仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#4-1

2014年編#4-1

 

翌日、紫苑は愛車のバイクを走らせながら、止まらない思考の渦の中にいた。

ヘルメット越しに流れる初夏の風は心地よいはずなのに、今の彼にはその感覚さえどこか遠い。頭を離れないのは、昨夜の戦いで出会った男——クライの冷徹な笑みだ。あの男が放っていた、背筋を凍らせるような圧倒的なまでの「悪意」。そして、初めて操った巨大兵器アーセナルライガーの、あまりにも滑らかすぎた操作感。

戦えば戦うほど、自分が人間から遠ざかり、効率的に敵を排除するだけの「装置」へと変質していくような、得体の知れない恐怖が紫苑の胸を締め付けていた。

たどり着いた三原の家は、昼間だというのに厚いカーテンが引かれ、無機質なモニターの光だけが青白く部屋を照らしていた。部屋の空気は重く沈み、サーバーの駆動音だけが規則正しく響いている。

「来たか」

三原は振り向きもせず、キーボードを叩き続けていた。紫苑は促されるまま、古びたソファに腰を下ろす。昨夜の戦いの報告をしに来たはずだったが、三原の表情はすでに次の段階を見据えているようだった。

三原は手を止め、モニターにいくつかのデータを呼び出した。そこには、不気味な4つのシルエットが映し出されていた。

「クライはロイミュードの幹部の一人だ。彼らは他の個体とは一線を画す進化を遂げ、独自の意思と強大な能力を持っている」

三原の声は淡々としていたが、その内容は戦慄を覚えるものだった。

「幹部は全部で4人。『クライ』、『レイジ』、『ラフ』、『フィア』。4年前、人類に反旗を翻し、世界を未曾有の混乱に陥れた主導者たちだ。奴らが再び表舞台に出てきたということは、第二次グローバルフリーズは序曲に過ぎなかったということだ。これから戦いは、単なる怪事件の解決ではなく、人類の存亡をかけた全面戦争へと変わる」

紫苑は画面に並ぶ4つの影を見つめたまま、膝の上で拳を強く握りしめた。これまでの戦いが「練習」に思えるほどの絶望的な戦力差。しかし、彼が今最も恐れているのは、敵の強さそのものではなかった。

「三原さん……俺は、怖いんです」

絞り出すような紫苑の声が、静かな部屋に落ちた。

「昨夜、ライガーを操っている時、不思議な感覚がありました。教わってもいないのに、どう動かせば敵を殺せるのかが、直感的に分かってしまった。その瞬間、俺の中から『怖い』とか『人を傷つけたくない』っていう人間らしい感情が、スッと消えていくのが分かったんです。この戦いに適応すればするほど、自分の中の何かが死んで……俺はただの、血の通わない兵器になっていくんじゃないかって」

三原は作業の手を完全に止め、椅子の向きを変えると、初めて紫苑と正面から向き合った。その鋭い眼差しは、紫苑の心の奥底を見透かそうとしているかのようだった。

「紫苑、よく聞け」

三原の声は、冷徹な科学者のものとは思えないほど重く、そしてどこか祈りにも似た切実さがこもっていた。

「力そのものに善悪は存在しない。火が料理を作ることもあれば、街を焼き尽くすこともあるのと一緒だ。その力が『救い』となるか『呪い』となるかは、常にその力を使う者の『意思』によって決まる。……それを、死ぬまで肝に銘じておけ」

三原は一度言葉を切り、紫苑の目を見つめ直した。

「お前が『誰かを守りたい』という目的、その痛みを失わない限り、お前は力に飲み込まれはしない。人間であることを捨てる必要はない。むしろ、その迷いや弱さこそが、お前が兵器ではなく人間であることの証左だ」

「迷いや、弱さが……」

「そうだ。何も感じずに引き金を引けるようになった時、お前は本当に終わる。だが、今のお前はまだ、自分の変化を恐れることができている。……それでいい」

三原は再びデスクに向き直り、調整中の「第3のシフトカー」の仕様書を手に取った。

「調整中の新型だが、もう少しで完成する。これがお前の新たな『手足』になる。だが、それを使う『心』までシステムに預けるなよ」

「……はい。忘れないようにします。俺が何のためにこのベルトを巻いたのか」

紫苑はゆっくりと立ち上がり、少しだけ軽くなった足取りで部屋を後にした。

一人残された暗い部屋で、三原は去りゆく青年の背中をモニター越しに見つめていた。カチカチと時計の音だけが響く中、三原は深くため息をつき、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

「……そうさ。科学も一緒だ。救うも殺すも、結局は人間なんだ……そうだろう、矢切」

その独り言は、亡き友への懺悔のようにも聞こえた。三原は窓の外を見た。騒がしく動き出した風が、街の街灯を揺らしている。戦いの嵐はすぐそこまで迫っていたが、その嵐に立ち向かう一人の青年の背中には、重責と共に、確かに「人の灯火」が宿っていた。

三原は再びキーボードを叩き始めた。彼にできることは、その灯火が消えぬよう、ただ無機質なデータを積み上げ、最高の「盾」を作り上げることだけだった。

(続)

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