2014年編#5-3
闇が澱み、冷気が肌を刺すような、とある打ち捨てられた地下空間。そこは光が届くことを拒絶した、ロイミュードたちの深淵なる根城であった。
瓦礫の上に腰を下ろしたクライは、忌々しげに自らの胸部に残る傷跡を指でなぞった。あの時、白銀の衝撃とともに刻まれた敗北の記憶が、今もなお疼いている。
「GT……矢切が遺したあのガキが、あそこまで強くなるとは計算外だった。ただの適合者ではない。奴は『意志』の力で、システムの限界を強引に引き上げた」
クライの苦々しい報告が、重苦しい静寂を揺らす。すると、闇の奥に佇む三つの巨大な影の一つが、静かに、だが重圧感のある声で応じた。
「戦士として、完全に覚醒したみたいだな。恐怖を捨てたわけではない。恐怖を抱えたまま、それを燃料に変える術を覚えたか……」
その声の主は、四幹部のリーダー格。冷徹な洞察眼を持つ彼の言葉には、紫苑の変化を認めつつも、それを冷酷に処理しようとする冷たさが宿っていた。
「面白い。なら、今度は俺が行く! 俺の力で、その『意志』とやらを粉々に砕いてやるよ。なかなか楽しませてくれそうじゃないか」
別の影――岩のように屈強な体躯を持つ男が、好戦的な笑みを浮かべて一歩前へ出た。その咆哮だけで、地下の空気が震え、崩れかかった天井から塵が舞い落ちる。しかし、リーダー格の影はそれを片手で制した。
「いや、お前はまだだ。今のGTは、真っ向からの力押しで屈する段階を超えている。もっと狡猾に、もっと確実に、奴の精神を摩耗させる必要がある」
「チッ...」
屈強な影が不服そうに舌を打つ。
リーダーの視線が、残る一つの影へと注がれた。その影は、他の者たちとは異なり、気配を完全に断ち切ったかのように静まり返っている。
「……頼んだぞ、ラフ」
その呼びかけに応じるように、闇の中から一体のロイミュードが、音もなく姿を現した。
ラフロイミュード。
洗練された、しかしどこか虚無を感じさせるフォルムを持つその幹部は、他者と交わることを拒むような冷気を纏っている。
「…………」
ラフは一言も発しない。その無言は、肯定でも否定でもなく、ただ「任務」という絶対的な目的のみを受け入れた証だった。
「奴の守りたがっている脆い日常……それを切り裂くのが、お前の役目だ」
リーダーの冷ややかな宣告が地下に響き渡る。ラフは無機質な視線を虚空へと向けた後、影に溶け込むようにしてその場から姿を消した。
残された者たちの背後で、かつての戦いで破壊された部品が、まるで呪いのように火花を散らしている。
夏休み。人間たちが束の間の安寧を謳歌しようとするその裏側で、紫苑を、そして彼の仲間たちを標的とした、新たなる、そして最大級の絶望が動き出そうとしていた。
「さあ、見せてもらおうか。お前の『意志』が、どこまで残酷な真実に耐えられるのかを……」
クライの低笑いが、暗い空間にいつまでも響き続けていた。
(続)