仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#7-3

2014年編#7-3

ゲームセンターの自動ドアがゆっくりと開き、冷たい空気が外へと流れ出すと、それまで建物内に閉じ込められていた熱気が、少しずつ秋の色を濃くしていく外気と混ざり合った。ひやりとした風が六人の頬をなで、夏の名残りと季節の移ろいを肌で感じさせる。

「やったぁ! 見て見て、本当に取れちゃった!」

ちひろが両手いっぱいに抱えた大きな猫のぬいぐるみを、まるで宝物でも扱うかのように胸元に押しつけ、瞳をきらきらと輝かせてはしゃいでいる。その頬は興奮で桃色に染まり、今まで見た中でも一番明るく、無邪気な笑顔が弾けていた。先ほどクレーンゲームの台の前で、何度も諦めずに挑み続け、最後には見事にぬいぐるみをゲットした紫苑の姿を思い出すたびに、ちひろの心は甘いときめきでいっぱいになるのだった。

「ちひろ、本当によかったね。紫苑、あんなに真剣な顔で頑張って、すごくかっこよかったよ」

美穂が隣に立ち、柔らかな笑みを浮かべながらちひろの肩を優しく叩く。二人の微笑ましい姿を少し離れた場所から眺めていた朔也は、何食わぬ顔で紫苑の側に歩み寄ると、周りには聞こえないように身をかがめ、低い声で耳元に囁いた。

「紫苑。お前、なかなかやるじゃん。あの微妙な角度からよく重心を見極めて動かしたな……まさか、愛の力ってやつか?」

「っ! ちょ、お前、突然何を言い出すんだよ……! からかうのもいい加減にしろ!」

紫苑は慌てて顔を背け、朔也の言葉を否定しようとするが、耳の先まで真っ赤に染まっているのはどうしようもなく、その反応が逆に何もかもを物語っていた。海でのあの出来事を境に、紫苑もちひろもお互いの存在を強く意識するようになり、ほんの些細な出来事や視線が合うだけでも、心臓が大きく波打ち、まるで自分ではないような態度を取ってしまう。ちひろもまた、紫苑と目が合うたびに「あ、えへへ……ありがとう、紫苑くん」と、いつもの元気いっぱいな様子はどこへやら、頬を赤らめてぬいぐるみに顔をうずめ、もじもじと落ち着かない様子になってしまうのだった。

そんな甘くて酸っぱい、まるで青春そのもののような、穏やかで平和な時間がゆっくりと流れていく……まさにその瞬間のことだった。

――ドォォォォォン!!

突如、空気を震わせるような凄まじい爆発音が、休日でにぎわう繁華街全体に鳴り響いた。あまりの大きな音に、六人は一斉に空を見上げる。さっきまではどこまでも澄んでいた秋の青空を切り裂くようにして、十体ほどの異形の影がビルとビルの間を縫うようにしながら、ものすごいスピードで急降下してくるのが見えた。その姿は不気味で、まるで生き物とも兵器ともつかない、禍々しい雰囲気をまとっている。

「ロイミュードだッ……!」

紫苑がその姿を一目見た瞬間、叫ぶように声を上げた。彼らは上空を飛行する能力を持った下級のロイミュードたちで、地上にいる人々に向かって、容赦なく熱線やエネルギーの塊を次々と放ってくる。瞬く間に、平和だった街は悲鳴と怒号が飛び交う地獄のような光景へと変わり果ててしまった。

「きゃあぁぁ! 助けて!」

「早く逃げろ! 建物の中に入れ! 外にいたら危ない!」

人々は我先にと逃げ惑い、道沿いに立っていた看板はロイミュードの放った攻撃で次々となぎ倒され、地面には破片が散乱し、至る所で火花が散っている。紫苑は危機を感じ、反射的にリュックの中のベルトに手を伸ばそうとしたが、指先がひどく震え、その動きがぴたりと止まってしまった。

(くそっ……! 今、この場所で変身するわけにはいかない……!)

すぐ側にはちひろが、美穂が、悠真が、朔也がいる。そして、長い時間を経てようやく再会することができた大悟もここにいる。もしここで仮面ライダーに変身して戦えば、彼らをこの危険な戦いに巻き込んでしまうだけでなく、自分がずっと誰にも明かさずに隠し続けてきた「もう一つの顔」を完全に晒すことになってしまう。自分の正体が知られてしまえば、これまで築いてきた彼らとの日常は、二度と元に戻ることはないだろう。だが、このまま何もしなければ、目の前で多くの人々が傷つき、命を落としてしまうかもしれない。紫苑の心の中で、戦うべきか、それとも正体を隠し通すべきか、激しい葛藤が渦巻き、押し寄せてくる。

「紫苑! 何をぼさっとしてるんだ、早く一緒に逃げるぞ!」

悠真が緊張感に満ちた声で紫苑に呼びかける。だがその直後、ロイミュードが放ったエネルギー弾がすぐ近くの街灯に直撃し、鉄製の柱が音を立てて倒れ、激しい火花が辺りに飛び散った。紫苑は決断を迫られ、歯を食いしばって声を張り上げた。

「みんな! 先に行ってくれ! 俺、忘れ物をしてきちゃった……すぐに追いつくから!」

「えっ、紫苑くん!? ダメだよ、こんな状況で戻るなんて、すごく危ないんだから!」

ちひろは真っ青な顔になり、必死になって紫苑の手を取ろうとするが、紫苑はその手をそっと振り切ると、爆発と悲鳴に包まれた路地裏に向かって、全速力で走り出した。

「紫苑!!」

背中の方から仲間たちの呼ぶ声が聞こえるが、紫苑は立ち止まるわけにはいかなかった。彼はビルとビルの隙間にある物陰まで走り込むと、周りに誰もいないことを確認し、震える手で背負っていたリュックの中から、重厚な姿のデバイス――GTドライバーを取り出し、腰にしっかりと巻きつけて固定する。

「変身……!」

紫苑が力強く呟くと、

『TYPE RAIDER』

という、低く禍々しい電子音が鳴り響き、瞬く間に紫苑の全身を漆黒の硬い装甲が覆い尽くした。頭部には赤い単眼が鋭く光り、その姿はもはや普段のどこにでもいるような大学生・鷹宮紫苑ではなく、孤独な戦いを続ける守護者、仮面ライダーGTへと完全に変貌を遂げていた。

仮面ライダーGTはすぐさま専用の銃器であるレイダーマグナムを腰から抜き放ち、今まさに地上に向かって攻撃を仕掛けようと飛んでくる飛行型のロイミュードに狙いを定める。赤い単眼の奥には、人々を守るという固い決意が宿っていた。

「俺の目の前で、お前たちの好きにはさせない……!」

GTが引き金を引くと、銃弾が鋭い音を立てて空を切り裂き、一体のロイミュードの翼部分を正確に射ち抜いた。機体から火花を散らしながら、そのロイミュードはバランスを崩して地上へと落下していく。GTは次々と標的を変えながら、途切れることなく攻撃を繰り出し、上空から迫り来る敵たちを迎え撃っていく。

一方、その頃、街の別の場所では――

逃げ遅れた人々が右往左往し、紫苑の仲間たちも混乱の渦中にいたが、そんな中で一人、まったく異なる行動を取っている人物がいた。星川大悟である。

「悠真、美穂を連れてすぐに地下通路へ向かえ! あそこなら比較的安全だ! 朔也、お前は右側にいる人たちの避難誘導を頼む。ちひろ、お前は大事なぬいぐるみをしっかり持って、絶対に手を離すな。俺のすぐ後ろについて来い!」

大悟の声には、少しの動揺や恐怖の色も混ざっていなかった。それどころか、まるで長年戦場に身を置き、状況判断に慣れきった熟練の指揮官のように、極めて冷静で、的確に周囲の状況を把握し、仲間たちを安全な場所へと導いていく。飛んでくるエネルギー弾の軌道を一瞬で見極め、爆発が起きる場所を予測しながら、次々と安全な物陰から別の安全な場所へと移動していくその身のこなしは、明らかに普通の人間の反応や動きとは一線を画しているものだった。

「大悟くん、紫苑くんは……!? 紫苑くんがまだ戻ってこないの! あのまま大丈夫なの?」

ちひろは涙を目にいっぱい浮かべ、声を震わせながら大悟に問いかける。大悟はその言葉に応える代わりに、一瞬だけ仮面ライダーGTが戦っている方向へと鋭い視線を向けた。その瞳は、先ほどまで仲間たちに見せていた、優しくて頼りがいのある兄貴分のようなものではなく、底の見えないような冷徹さと、鋭い光を湛えていた。

「……心配するな。あいつなら必ず無事でいる。あいつは……俺たちが思っているよりも、ずっと強い男だからな」

大悟は短くそう告げると、再び迫り来るロイミュードの影を睨みつけ、自分の身を盾にするようにしてちひろたちを守りながら、避難経路を進んでいく。

爆発の炎と黒い煙が空高く舞い上がる中、漆黒の装甲に身を包んで孤軍奮闘する紫苑と、隠された実力を発揮して仲間たちと市民を守り抜く大悟。二人のかつての「戦友」は、形こそ違えど、同じ戦場の中でそれぞれの信念と意志を貫き、この街を、そして大切な人たちを守ろうとしていた。

上空での戦いはますます激しさを増し、紫苑の放つ銃弾が次々と敵を撃墜して空を焦がし、大悟の誘導する避難者たちの列は、暗い通路の奥へと消えていく。つい先ほどまで続いていた、再会の喜びに満ちた平穏な時間は、凄まじい轟音と共に、動き出した運命の渦へと飲み込まれ、これから始まる長い戦いの予感が、辺り一面に重く垂れ込めていた。

 

(続)

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