仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#5-6

2014年編 #5-6

全身の細胞が悲鳴を上げ、まるで鉛のように重たい体を無理やりバイクのシートに押しつけ、紫苑はアクセルを限界まで捻り込んだ。

ヘルメットの中に流れ込む夏の風は熱く、先ほどまでの死闘で受けた衝撃の残滓を容赦なく掻き立てる。タイプレイダーへと変身したことで高まった五感は、解除された今となっては過度な疲労感となって彼を蝕み、脳の奥深くでは血管が脈打つたびに鈍い痛みが走っていた。

視界の端には、ラフの赤い瞳と、爪が装甲を抉る音がまだ鮮明に焼き付いている。あのまま戦いが続いていれば、自分は確実に命を落としていただろう。四幹部という存在が、自分の想像を遥かに超える脅威であることを痛感させられた。だが、そんな恐怖も痛みも、今はただ一つの思いによって掻き消されようとしていた。

――早く、行かなければ。

「……待っててくれ、みんな」

紫苑は口の中で呟き、さらに速度を上げる。道路の一部が戦闘の影響で封鎖されていたり、瓦礫の撤去作業が行われていたりと、道中は思いのほか手間取ったが、それでも目的地である海岸通り近くの広場への道筋は次第に近づいてくる。

信号を曲がり、視界が開けた瞬間、紫苑の心にわき上がったのは、安堵と、言い表せないほどの温かな感情だった。

広場の木陰に、見慣れた人影が四つ、揃ってこちらを手を振りながら待っているのが見えたのだ。

紫苑はバイクをゆっくりと減速させ、タイヤがコンクリートの地面を捉える乾いた音を響かせながら停車させる。エンジンを切り、ヘルメットを脱ぐと、潮の香りを含んだ風が汗ばんだ額を優しく撫でていった。

「おせえぞ、紫苑! もう太陽が真上に来ちまうじゃないか!」

真っ先に駆け寄ってきたのは、いつもの調子で声の大きい悠真だ。彼は日に焼けた肌を輝かせ、満面の笑みで紫苑の肩を叩く。その手の力強さに、紫苑は生きてこの場所へ戻ってこられたことを改めて実感する。

「ごめん、ごめん。思ったより道が混んでて……」

紫苑は苦笑いを浮かべながら答える。嘘偽りのない言い訳だった。ロイミュードとの戦いのせいで、通行止めになっていた区間があったのだから。

彼の言葉に、朔也が文庫本を閉じながら近づいてくる。

「まったく、夏休みの初日から遅刻とは、お前もだらしなくなったものだな。まあ、事故や事件に巻き込まれたんじゃないかと、美穂が心配して落ち着かなかったぞ」

「もう、本当に心配したんだから! 無事でよかった」

美穂が心から安心したように胸をなで下ろし、柔らかな笑顔を向けてくれる。その表情を見ているだけで、紫苑の心の奥に沈殿していた暗い感情が、少しずつ浄化されていくようだった。

その時、紫苑の背後から、軽やかで弾むような足音が駆けつけてきた。

「わあ、紫苑くん、よかった! 私も今着いたところなの!」

振り返ると、大きなトートバッグを両手に抱え、息を弾ませたちひろが立っていた。額には汗が光り、髪も少し乱れている様子から、彼女もまた急いできたことが窺える。

「ちひろも遅れたのか? 珍しいな」

紫苑が声をかけると、彼女は慌てて顔を真っ赤にし、手をブンブンと横に振った。

「そ、そうじゃないの! 準備に手間取っちゃって……着ていく服を選んだり、お弁当作ったりしてたら、思ったより時間がかかっちゃっただけなの! 決して寝坊したわけでも、道に迷ったわけでも……」

「はいはい、わかったわかった。二人とも無事に集まったんだから、それでいいじゃないか」

悠真がおどけたように手を叩き、二人の間に割って入る。そして、「それよりも!」と言わんばかりに、彼は自分の背後を指さし、急に胸を張って得意満面な表情になった。

「おい、二人とも。さっきから俺が何度も話してたのに聞いてなかっただろ? ほら、見ろよ! 俺がこの日のために用意した、最高の相棒を!」

悠真が指さす方向に、紫苑とちひろは目を向ける。

そこに停められていたのは、流れるようなローラインのボディを持つ、往年の名車スポーツカーだった。少し塗装には日焼けが見られるものの、車体は丁寧に磨き上げられ、八月の太陽の光を受けて艶やかに輝いている。その佇まいには、圧倒的な迫力と美しさが同居しており、車に詳しくない紫苑でも、それがただの車ではないことが一目で理解できた。

「これ……すごい車だね。悠真が用意したの?」

紫苑が驚きを隠せずに問うと、悠真は鼻息を荒くして頷く。

「ああそうだ! 中古で見つけたんだけど、まるで俺のために存在していたような一台でな! この半年、バイトを死ぬ気で入れて、店長にも頭を下げまくって、やっとの思いで手に入れたんだぜ。血と汗と涙の結晶ってやつだ!」

彼が目を輝かせて語る様子は、まるで宝物を自慢する子供のようで、見ている周囲を自然と笑顔にさせる力があった。

「聞いて驚くなよ紫苑。エンジンは直6ツインターボで、低速からトルクがモリモリ出て、加速したらまさに飛ぶような感覚なんだ。このハンドリングの切れ味といい……」

「はいはい、また始まった。悠真の車講座が延々と続くから、みんな覚悟しておくように」

朔也がわざとらしく溜息をつき、美穂が口元を押さえて笑う。

「待ってる間、俺たちはもうエンジンの形式だのタイヤの銘柄だの、嫌というほど聞かされたんだ。今更何を言われても全部暗記しちまったよ」

「うるせえな! いいだろ、人生の一大イベントなんだから!」

悠真が頬を膨らませて抗議する。その何気ないやり取りが、紫苑には何よりも尊く、何よりも愛おしいものに感じられた。

戦いの世界では、常に死が隣り合わせで、言葉を交わすことさえままならない瞬間ばかりだ。だがここには、こうしてくだらないことで笑い合い、冗談を言い合える、かけがえのない時間が流れている。

「さあ、じゃあ早速荷物を積み込んで出発だ! 俺が運転するからには、安全かつスピーディーに海まで送ってやるぜ!」

悠真が威勢よく運転席へと乗り込み、キーを回す。

エンジンが目覚めるような重厚な咆哮を上げ、車体が微かに震える。その音は力強く、まるでこれから始まる旅を祝福するかのように、広場全体に響き渡った。

紫苑はちひろと共に、大きな荷物をトランクへと収めながら、再び空を見上げた。

雲一つない青空がどこまでも広がり、太陽が燦々と地上を照らしている。先ほどまで自分がいた戦場も、この同じ空の下にあったのだと思うと、不思議な感覚に襲われる。自分はあの暗い世界から抜け出し、こうして光溢れる世界へと帰ってくることができた。

「紫苑くん、どうしたの? 早く乗らないと、悠真くんがまた急かしてくるよ」

ちひろが笑顔で助手席から手を振る。

「ああ、そうだな」

紫苑は頷き、後部座席へと体を滑り込ませる。シートに腰を下ろした瞬間、全身の力が抜けるような感覚があったが、それは疲れだけではなく、緊張感から解き放たれたことによる安らぎだった。

「よおし、出発進行! 目指すは真っ青な海、白い砂浜、そして最高の夏だ!」

悠真の掛け声と共に、スポーツカーは滑るように走り出す。

車内には風が流れ込み、五人の笑い声が絶え間なく響く。美穂が音楽をかけ、ちひろがお弁当の話をし、朔也がまともなことを言い、悠真が運転を自慢する。そんな何の変哲もない、ありふれた日常の一コマ。

だが紫苑にとって、この瞬間こそが全てだった。

仮面ライダーGTとして戦い、傷つき、恐怖し、それでも立ち上がってきたのは、他ならぬこの時間を守るためだったのだ。

ラフの脅威、四幹部の存在、そして自分の中に眠る未知の力……これから待ち受ける戦いは、今まで以上に厳しく、困難なものになるだろう。それでも、この車に乗っている仲間たちがいる限り、自分は何度でも立ち上がれる。何が相手であろうと、戦い抜くことができる。

紫苑は窓の外を流れていく街並みを眺めながら、心の中で静かに誓った。

――俺は、絶対にお前たちを守る。この平和を、この笑顔を、これからもずっと。

車は国道を抜け、海岸線へと続く道へと入る。やがて、水平線と空が一つに溶け合うような、蒼く雄大な光景が視界の先に広がり始めた。

夏の太陽が、走り去る車の影を長く、鮮やかに道へと落としていた。

これは、一人の青年が命を懸けて守り抜いた、かけがえのない夏の物語。まだ始まったばかりの、長く熱い一日が、彼らを待っていた。

#5 完

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