって、うちは食べ物をダブつかせてて...そこで、うちから食べ物を買う気はない?」
それを聞いて、3人は露骨に微妙そうな顔をする。金、金、金...さっきからずっとこの話だ、うんざりするのは仕方ない。微妙そうな顔を変えず、平田くんは話し始める。
「申し訳ないけど、さっき言った通り、こっちはポイントの手持ちがほぼ無いんだ。その話に乗るのは難しいかな。」
「あぁ、それは大丈夫。そんなすぐ返せとは言わないから。」
「そういう話じゃないのだけれど...まぁ、話ぐらいは聞いてあげるわ。」
「ありがと、堀北ちゃん。一食20万なんだけど......」
「高すぎるわ。」 「論外なんだけど~」 「ちょっとそれは...」
三者三様の罵声が飛んできた。少しくじけそうだ。
「でもだよ?これはそんなに損じゃないの!話を聞いて!」
3人の視線の中、話を続ける。
「一クラス分のポイントはカタログを見た感じ、携帯食の2ポイントじゃん?クラスポイント2ポイントで手に入るプライベートポイントは200ポイント、それが40人で8000、それをこの試験のポイントが支給される9月から卒業までで29ヶ月分...その場合、ここでの2ポイントは、プライイベートポイントに換算して23万ポイント分の価値があるの。どう?これでも20万が高いといえる?」
「確かに、20万は安いのかもしれないね...ただ、今のDクラスがそれを数度買った場合、間違いなく借金になってしまうんだ...借金を抱えたままのデメリットは、こちらからしても見過ごせないかな。」
実際、それはど正論だ。経験上、借金のような借りを抱えた人間は、プレッシャーや重圧でストレスを感じてしまう。仕方ない...少し値下げしてやるしかあるまい。
「それもそうなのよね...分かった!7日目まで契約してくれるんなら、一食15万で売ってあげる!」
15万、という言葉を聞いて、途端に悩み始める3人。悩むのならここで、買うに至る決定機を与えてやる。
「これはもちろん今だけ、Dクラスに対してだけだよ!この前の騒動で負い目もないわけじゃないしね...どうする?」
そう、「今だけ」「貴方だけ」この2つに人間は、とりわけ日本人は弱いのだ。だとすると、
「待って、辰見さん!...二人とも、私はこの契約を飲むべきとか考えているわ。」
「堀北さん⁉」
「だってそうでしょう?今の私たちにとって、プライベートポイントも大事ではあるけれど、何よりも大事なのはクラスポイントじゃないかしら?少なくとも、ここでクラスポイントを稼ぐことは、借金をするデメリットを負ってでもする行為であると考えているわ。高円寺くんのリタイアで、ただでさえポイントは減ってしまっているのだし...」
「そうだけど...」
こうなるのは必然である。その後の話は言うまでもないだろう。リーダー権の話し合いに比べると、多少時間はかかったが、Dクラスの間で話はまとまったようだ。具体的な内容としては、
・Cクラスは、Dクラスに対して、特別試験2日目の昼食から7日目の昼食までの計16食分をクラスの全員分渡す。
・Dクラスはその対価として、一食15万、計16食分で合計240万プライベートポイントをCクラスに譲渡する。また、Dクラスにある程度の経済的余裕が出るまではこのポイントの譲渡は先送りにしてもよい。
・やむを得ない事情を除き、これらの契約を履行しなかった場合、ペナルティとして1000万プライベートポイントを支払う。
という感じだ。
無事に合意を結んだので、Dクラスの皆を呼び、ずっと小脇に抱えていたクーラーボックスを開け、肝心の食べ物を取り出していく。船から密輸したカロリーバーや、タッパーに詰めた料理(クルーズ船のビュッフェから拝借したもの)...それらをひょいひょいと取り出していくと、Dクラスの皆は驚きを隠せないといった表情をする。
「ヤバいじゃん!どこでこんなのゲットしたの?」
「ふふふ、それは企業秘密ってやつだよ。」
わざわざDクラスに言ってやる必要もあるまい。それに、もし言ったとてDクラスには真似できない方法だ。引き続き食べ物を取り出していると、クラスメイトに綾小路と呼ばれていた生徒に声を掛けられる。
「辰見...だったか。一つ質問してもいいか?」
「そういうそっちは綾小路くんだっけ?どしたの、質問って。」
「この食事の出どころは、違法なものじゃないのか?」
「あたしの知る限りでは、違法じゃなかったはずだよ。それに、もし違法だったとしても、それを知らずに食べたDクラスにペナルティは無いだろうし、安心して食べて頂戴な。」
実際、「リタイアした生徒が物品を輸送してはいけない」なんてルールは無いしね。もしバレたとしても、ペナルティを受けるのはCクラス...しかしCクラスにはペナルティで減るポイントは無い、つまり無敵というわけだ。
「そうか、分かった。なら安心して食べさせてもらう。」
それを聞いて綾小路くんも理解してくれたみたいだ。見た感じ、他に不安なことや質問がありそうな生徒もいなさそうだ。
「じゃ、食べ物は毎食朝昼晩に渡すからよろしくね!」
「ありがとう、じゃあね辰見さん。」
平田くんに見送られ、あたしはCクラスの拠点へと戻っていった。
拠点の洞穴に戻ると、そこには龍園が座っていた。
「あれま、そっちの方が早く終わってた感じ?」
「ククク、まぁそうだな。Bクラスは甘ちゃん連中だ。それにポイントにも余裕がある。ちょろいモンだったぜ。」
龍園は不敵に笑いながらそう言った。見た目や口ぶりから分かるように、本当に簡単だったようだ。せっかくなので、契約の内容なども聞いておこう。
「で、いくらで契約できたの?」
「一食20万を15食分だ。合わせて300万ってところだな。」
「あれ、15食分だけなの。一応試験終了までの食事の回数は16回だけど...もしかしてあっちもそこそこ食べ物を見つけてたりした感じ?」
「...まぁそんな感じだな。そっちはどうだ?Dの連中だ、かなりゴネられた感じか?」
「そうだね...一食15万を16食分、合わせて240万...ごめん、もうちょい搾り取れたかもなのに...」
「いや、Dの連中相手にそれぐらい稼げりゃ上等だ。よくやった。」
「そりゃあどうも...リーダー権も売れた感じ?」
「あぁ、そりゃあな。そっちもリーダー権は売れたな?」
「もっちろん!これで3つの目標のうち、2つはクリアしたってワケじゃんね。で、3つ目はどんな感じ?」
それを聞くなり、龍園は微妙な表情をする。まぁ、流石に初日にバレるような間抜けをリーダーにするほど、他クラスもバカではあるまい。
「いや、まだだ。流石に接触して初日じゃあな...」
「ま、流石にそうよね...」
「だから辰見、明日からはお前も俺と交代でBクラスに食べ物を運びに行け。俺だけが探るより、お前も見た方がいいはずだ。その方が可能性も高くなる。」
「了解、任せて頂戴な!」
そして、2日目はほかに大した事件もなく過ぎていった。
更新遅れてしまい申し訳ございません...遅筆ながらも頑張りますので...