2014年編#4-6
「うおぉぉぉぉ!」
紫苑の咆哮が、戦場となったアスファルトの熱気を切り裂いた。オレンジの重装甲を纏ったタイプイージスの姿は、まさに揺るぎない城塞そのものだった。紫苑は迷うことなく、巨躯を誇る三体の敵に向かって真っ向から突撃を開始した。
背後から迫る下級ロイミュードの爪が装甲を激しく叩き、火花が散る。だが、タイプイージスの防御力は微塵も揺るがない。衝撃をその身で受け止め、重厚な質量を武器にして強引に押し通る。紫苑は手に持ったイージスシャフトのスイッチを押し込み、隠されていたブレードを展開。長大な「ナギナタモード」へと切り替えた。
『FULL THROTTLE!』
ベルトから引き抜いたシフトカーをシャフトの溝に叩き込む。エネルギーが臨界点まで充填され、刃先がまばゆい光を放った。紫苑は大きく踏み込み、円を描くようにシャフトを横に薙ぎ払った。
「はああぁぁぁ!」
広範囲に放たれた一閃は、二体の下級ロイミュードをまとめて両断した。一拍置いて、爆炎が二つの影を飲み込む。その余波がクライを襲い、不意を突かれた彼は大きく仰け反った。
「くっ……ならば、これでどうだ?」
クライは忌々しげに吐き捨てると、破壊されたロイミュードの残骸に向けて手をかざした。散らばった部品が磁石に吸い寄せられるように集まり、急速に肥大化していく。それは、前回紫苑を苦しめた巨大ロイミュード——しかし今回は、その時よりも一回り以上大きく、全身が醜悪な金属の棘で覆われていた。
巨大な影が紫苑を覆う。眼前にそびえ立つ山のような巨体と、不気味な沈黙を保つクライ。絶望的な状況。だが、今の紫苑に迷いはなかった。
「三原さん! ライナーを!」
『あ、ああ……! 分かっている、今そちらに向かわせる!』
通信の直後、地鳴りのような咆哮とともに「アーセナルライナー」が戦場に乱入した。六つの巨大な車輪が地面を削り、巨大ロイミュードの足元へと猛スピードで突進する。
紫苑はクライと対峙し、ライナーは自律制御システムによって巨大ロイミュードを足止めする。巨大な怪物の質量攻撃をライナーの分厚い装甲が弾き、搭載された全砲門から一斉に火を噴いた。連続する砲撃が怪物の巨躯を揺らす。
その傍らで、紫苑はイージスシャフトのブレードを格納し、再び「シャフトモード」へと戻した。
『FULL THROTTLE!』
エネルギーを一点に集中させる。紫苑は全身のバネを使い、渾身の力でシャフトを振り抜いた。
「うおぉぉぉぉ!」
剛速のフルスイングがクライの胸部を直撃する。凄まじい衝撃音とともに、クライの体は紙屑のように吹き飛び、背後でライナーの砲撃に耐えていた巨大ロイミュードの胸元へと激突した。
クライと巨大ロイミュード。二つの悪意が一直線上に重なる。
『TYPE TURISMO』
紫苑は瞬時にシフトカーを入れ替えた。重厚なオレンジの装甲が弾け飛び、しなやかで俊敏な紺碧の姿——タイプツーリスモへとチェンジする。彼はアスファルトを蹴り、弾丸のような速度で疾走を開始した。
同時に、背後からは巨大ロイミュードを仕留めるべく、アーセナルライナーが加速してくる。紫苑はそのタイミングを完璧に見計らい、猛進するライナーを踏み台にして高く跳躍した。
タイプツーリスモの驚異的な跳躍力に、ライナーの突進エネルギーが上乗せされる。空中で姿勢を制御しながら、いまだ宙に浮いているクライと、その後ろの巨大ロイミュードへ一気に肉薄した。
『FULL THROTTLE!』
「これで、終わりだぁぁ!」
紫苑の右足に、高密度の青いエネルギーが収束し、渦巻く。
同時に、背後のアーセナルライナーが全エネルギーを解放したフルバーストを放つ。
紫苑の必殺キックと、ライナーの一斉射撃。二つの光が合流し、クライの体を突き抜け、背後の巨大ロイミュードをも貫いた。
ドォォォォォォォォン!!
昼間の空が真っ白に染まるほどの、空前絶後の大爆発。
爆散する巨躯を背に、紫苑は静かに着地した。炎の熱風がスーツを撫でる。
「くっ……ここまでとは。覚えていろ、次はこうはいかん」
炎の中から現れたクライは、全身を黒く焦がしながらも冷徹な声を残し、霧のように消えていった。
『紫苑……』
通信越しの三原の声には、驚愕と、そして少しの安堵が混じっていた。
数日後の大学。
いつもの学食は、今日も学生たちの喧騒で満ちていた。そこには、頭に痛々しい包帯を巻きながらも、元気にカレーを頬張る悠真の姿があった。
「悠真、本当に大丈夫なの!? ニュースで見たよ、あの辺りで怪物が現れたって……」
美穂が身を乗り出して心配そうに顔を覗き込む。
「ああ。精密検査も受けたけど、脳に異常なし。ただの切り傷だってさ。むしろ、あの混乱の中でよく助かったよ。誰かが運んでくれたのかなぁ」
悠真はケロリとした顔で笑う。
「お前、その運の良さだけで生きてるよな。これで試験に間に合うんだから、運を使い果たしてなきゃいいけどな」
朔也がいつものように茶化しつつも、その目は心底安心したように細められていた。
「ほんと、大したことなくて良かったよ、悠真くん。もう、心配させないでよね」
ちひろが少し呆れたように言うと、悠真はニヤリと笑って紫苑を指差した。
「なんだよ、ちひろ。2ヶ月前に紫苑と連絡が取れなくなった時は泣きそうな顔してたクセにさ。俺のことももうちょっと心配してくれたっていいだろ?」
「ちょっと! それは……!」
ちひろが顔を真っ赤にして言い返そうとするのを、朔也が笑って制した。
「まあ気にするな、ちひろ。こいつはそう簡単に死なないよ。バカはしぶといからな」
紫苑は、隣で笑う仲間たちの顔を一人ずつ見つめた。
失われていたかもしれない笑顔。守りたかった日常。自分が選んだ「戦うという意思」が、今この瞬間を繋ぎ止めたのだと実感し、紫苑の胸には温かな充足感が広がっていた。
「さあ、いつまでも悠真の心配してても仕方ない! 海の話の続き、しようよ!」
美穂の明るい声で、テーブルの上には再び夏休みのガイドブックが広げられた。
「よし、今度こそ最高のビーチを探すぞ!」
「あ、私は美穂ちゃんの水着を選びたいな」
「ちょっと、ちひろ……!」
弾けるような笑い声が、初夏の光が差し込む学食に響き渡る。
紫苑もまた、その輪の中に加わり、心からの笑顔を浮かべた。
戦いは終わらない。これからも過酷な運命が待ち受けているだろう。だが、この絆がある限り、彼はどこまでも進んでいける。
「海、行こう。絶対に、最高の夏にしよう」
五人の若者たちの笑い声は、どこまでも澄み渡る青空へと吸い込まれていった。
#4完