5月末日、あたしと龍園は、南雲先輩の部屋に集まっていた。要件はもちろん、来月に始まるオンラインカジノの件についてだ。あたしたちが部屋で待っていると、茶菓子と紅茶を持って、南雲先輩がやってきた。心なしか茶菓子が少し少ない気がする。
「まずは、初めてのテストお疲れさん。わざわざ集まってもらって悪かった。来月からのオンラインカジノについて、最終確認をしたいと思ってな。」
「ククク、構わねえよ。お前のくれた過去問のおかげで、退学者も出なかったしな。」
ベッドの上の龍園がそう言った。この男、あろうことか初めてきた先輩の部屋でベッドを占領し、あまつさえくつろいでいる。さすがの龍園だ。
「最終確認って?」
「用意しているゲームの確認と、収支予想とかだな。万一ミスが見つかったらまずいからな。それぞれどんな感じだ?」
「了解ですよっと。まずはゲームの方ですね。5月開始時点であった簡単なトランプゲームに追加して、いくつか追加しました。現時点でだと、ブラックジャック、ハイアンドロー、ポーカーやルーレット...こんな感じですかね。」
「ほう...結構豊富だな。少なくとも、娯楽面の心配はしなくても良さそうで安心したよ。」
「そりゃどうも。」
先輩からは思っていたより高評価をもらった。これで、深夜にカタカタパソコンを叩いていたあたしの苦労も報われるってもんよ。
「あと、一つだけ作ってほしいものがある。競馬や競輪みたいに、リアルタイムで何かに金をベットできる、そんな感じのものを作ってほしいんだ。できればオッズや〇番人気とかも出ると有難いんだが...」
「ハッ、生徒会選挙に金でも賭けさせるつもりか?」
まさかの南雲先輩でも、そんなグレーもグレーなことをさせるわけは....この学校が色々と治外法権とはいえ...
「ま、そんな感じだな。」
そんな感じだったよ。でもまぁ、そういった学校行事の結果にポイントを賭けさせるのは、健全ではないが楽しそうではある。なる早で進めるとしよう。
「そっちの方は分かりました。夏休みまでには作っておきますね~。」
「助かる。で、話は戻るが、収支の方はどうだ?ざっくりとした予想で構わん。」
「まぁ、この時点で明確な予想を立てるのは厳しいですもんねまず、2年生のクラスポイントは、ざっくりと上から
Aクラス 1400
Bクラス 800
Cクラス 500
Dクラス 300
これから先輩の徴収分で50%が天引きされると、それぞれ上から700、400、250、150...
A,Bクラスなどの上位クラスが多めに使ったり、先輩にポイントを借りてまでするカモが現れたり...と考えると、一人あたり平均して1万前後は落とすと思います。なんで、2年生の総数がざっくり150人と考えて、150万は堅いですね。」
「3年生のほうは、南雲先輩の情報によると、ざっくりと上から
Aクラス 1300
Bクラス 900
Cクラス 600
Dクラス 500
といった感じですね。こっちは2年と違ってポイントの徴収がないぶん、一人あたり平均して1.5~2万、それを150人分なんで、250万ほどは落としてくれるんじゃないでしょうか。いかんせん、ここに三年生が居ないんで、どうしてもはっきりと言い切れませんけども...」
「ま、俺だってそこまで顔が広くないんでな、もしかすると何かしらはあるかもしれないが...その時はその時だな。だが、少なくともクラス争いから半ば離脱状態のC,Dの連中からは収入を期待できるだろうぜ。」
「ワンチャン狙うアホが多いからか?」
「その通りだ龍園。あとお前はいつまで俺のベッドでくつろいでるんだよ。降りろ。」
真面目にベッドから降りる龍園。そして利益の予想もあと一学年、我らが一年生を残すのみとなった。
「そしてラスト、我らが一年生なんですが...ポイントの減り幅がとんでもなくてですね...」
「どっかの不良品どもは一気に0ポイントにまで減らしやがったからな...」
「A,B,Cクラスと、金を借りてまでやろうとするDクラスの一部のバカのみからの収入になりますね...なんで、平均して6000~8000前後がやっと...それが160人なんで100~120万前後だと思います。」
しばらく金勘定のような仕草をした後、先輩が口を開いた。
「要するに、少なく見積もっても500万ほどは入ってくるか。当初の予想からは結構減っちまうが、まぁ妥当ってところか。」
「なんで、取り分的にはあたしらが400万、先輩が100万って感じですね。」
「いいさ、構わん。特に大きな問題点も無いようだし、6月頭...明日からオープンするぞ。」
「ええ、異論はありませんとも。」
「俺も異論は無ぇよ。」
無事に最終確認も終わり、あたしと龍園は先輩の部屋を後にした。両手に茶菓子を手に。
帰る途中、龍園は急に進路を変え、寮ではなく校舎のある方向へ足を向けた。
「どしたの龍園、なにかあった?」
「いや、何でもねぇ。お前には関係のない話だ。」
そう言う龍園の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。なにか悪巧みでもするのだろうか。だとしても、ここで深く詮索するのは野暮ってものだ。結果が出次第、話はしてもらおう。
今は何も知らぬままでいよう、と思い、龍園と別れる。
「んじゃ、また明日~」
そして、6月1日、うちのクラスには4万9400円、クラスポイントに換算してみると494ポイント分のポイント、49400プライベートポイントが配布されていた。
あたしは眼鏡をいじくりながら、前の席の西野ちゃんと話していた。
「ほんっっとに微増も微増だね...」
「ま、減ってないだけいいんじゃない?...というか、辰見あんた、いつの間に眼鏡かけたの?」
昨日、先輩たちと会う前に買っておいた、おしゃれとして購入した赤茶色い縁の伊達眼鏡について突っ込まれる。
「どうよ、似合ってるでしょ?やっぱさ、眼鏡かけてた方がなんとなく賢そうに見えない?」
「......そのセリフが既にバカそうってのは、言わない方が良い感じ...?」
...言わない方がいい感じだ。
そんな会話をしていると、いつもより気が立っていそうな坂上先生が入ってきた。先生が来るなり、みんな徐々に静かになっている。先生は、先月のように各クラスのポイント表を書き出していく。
Aクラス 994
Bクラス 696
Cクラス 494
Dクラス 86
これが現在のクラスの状態のようだ。中間テストを乗り越えた分のポイント増加なのだろうか。Dクラスが80ポイントも増えているのはまだ分かる。救済措置や0ポイントゆえの特例の可能性もあるしね。だとしてもうちが4ポイントしか増えてないのはどうなのよ...そんなことを考えていると、坂上先生が憂鬱そうな表情でしゃべりだす。
「...一応、A,B,Cの三クラスは、このポイント通りにしっかりと月初めに配布されているのですが、Dクラスのみ、とある理由によってポイントの配布が遅れています。そのとある理由に関しては、心当たりのある生徒があるかもしれませんが...ね。」
そう言って先生は、石崎ら3バカにうっすらと目を見やる。よく見ると、三人はいくつかケガがあり、何かあったであろうことがわかる。まさか、と思い、龍園の方を見ると、「ククク...」と不敵な笑みを浮かべていた。昨日の用事はこれだったのか...
先生の話が終わった後、あたしは龍園に詰め寄る。
「ねぇ龍園!Dクラス相手に何やったの⁉」
「簡単なことだ。あいつらを仕向けて、Dクラスの須藤に暴力事件を起こさせた。」
龍園は不敵な笑みを浮かべてそう言った。須藤というのはあの赤髪の生徒だろうか。確かに、暴力を引き出しやすそう性格のような見た目ではあるが...
「今月からオンカジ始めるってのに、なんでこんな事件起こしたのさ!」
「だからこそ今なんだよ。Dクラスは所持プライベートポイントがほぼ0、金ヅルとしての価値が無い今だからこそ、実験がてらこういう事件を起こさせたのさ。」
そういうと一理はある...のかな...?その後、事件の仔細も教えてもらった。単純な話で、監視カメラなどのないところに呼び出し、須藤を挑発し暴力を振るわせた、という話だそうだ。ぶっちゃけ、こちらは殴ってないのだから、監視カメラがあってもそこまで不利にはならないとは思うんだけども...
「ま、まあ何となく意図は分かったよ。で、動向はどうするの?」
「どうやら、明日に石崎、近藤、小宮と須藤の話し合いが明後日、生徒会主導のもと行われるらしい。お互いの担任も同席するみたいだが...」
「何となくわかったよ。じゃあ、まずは今回においてのCクラスの目標をまとめようか。今回の目標は、ずばり『Dクラスのクラスポイントを減らさせず、プライベートポイントのみを慰謝料として搾り取る』だね。」
「クラスポイントの奪取を狙わないのは、Dクラスがオンカジにおいてのカモになり得るからか?」
「その通り!理解が早くて助かるよ。それに、Dクラスにはクラスポイントがそもそも2桁しか無いんだ。」
「奪ったとしても旨味が無い...ってわけか。それなら、2桁のクラスポイントを奪うことで得られる分の毎月のプライベートポイント、それよりも多い額を奪った方が旨味があるわけだ。」
「ビンゴ!そのためには、一旦生徒会の管理下から外れて、『生徒間での話し合い』という形にしなきゃならないね。」
「何故だ?」
「クラスポイントはともかく、プライベートポイントの移動は学校もあんまし容認してくれないと思うんだ。」
「あくまでも、『生徒間での話し合い、取引で解決しました』という建前にさせるって事か。で、そのために何をするんだ?」
「あたしらの挙げる勝利条件、そのために必要なことは大きく分けて2つ。一つ目は、『被害者三人への演技指導と意見のすり合わせ』。」
「三人での意見のすり合わせと方針の固定か...確かに、そこらがバラバラだと議論がうまく進められない、それどころかこっちが嵌めたことがバレる可能性もある。一理あるな。」
「本っ当に理解が早い!それに加えて、あっちを逆上させるような内容にしたいかな。さしずめ、『須藤の暴力や高圧的な態度に耐えかね、義憤に駆られた小宮と近藤が、友人である石崎を連れて、勇気を振り絞った』みたいな?」
「クハハハハ!そりゃあ傑作だ。その路線で行くか。」
龍園大爆笑。なんというか、こういった人を嵌めている時が一番楽しそうだ。
「で、二つ目は『根回し』。議論の場にいる他のメンバーを、こちらの味方にするってこと。今回の議論の取り締まりは、生徒会なんだ。生徒会に一人、こっちと関りがある人がいたよね?」
「南雲の野郎か!」
「先輩に根回ししておいて、進行役として『生徒間での和解』に方針を誘導してもらおうってわけ。あとは、一応坂上先生にも根回しをしておこうかな。自分のクラスの利益のためなら、多少の融通は利かせてくれるはずだし。」
「そうか。大体わかった。こっちが演技指導とすり合わせ、そっちが根回しを頼む。いけるか?」
「ふふふ、言うまでもないよ。任せて頂戴?地元じゃ、『根回しの辰見』なーんて呼ばれてたんだよ?」
「本当か?」
「嘘だよ!...いだい!」
ゲンコツを喰らった。