俺の名前は山内春樹、人呼んで一年Dクラスのムードメーカーだ。今日はいろんなことがあって全く困ったもんだぜ。まさか今月、1ポイントも貰えないなんてな。
先生は「生活態度が~」だの「テストの点が~」だの言っていたが、訳わかんねーよな。どーせクラスポイントが0になったのも、寛治や健、それに高円寺が不真面目だったからだろ、俺は悪くねぇ!
先月に豪遊しちまったから、俺の持ってるポイントはせいぜい数千ポイント。仕方ないから無料の商品で何とか凌ぐとするか。そう思っていたが、俺の目の前には、衝撃的な状態が広がっていた。
「む、無料商品が全部売り切れてるだと―⁉」
すっからかんになった無料商品の棚が、そこには並んでいた。
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「無料商品の買い占めによる売り切れ狙い、か......想像以上に悪どいな、辰見。」
「そんなそんな~。この秘策は、先輩のためのものなんですよ?」
「無料の商品がなくなってしまえば、当然有料の商品を買うほかない。そうなれば、所持金のほとんどない1年Dクラスのようなクラスは...?」
「南雲にポイントを借りるほかない、ってわけか。ククク...」
その通り。さすがに1年Dクラスほど生活が困窮しているクラスはそうそう無いだろうが。
「で、ですよ。これの実行には、かなりの人手が要るんです。ああいった無料商品は、おひとり様〇個まで~、みたいなのがありまして。ちなみに、先輩ってどれぐらい人動かせます?」
「やらせることは精々、無料商品の購入だろ?それなら2年生全員は動かせる。」
「全員!?じゃ、じゃあお願いします...」
思った以上に、南雲先輩の影響力、もとい支配力は大きいようだ。だからこそ、何らかの手段を用いてポイントを大量に保持していたのだろう。この際だ、先輩が持っている大量のポイントの使い道や、何故持っているのかなどを聞いてしまおう。
「ところでですよ。先輩、何故、そしてどうやってそこまでのポイントを持ってるんですか?」
この学校の事だ。ポイントを利用した何かしらのボーナスがあり、そのために貯めているといった可能性も捨てきれない。龍園も口を開く。
「それは俺も気になっていてな。先日の交渉で、俺らがポイントを貯める理由を聞いた時の返答、『ここで金になるものを買い、外の世界で換金する』という答えに意外そうな表情をしていた。まるで、『もっと有意義なポイントの使い方』があるかのように、な。」
それを聞いて、南雲先輩はまるで種がバレたマジシャンのような、トリックを見破られた犯人のような、どこかこちらを評価する目線をこちらに向け、語った。
「お前たちは本当に察しが良いな。Cクラスには勿体ないぐらいだ。そう、龍園の言った通り、ある有意義なポイントの使い方があるんだ。」
「ほう、それとは?」
「簡潔に言って二つ。『好きなクラスに移動する権利』と『退学を回避する権利』の2つが、それぞれ2000万ポイントで買えるんだ。他にも使い道がないわけではないが、この二つが主だな。」
好きなクラスに移動する権利......すなわち、実質的なAクラス行きのチケットだ。正直、これからの未来のことを考えると、理想の進路のために2000万は割と見合っているだろう。もう片方の、退学を回避する権利に関しては...ちょっと割に合わないね。赤点を取るような奴にそんな大金を払う価値もないだろう。
「それのために、ポイントを集めていたと。」
「あぁ。俺は俺の学年...つまり今の二年を、『クラスポイントの7割を徴収する代わりに、卒業時にその貯めたポイントを使って優秀な生徒はAクラスで卒業させてやる』といった契約をさせてたってわけだ。」
「ほう...」
確かに納得だ。クラスポイントが大きく離れてしまったクラスにいる場合、真面目にクラスのポイントを稼ぐより、先輩に良いところを見せて、ワンチャンでAクラスを狙った方が合理的だ。だが待てよ、7割徴収ってことは2年生はオンラインカジノでお金を落としにくいんじゃないか!?謀ったな南雲!
同じことを考えたのか、龍園が声を上げる。
「そりゃ話が違げぇだろ。それじゃ、2年生のオンラインカジノの利用率はほとんど無くなるじゃねえか。」
「流石に、そんなあこぎな真似はしないさ。オンラインカジノ開始までに、徴収割合は4~5割に削減しておくさ。ポイントの貸付みたいな新たな稼ぎ先も用意してくれたんだしな。それに、徴収で金欠気味の方が、案外ポイントを落としてくれるかもしれないぜ?」
「確かに、そういう苦しい生活を送っているからこそ、一発逆転を狙ってギャンブルに手を出す奴は結構います...何というか、先輩も結構クズやダメ人間の心理に詳しいですね。」
「まぁ、人の上に立ってると、そういうのは嫌でも見るもんさ。龍園もそうだろ?」
「ハッ、どうだかな。」
不敵に笑う龍園。龍園も、心当たりが全く無いようではないようだ。自分は良く知らないが、中学の頃もあんな感じだったんだろうか。
「ともかく、とりあえず今後の話はひと段落って感じですかね?オンラインカジノも、予定通り6月スタートの感じで。」
「あぁ、異論はないぜ。」
「ではまた~。」
あたしと龍園は、生徒会室を去っていった。
「聞いた...?2000万ポイントだって。正攻法でAに上がれなかったときのプランとして考えても良さそうだね。」
生徒会室からの帰り、あたしと龍園は話し込んでいた。
「ハッ、そうだな。大事なのは結果だ。方法が正道でも邪道でも、結果は等しく与えられるからな。」
珍しくいいことを言う龍園。この口ぶりだと、クラス移籍によってAクラスに行くプランも射程内のようだ。
「となると...あたしと龍園で4000万、それと友達...龍園の場合は舎弟かな。の分も合わせて1~2億...」
「8億だ。」
「は?」
耳を疑った。8億などと言ったのか。何故?どうして?まさかこの男は、クラス全員をAクラスに上げよう、などと思っているのか。
「8億ってことは40人...クラス全員分ってこと?そんなことする義理は無いでしょ?」
「あぁ。義理は無ぇ。だが、このクラスの王として、クラスの連中をAクラスに連れていくと言い切った。だからこそ、上に立つ俺には義務がある。」
分からない...そんな、そんなバカげた計画、不可能だ。実現できるわけがない。
いや、そうではないだろう、あたしよ。そんなことを平然と言い切るこの男に、あたしはカリスマ性と魅力を感じていたんじゃないのか。何故か惹かれていたんじゃないのか。ならば、ここで返す言葉はただ一つ。
「...そうだね、やってやろうじゃないか!目指すは8億、頑張って稼いで、みんなでAクラスに殴りこんでやろうよ!」
「いや...ポイント稼ぐのは重要だよ?だけどさぁ...これは無いんじゃないの...?」
ああも格好いい決意表明の後、その日の放課後、あたしは何とも言えない表情で、それを見ていた。そう、無料商品の買い占めで、それらが手に入らな1年Dクラスのメンバー相手に、無料商品を売りつけようとする石崎くんを、だ。
いや、やっていることがまんま転売だ。むしろ、無料で手に入るものに値をつけて売っている分、部分的には転売よりもあこぎかもしれない。
しばらく交渉の様子を見ていると、石崎くんはどうやらセールスに成功し、いくらかのポイントを受け取っている。どうにも不服そうな表情で、Dクラスの生徒は去っていった。
機を見計らって、あたしは石崎くんに声を掛ける。
「石崎くんさぁ...何やってんのさ?」
「おっ、辰見さんじゃないっすか!もちろん転売ですよ!」
石崎は、悪びれることもなく綺麗な目でそう答える。おそらく、この行動も龍園の指示であろう。
「多分龍園の指示よね?何言われたの?」
「いや、龍園さんが『Dクラスはほとんどの生徒が極貧生活だから、無料商品を買い占めた後、こっそり転売して稼いで来い』って。」
ビンゴ。やはりというかなんというか、あたしの予想は当たっていた。8億貯めるための千里の道の一歩目、という事なのだろう。にしても、もっとこう...あるでしょ⁉
「......ちなみに、いくら稼げたの?」
「スーパーでの無料配布の分の野菜をいくつかまとめたやつが、各3人に500ポイントで売れました!」
そしてみみっちい!金を稼ぐことが目的だとしたらみみっちいったらありゃしないぞ龍園。まぁこの行動にはしっかり意味があって、『Cクラスがポイントを集めている』という噂の流布を狙っているのかもしれない。だとしても...だとしても...
「ま、まぁ頑張ってね。じゃ、あたしは部屋に帰るから。」
「そうっスか!じゃあまた!」
あたしは足早にここを去る...前に、ひとつ気になったことを石崎くんに聞く。
「そういやさ、あたしになんでそんな敬称とかが付いてるのさ?」
「そりゃあ簡単なことですよ!クラスじゃ話題ですよ?龍園の友達だとか、実はこのクラスの裏番だとか...!」
なんというか、龍園と絡みすぎたのが原因のようだ。にしても裏番て。龍園が聞いてたらあたしと石崎くんもろともゲンコツを喰らいそうだ。
「そ、そっか...ちなみに裏番とかじゃないからね?じゃ、石崎くん、また明日...」
「いいっすよ、くんなんか付けずに呼び捨てで!」
「じゃあお言葉に甘えて...石崎、また明日...」
どうにも、クラスメイトとの距離のようなものを感じながらも、あたしは部屋に帰っていくのであった。