Fate/Grand Order 第三部 Script of the Palimpsest 作:白瀬 綴
並盛神社へ続く石段は、町の中にあるはずなのに、そこだけ別の場所へ口を開けているみたいだった。
坂を上り切ったあたりで、住宅街に残っていた気配の揺らぎが一段だけ薄くなる。家と家の間隔がずれて見える嫌な感じも、塀の角度と道幅が噛み合わない気持ち悪さも、石段の手前へ来ると急に静まった。その代わり、空気の重さだけが変わる。湿っているわけではない。冷えているわけでもない。ただ、足を乗せた場所だけが、ようやくちゃんとした地面として返ってくる。
綱吉は藤丸を抱えたまま、石段の手前で一度だけ足を止めた。
怯んだわけではない。ここから先は、さっきまで歩いてきた並盛の住宅街と同じ地続きではない。そんな感覚が、理屈より先に背中へ触れた。腕の中の藤丸も、同じものを感じ取ったのか、わずかに身体を強張らせる。小さくなった身体はまだ自分のものとして噛み合っていないらしく、綱吉が抱え直すたびに、息の置き場を探すように肩が揺れた。
綱吉のすぐ後ろで、エミヤ、ジャンヌ・オルタ、マンドリカルドの輪郭が、また一段だけ濃くなる。
エミヤは赤い外套の裾を揺らしながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……少しずつだが、ようやくまともに実体化ができる」
その声は、さっきまでよりも確かに近かった。空間のどこかで反響して届いていたものが、今はその場で発せられた声として耳に入る。ジャンヌ・オルタは腕を組み、露骨に不機嫌そうな顔を崩さないまま、それでも視線だけは境内の奥へ向けていた。
「感じ悪い場所ね。けど、ここまで来るとさすがに輪郭が消えない」
マンドリカルドも剣の柄へ軽く触れ、周囲を見回す。
「……助かるのは助かるっすけど、こういう“近くにいないと保てない”の、気分いいもんじゃないっすね」
藤丸は綱吉の腕の中で、小さく息を呑んだ。
綱吉には、その反応の理由までは分からない。ただ、藤丸が三人の声を聞いた瞬間、ほんの少しだけ身体から力を抜いたことは分かった。完全な安心ではない。むしろ、自分がどれほど危うい場所に立っているのかを、声が戻ったことで改めて突きつけられたような緊張だった。
綱吉の炎が近くにある時だけ、三人はこの場に踏みとどまれる。
そうとしか見えなかった。
けれど今は、それを確かめるより先に、目の前を見る必要があった。
石段の上。境内の奥。
そこに、すでに五つの小さな影があった。
* * *
最初に目へ飛び込んでくるのは、赤ん坊が五人いるという異常さだった。
だが、近づけば近づくほど、その違和感は単純な人数の話ではなくなっていく。五人とも、ただ幼い身体をしているだけではない。着ているものが違う。立ち方が違う。周囲との距離の取り方が違う。そこにある空気の質そのものが、一人ずつ別の方向へ尖っている。
軍人めいた装いの赤ん坊が一人。姿勢は崩れていない。小さな身体のはずなのに、視線の向け方だけで、前線に立つ人間だと分かる。
黒いフードを深く被り、口元より上をほとんど見せない赤ん坊が一人。輪郭そのものを掴ませないくせに、周囲の動きだけは妙に冷静に拾っている。
フルフェイスヘルメットとライダースーツに身を包んだ赤ん坊が一人。小さな身体に似合わない騒がしさを、いっそ威嚇に変えている。
実験器具でも抱えていそうな、理屈の匂いを全身から滲ませる赤ん坊が一人。
そして、長い三つ編みを垂らし、静かな目をした赤ん坊が一人。最も穏やかに見えるのに、立っている位置だけは微動だにしない。
五人とも、最初からここで待っていたわけではないのだろう。けれど、偶然ばらばらに落ちてきた者たちには見えなかった。誰かに並べられたのではなく、ここへ来るしかなかった者たちが、それぞれの警戒を保ったまま同じ場所へ集まっている。綱吉には、そう見えた。
石段をもう一段上がる。
獄寺の視線は一気に鋭くなり、山本も笑わないまま息を潜める。クロームはわずかに目を見開き、了平は眠るランボを抱えたまま、状況を飲み込もうとしていた。
「……赤ん坊が、五人」
了平が呟く。率直すぎる感想だったが、それ以上に正しい言葉はなかった。
その直後、背後から別の気配が落ちてきた。
「遅かったな、ツナ」
短く、低い声。
綱吉が振り向くより少し早く、その声の主は石段の下からこちらへ歩いてきていた。黒いスーツ。鍔のある帽子。落ち着き払った視線。小さな身体に似合わないほど自然な圧を持つその赤ん坊を見た瞬間、綱吉の肩から力が少しだけ抜けた。
「リボーン……!」
声には安堵が混ざる。だが、それで緊張が切れるわけではない。むしろ、ここにいる五人へ加えてリボーンまで現れたことで、これは自分たちの知っている側にも深く関わる異常なのだと、腹の底へ沈んでくる。
リボーンは綱吉へ歩み寄りながら、まず境内にいる五人を一瞥し、それから藤丸へ視線を落とした。短い。けれど、その一瞬で服装、身体の小ささ、首元の硬い異物、背後に立つ三騎の不安定な輪郭まで、まとめて観察されたのが分かった。
「……そいつは何だ」
問いは単純だが、意味は重い。誰か、ではない。どう扱うべき存在か、と聞いている。
綱吉は藤丸を抱え直しながら、言葉を探した。説明しようとすれば長くなる。だが今必要なのは、全部ではない。
「分からない。でも、さっき黒い炎の化け物に襲われてた。放っておけなかったし、こいつの近くにいると――」
一瞬、背後へ視線を流す。
「見えないけど、味方っぽいのが安定する」
リボーンの目が細くなる。綱吉の説明が雑なのではなく、今起きている現象自体が雑にしか言いようのないものなのだと、一拍で理解した顔だった。
獄寺がすぐに口を挟む。
「十代目の近くでだけ、妙な人影が濃くなってます。完全には見えねえけど、敵意はねえ。少なくとも、さっきの黒い炎の化け物とは別です」
山本も肩越しに後ろを見やる。
「あっちは人の形を真似てるだけって感じだったけど、こっちは違うな。ツナの側に立ってる感じがする」
リボーンは、三騎の方を見えていない前提で受け止める。そのうえで、藤丸へ視線を戻した。
「……敵じゃねえ、か」
断定ではない。だが、切り捨ててもいない。
藤丸は小さく息を整え、自分の方から口を開いた。
「味方だよ。少なくとも、俺にとっては」
幼い声だった。けれど、言葉の置き方には妙な媚びがない。リボーンはその短い返答を聞き、ほんのわずかに顎を引いた。受け入れるとまでは言わないが、即座に排除する対象ではなくなった。その程度の沈黙だった。
その一方で、了平は別の方向へ意識を向けていた。軍人めいた雰囲気の赤ん坊を見つけた瞬間、目の色が変わる。
「コロネロ師匠!」
了平が一歩前へ出る。呼ばれた側の赤ん坊もすぐに目を向けた。顔つきは引き締まっているが、その反応に驚きはない。修行の中で何度も顔を合わせてきた相手へ向ける、自然な視線だった。
「おう、笹川か。無事だったか、コラ!」
そこだけ、異常な場の中に短い見知った者同士のやり取りが生まれる。それがかえって、この境内に集まった面々が偶然ではないことを、綱吉へ強く感じさせた。
その声を合図にしたように、境内の緊張が少しだけ動く。
コロネロは了平の顔を確かめると、すぐに視線をリボーンへ移した。懐かしむ時間はない。全員が小さな身体で、全員が同じ異常に巻き込まれている。それだけで、今は十分だった。
「町の外へは?」
リボーンが短く問う。
「出られねぇ、コラ。真っ直ぐ進んだつもりでも、いつの間にか戻される。白い霧が外周を囲ってやがる」
コロネロの返答に、獄寺が眉を寄せた。
「こっちも同じです。外へ抜けようとしたら、景色ごと巻き戻されたみたいになりました」
山本も頷く。
「人もいねーな。生活の跡はあるのに、今ここにいる人間だけ抜けてる感じだ」
黒いフードの赤ん坊――マーモンは、山本の言葉を聞いて小さく息を吐いた。
「それが町全体で起きているなら、偶然じゃない。かなり高くつく仕掛けだよ」
ヴェルデは自分の時計ではなく、境内の空気そのものを観察していた。
「高くつく、で済めばいいがね。空間の境界が意図的に歪められている。しかも、単に閉じ込めるだけではなく、ここへ集める方向性を持っている」
「集める?」
綱吉が聞き返す。
ヴェルデは答えかけて、藤丸の背後に揺れる三つの輪郭へ視線を向けた。
「君たちのそれも含めて、だ。通常のマフィア抗争では説明できない。だが、ここにいる全員に共通しているものがある」
リボーンが帽子のつばを下げる。
「トゥリニセッテトゥリニセッテか」
その単語に、藤丸が小さく反応した。
意味は分かっていないのだろう。けれど、場にいる者たちの空気が変わったことだけは分かったようだった。知らない言葉なのに、ここにいる赤ん坊たちの事情の奥へ触れている。綱吉にも、それだけは伝わる。
スカルはその空気を壊すように、ヘルメット越しに叫んだ。
「おいおいおい! だから何なんだよ! 俺様、朝から変な霧に巻かれて、知らない町にいるんだぞ! ちゃんと説明しろよ!」
「スカル、お前の説明が一番うるさい」
リボーンの一言に、スカルは涙目で震えたが、黙りはしなかった。
「だって怖ぇんだよ! 黒い化け物もいるし、こいつらもなんか怖いし!」
スカルの視線は、藤丸の背後で揺れるジャンヌ・オルタのあたりを行ったり来たりしていた。彼女が睨むと、スカルは半歩下がる。
了平はその横で、ランボを抱え直しながら唸った。
「極限に分かったことは、全員が巻き込まれているということだな!」
「声が大きいです……」
クロームが小さく言う。その声は細いが、周囲の霧を見ている目だけは揺れていない。
「でも、了平さんの言うとおりです。ここにいる人たちの気配、全部この境内へ引っかけられているみたいに感じます」
綱吉は藤丸を抱えた腕に少し力を込めた。
まだ何も解決していない。京子も、ハルも、ランボの家族も、この町の人たちも戻っていない。自分たちがなぜ集められたのかも分からない。
それでも、一つだけ分かった。
ここにいる者たちは、誰かの都合で同じ場所へ並べられている。
* * *
そのとき、境内の空気が変わった。
風が吹いたわけではない。むしろ逆だ。周囲の音が、ほんの一瞬だけ遠ざかる。綱吉が振り向くより先に、白いものが境内へ流れ込んできた。
霧だ。
だが、町を覆った時のように、世界全体を白で塗り潰すほど濃くはない。境内だけへ薄く差し込む。白い幕のようなものが、一度だけ社の前を撫でた。
全員が身構える。
獄寺が綱吉の半歩前へずれ、山本も位置を変える。クロームは息を止めるようにして視線を細め、リボーンを含めた六人の小さな身体が一斉に白の中心を見る。
霧が引く。
そこに、一人の少女が立っていた。
白い帽子。
深い青紺色の髪。
年齢は十代前半に見える。
小さな赤ん坊たちの中へ混ざれば、逆に異質さの方が際立つはずなのに、不思議と境内の空気はその登場を最後の一枚として受け入れてしまう。
ユニだった。
五人の小さな赤ん坊たちとリボーンが、その姿を見た瞬間に動く。誰より先に距離を詰めたのは、三つ編みの赤ん坊だった。続いてコロネロが位置をずらし、マーモンも視線だけは一気に鋭くなる。リボーンですら、その目の奥に一瞬だけ露骨な緊張を見せた。
「ユニ!」
複数の声が重なった。
呼ばれた少女は少しだけ目を瞬かせ、それから周囲を見回した。困惑している。だが、それだけではない。直前までいたはずの場所と、今自分が立っている場所とがまるで繋がっていないことへの戸惑いが、表情の奥に残っている。
「……ここは……並盛、ですか?」
声は静かだった。けれど、問いの中身は静かではない。
ユニを気遣う声がいくつも飛ぶ。状態はどうか、怪我はないか、何があったか。問いは多い。ユニは答えるまでに少しだけ間を置いた。答えを探しているというより、見えているはずのものがうまく繋がらないことに戸惑っているようだった。
「さっきまで……γや、白蘭たちと一緒にいたはずなんです。おしゃぶりを受け継いで、その直後で……それなのに、気づいたらここにいて」
綱吉の表情が止まった。
白蘭。
その名が出た瞬間、空気が変わる。
未来で自分たちを追い詰めた男の名を、忘れられるはずもなかった。了平も山本も反応したが、一番露骨だったのは獄寺だった。肩がぴくりと強張り、目つきが一段深くなる。
「……γも、いたのか」
その名前を口にした声は低かった。敵として戦った相手であり、最後には同じ場所へ立った相手でもある。因縁が単純ではないぶん、反応も鈍くならない。
ユニはその変化に気づきながらも、言葉を続けた。
「でも、そこから先がはっきりしないんです。掴めるはずの流れに、急にノイズが入って……本来つながるはずの先が、途中で途切れてしまうみたいに」
一度、呼吸を整える。
「分かることもあります。……戦いの気配が強くなっていくこととか、ここに集められていることとか。でも、それとは別に、ひとつだけ頭に残っている単語があって……」
そこで、ユニは少しだけ迷ってから言った。
「……代理戦争、という単語です」
その単語が落ちた瞬間、今度は綱吉たちがはっきり反応した。
「代理戦争?」
綱吉はすぐに聞き返した。初めて聞く言葉だ。意味も分からない。けれど、今この場の空気がそれを無視して先へ進めないことだけは分かった。
獄寺も眉を寄せる。
「なんだ、その単語は」
山本も軽くは流さない。
「ユニには、心当たりがあるのか?」
ユニは困ったように首を横へ振る。
「その単語だけは、先に頭へ浮かぶんです。でも、どうして浮かんだのかも、そこにどんな意味があるのかも、まだ分かりません」
答えになっていない。だが、誤魔化しでもない。分からないものを分かるとは言わない。その誠実さが、かえって場を静かに緊張させた。
リボーンが目を細める。
「少なくとも、こっちに説明してくれる親切なやり方じゃねえ」
その一言で、綱吉にも伝わった。これは何かの形式を借りている。だが、必要な説明だけは落としている。
同時に、藤丸の背後でエミヤたちの輪郭がもう一段だけ濃くなる。ユニが現れたことと、この境内そのものの空気が変わったことで、さっきよりもしっかりそこに立てるようになったのだろう。藤丸がわずかに息を吐いたことで、綱吉はそれに気づいた。
次の瞬間、何もない空間に重みが生まれた。
音はない。
だが、そこにある、と全員が同時に理解する。
黒いケース。
六人の小さな赤ん坊たちの前に、それぞれ一つ。
最後に現れたユニの前にも一つ。
そして、藤丸の前にも、同じ形のケースが一つ。
最初からそこに置かれていたような自然さなのに、一瞬前まで絶対になかったと断言できる不気味さで、八つの黒が社前へ並ぶ。
綱吉の指がわずかに動く。獄寺と山本も、次に何が起きるか分からないまま身構える。藤丸は息を止める。エミヤたちも視線を落とした。
最初に前へ出たのは、リボーンだった。
「ユニを下げろ」
短く指示が飛ぶ。周囲の小さな赤ん坊たちがそれへ即応する。コロネロと三つ編みの赤ん坊が位置をずらし、ユニの前へ半歩ぶん壁を作る。マーモンは視線を外周へ流し、ヴェルデはケースそのものより、その周囲で何が起きているのかを読むように目を細める。
綱吉にも指示が飛んだ。
「お前らも警戒しろ。何が来てもいいようにしろ」
綱吉は短く頷き、藤丸を抱え直す。獄寺と山本が左右へ開く。クロームは少し後方へ下がり、了平は眠るランボを支えたまま、それでも踏み込める位置を保った。
リボーンが一歩前へ出る。
黒いケースへ手を伸ばす。
小さな手が、蓋へ触れた。
その瞬間、全てのケースが同時に開いた。
音はなかった。だが、閉じられていたものが一斉に役目を持たされたことだけは分かる。中に収められていたのは腕時計だった。だが一本ではない。四本。おしゃぶりを模した意匠を持つ一本と、太い一本、それに細い二本。
次の瞬間には、ケースの中から光が走っていた。
リボーンの前のケースから伸びた四本の光のうち、一本はリボーン自身へ。おしゃぶりを思わせる意匠のついた時計が、その腕へ強制的にはまり込む。一本は綱吉へ飛ぶ。残る二本は、その場にいた獄寺と山本の手首へ、まるで最初からそう決まっていたみたいな正確さで巻きついた。
獄寺が息を呑む。山本が手首を見る。
「……なんだ、これ」
「勝手に、はまったな」
藤丸の前のケースからも、同じ数の光が走る。
一本は藤丸自身へ。
おしゃぶりを思わせる意匠を持ちながら、他のものと少しだけ違う時計だった。綱吉には、それが何なのかまでは分からない。ただ、藤丸の首元にある硬い異物と、今手首へ巻きついた時計とが、同じ方向を向いているような嫌な感じだけがした。
一本はマンドリカルドへ。
太いバンドを持つ、一本。
残る二本はエミヤとジャンヌ・オルタへ飛ぶ。
今なお輪郭の薄い三騎の腕へ、光そのものが叩きつけられるみたいに食い込み、そこへ存在を固定する。マンドリカルドが一拍遅れて、自分の手首を見下ろした。
「え、ちょ、待っ……」
だが混乱はそこで終わらない。
他の六つのケースからも、同じように四本の光が走る。
境内にいる小さな赤ん坊たちには、おしゃぶり型の一本が。
光はそのまま、ここにいない誰かへ向かっても伸びていく。境内の外、並盛町のどこかにいるはずの相手へ、迷いなく飛んでいくその様子を見ているだけで、この場にいない者にも割り当てがあることは十分伝わった。
そして、光が止んだ。
手首へ巻きついた時計だけが残る。
次の瞬間、理解が来た。
耳からではない。
誰かの声でもない。
役目だけが最初から完成した形で、拒否する隙間もなく頭の中へ流れ込む。
戦いの形式。
参加者の役割。
勝者へ与えられる報酬。
敗北が何を意味するか。
アルコバレーノウォッチ、ボスウォッチ、バトラーウォッチ。
藤丸は、これを武器だとは受け取れなかった。手首から力が湧く感覚はない。代わりに、自分がどの位置へ置かれたのかだけが、骨の内側へ押し込まれてくる。誰が代表で、誰が守る側なのか。時計は腕を飾るためではなく、この町へ役目を刻むために巻きついていた。
そして、この歪な盤面のルール。
綱吉の喉が一瞬だけ詰まった。獄寺が歯を食いしばる。山本もさすがに笑わない。クロームは肩を小さく震わせ、了平は眉を寄せる。ユニは帽子のつばの下で静かに目を伏せる。六人の小さな赤ん坊たちも、それぞれ違う反応でその内容を受け止めていた。
そして、マンドリカルドだけが、数拍遅れて全部を飲み込んだ。
自分の手首。
太い一本。
流れ込んだ役割。
その重み。
顔色が変わる。
目が見開かれる。
呼吸が一段ずれる。
「いや、待って待って待って! おかしいでしょこれ! なんでよりによって俺がボスなの!? 普通こういうの、もっとちゃんとしたやつがやるもんじゃないの!?」
場違いな絶叫が、境内に響いた。
その声に答えるように、七つのウォッチが同時に淡く光った。
町の外周を囲う白い霧の向こうで、何かが、笑うように盤面を開いた。