仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#2-6

2014年編#2-6

 

港湾地区、コンクリート造りの倉庫が軒を連ねる一角。夜の闇の中、オレンジ色の街灯がぽつりぽつりと立ち、湿った地面に不規則で歪な光の輪を投げかけていた。潮風が塩気と埃っぽさを運んできて、静かな空気はどこか重苦しく、張りつめた緊張感に満ちている。

紫苑はライドストライダーのブレーキを強く握り込み、車体を鋭い音と共に急停止させた。タイヤがコンクリートを削るような音が響き、それが消え去った瞬間、代わりに重く低い金属音が、遠くから徐々に近づいてくるのをはっきりと聞き取った。

視界の先、街灯の光が届かない暗がりの中から、巨体がゆっくりと姿を現す。硬い金属同士が擦れ合う音、地面が軋むような重い足音——間違いない、ロイミュードだ。しかも一体だけではない。二つ、三つと輪郭が浮かび上がり、それぞれが獲物を探すようにゆっくりとこちらに向かって進んでくる様子が見えた。

紫苑はリュックからシフトカーを取り出し、腰元のドライバーに素早く装着する。手の平には汗が滲み、心臓はいつもより速く、力強く鼓動していたが、その中には恐怖よりも、戦わなければならないという義務感と、自分にしかできないことだという覚悟が占めていた。

「……変身!」

鋭い叫び声が夜の空気を震わせた瞬間、紫苑の全身を青い光が弾けるように包み込んだ。光の粒子が渦巻きながら一つに集まり、瞬く間に流線型の紺碧の装甲を形作っていく。頭部には滑らかな曲線を描くヘルメットが装着され、胸元や肩、手足の各部には空気抵抗を極限まで抑えた軽量かつ強靭な外殻が完成する。

——仮面ライダーGT・タイプツーリスモ。

最高速と機動力を重視したこのフォームは、紫苑が最初に得た力であり、自分自身に最もしっくりとなじむ形だった。

だが装着が完了した瞬間、またあの感覚が紫苑を襲った。

脳の奥深く、まるで頭蓋骨の内側から直接揺さぶられるような鋭い不快感、そして視界の隅々まで広がる情報の洪水。網膜に直接焼き付くかのような鮮明なHUDが瞬時に展開され、敵の位置、移動速度、体表面の温度、装甲の厚み、さらには弱点となり得る部位まで、ありとあらゆるデータが文字やグラフ、数値となって流れ続ける。初めのうちはこの情報量に圧倒され、頭が割れるような痛みを感じたものだが、戦いを重ねるうちに紫苑の体は順応し、今ではこれらの情報を瞬時に理解し、自分の動きに反映させることができるようになっていた。

(来る……!)

システムが敵の行動を予測し、次の瞬間の動きを先取りするように紫苑の体を最適化していく。筋肉の緊張度、重心の位置、視点の向き——全てが自動的に調整され、戦いに最も適した状態が作り出される。

ロイミュードの一体が低く唸り声を上げ、重い腕を振り上げて一気に打ち下ろしてきた。鈍く重たい空気の塊が迫ってくるのを感じるが、紫苑は紙一重の差で体をひねり、その攻撃をかわす。風圧が装甲の表面を擦り抜け、次の瞬間には彼の姿はすでに敵の懐に入り込んでいた。

「こっちだ!」

タイプツーリスモの真骨頂は、その圧倒的な速さにある。まるで空気さえも切り裂くかのような高速移動で、紫苑は敵の周囲を駆け回り、次々と鋭い連撃を叩き込んでいく。拳や蹴りが金属の体に激突するたびに火花が散り、小さなひびが生まれ、青白い液体が滲み出す。敵は自分の攻撃が全く届かないことに苛立ち、無闇に手足を振り回すばかりで、次第に動きが鈍くなっていく。

間合いを一気に詰め、体を回転させながら放った回し蹴りが、ロイミュードの頭部にクリーンヒットする。重たい衝撃音が響き、敵は体をくの字に曲げたかと思うと、次の瞬間には大きな爆発を起こし、無数の破片となって闇の中に消えていった。

一体を倒した——紫苑は胸をなでおろし、次の敵に視線を向ける。だが、その安堵感はほんの一瞬で打ち砕かれた。

ガシャン、ガシャン——

さっきまでの個体とは比べものにならない、さらに重厚で低い金属音が地面から伝わってくる。暗がりの中から新たな個体が姿を現した瞬間、紫苑は息を呑んだ。

他の個体よりも二回りは大きく、体表面は厚い装甲板で隙間なく覆われ、角ばった無骨な姿は見る者に強い威圧感を与えている。足元のコンクリートは、その巨体の重みでわずかにひび割れているほどだ。赤い目がじっとこちらを見据え、ゆっくりと、だが確実に前に進んでくる。

「今度は……重い……!?」

紫苑は間合いを詰め、これまで同様に鋭い拳を敵の胴体に叩き込んだ。だが次の瞬間、彼は自分の感覚が信じられなかった。

拳が敵の体に触れた感触は、まるで分厚い鋼鉄の壁を殴りつけたかのようなものだった。衝撃が自分の腕にまで反発して戻ってきて、紫苑は思わず顔を歪める。腕全体が痺れ、力が抜けていくような感覚に襲われた。HUDに表示されたデータを見ると、敵の装甲硬度はこれまで遭遇したどの個体よりもはるかに高く、タイプツーリスモの攻撃力では、表面にわずかな傷をつけるのが精一杯で、致命的なダメージを与えることは不可能だと示されていた。

スピードだけでは突破できない——圧倒的な防御力が、紫苑の前に立ちはだかった。

敵が大きな腕を振り上げて攻撃してくる。紫苑は慌てて後ろに跳び退き、かろうじてそれをかわすものの、地面に叩きつけられた腕からは衝撃波が生まれ、周囲のコンクリートが砕け散った。このままでは自分が倒されるのも時間の問題だ、そう感じた瞬間、視界のHUDが再び点滅を始めた。

新たなフォームチェンジのガイドが、鮮やかなオレンジ色の文字で浮かび上がる。それを見た瞬間、紫苑は三原から渡されたあのシフトカーのことを思い出した。青いものとは違う、鮮やかなオレンジ色をしたシフトカー。

「そうだ……これを使うんだ!」

紫苑は素早くオレンジ色のシフトカーを取り出す。表面に刻まれた模様が街灯の光を受けてきらめき、手の平の中でわずかに熱を帯びているのを感じた。彼はそれを手首に装着されたブレスレット型のデバイスに、カチャリと音がするまでしっかりと装填した。

『MACHINE SET』

 

低い機械音声が響き、次の瞬間——

『TYPE AEGIS』

紫苑の体を覆っていた紺碧の装甲が、まるで殻が割れるように弾け飛び、四散した光の粒子が新たな形を作り始めた。次の瞬間、燃えるような鮮やかなオレンジ色の重装甲が紫苑を包み込んだ。各部には厚い装甲板が追加され、全体的に一回り大きく、重厚なシルエットへと変化する。バイザーの奥に光る単眼は、緑から、深く落ち着いた海のような青色へと変わり、その瞳には確かな力強さが宿っていた。

——仮面ライダーGT・タイプイージス。

攻撃力と防御力を最大限まで高めた、重厚なる戦士の誕生だ。

背中の部分に機械的な作動音が響き、専用武装が現れる。紫苑はそれに手をかけ、一気に引き抜いた。全長が2メートル近くある棍棒状の武器で、表面には複雑な模様が刻まれ、中心部からはオレンジ色のエネルギーがゆっくりと脈打っている。

イージスシャフト。

その重さと手応えが、確かな力を与えてくれるように感じた。紫苑は武器を両手でしっかりと握り、低く腰を落とす。このフォームでは機動力は低下するものの、一撃の破壊力は他の追随を許さない。敵の防御力に負けない力で、真っ向から打ち砕く——それ以外に道はない。

紫苑は重厚な一歩を踏み出し、ゆっくりと、しかし確実に敵に近づいていく。ロイミュードもフォームチェンジによる力の変化を感じ取ったのか、警戒を強め、体を硬くしてこちらを睨みつけている。

距離が詰まった瞬間、紫苑は渾身の力を込め、イージスシャフトを敵の脳天に向けて勢いよく振り下ろした。

「はあああっ!」

凄まじい衝撃波が生まれ、周囲の空気が震え、地面が大きく揺れる。オレンジ色のエネルギーが武器の先端から迸り、敵の厚い装甲に叩き込まれた。今度はさっきとは全く違う手応え——硬いものが砕けるような感触が両手に伝わり、敵は大きく体を仰け反らせ、赤い目が一瞬だけ暗くなった。

敵がひるんだ隙を逃さない。紫苑はシャフトの側面にあるレバーを操作すると、先端部分が展開し、鈍い棍棒から鋭い刃へと変化する。冷たい金属の光が闇の中できらめき、次の瞬間には敵の装甲の隙間に滑り込み、固い外殻を軽々と切り裂いていった。青白い液体が大量に噴き出し、敵の体が大きく震え始める。

トドメを刺す時が来た。

紫苑は手首のデバイスからシフトカーを抜き取り、シャフトの根元にあるソケットへ力強く差し込んだ。

『FULL THROTTLE!』

高らかな機械音が響き渡り、シャフト全体に膨大なオレンジ色のエネルギーが収束していく。光は次第に強さを増し、やがて夜の闇さえも掻き消すほどの明るさとなり、港の空全体を黄金色に染め上げた。

「喰らえ!」

紫苑は体を大きく回転させ、渾身の力を込めて十文字に斬りつけた。光の軌跡が空間を切り裂き、敵の体を正確に両断する。次の瞬間、巨大な爆炎が発生し、轟音が長く響き渡った。熱風が紫苑の体をなでつけ、破片が雨のように降り注ぐが、タイプイージスの重装甲はそれらを容易く防いでくれた。

やがて爆発が収まり、煙が晴れてくると、そこにはもうロイミュードの姿はなく、ただ燃えさしの破片が地面に散らばっているだけだった。

戦いは終わった。

静けさが戻った現場で、紫苑はゆっくりと手首のデバイスに手をかけ、変身を解除した。オレンジ色の装甲が光の粒子となって舞い上がり、消えていくと、汗だくで荒い息を吐く青年の姿が現れた。全身の力が抜け、膝ががくがくと震え出す。紫苑はその場にくずれるように腰を下ろし、冷たいコンクリートの感触を尻に受けながら、荒い息を吐き続けた。

手の平にはまだ、オレンジ色のシフトカーがしっかりと握られていた。戦いの最中に帯びた熱がまだ残っており、じんわりと温かさが伝わってくる。それは勝利の証であり、自分の力の源でもあるはずなのに、紫苑の胸の中には、高揚感や達成感など微塵もなかった。

代わりにこみ上げてくるのは、言いようのない重たい孤独感だけだった。

周囲にはまだ、鉄が焦げる臭いと血なまぐさい臭いが濃く漂っている。破片が散らばり、地面には深い亀裂が走り、さっきまで巨大な怪物が暴れ回っていたことを物語っている。ここで起きたことは、他の誰も知らない。自分が命がけで戦い、誰かを守ったことも、自分の体が少しずつ蝕まれ、残された時間が減っていくことも——これら全ては、自分一人だけが背負っていかなければならない秘密なのだ。

「……ごめん、ちひろ」

ぽつりと、口から言葉が零れ落ちた。風にかき消されそうなほど小さな声だったが、暗い夜の中では、自分の心に直接響くように感じられた。

講義室を飛び出すとき、彼女はあんなに心配そうな顔をして自分を呼んでいた。自分はただ「急用」とだけ言って、何も説明せずに走り去ってしまった。彼女がくれたクッキーも、机の上に置いたまま受け取らずに——あのときの彼女の寂しそうな瞳が、今になって鮮明に思い出され、胸元がきゅっと締めつけられるように痛んだ。

自分が今いるこの場所と、彼女が待っていたあの温かな講義室は、同じ街の中にありながら、まるで別の世界のように遠く隔たっている。一方には笑顔と優しさが溢れ、もう一方には死と破壊だけが横たわっている。自分はこの二つの世界の間を行き来するだけで、どちらにも完全に属することができない浮遊した存在になってしまったのだ。

紫苑はゆっくりと立ち上がり、わずかによろめきながらライドストライダーの元へ向かった。バイクは無傷のまま、静かにそこに佇み、まるで主人の心の内を察しているかのように、低くエンジンの鼓動を響かせている。

ハンドルに手をかけると、冷たい金属の感触が伝わってきた。このバイクも、自分と同じように「世界の裏側」だけを走り続ける存在なのだろう。

紫苑はシフトカーをポケットにしまい込み、ゆっくりとシートに跨った。アクセルを回す指先がわずかに震えていたが、彼はもう迷わなかった。自分が見てしまったもの、自分が負ったもの、自分が守るべきもの——全てを抱えたまま、ただ前に進むしかないのだから。

夜風が頬をなで、髪をなびかせる。紫苑は一度だけ、戦いの痕跡が残る現場を振り返った。そこには何も変わらない暗闇が広がっているだけで、自分がここにいた証など、どこにもなかった。

紫苑はアクセルをゆっくりと捻る。ライドストライダーは低い咆哮を上げ、ゆっくりと走り出した。

街の灯りが遠くに見え始める頃、紫苑はふと思った。こうして戦いが終わって帰るたびに、自分は少しずつ、昔の自分とは違う人間になっていくのではないか——無邪気で、何も知らず、ただ毎日を楽しく過ごしていたあの頃の自分には、もう二度と戻れないのではないか、と。

それでも、自分が選んだ道だ。誰かのために戦い、誰かの笑顔を守るために力を使うことを、自分自身で決めたのだ。

紫苑は空を見上げた。夜の闇の中に、一つ二つと星が瞬いている。その光は遠くて儚く、まるで自分が守ろうとしている日常のように見えた。

彼は再び前を向き、ライドストライダーのスピードを上げる。これから先、どんな困難が待っていようと、どんな孤独が襲ってこようと、自分はこの道を走り続けるだろう。

自分だけが知ってしまった「世界の裏側」から、静かに、そして力強く——

#2完

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