仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#4-3

2019年編 #4-3

 

S.H.I.F.T.本部——地殻の脈動すら微かに伝わるこの場所に造られた会議室は、厚いコンクリートと特殊合金の壁で外界から完全に隔絶されていた。絶え間なく低い機械音が重く漂い、空気は乾ききり、温度は精密に一定に保たれている。だが今日、この無機質な空間には、鉛を溶かしたような重苦しい緊張感が渦巻き、呼吸すらわずかに苦しく感じられるほどだった。

 

中央のテーブルに据えられた大型モニターが、青白い冷たい光を室内に投げかけている。解析班が徹夜で叩き続け、先ほどようやく復元に成功したデータ——無数の数式、複雑に交錯する関連図、暗号の残骸が並び、まるで長い間封じられていた悪夢の断片が画面上に浮かび上がっているようだった。

 

三原は背中を少し丸め、画面の文字を凝視したまま、ゆっくりと深く息を吐いた。吐き出された息が白く一瞬宙に浮かび、消えるのを見届けるように、彼は静かに、だがはっきりと口を開く。

 

「刈谷派が隠し持っていた秘匿データベース——解析にようやく目途が立った。最初は多重に施された暗号とプロテクト、時間経過で自動消去する仕掛け、さらに偽造された虚構の記録の壁に阻まれ、核心に届くのは不可能かと思われた。だが諦めずに追跡を重ねた結果、消されるはずだった断片をつなぎ合わせ、事実の輪郭を浮かび上がらせることができた」

 

手元のキーに指を滑らせると、モニターの画面が切り替わる。古い紙の記録をスキャンしたようなぼやけた輪郭の中に、名前、生年月日、入所日、退所日、空白だらけの備考欄——それはすでに廃墟となり、公式記録からほとんどの痕跡が消された孤児院の、生の内部名簿だった。

 

「これが、公の資料には一切記載されていない真の記録だ。当時この施設で何が行われていたのか、そしてそこにいた子供たちが何を運命づけられていたのか——その答えが、この一覧の中に隠されている」

 

紫苑、蒼、そして少し後方に立つ朔也の3人は、息を呑んで画面に視線を釘付けにする。室内の空気が一瞬で凍りつき、時間までもが止まったかのような静寂が落ちる。

 

その中で、紫苑の視線がある名前の行で硬直する。喉の奥が締めつけられるような圧迫感に耐えながら、彼は震える声でその名を読み上げた。

 

「星川……大悟」

 

瞬間、背筋を氷水が一気に流れ下るような悪寒が全身を貫く。指先まで痺れ、心臓が激しく波打ち、まるで胸の内で何かが崩れ落ちる音が聞こえるようだった。

 

三原はそんな紫苑の反応を静かに見つめ、言葉を続ける。その声は低く淀みなく、まるで封印された歴史の暗部を告げるかのような重みを帯びていた。

 

「明らかになった事実は、想像の遥か上を行く残酷なものだ。あの施設は表向き、親を失った子供たちを保護し育てる福祉施設を装っていた。だが実態は——刈谷義孝率いる刈谷派が、『実験に適した人間』、すなわち『検体』となり得る存在を、安全かつ効率的に集め、管理し、育て上げるための『収穫場』に過ぎなかったのだ」

 

言葉の重みが空気を圧縮し、3人の肩にのしかかる。

 

「彼らが最も狙ったのは、成長途上にある子供たちだ。細胞の適合性が高く、外部からの変異要因を受け入れやすい——その身体に『ロイミュード細胞』を投与し、時間をかけて融合させ、完全な適合体へと仕立て上げる。それが、何年にもわたってこの施設で密かに続けられていた恐るべき計画の核心だった」

 

この瞬間、紫苑の心の奥深くに長い間封印され、霧の彼方に追いやられていた幼い記憶の蓋が、音を立てて弾け飛んだ。

 

曖昧だった幼い日々の断片が、鮮明な映像となって脳裏に蘇る——

ツンと鼻を突く強い消毒液の臭い。冷たく磨き上げられた白いタイル張りの壁と床。どこまでも無機質な待合室。

 

白衣を着た大人たちが浮かべる、機械的で感情のない「優しい」笑み。「予防接種だからね。少し我慢すればすぐ終わるよ」——何度も何度も繰り返された同じ台詞。

 

太い注射針が眼前に迫り、恐怖で体を強張らせ、手を握り締めていた自分。その隣に座っていた、まだ小さな背丈の少年・大悟が、わざとにっこりと笑って言った言葉。

 

「大丈夫だよ、そんなに痛くないって。もし痛かったら俺が代わりに叫んでやるからさ」

 

無邪気さというよりは、不安を隠そうとする幼いなりの強がり——だがその笑顔の裏では、すでに二人の運命を定める毒が、静かに身体へと忍び込もうとしていたのだ。

 

紫苑は口の中がからからに乾き、喉の奥から絞り出すような声を漏らす。

 

「……あれは……予防接種なんかじゃ、なかった」

 

全身が震え、膝から力が抜けて崩れ落ちそうになる。これまで自分が信じ、抱えてきた過去が、一瞬で偽りに塗り替えられていくような感覚——信じるべきものをすべて奪われる絶望が胸を締めつける。

 

「そうだ」

 

三原の声が、まるで現実を突きつけるように重く響く。

 

「紫苑。お前が受けた注射、星川大悟が受けた注射、この名簿に名のある多くの子供たちが受けたそれらは、すべて『ロイミュード細胞』の投与実験そのものだった。適合すれば未知の力を得、拒絶すれば細胞に身体を蝕まれて死ぬ——そんな命がけの選別が、何の疑いも持たない無垢な子供たちに対して、平然と行われていたのだ」

 

画面が再び切り替わり、細胞の変化プロセスを示す複雑なグラフと図式が浮かび上がる。

 

「ここまでの解析で導き出された結論はこうだ。紫苑、星川大悟……お前たちはあの施設に入った時点で、すでに『第3世代ロイミュード』となるための種を体内に埋め込まれた生贄だった。外見は普通の人間のまま成長しながら、内側では細胞がゆっくりと融合を進め、いつか来る覚醒の時を待つように仕組まれていた。そして——さらに衝撃的な事実がある」

 

三原は言葉を区切り、次の瞬間、画面中央に一つの名前を大きく表示させた。

 

西城 ちひろ

 

「彼女もまた、別の系列施設で同じ実験を受け、第3世代の適合候補者として登録されていたことが確認された」

 

「ちひろ……!」

 

朔也が鋭く息を呑み、拳を固く握り締める。指の骨が白く浮き出し、爪が掌に食い込んでわずかに血が滲むほどだった。紫苑がこれまで命を賭けて守り、その無垢さと普通の未来を信じ続けてきた少女もまた、幼い頃からこの悪魔の計画に組み込まれ、身を汚され、運命を定められていたのだ。何も知らないまま、ただ時間が過ぎるのを待たされていただけだった。

 

蒼はこのあまりに残酷な事実に、眉間に深い皺を刻み、顔を怒りと苦痛で歪める。一歩前に踏み出し、三原を真っ直ぐに睨みつけた。

 

「……つまり、これは全部俺の親父の仕業だというのか?刈谷義孝が、何の罪もない子供たちの人生も未来も、最初から踏みにじり、弄び、自分の野望のための使い捨ての駒として育てようと企んでいたというのか!?」

 

「その通りだ」

 

三原は蒼の激しい怒りを正面から受け止め、揺るぎなく頷く。

 

「ロイミュードには明確な開発段階と進化の系譜が存在する。最初期に作り出されたのが、刈谷がかつて紫苑から採取した細胞を元に生み出した第1世代——不安定で短命なため、早い段階で廃棄された記録が残っている。次に、人工的な生体組織を基盤に試験的に作られたのが、レイジロイミュードやクライロイミュードといった第2世代。今まで我々が戦ってきたロイミュードの大半がこの世代だ。だが刈谷が真に目指したのは、それらの不完全な存在ではなかった」

 

言葉が進むごとに、刈谷の恐ろしい構想の輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。

 

「彼が求めたのは、生身の人間、特に可能性に満ちた子供の身体に直接細胞を融合させ、人間本来の潜在能力を引き出しつつ、完全に制御可能な個体へと変貌させること——『最強にして完全な戦士』。それが第3世代のコンセプトであり、彼らが長年秘密裏に進めてきた計画の頂点だったのだ」

 

「これまで我々が戦ってきたロイミュードの行動の意味も、これで明らかになる。彼らの真の目的は、単に破壊をまき散らすことではない。可能な限り多くの人間に細胞を植え付け、新たな適合者を生み出すことで種族を増やし、進化を加速させる——それこそが刈谷が設計した、『無限に続く量産システム』の完成形だ」

 

会議室に、今度は息が詰まるような重い沈黙が落ちた。大気全体が圧縮され、肺の奥まで届く酸素が薄くなっていくような感覚に包まれる。

 

紫苑は無言で、自分の右腕から肩、側頭部へとかけて銀色に輝く機械の体——サイボーグとして改造された部分を、じっと見つめていた。

 

大悟が怪物の王として君臨し、多くの命を奪う存在へと変わったのも、ちひろが抗いようもない運命の果てに哀れな結末を迎えたのも、そして自分自身がこのような姿となり、戦い続ける宿命を背負ったのも——すべては幼い日の一本の注射から始まり、最初から刈谷の描いた筋書き通りに運んでいたのだろうか。

 

過去は変えられず、身体に刻まれた細胞の運命も消すことはできない。そう思うと、心の底から深い絶望が湧き上がり、全身を冷たく満たしていく。

 

「……俺たちは最初から、怪物になるためだけに生かされ、育てられていたというのか」

 

紫苑の声は低く震え、底知れぬ虚しさと諦観が濃くにじんでいた。

 

だが次の瞬間、三原がその絶望を断ち切るように、力強くはっきりと声を張り上げた。

 

「いや、違う」

 

厳しい響きの中に、深い慈しみと確かな信頼が込められた一言だった。

 

「確かにお前たちは、刈谷の邪悪な計画に利用され、生まれ持った運命を歪められた犠牲者だ。だが忘れてはならない——力そのものに善悪はない。本質的なのは、その力を使う者の意志だ。今この瞬間、お前たちは与えられ、あるいは埋め込まれた力を、自分自身の選択で使っている。人々を守り、悪を討ち、正義を貫くために戦っている——それこそが、矢切が最後の最後まで命を懸け、お前たちに託し、遺そうとした願いそのものだ」

 

蒼はその言葉に深く頷き、紫苑の横顔を、同じ痛みを分かち合うような真摯なまなざしで見つめた。

 

「紫苑……俺の身体にはロイミュード細胞なんて存在しない。だが俺たちは根本の部分で何も変わらない。俺だって親父という男によって、生まれた時から人生を狂わされ、運命を翻弄され続けてきた被害者の一人だ。憎しみも苦しみも、他人事なんかじゃない」

 

紫苑は、機械の瞳が放つ鋭い光で蒼を見返す。絶望に曇っていた瞳の奥に、わずかながらも確かな光が戻り始めていた。

 

「……ああ、そうだな。俺もお前も、刈谷義孝という巨大な闇によって、強引に運命を捻じ曲げられた同士だ。だが同時に、あの男の罪の深さ、その呪いの重さをこの身と血肉に刻み込まれた俺たちだけが、その罪の行く末を見届け、清算し、この長く続く悪夢に決着をつけることができる存在でもある」

 

室内には再び沈黙が戻った。だがそれは、先ほどまでの絶望だけが満ちた暗い沈黙とはまるで性質が違っていた。

 

「俺も戦う……ちひろのためにも、彼女に託された未来のためにも」

 

朔也が静かだが力強く言葉を紡ぐ。

 

紫苑の機械の瞳が放つ鋭い光、蒼の心の奥から燃え上がるような熱いまなざし、後方から二人を見守る朔也の決意に満ちた視線——すべてが一点、悪の根源である刈谷義孝と、その背後に広がる闇のすべてへと向けられていた。

 

過去に無理やり押しつけられた「怪物」という名の宿命。

それをただ受け入れて滅びるのではなく、自らの強い意志で塗り替え、悪を砕くための刃へと鍛え上げ、正義のための力へと昇華させる。

 

静かだが、炎のように熱く確かな決意が3人の心の奥底に深く根づき、冷たい地下の空気さえも、その意志の熱でゆっくりと照らし始めていた。

 

彼らの戦いの意味が、この瞬間から新たな形で定められたのだった。

 

 (続)

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