「うわーお...何というか、ひどい惨状だねぇ...」
高校生活二日目、世間一般にイメージされる高校生活と異なり、Cクラスの教室は殺伐とした空気に満ちていた。昨日殴り倒された彼をはじめとして、数名の生徒が傷を負っていた。
なんと驚くべきことに、龍園もそこそこ傷を負っていたのだ。一瞬、思ったより武闘派ではないのかな?と思っていたが、そうではないことは周囲を見ているとすぐに分かる。傷を負っているクラスメイトたちの、龍園に向ける視線に、軒並み怯えや恐怖が見えるのだ。
人間は感情ありきの生き物だ。龍園はおそらくそれをよく理解している。よって、恐怖の感情によってこのクラスを支配しようとしているのだろう。見かけや行動によらず、頭脳派な一面も持ち合わせているようだ。
彼はなぜクラスのてっぺんに立ちたいのか。その野心や行動力はどこから来るのか。あたしは間違いなく、この龍園という男に興味が湧き始めていた。
「ねぇ龍園くん...いやそれとも、苗字じゃなくて、王とかボスって呼んだほうが良かった?」
「チッ、人をおちょくってんじゃねぇ。何か用か?」
「いやぁ...昨日ああ言ってたじゃん?結果はどうなったのかなぁ~って思ってさ。」
明らかに面倒くさそうな表情を隠しもせず、あたしとの会話をする龍園。まぁ初会話の切り出し方としちゃ最悪だったけども...
「ハッ、それをテメェに言う義理も理由も無えだろ?」
ごもっともである。
「まぁ、それはそうなんだけどさ、やっぱ気になっちゃって。あたし昨日の龍園くんの...間違えた、ボスの宣言を聞いて凄いなぁ~って思っちゃってさ。それに、クラスを見てみた感じ、多分まだクラスの完全掌握はできてない感じでしょ?」
「そこまで分かってんならわざわざ俺に聞く必要無えだろ?あとそのボスって呼び方を辞めろ。」
「ごめんって...話は戻るけどさ、龍園くんのフィジカルじゃああの大きい彼...アルベルトくんだっけ?には勝てないんじゃない?他のメンツはまだしも」
実際、一目見ただけでも彼...アルベルトのフィジカルは身体能力がくそモヤシのあたしでも分かるレベルで圧倒的だ。龍園が10回戦って2,3回勝てるかどうかってレベルじゃないかな?
まぁ、不思議と龍園が負ける姿は想像できないんだけどね。
「ハッ、言ってろ。俺は勝つ。何度地べたを這いつくばろうが、血反吐を吐こうが、最後に勝つのは俺だ。ヤツらに『恐怖』ってのを教えてやるよ。」
「執念深いねぇ~。まるで蛇か何かじゃないの。ま、ささやかながらあたしは応援しとくよ。何ならポンポンか何かで応援してあげよっか?」
「蛇か.....ククク、言ってくれるじゃねえか。」
なんか龍園のツボに入ったみたいだ。ちょっと上機嫌になってるよ。まあ隣の席だし?グッドコミュニケーションできるに越したことはないんだけどもね。会話を済ませ、席に戻ると、会話の一部始終を見ていた西野ちゃんが今にも「うわ~」って言いそうな表情で話しかけてきた。
「よく物怖じせずに話しかけられるね...心臓に毛でも生えてるの?」
そんなこと言われましても...というか、西野ちゃんもけっこう肝座ってる側ではあるけどね?
「まぁ産毛とかは生えてるかもね~。西野ちゃんはさ、このクラスはこれからどうなると思う?」
「どっちでもいいかな。好きにすれば?って感じ」
「ま、そんなもんよね~」
ま、自分に危害が及ばないのが最善ではあるよね...と思案する。しばらくするとチャイムが鳴り、日本史の先生が話し始めた。Dクラス担任の茶柱先生だっけ?
授業中、ふと気になって隣の席を見やると、龍園がノートをとっていた。こんな不良でも真面目に授業は受けるのね。
結局あの後、龍園は5日ほどでアルベルトくん含め龍園に反発した生徒全員を倒した...いや、屈服させたみたいだ。アルベルトくんに聞いてみたところ、「このままやってると刃物とか薬とか使われそうで怖かった」とのこと。
さすがの龍園でもそんなことは...しない...よね!?しないよね!?
明らかに強いであろう相手も倒してみせた龍園には流石としか言えない。初日に言っていた、「このクラスの王になる」という大言壮語を有言実行してみせたんだから。
これなら、十分『相応しい』んじゃないかな。
となると、まずは龍園を呼び出すところからだ。
「ねぇ龍園くん?後で時間とかってない?その...二人きりで話したくってさ。」
「大事な用か?そうじゃねぇなら承知しねぇぞ。」
「大事も大事、超大事だよ。多分龍園くんも満足すると思うよ?」
「...言ってくれるじゃねぇか。その吐いた唾、飲み込むなよ?」
放課後。あたしは自分の部屋で龍園と二人きりになっていた。
「いやぁ、来てくれてありがとうね、龍園くん。」
「で、何の用だ?わざわざ他人の目がない、自分の部屋にまで連れ込んで話したいことってのは」
「そうだね...まずは先に、こっちが質問してもいいかな?」
「何だ?言ってみろ」
「龍園くんはさ、Cクラスだけの王様で満足してる?」
「......どういう意味だ?」
「もっと『上』に行きたくはない?この学年の、この学校の......」
「その言い草だと、テメェが『そのための何か』を持ってるってことになるが...どうなんだ?」
「ご名答!この学校の生徒が共通して持っているもの...それを掌握するの」
「そんなものがあるわけ......]
そこまで言って、龍園はふと何かに気付いたような表情を浮かべる。
「いや、一つだけある...」
「その反応だと分かったみたいだね。この学校の生徒全員が共通して持っているもの...そう、」
「「金」、だろ?」
「そう。この学校では、一人あたり10万円に相当するポイントが支給される。それの何割かを掌握、搾取するシステムを作るの。」
「ほう。で、その具体的な案ってのは何なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。そう、あたし達はこの学校に、『オンラインカジノ』を創るのさ!」
なんと、まだまだ4月は続きます