2014年編#7-4
にぎやかなはずの繁華街が、突如として血なまぐさい戦場へと姿を変えていた。アスファルトの道路にはひびが入り、建物の壁面には無数の傷跡が刻まれ、街のシンボルである大型ネオンサインは今にも崩れ落ちそうに傾いている。そして、その空一面を覆うように飛び交うのは、金属的な羽音と共に不吉な影を落とす飛行型ロイミュードたちだ。彼らが発する低く耳障りな駆動音は、生き残る人々の恐怖心をあおり、この場所がもはや安全な場所ではないことを容赦なく告げていた。
その混乱の中心で、漆黒の装甲をまとった仮面ライダーGT——紫苑が、身を低くして立っていた。紅い単眼は周囲の状況を鋭く捉え、まるで獲物を狙う獣のような鋭い光を放っている。彼の全身からは、この場所を、そしてこの街に住む人々を絶対に守り抜くのだという強い意志が溢れ出ており、たとえどんな敵が相手であろうとも、一歩も退くつもりなどないことが明らかだった。
「くっ……数が多すぎる」
紫苑は奥歯を噛みしめながら上空を見上げる。飛行型ロイミュードたちは隊列を組んで攻撃を仕掛けてくるだけでなく、単独で素早く動き回り、死角からの不意打ちを繰り返してくる。銃撃を加えようとしても、彼らの動きは予測がつかず、なかなか的に捉えることができない。だが、そんな状況の中でも紫苑の心には迷いはなかった。なぜなら、自分の背後には、大悟をはじめとする仲間たち、そして無数の無垢な人々がいるからだ。
地上では、大悟が的確な指示を出しながら、驚くべき冷静さで人々を安全な場所へと誘導していた。彼は自分の安全など顧みることなく、瓦礫の間を縫うように走り回り、足の遅い老人や子供たちを率先して助け起こし、避難経路へと送り届けていく。その姿を見た紫苑は、自分が戦う理由を再確認し、力強く拳を握りしめた。大悟たちが人々を守るために尽力している今、自分がこの戦いに負けるわけにはいかないのだ。自分がこの場所で敵の進行を食い止めなければ、多くの尊い命が失われてしまう。その思いが、紫苑の全身の力を奮い立たせた。
「ここで、すべてを終わらせる!」
紫苑は低く鋭い声でそう叫ぶと、左腕のブレスに収められていたシフトカーを素早く抜き放った。手の中で冷たい金属の感触が伝わってくるシフトカーは、まるで彼の意志に応えるかのように微かに振動し、赤い光を放っている。紫苑はそれをしっかりと持つと、愛銃であるレイダーマグナムの銃身上部に設けられたスロットへと、力強く、そして確かな手つきで装填した。
カチリ、という重厚な音が戦場に響き渡ると同時に、レイダーマグナム本体から機械的な駆動音が鳴り響き始める。その音は次第に高く、激しくなっていき、まるで銃自体が生き物のように力を漲らせているかのようだ。システムが最大限まで励起され、紫苑とレイダーマグナムが完全に同調した瞬間、電子音声が彼の頭上に響いた。
『FULL THROTTLE!』
「はぁぁぁっ!」
紫苑は全身の力を腕に集め、レイダーマグナムをしっかりと構える。今、彼の手にある銃は、単なる武器ではなく、自らの想いを弾丸に変えて放つための媒体となっていた。彼が選んだのはタイプレイダーの特性を最大限に活かした戦い方——連射性能を極限まで高め、広範囲にわたって敵を制圧する方法だ。
彼が指先でトリガーを引き絞ると、銃口からは赤い強い光を帯びた光弾が、まるで噴水のように絶え間なく吐き出された。光弾はそれぞれが空気を切り裂き、鋭い音を立てながら飛んでいき、やがて彼の頭上を覆っていた飛行型ロイミュードたちの集団へと襲いかかる。その光景はまるで、空に巨大な光のカーテンが出現したかのようで、逃げ場を失った敵たちは次々と光の弾に撃ち抜かれていく。
ドォォン! ドォォン!
連続して重い爆発音が鳴り響き、その度に黒い煙と金属片が空高く舞い上がる。撃墜されたロイミュードたちは、制御を失った体を回転させながら、次々と地上へと墜落し、アスファルトの地面に激しい衝撃音を残して崩れ落ちていった。紫苑は一瞬も休むことなく銃撃を続け、敵の数を着実に減らしていく。だが、戦いの最中にも彼は冷静さを失わず、常に周囲の状況を観察し続けていた。
——その時、紫苑の視界の端に、一際大きな影が動くのを捉えた。
最後に残った一体の飛行型ロイミュードが、仲間たちの爆発によって生まれた煙を盾にするようにして、急激に高度を上げていく。その動きは他の個体よりも遥かに素早く、まるで自分だけは生き延びようとするかのように、ビルとビルの間の狭い空間を縫うようにして飛び去り、射程圏外へと逃れようとしていた。
「逃がすか! ここで終わらせなければ、また人々が危険にさらされる!」
すると、遠くの方から次第に地鳴りのような重厚なエンジン音が近づいてくるのが聞こえてくる。それはまるで、主人の呼びかけに応えるかのような力強い音だ。
やがて、道路の彼方から青い塊が猛スピードでこちらへと向かってくるのが見えた。それは紫苑の専用バイクであり、高度な自律走行システムと多目的機動装置を搭載した『ライドストライダー』だ。ライドストライダーは周囲の瓦礫や障害物を軽々と飛び越え、わずか数秒のうちに紫苑のもとへと到着すると、滑らかに速度を落とし、彼の傍らで止まった。
紫苑は地面を強く蹴り、体を大きく宙へと跳躍させる。彼の体は空中で一回転すると、流れるような、そしてまったく無駄のない動きでライドストライダーのシートへと収まった。手が自然にハンドルへと伸び、指がアクセルにかかる。彼は迷うことなくアクセルを目一杯まで回し、エンジンを最大出力で駆動させた。
ライドストライダーはけたたましいエンジン音を上げながら、地面にタイヤの跡を残しつつ急発進する。その速度は凄まじく、あっという間に漆黒の残像だけを残し、すでに遠くへと逃げつつあるロイミュードを追って、複雑に入り組んだ都会の街並みの中へと突入していった。
ビルとビルの間のわずかな隙間、車両がやっと通れるほどの狭い路地、工事現場の不安定な足場——逃げるロイミュードは、こうした複雑な地形を利用して紫苑の追跡を振り切ろうと、様々な方向へと逃げ回る。時には急降下し、時には急上昇し、まるで獲物を追い詰めるハンターをからかうかのような動きを見せる。
だが、紫苑とライドストライダーのコンビネーションはそれを遥かに上回っていた。ライドストライダーは通常のバイクでは走行不可能な地形でさえも、特殊なタイヤと推進装置の力で難なく走り抜け、空中を飛ぶ敵との距離を決して詰めさせない。紫苑はハンドルを握る手に全神経を集中させ、敵のわずかな動きの変化さえも予測し、的確にバイクを操縦し続ける。二人——いや、一人と一台はまさに一心同体となり、街のあらゆる場所を駆け巡った。
「どこまでも逃げるつもりか……だが、もう終わりだ!」
長く複雑な追跡劇の末、逃走を続けていたロイミュードは、ついに障害物の少ない長い直線道路へと飛び出してきた。その姿は、疲れ切っているのか、先ほどよりも明らかに動きが鈍くなっている。紫苑はこの瞬間を見逃すはずがなかった。彼はすぐさまレイダーマグナムを手に取り、走行しながら本体の各部のロックを解除し、銃身と銃床を展開させていく。
カチャカチャという機械音の中、レイダーマグナムの形が変わり、連射型から単発高威力の精密射撃に特化した『スナイパーモード』へと完全に変形を遂げた。銃身は長く伸び、照準用のスコープが自動的に展開され、全体としてまるで一つの芸術作品のような精密さと威圧感を備えた姿となる。
時速200キロメートルを超える凄まじい速度で走行するライドストライダーの上では、前方から吹き付ける風圧が凄まじく、まともに体を支えていることさえ難しいほどだ。通常の人間であれば、このような状況ではただ風に吹かれて体を制御できず、即座にバイクから投げ出されてしまうだろう。しかし、紫苑は落ちることなく、両足をバイク本体の固定具にしっかりと固定し、次の瞬間、突如として両手をハンドルから離した。
この極限的な行動によって体のバランスが崩れそうになるが、ライドストライダーに搭載された高度な自律制御システムが瞬く間に反応し、車体の姿勢と速度を完璧に維持し続ける。まるで見えない手が紫苑を支え、彼に射撃のための一瞬の「静寂」と安定感を与えてくれているかのようだ。
紫苑は空いた両手でレイダーマグナムをしっかりと抱え込むように構え、銃床を自分の肩に強く押し当てた。彼の呼吸は自然と整えられ、心臓の鼓動さえも徐々にゆっくりと落ち着いていく。スコープを覗き込むと、レティクルの中心が、まだわずかに遠くを飛ぶロイミュードの体の中心部——即ち、彼らの命綱であり、活動の源である動力核へとピタリと重なった。
『FULL THROTTLE!』
再びシステムの声が響くと同時に、紫苑の意識は完全に一点へと凝縮された。周囲の景色がまるでスローモーションになったかのようにゆっくりと流れ、風の音も、エンジンの音も、すべてが遠くなっていく。彼の世界には、ただスコープの中に捉えた標的だけが存在し、まるで相手の心臓の鼓動までもがこちらに伝わってくるかのような不思議な感覚に包まれる。
「……終わりだ」
彼は誰に言うでもなく、静かに、しかし確かな言葉でそう呟いた。
次の瞬間、指先がわずかに動き、トリガーが引かれる。
ズドォン! という鋭い発射音が空気を震わせ、放たれた光弾は周囲の空気を切り裂きながら、一筋のまばゆい閃光となって暗くなり始めた空を貫いた。その軌道は完全に直線的であり、少しの狂いもなく標的へと向かっていく。
光弾は逃げるロイミュードの背後から、まさに寸分の狂いもなくその体を貫き、中心部にある動力核を正確に撃ち抜いた。
「ガァァァッ!」
ロイミュードが断末魔の叫び声を上げようとしたその瞬間、その体は内側から強烈な光を放ち始め、次の瞬間には大爆発を起こした。彼の体は跡形もなく砕け散り、燃え盛る火の粉が辺り一面に降り注ぎ、夜の帳が降り始めた空には、まるで大きな花が咲いたかのような巨大な火輪が出現し、ゆっくりと消えていった。
すべての敵が倒れ、戦いの余韻がまだ空気中に残る中、紫苑はゆっくりとハンドルに手を戻し、ライドストライダーの速度を緩やかに落としていく。バイクは道路の真ん中で静かに停止し、エンジン音も次第に低くなって、やがて周囲の静寂に包まれた。
遠くの方からは、ようやく事態が収まったことを知らせるかのように、救急車や消防車のサイレンの音が近づいてくるのが聞こえる。また、避難していた人々が安全な場所から戻ってくる足音や話し声も、徐々にこちらへと伝わってきた。
紫苑は変身を解除する前に、一度だけ先ほど戦っていた場所、仲間たちが人々を誘導していた方向へと視線を向けた。
すると、遠くの瓦礫の陰から、こちらをじっと見つめているような視線を感じた。そこに立っていたのは大悟だった。彼は何も言わず、ただ静かに紫苑の方を見ており、その目には感謝と信頼、そして共に戦う者同士の絆のようなものが浮かんでいるように紫苑には感じられた。
「……みんな、無事か」
紫苑は小さく息を吐き出し、心の中でそう問いかけた。彼の体は戦いによって疲れ果ててはいたが、心の中は守るべきものを守り抜いたという満足感と、次なる戦いへの備えで充ち満ちていた。
やがて、人々の騒ぎ声がこの場所へと近づいてくるのを感じた紫苑は、誰にも自分の姿を見られることのないように、ライドストライダーを再び走らせ、近くの路地裏へと姿を消した。
守り抜かれたかつての日常、そして否応なしに加速していく戦いの流れ。その境界線の上で走り続ける彼の心には、これから訪れるまだ見ぬ明日へ向けて、再び固い決意が刻まれていくのだった。
(続)