「いや~、椎名ちゃん案内ありがとうね?あたし、ここの図書館使うの初めてでさ...」
「ふふふ、いいですよ。本に興味を持ってくれる方が増えるのは、喜ばしいことですから。」
「ありがとう椎名ちゃん!恩に着るよ!」
龍園と協力関係を結んだ翌日、あたし、辰見鱗はクラスでも有数の文学少女、椎名ひよりちゃんに連れられて、この学校併設の図書館に来ていた。噂には聞いていたが、下手な学校の図書室とは比べ物にならない。改めて、この学校の至れり尽くせりぶりに感動する。
「そういえば、辰見さんはどういった本をお探しで、ここに来ようと思われたのでしょうか?」
椎名ちゃんが不思議そうに、それでいて何か期待を込めたような視線でこちらを見る。
そう、あたしがなぜ図書館に来たか、その理由は昨日の龍園との会話に遡る。
あたしと龍園は、協力関係成立の証としての握手を済ませ。これからのことについての擦り合わせを行うことになった。
「で、だ。オンラインカジノ、その進捗ってのはどのぐらいなんだ?」
「進捗...進捗ね...ちょ~っと待ってね...ええと...」
今一番聞かれたくない質問だ。あたしは必死に回答を濁す。
「まぁまだ入学から一週間だ。そんなにできてなくても怒りゃしねぇよ」
「ほんと?じゃあ言うね!」
龍園が思ったより優しくて助かった。はぐらかすのもアレだから開き直って堂々と、正直に言ってしまおう。
「0%だよ!」
あたしがそう言った瞬間、龍園の表情が固まった。まるで石像のように。
その後、眉間を押さえながら「気は確かか...?」と言わんばかりの表情で聞いてきた。
「100%あるうちの0%か?」
「うん!」
「あれほど啖呵を切っておいて?」
「うん!」
「ああもクサいセリフを吐いておいて肝心の進捗が?」
「0!」
「フン!」
「いだい!」
つむじあたりにゲンコツを喰らってしまった。自分で言うのもなんだが、まぁこの反応は妥当だろう。あれだけ計画をぺらぺらと語っておいて、まさか一斉手が付けられていないとは思うまい。
「言い訳というかなんというか...情報収集もしてたし、何を創るかとか、必要なものとかの計算や推測もしてたしさ...」
「......まぁ過ぎたことはいい。で、どんぐらいで出来そうで、何が必要なんだ?」
「いや、ごめんね...そんで、必要なものが何で、どのぐらいで出来そうかって話だよね?...まず、必要なものは大きく分けて2つあるの。それらの用意さえできれば、すぐにでも開催自体はできるはずだよ。」
「ほう、その2つってのは何なんだ?」
「まず必要なものの1つ目は、『出資者』だね!あたしたちのこのビジネスに協力・出資してくれる人が必要ね。少なくとも2~300万ほどのタネ銭が欲しいかな。で、2つ目は『サイトそのもの』だね!こっちはその名の通り、オンラインカジノの賭場そのもののことかな。」
「『出資者』に『サイトそのもの』か......後者はともかく、出資者なんて居るのか?教師どもがこんなもんに投資するわけが無えぞ」
「出資者になれるほどの人間はおそらく、いや絶対いると思うよ。」
「その言い方だと、何か根拠があるみたいいだな」
「そうだね。その根拠ってのはズバリ、『無料品コ―ナーの在庫状態』だね。龍園は無料品コーナーを使ったことってある?」
「いや、まだ無いな。というか流れるようにに俺の事呼び捨てにしたな。」
「あたしがこの一週間見てみたところ、割と多くの頻度で無料品コーナーの棚のものが減ってたんだ。これっておかしくない?」
「そうか?どこがだ?」
「言っちゃ悪いけど、あそこにおいてある商品って、食べ物も生活用品も、あんまし質は良くないの。わざわざ好きでそういうのを使ってる人なんて少数派...いや、ほとんどいないと思うよ。少なくとも女子はそうだと確信できる。じゃあ、なんで使用されてるんだと思う?」
「......そうか、どこかに金が流れるシステムなり何なりがある可能性が高いって事か。」
「そう。それが主な根拠だね。だから断言できる。何かしらの方法によって、大金を手にしている生徒がいるんじゃないかってね。」
「それはそうだな。...待てよ、もしやすでに先駆者が居るんじゃねぇか?お前みたいなことを考えついて、すでに賭場を開いている...その可能性は十分にあるぞ。」
「いや、その可能性は低い、と言えるよ。だってさ、そういった感じの賭場が存在するんなら、あたしら一年生に一切情報が回って来ないのはおかしくない?」
「ククク、確かにな。右も左も分からねぇ一年生なんてカモでしかねぇ。もし既に賭場があるのならそんなカモに情報が入って来ねぇワケが無ぇ。少なくとも俺なら、入学数日後に掲示板なりで情報をそれとなく流すぐらいはする。」
「でしょ?だから競合の可能性は限りなく0%に近い...はずだよ。」
「ハッ、お前の進捗みたいにか?」
「じゃかあしい!」
くそっ、その話を蒸し返しおって。だが、ひとまずの把握はしてもらえたようだ。少なくとも不安や疑念はなさそうに見える。ならば、仕事を頼んでも問題はなさそうだ。
「で、一連のこの話を聞いてもらったうえで龍園に頼みがあるんだ。」
「大方、その『出資者』を探せとか、そんな感じの事だろ?」
「さっすがだねぇ~。そう、サイト作成はこっちでやっとくから、龍園は出資者探しをお願いしてもいいかな?」
「あぁ、受けてやるよ。で、お前。サイト作成は任せろって、そういう経験はあるのか?『やっぱりできませんでした~』じゃ話にならねえぞ」
「それは任せてよ!サイトの作成なら経験があるからね。ただ、本体であるゲームの作成、そっちは経験がないからこれから勉強かな。」
「勉強...そうか...まぁ、ンなことだろうとは思ってたよ」
龍園は、少し呆れたような、先ほどのような表情をしている。最初は120ぐらいあった龍園のあたしへの信頼度メーターが、すごい勢いで下がっているのを感じる。
「もし勉強すんだったら、図書館を使ったらどうだ?たしかうちのクラスに、本の虫みたてぇな女がいた筈だ。名前は確か...」
「椎名ひよりちゃんだったかな?あの色素薄めの髪色の子。じゃ、明日あたりに聞いてみよっかな。」
と、いうわけだ。見た感じゴリゴリの文学少女の椎名ちゃんには悪いが、あたしは今日、プログラミングの本を探しに来た、というわけだ。
「特になにか読みたい本が無いのでしたら、私の方で何冊か,
おすすめの小説など見繕いましょうか?」
「ごめんね椎名ちゃん...じつは今日探してる本はそっち方面の本じゃなくってね...実用書とか参考書とかのコーナーってあるかな?」
ううっ...目に見えて椎名ちゃんのテンションが下がってる。道端で猫を見つけたと思ったらレジ袋と見間違えていた時のような表情をしている。心が痛む...ごめんね椎名ちゃん...あたしはどうしてもプログラミングの勉強をしなくちゃなんないんだ...
「そうですか...やっと小説の話ができる人と出会えたと思ったのですが...ちなみに、何に関する本をお探しで?」
「プログラミングに関する本を探してて...」
「でしたら私も、辰見さんの本探しを手伝わせていただきますね。
「いいの!?ありがとうね!」
「お礼...になるかは分かんないけど、椎名ちゃんのおすすめの本を紹介してよ!私じゃ釣り合うかはともかく、話し相手になれるように頑張るからさ。」
「そうですか!でしたら腕によりをかけて選ばせていただきますね!」
ふんす、という効果音が聞こえてくるような表情で、椎名ちゃんはそう言った。
なんて優しい子だ。いかつい奴ばっかのCクラスには珍しい。ここしばらくは小説なんて読めていなかったが、ひと段落付いたら彼女に紹介されたのを読んでみよう。
本探しに関しては、まだ図書室の勝手もそこまでわからないし、大人しく彼女の善意にあやからせてもらおう。
そんなことを考えながら探していると、椎名ちゃんが何か見つけたようだ。
「何かそれっぽい本を見つけましたよ!ええっと、タイトルは...」
『サルでもわかるプログラミング』
「「......うーん」」
人をおちょくったようなタイトルだ。というかこういったタイトルの本はどうも、サルなどの動物を過大評価しすぎているように感じてしまう。いや、もちろん比喩表現なのは分かっているのだけども...なんというか...ね?もしこれを読破したうえで分かんなかったら、サル以下のレッテルを貼られそうじゃない?
「あの、そんな落ち込まないでください...ほら、また見つけましたよ!」
少しテンションの下がったあたしの横で、椎名ちゃんがまた何か見つけたようだ。
「ええっと、タイトルは...」
『これであなたもバカ卒業!プログラミングによる天才への道』
「......もうこれでいいかな」
「いいんですか!?」
驚く椎名ちゃんを尻目に、先ほどのと合わせて2冊と、その後椎名ちゃんにおすすめされた本数冊を借りて、図書館を後にしたのであった。