「............はぁ?」
もう一度先ほどの言葉を反芻しよう。「俺の女になれ」だ。熱ぅ~い告白だ。うれしすぎて涙が出てくるね。そんなことを考えていると、彼にしては珍しくあんぐりと大口を開けていた龍園が口を開く。
「何でそうなるんだ?訳が分からん」
「訳が分からん、か...俺は欲しいものは何としてでも手に入れたい性格でな。そこの女、辰見に興味が湧いた。それだけの話だろ?なんでもすると言ったのは、他でもないそっちの辰見だぞ?」
「いやぁ~...それはそう、なんですけど?」
急なラブコールによりエンストを起こした脳みそを必死に動かす。予想はできていただろう辰見鱗よ。考えろ。そう、この場での最善の答えとは?
「いいですけど...あたしは高い女ですよ?」
そう。受容であった。
「というか南雲、俺の調べじゃお前、既に2~3人、彼女らしき女が居るだろ?これ以上女を増やすのは、生徒会としてそれはどうなんだ?」
「?もう複数人居るんだ。一人増えたところで大して変わらんだろ。それに、辰見含めて全員遊びだしな。」
「そういう問題か...?」
珍しく、龍園が正論を言っている。暴論の化身のような男だってのに。だが、今の問答である程度意図が知れた。あちらは我々サイドが裏切らないための楔、言ってしまえば人質としてあたしを欲しがっているのだろう。もちろん、このグッドルッキンガールなあたしに見惚れた可能性も否定はできないが。あわよくば懐柔できれば御の字、とも思っているのだろうか。ならば、そちらの意図に乗ってやろうというものだ。
「お二人とも、話を戻しましょう。あたしが先輩の女になる、ってのは了承します。その代わり、取り分はこっちに合わせてもらいますよ?」
「8:2だ。それで文句無ぇだろ?」
間髪入れずに龍園がそう告げる。先輩は、しばらく考えたような素振りを見せた後、
「......いいさ、それで契約成立だ。」
といって、両手をひらひらと振った。
「そうそう、開始はいつからにします?あたしとしては、5月頭から始めたいんですけど...」
「それは駄目だ。来月からじゃ、な。」
「どういう意味だ?」
龍園がそう聞くと、南雲先輩は意味深な笑みを浮かべる。まるでなにか、明確な理由があるかのような。
「あと数日後、5月になりゃあ分かるさ。」
「......じゃあ、6月からにしますかね?こちらとしても、ゲームのデバッグなり種類を増やすなりして洗練させておきますね。」
「あぁそれでいい。頼んだぞ。」
その会話を最後に、あたしと龍園は生徒会室を後にした。
「悪かったな、辰見。」
「何が?」
「契約成立の際、図らずしもお前を交渉材料として使っちまった。」
帰り道、龍園にしては珍しい、謝罪が飛んできた。
「いいよいいよ。実際、南雲先輩に関しての情報をもらった時から、この展開は予想できてたしね。これでいい結果になるんなら、願ったりかなったりだよ。」
実際これは本当だ。女好きという情報から、この展開は予想できていた。圧倒的にこちら側が不利なこの交渉、手札の一つにでもなれたならあたしの貞操も喜んでいるだろう。
「それとも...もしかして龍園、あたしのこと狙ってた?...いでっ!」
「アホか。寝言は寝て言え。」
冗談を言ったら結構きつめに殴られた。自分の脳細胞が、いくつか死滅したのをひしひしと感じる。
そして、5月1日。朝起きての感想は、意外なものであった。
「なんか、ポイントの桁少なくない?」
パソコンのレンタルや様々なリサーチ、それらを経て、昨日までのあたしの残金は2万ほどであった。つまり、今日には残高は12万になっている、それが正解のはずだ。しかし、何度見てもあたしの残高は7万ほどであった。
先生に聞いていたが、毎月初めの朝5時に、ポイントは振り込まれるそうなので、この状況は明らかにおかしい。機器のバグ?説明のミス?いろいろな可能性が頭の中を巡る。すると、スマホの着信音が鳴り響く。相手は龍園であった。
「はいはーい、辰見ですよっと。やっぱポイントの件だよね?5万ぐらいしか振り込まれてないもん。」
「話が早いな。これはどういうことだ?南雲の野郎が言ってた『5月じゃダメな理由』ってのはこれの事か?」
「分かんないことが多すぎる...見た?グループラインも阿鼻叫喚だよ」
「少なくとも、うちのクラスはみんなポイントが5万ほどしか支給されてないみたいだな」
「ほかのクラスの子にも聞いてみよっか?といっても、知り合いは数えるほどしかいないんだけども...」
「あぁ、頼んだ。」
そういって、龍園は通話を切った。その後、数少ない他クラスの知り合いである、櫛田ちゃんと一之瀬ちゃんにポイントの額の旨のメッセージを送る。この二人はどちらも顔が広く、休日に同じクラスの子経由で知り合ったのだ。
しばらくして、それぞれメールが来た。
「こっちは66000円だけだったよ。同じクラスのみんなもそうみたい。鱗ちゃんはどう?」
「何でかわからないんだけど、ポイントが振り込まれてないの。何かのエラーかな?」
どうにも、ポイントはクラスによって支給される額が異なる可能性が高いのかもしれない。そんな一応の考察をしながら、二人への返事のメッセージを送り、教室に向かう。
Cクラスの教室は、予想通りざわざわとした喧騒に包まれていた。席に座ると、明らかに落ち着かない様子の西野ちゃんが話しかけてきた。
「ねぇ辰見、アンタも5万ぐらいしか振り込まれてなかった感じ?」
「まぁ、そうだねぇ...一体何でなんだか...」
「うーん...何かのペナルティとか?」
西野ちゃんはしばらく思案した後、そう言った。確かにあり得る。どこかの誰かさんのせいで、初日からガッツリケンカしてたようなクラスだ。何かしらの校則違反行為の結果、そうなった可能性は十分にある。だとしたら許さんぞ龍園、いやドラゴンパーク...
「その可能性は捨てきれないかな。でも一之瀬ちゃんとこは6万ちょい振り込まれてた感じだし、何かしら他の要因なのかもね。」
一之瀬ちゃんのいるクラスは、どこかのクラスとは違って、見た感じマジメで優しい生徒が多い。何かポイントを減らされる事件をした、なんてのは思いつかない。そんな議論をしながら、喧騒とともにホームルームまでの時間は過ぎていく。
そして、ポイントが減少した原因...その理由を全員が把握するのに、そう時間はかからなかった。
ホームルームが始まり、いつもそうだといえばそうだが、神妙な、とっつきにくい表情をした坂上先生がやってくる。先生が教卓に立っていの一番に、龍園からの疑問が飛んできた。
「おい坂上、今朝のポイント、ありゃあどういう事だ?」
先生のような目上の者にだろうと傲岸不遜を崩さない、龍園の指摘。その通りだ。表立って同調する生徒は数人しかいなかったが、みんな同じ疑問を抱いていただろう。それを聞いて、坂上先生は眉間をうっすらと押さえながら、黒板に何かを書いていく。
Aクラス 960
Bクラス 660
Cクラス 490
Dクラス 0
この数字には心当たりがあった。いや、あってしまった。一之瀬ちゃんのBクラスが約6.5万、あたしたちCクラスのみんなは約5万、そしてDクラスの櫛田ちゃんは0円...ポイントのもらえる基準、それに違いない...
これが意味することが分からないほど、バカなあたしではない。先日南雲先輩と話していたオンラインカジノの計画、その収支予想が無に帰したということだ。南雲先輩が5月からはだめ、と言っていたのも、これがあったからだろう。他学年に探りを入れていた龍園の言っていた、「緘口令のような何か」もこれ関連だろう。
「これは一年生各クラスの持つポイント、言ってしまえば『クラスポイント』の所持状況です。ポイントの多い順にA,B,C...となっていきます。可能性としては、このクラスがAクラスと呼称されることもある、ということです。」
動揺が広がるクラス中もどこ吹く風、坂上先生の話は続く。
「そして、この学校の謳い文句であった、『理想の進路が手に入る』。これですが、三年生時点でAクラスであったクラス、その生徒のみに適用されるものになっています。」
阿鼻叫喚といった空気に包まれるCクラス。あたしも表情には出さないが、内心では動揺焦りのオンパレードである。オンラインカジノで金を稼ごうという計画...これらはすべて、「進路の保証」あっての計画だからだ。生涯年収で考えれば、Aクラスとそれ以外では数千万、場合によっては億レベルの差が出てきてしまう。上級生や教師陣からは、ぬか喜びするあたしらは、さぞや滑稽に見えただろう。
そんなあたしたちの混乱や狂騒を破ったのは、他でもない我らがキング、龍園であった。
「オイまて坂上。言ってることは分かったが、一つ大事なことを言ってねえんじゃねえか?このポイントの理由だよ。」
確かにそれは気になる。素行や成績?それともランダム?少なくとも、あちら側に説明責任はあるはずだ。それを聞くと、坂上先生は相変わらず眉間にしわを寄せると、話し始めた。
「このポイントの理由ですが、この一月での生活態度や授業態度、それらによる減点があってのものです。心当たりはありませんか?ケンカに居眠り、それにテスト...」
そういうと、坂上先生はどこからか取り出した、テストの点数を順位形式にした表を貼った後、一定のラインに赤線を引いた。
「これは、先日行ったテストの点数です。そして、この線は赤点のボーダーラインとなっています。」
そのラインの下には、各教科平均して3人ほどの名前が書かれていた。ちなみに石崎くんという、龍園に殴り倒されて今や舎弟その1のようになっている彼は、すべてが赤点であった。どうなんだこれは。
「今月後半に行われる中間テスト、こちらで赤点を取ったものは、退学となってしまうので、皆さんお気をつけて。」
大騒ぎのCクラス。それを見慣れた光景のようにあしらい、さらに告げる。
「ちなみにですが、皆さんの割り当てられたCクラス、こちらはランダムなどではなく、入学以前の能力や様々な要件を加味して、上から順に割り当てた結果となっています。何となく察しのついたかたもいらっしゃるかもしれません。」
この結果がどういう意味か、分からないやつは居ないだろう。
「つまり、非常に言い難いことではありますが、このクラスの生徒の実力は、下から二番目...ということになります。」
表立って否定できる元気のある者は居なかった。実際問題、クラスの点...クラスポイントを半分以上吐き出してしまっていたからだ。いや待てよ。Dクラスはどうやって1000ポイントも吐き出したのさ?
「ですが、私はこのクラスがAクラスになれない、などとは思っていません。個人の力で劣っていようと、作戦を駆使し、団結すれば、Aクラスも夢物語ではない、十分達成できるものだと思っています。そのため、私もいろいろと手助けができたら、とも思っております。」
坂上先生の珍しく熱意にこもったセリフも、気休め程度にしかならなかった。みんな、負の表情に支配され、空気は心なしかどんよりとしていた。だがその中で、龍園だけが不敵に笑っていた。
朝のHRが終わっても、相変わらず空気はどんよりとしていた。すると、おもむろに龍園が立ち上がり、教卓に向かっていった。
「坂上の言った通り、どうやらAクラスになれねぇと理想の進路もクソも無ぇってわけだ。だったらどうするか、って話だが......」
そこまで言ったところで、教卓をバンと叩く。龍園、何というか盛り上げ方というか、注意の向かせ方が本当に上手い。
「俺についてこい。必ず、俺がお前らをAクラスに連れて行ってやる。」
龍園は傲岸不遜を崩すことなく、そう言い切って見せた。周囲の空気も、少しずつ変わってきた...!気がする。因みに、クラスポイントが減った原因の何割かは龍園が担ってるだろ!とは誰も言わない。思ってたとしても言えないだろうけども。
その後、龍園は自分の席に戻っていった。その機を見て、あたしは龍園にひっそりと目くばせする。あちらもそれに気づいたようで、アイコンタクトが返ってきた。言うまでもない、今後の話だ。
「どうすんのさ!!!立ててた計画ぜぇ~んぶパァだよ!!!」
「やっぱりその件か......まぁ、収入が減るのは覚悟した方がいいな。」
何度か使ったことのある人気のない踊り場にて、あたしたちは話していた。
「そもそも、南雲との交渉自体が無かったことになる...って可能性もあるかもしないな。」
龍園はそう言うが、あたしはそれを強く否定する。
「それは無い...んじゃないかな。少なくとも、生徒会副会長ともあろう人が、それを把握してないわけがない。それでもオンラインカジノの計画に乗った...ってことは、収入に関しては今のこの状態で入るものを前提にしてるんじゃない?」
そもそも、あちらはこの状態になると分かっていたのだから、あちらの思考だと、収入は今の状態で入るであろう収入を前提で考えていたはず。つまり、契約が成立したという事は、この状態での収入に文句はないという事だ。
そんな話をしていると、二人のスマホに連絡が来た。その相手はほかでもない、南雲先輩であった。
『昼休みに生徒会室に来い。あの件で話がある』
と送られてきた。もちろん、あの件とはオンラインカジノの事だろう。あたしたちの会話でも読んでいたかのようなベストタイミングだ。....因みに、文章はあたしと龍園とで一言一句同じであった。もう少し、何というか、さ?あたし一応彼女ではあるんでしょ?
昼休み、あたしと龍園、南雲先輩は3人で生徒会室にいた。
「ここに来た理由は分かってるよな?例の計画の件だ。今月初めのこの状況...言いたいことは分かるだろ?」
「オンラインカジノの件ですね?...まさか、毎月10万円の甘言の裏に、こんなカラクリがあったとは...」
やはり、オンラインカジノの件だ。収入面で大きな見積もりミスが発生してしまったのだ、当然であろう。先輩は続けて口を開く。
「そうだ。俺が5月にオンラインカジノを始めるのを嫌がった理由が分かったろ?」
「ハッ、これがあるって分かってんなら、何故言わなかった?」
龍園の怒りももっともだ。事前に告知や通知の一つでもあれば、クラスポイントの減少は防げただろう。
「俺ら上級生には緘口令が敷かれてたんだ、仕方ないだろ?」
やはり、緘口令があったようだ。まぁ、この学校の洗礼的なものと考えれば、ネタバレは致命的ゆえ仕方ないが。
「あたしたちのクラスを聞いて、なにか考えてたのも、これがわかってたからなんですね。」
「あぁ。お前らのような生徒が、なんだってCクラスに?と思ってな。...龍園の方は想像がつくんだが」
何でって...過去のやらかしのせいなんだろうなぁ...わざわざ言う事ではないから黙っておくけども。とりあえずはぐらかすか。
「乙女のヒミツ♡ってやつですよ。ね?」
「「は?」」
「と、とにかく、先輩は、このようなクラスポイントによる生徒一人ひとりの手持ちポイントの減少、これを知ったうえで計画に乗ってくれたんでしょう?」
「ま、そうだな。ちなみに、収入の予想はどのぐらいだ?」
「もともとの想定だと6,700万程度でしたので、クラスポイントの減り方によりますね。」
「ほう。一年のクラスポイントはどのぐらいなんだ?」
「Aから順に、960、660、490、0ですね。」
「0...0⁉......なんだってそんなことに...?」
「さぁ...?まぁ、素行が悪い生徒も結構いましたし...赤点のやつが7人ぐらいいたそうですよ。」
あくまで噂なので、実際どのぐらいやばかったかは想像できないが...流石の先輩も、いつもの飄々とした表情が崩れてしまっている。
現在、Dクラスの生徒たちの収入は0ポイントだ。そこで、一つ提案をしてみる。
「ねぇ南雲先輩。いっそのこともう金貸しのサービスだけ先に始めちゃいません?」
「ハッ、どこぞのバカどもはすでに0円生活だ、多少暴利でも食いつくかも、って狙いだろ?」
龍園大正解。正直この現状だと、足元に足元を見てトイチでも食いつくんじゃないかと思う。
「確かにありだな。オンラインカジノの開始前に実績や信頼を作っておくのは悪くない。」
「なんならあたしたちが、一年生中に何とかして広めますよ?」
「頼んだ。特にDクラスのヤツらに広めておいてくれよ?」
こういうのは手下を持ってる龍園の得意技だろう。そして、もう一つ。貸し付けを加速させるため、あたしは卑怯かつ画期的な秘策を披露しよう。
「二人とも、耳貸してくださいな。ちょっと秘策がありまして...」
二人に秘策をごにょごにょと語る。
「はっ、なんて策だよ。卑怯というか畜生というか...」
「クハハハハ、良いじゃねぇか、俺は賛成だ。」
二人の反応を見るに、この策は結構いい感じらしい。
「じゃ、今日の放課後から早速やっていきましょう!」
更新が遅れてしまいました...誠にごめんなさい