Fate/Grand Order 第三部 Script of the Palimpsest 作:白瀬 綴
ツナたちを囲んでいた白い膜が砕けた後も、並盛に人の声は戻らなかった。遠くでは、まだ別の白い境界が住宅街を切り取り、ときおり表面が内側から押されるように撓んでいる。
商店街のシャッターが白い空気の中で軋む。ツナは壁へ手をつき、焼けた両腕を胸の前へ下ろした。獄寺の肩にも血が滲み、山本は時雨金時の鞘へ左手を預けている。
「十代目、少し休んでください」
「休みたいけど……お兄さんたちと藤丸を探さないと」
「焦るな」
リボーンが帽子のつばを下げた。
「探すために目と耳を使え。ふらついたまま走れば、助ける側が一人減るぞ」
ツナが奥歯を噛んだ、その時だった。
「うわあああああっ! もう嫌だぁ!」
路地の角から紫のヘルメットが飛び出した。
「って、リボーン!?」
「うるせえ」
「第一声それ!?」
スカルの後ろから、古里炎真が姿を見せた。制服の袖は擦れ、指先には大地の死ぬ気の炎を絞り続けた震えが残っている。鈴木アーデルハイトと青葉紅葉も続き、三人とも傷を抱えながら自分の足で歩いていた。
「綱吉くん……!」
「炎真!」
ツナが前へ出ようとして、右膝を沈めた。炎真も駆け寄りかけ、互いの傷を見て速度を落とす。
「大丈夫?」
「炎真こそ。アーデルハイトと紅葉も?」
「動けるわ」
アーデルハイトが短く答える。紅葉はツナたちを見回し、眉を寄せた。
「笹川了平はどこだ?」
「まだ会えてない。ランボとクロームも一緒にいたはずなんだけど……」
「フ……なら探すぞ。僕との決着を勝手に失わせる気はない」
「紅葉、お兄さんのこと結構――」
「山本武。次に余計なことを口にすれば、傷のない所を殴るぞ」
「今それ探す方が難しいな」
山本が笑い、すぐ首筋の傷に顔をしかめた。
リボーンはスカルへ顔を向ける。
「お前らは誰と戦った」
「その前に変なのに襲われたんだよ! 黒い外套で、銀色の面をつけてて、鎖まで伸ばしてきた!」
獄寺の眉が跳ねた。
「……あの銀面か?」
リボーンがスカルを見る。
「お前たちも襲われたのか」
「そうだよ! いきなり鎖が飛んできたんだぞ!」
「鎖は、スカルの首元へ真っすぐ来てた」
炎真が右袖の縁を握った。
「僕たちを倒すより先に、あのおしゃぶりへ届こうとしてた」
スカルは胸元のおしゃぶりを両手で覆った。リボーンは答えを出さず、その手と炎真の顔を順に見た。
「……おしゃぶりを狙ってた、か」
「で、戦闘領域で当たったのは誰だ」
「藤丸さんたちだよ」
「藤丸と?」
「うん。僕たちも向こうも、ウォッチを壊さないまま時間が切れた」
ツナの肩から少しだけ力が抜けた。
「こっちは二人、敗退した」
山本が時雨金時の鞘を握り直す。
「ベルのウォッチは獄寺が壊した。スクアーロのは俺が」
炎真の表情が固まった。
「二人とも消えたの?」
「身体はな」
獄寺が傷ついた肩を押さえる。
「嵐の死ぬ気の炎が残った。あいつが消えた後も、白い膜の奥へ引かれてた」
「スクアーロも同じだ。雨の死ぬ気の炎だけ残って、細く伸びていった」
リボーンが二人を見た。
「向きは」
「同じ」
獄寺と山本の声が重なる。
炎真は自分のウォッチへ目を落とした。
「僕たちの所では、誰も敗退してない。それでも膜は時間が来たら消えた」
リボーンは白い通りの奥へ目を細めた。
「分かるのは、残った炎が二本とも同じ先へ引かれたことだけだ」
スカルの顔から血の気が引く。
「……オレ様も、壊されたらああなるの?」
「分からねえ。だから壊されるな」
「怖いことを真顔で言うなよ!」
白い町の奥で、低い振動が起きた。
閉じた窓が一斉に鳴る。遠くに残る白い膜が、一度だけ内側から大きく撓んだ。ツナがそちらへ身体を向けた瞬間、右膝がまた沈んだ。
「十代目!」
獄寺が左から支える。反対側へ、炎真が腕を差し出した。
「僕たちも行くよ」
「炎真たちも戦ったばかりだろ」
「綱吉くん一人を急がせる方が危ない」
アーデルハイトと紅葉が通りの左右へ視線を走らせる。山本も先へ出ず、左手を鞘に添えたままツナの歩幅に合わせた。
「スカル、お前は炎真たちの後ろだ」
「俺様も代表なんだけど!?」
「だから前へ出るな」
「扱いが雑!」
遠くの白い膜が、もう一度大きく撓んだ。
ベルとスクアーロの炎が伸びていった方向も、その先だった。
ツナは獄寺と炎真の腕を借り、白い通りへ足を出した。
* * *
白い町の別の通りで、藤丸の首元の器が冷えた。
マンドリカルドの左腕に抱えられたまま、藤丸は胸元へ指を添える。
数メートル先で、エミヤが閉じた薬局の方へ顔を向けた。
白い残光が揺れた。