仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#4-3

2014年編#4-3

 

賑やかな昼食後の学食には、揚げ物の匂いと学生たちの熱気が充満していた。窓の外から差し込む日差しは日に日に強まり、本格的な夏の到来を告げている。試験期間が近づき、学内には独特の緊張感が漂い始めていたが、紫苑たちのテーブルだけは、目前に迫った夏休みへの期待で華やいでいた。

「なあ、どうせなら今年は思いっきり遠出したいよなぁ。県外の、ほら、もっと水が綺麗なところにさ!」

悠真が身を乗り出し、スマートフォンの画面でリゾート地の画像をみんなに見せる。その瞳は少年のように輝いていた。

「でも悠真、その前にまずは試験を頑張らないとな。単位を落としたら、海どころか補習で夏休みが消えるぞ?」

朔也が眼鏡を指で押し上げながら、冗談めかして釘を刺す。

「うっ……それは言わない約束だろ、朔也。お前、相変わらず現実的すぎるんだよ」

悠真が顔をしかめると、隣でちひろが楽しそうに笑い声を上げた。

「あはは! でも楽しみだね。いっぱい泳ぎたいな~! 美穂ちゃん、可愛い水着買いに行かないとね!」

「えっ、あ、うん……そうだね。でも私、そういうのあんまり詳しくないから……」

美穂が少し頬を赤らめ、視線を落として恥ずかしそうにする。そんな彼女をちひろが冷やかすように肩を寄せ、テーブルは平和な笑いに包まれた。紫苑もまた、その輪の中で静かに微笑んでいた。この数分間だけは、自分が過酷な運命を背負った戦士であることを忘れ、ただの大学生としての時間を享受していた。

しかし、その平穏は、ポケットの通信機の微かな振動によって無残に引き裂かれた。紫苑の表情が、一瞬で引き締まる。

『——紫苑、聞こえるか。臨海地区の市街地だ。ロイミュードが二体出現、被害が拡大している。至急向かってくれ』

三原の低く、切迫した声が脳内に響く。紫苑は小さく頷き、席を立った。

「……ごめん。俺、ちょっと用事を思い出した。ここで失礼するよ」

唐突な別れに、美穂が不安そうな表情を浮かべて紫苑を見上げる。

「紫苑、もう行っちゃうの? せっかく計画、これから具体的に決めようって言ってたのに」

紫苑は一瞬、足を止めた。美穂の潤んだ瞳と、ちひろたちの怪訝そうな顔。この温かい場所から離れたくないという思いが、心のどこかで叫んでいた。しかし、今この瞬間も誰かが悲鳴を上げているのだ。彼は精一杯の優しい声を作って答えた。

「ああ、ごめん。……でも、海には絶対行くから。みんなとの計画、楽しみにしてる。絶対、間に合わせるよ」

そう言い残し、紫苑は学食を飛び出した。背後でちひろたちの「頑張ってね!」という声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。

紫苑が去ってから数分後、テーブルに奇妙な沈黙が流れた。それを破ったのは、いつも以上に落ち着かない様子の悠真だった。

「おっと、悪い! 実は俺も、今日はもう行くわ」

「え? 悠真、お前もかよ?」

朔也が驚いて声を上げる。

「ああ、今バイト増やしてるんだよ。今からシフト入ってるから、じゃあな!」

悠真は慌ただしくカバンを掴むと、出口へと走っていった。

 

紫苑がバイクを走らせて現場に到着したとき、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

「逃げろ! 早く!」

「助けてくれ、誰か!」

黒煙が立ち上る市街地。そこでは二体の下級ロイミュードが、逃げ惑う人々を嘲笑うかのように蹂躙していた。歩道には無残にひっくり返った車が数台転がり、ガソリンの臭いと火薬の匂いが充満している。

「なんてことを……!」

紫苑はライドストライダーを急停車させ、惨状を凝視した。建物の陰で震える親子、逃げ遅れて怪我を負った老人。その光景に怒りが沸騰した瞬間、彼は信じられないものを目にした。

ひっくり返ったトラックのすぐそば、瓦礫の山に投げ出されるようにして、一人の青年が倒れていた。

「……悠真? 悠真! おい、しっかりしろ!」

紫苑は駆け寄り、青年の肩を揺さぶる。間違いなかった。つい数十分前まで、学食で海の計画を楽しそうに語っていた親友の悠真だ。額から血を流し、意識を失っている。バイト先へ向かう途中で、この惨劇に巻き込まれたのだろうか。

「悠真……嘘だろ……」

紫苑の指先が、怒りで細かく震える。親友の命を、自分たちのささやかな未来を、こいつらは土足で踏みにじったのだ。

二体のロイミュードが、鈍い金属音を立てながら紫苑へと迫ってくる。その赤い目が、無機質な殺意を宿して光った。

紫苑はゆっくりと立ち上がった。その瞳からは先ほどまでの迷いや恐怖は消え去り、ただ激しい憤怒と、大切なものを守り抜くという鋼の意思が宿っていた。

腰のドライバーにシフトカーを差し込む。

『MACHINE SET』

「変身!!」

『TYPE TURISMO!』

青い光が爆発的に広がり、紫苑の体を紺碧の装甲が包み込む。タイプツーリスモ——疾走の戦士が、破壊された街の真ん中に君臨した。

「お前ら……よくも、悠真を...!」

紫苑は一気に地面を蹴った。加速の衝撃で周囲の火花が吹き飛ぶ。

「絶対に許さない! お前たちは、ここで俺が叩き潰す!!」

タイプツーリスモの超速の連続攻撃が、ロイミュードの胸部を捉えた。青い軌跡を描きながら、紫苑は親友の無念と、踏みにじられた日常の怒りをその拳に込め、鋼鉄の怪物たちへと猛烈に立ち向かっていった。

海へ行くという約束を果たすために。一人の人間として、そして戦士として、紫苑の孤独な戦いが再び幕を開けた。

(続)

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