「だっしゃぁぁぁ!!!」
4月も最終盤の27日の深夜。あたし、辰見鱗は、自室にて学校からレンタルしたパソコンの前で、ひとり雄たけびを上げていた。性別は女なのでどちらかというと雌たけびなのかもしれない。と、しょうもない思考も脳を駆け巡る。だが、それも許してほしい。
「やぁぁっと終わったよ......」
図書館にてプログラミングの教本を借りてから2週間ほど、寝る間も惜しんでサイトの作成、内容としてのゲームの作成を完成させた。サイトの作成は過去にノウハウがあったからすぐ終わったものの、最難関はゲーム作成に際してのプログラミングであった。この二週間で何とかして作れたのはハイアンドローやポーカーといった基本的なトランプゲームが数個であった。
教本があったとしても、素人に毛が生えた程度の技術でよくやったものだとほめてもらいたいレベルだ。
とはいえ、プレオープンだけであれば来月頭にでも可能なレベルにはしてみせた。となると、もう一つの必要なもの、『出資者』についてだ。先週あたりに龍園に聞いてみたところ、「そもそもそっち側、オンラインカジノ本体の方が終わってねぇと出資者との交渉もクソもねぇんだ。気軽に待ってろ」とのことだ。
4月28日にて。いつも通り唯我独尊と言わんばかりに席でくつろぐ龍園に声をかける。
「おーい龍園?あの件なんだけど、何とか終わったよ。」
「やっとかよ...こっちは首を長くして待ってたぜ?」
「蛇みたいに?」
「ハッハッハッハ!!」 「クハハハハ!!」
お互いの爆笑がクラスの端にて響き渡る。近くにいた西野ちゃんはあからさまに変な目でこっちを見ている。何というか龍園、蛇が個人的なツボというかお気に入りなんだろうね...なんでだろうか。
「......まぁそろそろ真面目な話をするんだけど、そっちの方はどうなの?なんとなく目星はついていると嬉しいんだけど。」
「安心しろ。9割がた目星はついてる。ここじゃ何だ、場所を変えるぞ。」
「了解~」
こちらも寝る間を惜しんで頑張ったのだ、龍園側も誠意というか義務というかは尽くしてくれたらしい。この計画においては双方個人の働きが重要で、どちらも欠けてはならない。まるではじめての共同作業ってね。これを本人に言ったらどたまかち割られそうなので心の中に留めておくが...
そうこう考えながら歩いていると、人気のない場所についた。
「で、その目星ってのは誰でどんな感じ?」
「まず、出資者になるに値する資金力を持つ者は、俺のリサーチによると三人ほど居た。」
なんと三人も。正直この期間で探すとなると、一人見つかれば御の字であったがさすがの龍園だ。
「一人目は3年Aクラス、現生徒会長である『堀北 学』だ。」
「あぁ、あの厳格そうな眼鏡の人ね。」
「そうだ。3年のヤツに『誰が金持ちだ?』と聞いてみたが、大体がこいつの名を出した。残念なことに、その金の出どころは緘口令でも敷かれてるのか、ってレベルで言おうとしなかったけどな。」
「ちなみになんだけど、どうやって話聞いたの?」
そう聞くと、龍園は不敵に笑い、右拳をゆっくりと顔の横にやった。
「ククク...聞きたいか?」
「いや...やめとくよ...それより、出資者としての適性はどんな感じなの?」
そう聞くと、龍園の表情がみるみるうちに苦くなっていく。
「正直言って適性は0だ。聞いた感じだと厳格で真面目な性格みたいだからな。こんな賭博行為に出資なんざするわけがねぇ。」
「やっぱしそう?あたしも部活の紹介の場で見たんだけど、明らか堅物っていうか...正直厳しいよね。」
あたしは肩をがっくしと落とす。
「はぁ...生徒会長のネームバリューは使えそうだと思ったんだけどねぇ...本人の気質があれじゃあな...で、龍園、次の候補は?」
「次の候補は2年Aクラス、現生徒会副会長『南雲 雅』だ。」
「南雲...どんな人だったっけ?」
「写真がある。ほら、この写真の中央、金髪の男がそうだ」
そう言って、龍園は金髪の男、南雲雅が2~3名ほどの女子生徒に囲まれて...もっと身も蓋もない風に言うと侍らしている写真を見せてきた。何というか、堀北先輩とは真逆のタイプなのが見て取れる。ホストというか成金というか...?
「ふーむ...何というか、勝ちまくりでモテまくりって感じの見た目だねぇ...シャンパンタワーとか金粉の乗っかった寿司とかが似合いそうな感じじゃん?」
「ククク、結構な言い草じゃねぇか。まぁ実際、性格もそんな感じで、自由や混沌を好む感じの性格だそうでな。オマケに女好きで野心家...それに、噂によると時期生徒会長はコイツだって噂だ。正直、俺は出資者を選ぶならコイツしか居ねぇと思ってる。」
あの龍園がここまで言うのだ、実際そうなのだろう。少なくとも、堀北先輩よりかは出資者になってくれる確率は高そうだ。
「まぁ異論はないかな。でも一応、3人目の情報も聞いてもいい?」
「あぁ、良いぜ。三人目の候補は2年Bクラス、『鬼龍院 楓花』だ。」
「またまた分かんない人が出てきたね...」
「この女は何というか...変わったやつでな。説明が難しい」
「一年のDクラスの彼みたいな感じかな?」
確か...高円寺?みたいな名前の彼だ。あのミーモなダンシングをしてそうな見た目の。
「高円寺だな?......まぁ、おおむねそんな感じだな。そもそも交渉に乗ってくれるかを含めて予想が難しい。俺に言わせりゃ、候補の三人の中で一番あり得ない選択だ。」
「となると、出資者候補は南雲雅先輩で決定、でいいかな?」
「ああ。異論はねぇよ。で、どうやってコンタクトを取るんだ?」
「そうだねぇ...今のあたしたちが正面から行っても、禄に話を聞いてもらえない可能性もあるからね。いっそのこと、あっちからこちらに来てもらおう。」
実際、入学から一か月も経っていないあたしたちが正面から行ったとして、交渉において足元を見られたり、門前払いを喰らったりする可能性は捨てきれない。そういった可能性を無くすため、できるだけ対等に近い状態で交渉を始めなければならない。
ならば、こちらから声をかけるよりは、あちら側からアクションを起こしてもらった方がいいだろう。
「一応、秘策はあってね?今日の放課後、ちょっと付き合ってもらうよ?」
「そう言われて来たらこうだ。これの何が秘策なんだ?」
そして、その日の放課後。あたしと龍園はケヤキモール併設のカフェで、優雅にティータイムと洒落込んでいた。
「まぁまぁ落ち着いて...まさか、ただカフェでくつろぐことが秘策なわけはないよ。言うなれば、あたしたちはエサになっているのさ。」
「?どういう意味だ。」
そう小首を傾げる龍園に、あたしは得意げに語る。
「龍園はさ、出資者のリサーチをするにあたって、結構いろんな生徒に声をかけたよね?それも2週間の間。」
「ああ。それがどうしたんだ?」
「南雲先輩が、そのことを知らないわけないと思わない?目的もよくわからない、長期間自分のことを嗅ぎまわっている新入生が居るとしたら、あっち側から関わろうとしても不思議じゃないでしょ?」
「それは確かにそうだな。俺の顔は既にある程度割れている。となると......」
「俺の側から来てもおかしくない、って?」
「「なッ...!?」」
あたしたちが驚いたのも無理はないと思う。会話の真っ最中に、話題の張本人である南雲先輩が背後から声を掛けてきたのだ。予想通りとはいえ、予定よりも急な来訪に焦りつつも、チャンスと言わんばかりに話を切り出すことに。
「そうなんですよ、南雲先輩。あたしたち、先輩にビジネスの商談をしようと思いましてね。」
「先輩よぉ、ここじゃ何だ。3人だけになれる場所に行かねぇか?」
ビジネス、という言葉を聞いた途端、南雲先輩の表情が変わるのが見て取れた。興味を抱いたような、そんな目つきをしている。
「ビジネス、か。いいぞ後輩ども。話の続きは生徒会室でやろうじゃないか。」
そういって、南雲先輩とあたしたちは、しばらくの後カフェを後にした。ちなみにカフェの代金は先輩が払ってくれた。優しいねぇ。
「で、そのビジネスってのはどんな内容なんだ?わざわざ人目を避けたんだ。つまらんものじゃないだろう?」
「ククク、ご明察だ。」
あたしと龍園は、生徒会室にて南雲先輩と向き合っていた。あたし以外の二人は、傲岸不遜に足を組んでいる。若干の物理的な圧迫感を感じながらも、話を切り出す。
「南雲先輩は、金儲けに興味ってありますか?」
「そりゃ、興味がないって言えば嘘になるな。」
「単刀直入に言います。あたしたちがこれから開くオンラインカジノ、それの出資者になってください。」
オンラインカジノ、という言葉を聞いた瞬間、南雲先輩の表情が変わる。
「オンラインカジノ...ねぇ。確かに盲点だった。確かに、この学校内において、オンラインカジノほど楽に金を稼ぐに適した手段は無いな。足が付きにくいし換金も簡単だ。
「ご名答!さすがは次期生徒会長候補筆頭、理解が早くて助かります。ただ、あたしたちがそれをやろうにも、どうにも元手が足りなくってですね...?」
あたしは親指と人差し指で輪っかを作り、指同士を擦り合わせる。
「要するに、金目当てって訳か。俺にそのためのタネ銭を貸してほしい、と」
「ククク、その通りだ」
「......だからお前たちは、この数週間、金持ちを探してたのか」
今のところ、会話は順調に進んでいる。が、肝心なのはここからだ。しばらくの緊張が流れた後、南雲先輩が口を開く。
「で、幾らほど稼げる予定なんだ?推定でいいから言ってみろ。」
「はい。まず、還元率は渋くしすぎると逆に利用率が下がるので、そこまできつくはしません。還元率は90~100%あたりが妥当と思われます。その場合、少なくとも一人あたり、平均1~2万ほどは吐き出してくれるはずです。つまりは月に6,700万前後は予想できますかね。月10万も支給されるんです、それぐらいは余裕です。」
「月10万...まぁそうだな。10万...貰えるもんな。いや、まぁ...」
南雲先輩が、何かつっかえたような、そんな表情をしている。何か釈然としないことがあるのだろうか?
「お前たち、なぜ金を欲しがる?」
確かに、こんな大量の金を欲しがる理由が分からないと、そりゃ信頼も出資も出来ないわな。
「外に出たときのためだな。この学校で高価な品を買い、それを外で売って現金に変換する。」
あたしが答える前に、龍園が答えてくれた。すると、南雲先輩は納得したような表情をする。
「...そうか、理解はした。出資もしてやる。その前に、お前たちの名前を聞いてなかったな。」
「龍園翔。1年Cクラスだ。」
「辰見鱗。同じく1年Cクラスです。」
それを聞き、南雲先輩の表情が一気に変わる。興味が湧いたような、ダイヤの原石を見つけたような、そんな表情だ。
「Cクラスか。そうかそうか...」
「どうかしました?」
「いいや、何でもない。で、幾ら欲しい?」
「まぁ、タネ銭として300万ほどは欲しいですね。」
よし!これで最後のパーツも埋まった...と考えるのはいささか早計であろう。ここからが、最重要の話だ。
「それは貸してやる。で、肝心の取り分はどうする?」
そう、取り分だ。ここでの交渉で、何百万もの利益が手に入るか否か、それが決まる。慎重に議論を進めねば.......
「9:1だ。もちろんそっちが1でな。」
そんな思案を吹っ飛ばすように、龍園がいきなり吹っ掛けた。だが、あたしもこのレベルとは言わずとも、吹っ掛ける気自体はあった。この吹っ掛けに乗ろう。
「9:1だぁ?吹っ掛けるのも大概にしろよ。出資者は俺だ、お前たちのビジネスの生死は、こちらが握ってるも同義なんだぞ?」
正論も正論、だがこちらも案もなく吹っ掛けたわけではない。
「まぁ、吹っ掛けたことは認めます。でもね、南雲先輩、このビジネスには、ここでの収益以外にも、他に大きな得を得るチャンスでもあるんですよ。」
「?どういう意味だ。」
よし、食いついた。
「一つ質問ですが、ギャンブルで大負けした人は、次にどのような思考をすると思いますか?」
「そりゃあ、後悔しながら悲しんで終わり、だろ?」
「いいや、そんな賢明なやつは、そんな大負けするほどバカではありません。そういうやつ、言ってしまえばカモは、楽観的に『次は勝てるかも...』なんて考えるんですよ。ただ、そいつの手元に金がない...となると、どうすると思いますか?」
南雲先輩と、先ほどまで黙っていた龍園の両名が、何か気付いたような表情をする。
「「金貸しをする...ってことか」」
「その通りですよ先輩!あと龍園も。そういうカモは、多少暴利でも食いつきます。そこで、また稼ぎを得られる、という事ですよ。生徒会のネームバリューと信頼や情報網があれば、客が来ないということはないでしょうし...ね?」
「確かにな、そっちの言い分は分かった。」
「そうでしょう!?ねっ?」
「だが、一割はさすがにあり得ない。せめて3割、いや、2.5割は欲しい。」
「ハッ、ケチな先輩だぜ」
だが、実際その通りだ。いかに理由やメリットを並べようが、金がこちらにない以上、主導権はどうしてもあちらに寄ってしまう。
「3割は厳しいです。2.5、いや、何とかして2割になりませんか?ほら、あたしたちに出来ることなら、何でも...は無理ですがやりますから...」
「オイ、なに勝手なこと...」
そういう龍園の発言をよそに、南雲先輩は何か思いついたような、獲物を見つけたような表情になる。
「何でもする...と言ったな?」
「まぁはい...人を殺せとか強盗しろとかじゃなければ...」
「じゃあ辰見、お前、俺の女になれ」
空気が凍る。
「「...............はぁ?」」
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