「オンラインカジノ」という単語を聞いて、一瞬呆気にとられたような表情をする龍園。が、しばらく考え込んだ後、何か納得したような表情を浮かべ、不敵な笑みを浮かべた。
「オンラインカジノがどんなものか、ってのは知ってるよね?」
「馬鹿にすんじゃねぇ、それぐらい知ってる。インターネットとかのネットワーク上でやるカジノの事だろ?」
「さすが龍園くん、飲み込みが早くて助かるよ。そんな飲み込みの早い龍園くんなら、なぜあたしが、金を手に入れるための手段として『オンラインカジノ』を選んだかも分かるよね?」
「ああ。この学校では現金の使用は無く、全てはポイントによって取引される。カジノでの通貨の変換がしやすいってのが理由だろ?他にも、リアルなカジノと違って構造がブラックボックスにできる。つまり、運営側でのイカサマや設定変更も容易ってわけだ。あと何より、『足が付きにくい』だろ?」
さすが龍園。いともたやすくここまでのメリットを理解してしまった。
「ご名答!120点!前者二つはその通りさ!......なんだけど、最後の『足が付きにくい』ってのはそこまで大事じゃないんだよね」
「どういう意味だ?」
「実はさ、この学校、『生徒間での賭博行為やそれに伴うポイントのやり取り』が黙認されてるってぽいんだよね。『生徒の自主性に任せる~』とかそういう名目なのか何なのかはともかく。」
「......マジでか?」
「マジもマジの大マジ。実際にやってみたもん。」
そうなのである。何とびっくり、普通にポイントを賭けての勝負ができてしまったのだ。それも案外簡単に。話は先週、入学3日目に遡る。
入学3日目の放課後、あたしは文化部の部室がある部活棟へと来ていた。今日行われていた体育館での部活紹介、そこで見つけた「テーブルゲーム部」に用がある。あたしが進めている、「オンラインカジノ計画」のため、「生徒間での賭博行為やそれによるポイント譲渡」が可能なのかについて調べたかった。そういった賭けを引き受けてくれそうな手ごろな部活として、テーブルゲーム部に白羽の矢が立ったというわけだ。部活紹介を見た感じ、トランプや麻雀にたいなポピュラーなのもあるみたいだしね。
「たのもー!体験入部にきましたー!」
開幕元気な挨拶とともに、ドアを勢いよく開ける。それを見て、部員と思しき先輩が話しかけてきた。
「体験入部の子かい?それだったらそちらの用紙に名前とクラスを書いてもらって...」
滞りなく手続きは進み、部活の体験としてトランプでしばらく遊んでいた。その傍ら、賭けに付き合ってくれそうな先輩がいるかどうか見定める。
あの先輩はゲームの腕に自信がなさそうだからパス、あの先輩は見るからに真面目でお堅そうだしパス...そんな風に心の中で先輩たちを見定めること20分。ターゲットをロックオンした。2年の男の先輩で、少しだらしなさそうだが性格が悪そうではない、それでいて自分に自信がある。少なくとも、可愛い可愛い後輩のあたしの申し出に首を振らなさそうではある。
「ねぇそこの先輩、折り入って話があるのですけど...」
「あぁ、体験入部で来てた子だよね?どしたの?」
あたしは小声でささやく。
「あたしと、ポイントを賭けて勝負しません?」
すると、先輩は手慣れたような反応を見せ、勝負に乗ってくれた。
「なんだ、その手の話か...毎年ちらほらいるんだよな...こういったポイントの賭けを持ちかけてくるやつ。まぁ実際、この学校ではそういうの、基本的には違法じゃないからな。」
「そうだったんですね!先輩、勉強になります!」
「折り入って話が~なんて言われるからさ、一目惚れとか期待しちゃったじゃねぇの...」
おしゃべりな先輩で助かった。ポイントの賭博は少なくとも違法ではないようだ。あと、思わせぶりなことを言ってしまったのは申し訳ない。
「じゃあ、ゲームはポーカーで、レイズとかのベットは無し、一試合1000ポイントでいいか?」
「構いませんよ。」
「ポイントが懸かってるんでね、後輩だろうと手加減は無しで行くぜ?」
「ふっふっふ、それはこっちのセリフですよ、先輩。あたしは不器用なんでね、先輩の顔を立てて手加減とかできませんよ?」
こうして、賭けポーカーが始まった。
「ということがあってね...」
「ハッ、当然下調べは済んでるってワケか。因みに、勝負の結果はどうだったんだ?」
「10回やって6勝4敗だったかな...」
「何とも言えねぇ戦果だな...」
勝負の結果に関しては自分が一番そう思っているからこれ以上の追及はやめてほしい。一応、
「レイズとかフォールドとかあればもうちょいいけたんだけどねぇ...」
と言い訳はしておく。
「賭博が違法じゃねぇってのは分かった。その件はまぁいいとしてだ。仮にポイントを集めたとして、それはどうするんだ?もしウン百万ウン千万稼いだとして、使い道がねぇんじゃ話にならねえぞ」
もちろん、その件に関してもどうするべきかの下調べは済んでいる。
「そこは私に考えがあってね。先生に聞いてみたところ、卒業時にこの学校で買ったものに関しては、別に没収や制限はかからないみたいなの。」
「要するに、マネーロンダリング紛いの事をするのか?」
「龍園くんはカンが鋭くて助かるねぇ~。ケヤキモールを見てみた感じ、ジュエリーショップとかは無かったけど、カードショップや電気量販店、ブランド物の服屋...嵩張らなくて、それでいて資産になりうるものは幾つかあったよ。図書カードやギフトがあれば手っ取り早かったんだけどねぇ...それを個々から卒業した後に売れば、かなりの儲けが出るはずだよ。」
「卒業後に、その資産の分配をすることを条件としての色々な交渉や行動もできるってワケか。」
「あとは、席替えの権利やテストの点数の購入にも使えるみたいだね...まぁそんな使うことはないだろうけども。」
席替えや点数購入に関しては、坂上先生に後から聞いたものだ。先生、「ほほう...それに気付きましたか...」みたいな表情をしてたけど、正直気付いたとてだよね。
「色々話したけどさ、結局どうするの龍園?」
「あぁ...基本的には異論はねぇよ。組むのも考えてやってもいい。ただ一つ疑問がある。」
「疑問って?」
「なぜ俺と組もうとする?別にオンラインカジノを創って稼ぐ...そんだけなら、俺の力なんざ必要ねぇ。それでも俺に声をかけるってことは、俺と組もうとする理由があるって事だろ?」
「うーん...やっぱり、腕っぷしやカリスマ性が一番かな。ほら、あたしフィジカル方面は苦手だしさ、体育の時間とか見てたらそれとな~く分かるでしょ?それに今の龍園くんみたいに、石崎くんだったっけ?彼みたいな言うこと聞いてくれそうな手下?みたいなのもいないしね。」
何故...なのだろうか。実際今言ったことが、龍園と組むに至った理由の大半であることは間違いない。だが、それ以外の部分、何か言語化が難しい、彼に惹かれた理由があることは否定できない...かもしれない。
「......利害や欲しいモンが一致してたってワケか。一応合点はいった。」
「なあに?それとも、一目惚れ...とかの方が良かった?」
「喧しい。とにかく、テメェの計画に異論は無えよ。」
「それは良かった。もし断られてたら、一晩中涙で枕を濡らすことになっちゃってたよ...なんちて」
改めて、正面から見据えて、あたしは龍園の前に片手を伸ばす。
「もう一度聞くよ。龍園くん、あたしと一緒に、この学校の王にならない?」
「あぁ、乗ってやるよ。だがな、裏切ろうなんて考えるんじゃねえぞ。そうなったらどうなるか、分からねぇほどバカじゃ無ぇだろうが、な。」
龍園もこちらに手を差し伸べる。
「そっちこそ、裏切ったりしないでね?」
あたしは龍園と、固い握手を交わした。
因みになんですが、鱗ちゃんの方は、「毎月10万ポイントが振り込まれる」ということはそこまで疑っていません。「よく分かんないけど、自分の知らないどこかで金が動いてるんだろうな~」ぐらいの感覚です。