2014年編#4-4
戦いの舞台は、炎上する市街地から、皮肉にも高くそびえ立つ某ビルの屋上へと発展していた。白昼の太陽が容赦なく照りつける中、紺碧の装甲を纏った紫苑——仮面ライダーGTは、二体のロイミュードを相手に激しい火花を散らしていた。
「こいつら、昨日までの下級個体とは反応速度が違う……そこそこやる……!」
タイプツーリスモの加速性能を以てしても、二体の連携は執拗だった。一体が盾となり、もう一体が死角から鋭い爪を突き出す。紫苑は高速移動による残像を残しながら攻撃を回避し、強化繊維のスーツに包まれた拳でカウンターを叩き込む。コンクリートの床が衝撃でひび割れ、熱波が周囲の空気を歪めていた。
紫苑は一気に勝負を決めるべく、シフトカーを操作してブーストをかけた。青い閃光となって敵の懐へ飛び込もうとした、その瞬間。
「——その『速度』、俺の前では止まっているも同然だ」
冷徹な声が響くと同時に、紫苑の横側から黒い影が割り込んできた。
「がはっ……!?」
凄まじい衝撃が脇腹を襲い、紫苑の体は数十メートルも吹き飛ばされた。屋上の給水タンクに激突し、金属がひしゃげる凄まじい音が響く。視界を埋め尽くすエラーログを振り払いながら顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた黒衣の男——クライが立っていた。
「クライ……! 」
「試作機にしてはよく保っている。だが、終わりは常に唐突なものだ」
クライの肉体が結晶化し、昼間の陽光を不吉に反射する金属の怪物へと変貌を遂げる。クライロイミュード。その背後からは、巨大な鎌が死神の鎌のように鎌首をもたげた。
「お前一人に、三体か……!」
紫苑は必死に態勢を立て直すが、状況は最悪だった。二体の下級ロイミュードが左右を固め、正面には圧倒的な圧力を放つクライが鎮座する。
「お前の『進化』を見せろ。それとも、ここで部品として破棄されるか?」
クライが命じた瞬間、三体による同時攻撃が開始された。紫苑はタイプツーリスモの超加速を維持し、襲いくる弾丸と爪を紙一重でかわしていくが、クライの大鎌が放つ真空の刃が逃げ道を塞ぐ。
「くっ……おおぉぉぉ!」
紫苑は腕の装甲を盾にして鎌の一撃を受け止めるが、その威力は想定をはるかに超えていた。衝撃が全身の神経を焼き、火花が視界を遮る。ロイミュードたちの追撃が容赦なく紫苑を打ち据え、紺碧の装甲は次第に輝きを失い、ボロボロに崩れていく。
「これ……以上は……!」
三原からの警告通信が耳の奥で鳴り響く。システムの限界。だが、紫苑の脳裏には先ほど倒れていた悠真の姿と、学食で交わした「海へ行く」という約束が焼き付いていた。
「まだだ……まだ、終われないんだ!」
紫苑が最後の一撃を放とうと踏み込んだ瞬間、クライロイミュードがその懐に音もなく滑り込んだ。大鎌の柄が紫苑の胸部中央、コアユニットを的確に穿つ。
『CRITICAL DAMAGE. SYSTEM DOWN』
無機質なシステムボイスが告げると同時に、青い光が霧散した。激しい衝撃と共に変身が解除され、紫苑は生身の姿でコンクリートの上に転がった。
「がはっ……はぁ、はぁ……」
肺から空気が押し出され、視界がチカチカと明滅する。立ち上がろうとするが、指先一つ動かすことさえままならない。頭上の太陽が、今の紫苑には冷たく残酷なスポットライトのように感じられた。
クライロイミュードがゆっくりと歩み寄り、紫苑を見下ろした。その影が、無力な彼を完全に覆い尽くす。
「終わりだ。期待外れだったな、人間」
クライが軽く手をかざすと、不可視の衝撃波が放たれた。それは紫苑の足元を直撃し、屋上のフェンスごと床を粉砕した。
「あ……が……っ!」
足場を失った紫苑の体が、宙に浮く。ビルの縁から外れた彼の視界に映ったのは、真っ青な夏の空と、遠くに見える輝く海の色だった。
紫苑の体は重力に従い、高層ビルの屋上から、奈落の底へと投げ出された。
(続)