仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#7-6

2014年編#7-6

 

秋の柔らかな陽光が、木々の葉の隙間からこぼれ落ち、キャンパスの地面にまだらな模様を描き出している。講義の合間の中庭は、それぞれの思い思いに時間を過ごす学生たちの笑い声や話し声で満ちていたが、紫苑だけはその賑わいの輪から外れ、いつもの古びたベンチに一人腰を下ろしていた。

彼は無意識のうちに自分の両手を開き、じっと見つめている。指の関節はわずかに赤くなり、手のひらには昨日、仮面ライダーGTとして戦い、レイダーマグナムの引き金を絞り続けた感触が、今も微かな痺れとなって残っているように感じられた。まるで自分の体が、あの激しい戦いの記憶を細胞レベルで刻み込んでしまったかのようだ。

目を閉じれば、昨日の光景が鮮明に蘇る。突然現れた空飛ぶ怪物たちによって、平和だった街はたちまち戦場へと変わり果てた。建物のガラスが割れ、壁が崩れ落ち、逃げ惑う人々の叫び声が辺り一面に響き渡っていた。そんな混乱の中、ちひろの姿を見つけた瞬間のことを思い出すと、紫苑の胸は締めつけられるように痛む。彼女は炎の迫る道端で、紫苑の名前を呼びながら泣きじゃくり、どうしようもなく立ち尽くしていた。その小さな体が恐怖で震えているのを見たとき、自分は何としても彼女を、そして街にいるすべての人を守らなければならないと、心の底から思ったのだ。

悠真や美穂たちも同じだった。紫苑の姿が見えなくなると、皆が必死になって彼の名を呼び、探し回ってくれていた。彼らの心配そうな声、不安そうな表情――それらすべてが、紫苑にとって何よりも大切な宝物であり、同時に何よりも重い責任となってのしかかっている。

(俺は彼らを守るために戦う。なのに戦うたびに、俺は彼らに嘘をつき、姿を隠し、遠い存在になっていく……)

昨日もそうだった。「忘れ物を取りに行く」という嘘をついて皆の元を離れ、変身して戦場へと向かった。自分が戦っている間、ちひろたちはただただ自分の無事を祈り、恐怖の中で待ち続けていたのだ。自分が彼らに与えている不安や心配の大きさを思うと、戦いで受けたどんな傷よりも心が痛んだ。守ることと、彼らの側にいること。その両方を同時に叶えることは、どうしてこんなにも難しいのだろう。

戦士としての使命、正義を貫くという強い思い。そして友人として、一人の人間としての罪悪感と孤独感。この二つの相反する感情が紫苑の心の中でせめぎ合い、彼を深い悩みの淵へと引き込んでいた。自分が強くなればなるほど、仮面ライダーGTとしての力が大きくなればなるほど、普通の学生としての自分と、仲間たちとの間には見えない壁が厚く高くなっていくように感じられる。それはまるで、自分だけが別の世界に足を踏み入れてしまい、大切な人たちを置いてけぼりにしてしまったかのような、そんな疎外感だった。

風が中庭の木々をそよぎ、木の葉がさわさわと音を立てる。紫苑はただじっと、自分の手のひらを見つめたまま、動くことができなかった。この重たい気持ちを抱えたまま、これからどうやって生きていけばいいのか、答えの出ない問いが頭の中をぐるぐると回り続けていた。

「よう」

突然、頭上からかけられた声に、紫苑ははっとして顔を上げた。そこには、いつもと変わらない涼しげな表情を浮かべた大悟が立っていた。彼の姿を見た瞬間、昨日の混乱や緊張が嘘のように、何でもない日常がそこにあるように感じられた。

「大悟……」紫苑は思わず声を漏らす。

「珍しいな、お前がこんなところで一人で物思いにふけってるなんて。いつもならちひろたちと一緒にいるくせに」

大悟はからかうような口調で言うが、その瞳は紫苑の様子を注意深く観察しているようでもあった。

「ああ……なんとなくさ。今日は少しだけ、人と話す気分になれなくて。一人で、いろいろと考え事をしてたんだ」

紫苑が力なく答えると、大悟は「ふーん」と短く相槌を打ち、断りもなくベンチの隣に腰を下ろした。彼はしばらく、紫苑の視線の先にある何もない空を眺めていたが、やがて何かを思い出したように口を開いた。

「そういえばよ、昨日お前が忘れ物を取りに行って俺たちと別れた後のことなんだけどな……すごい出来事があったんだぜ」

紫苑の心臓が突然大きく脈打ち、ドクリと音を立てるのが自分でもわかった。平静を装わなければ、何も知らない友人としての態度を保たなければと、彼は必死に自分に言い聞かせた。

「すごい出来事? 何があったんだ?」

 

紫苑は慎重に言葉を選びながら尋ねる。

「ニュースなんかで時々話題になってるだろ? 『謎の戦士』が現れたんだよ。昨日は特にすごかった。いつもは青い鎧を着てるあの戦士が、昨日は黒いアーマーに身を包んで現れてな。空を飛んで暴れ回る怪物たちを次々と撃ち落としていったんだ。最後なんか、バイクに乗って疾走しながら、空中の敵に向かって銃を構え、一発一発確実に仕留めていくんだ。まるで映画のヒーローそのものだったぜ」

大悟は目を輝かせ、まるで自分の目で見てきたかのように生き生きと語る。その話しぶりは、純粋に事件に驚き、感動したという様子に見えた。だが紫苑は、彼の話す内容のあまりの正確さに冷や汗をかいていた。アーマーの色が変わったことも、バイクからの精密射撃を行ったことも、それは混乱する現場で、遠くから見ていただけの一般の人間が覚えているような細部ではなかった。

「そうだったのか……。その戦士のおかげで、街は守られたんだな」

 

紫苑は乾いた喉を潤しながら言った。

「ああ、そうだ。あの戦士が現れなければ、俺たちがどうなっていたかわかったもんじゃない。まさに救世主様だよ。命拾いしたんだ」

大悟はそう言って笑うと、突然笑みを消し、横目で紫苑の顔をじっと見つめてきた。その視線は鋭く、まるで紫苑の心の奥底に隠された秘密までも見透かそうとするかのようで、紫苑は思わず身構えてしまう。

「お前も見たかっただろう? せっかく現場にいたっていうのに、忘れ物なんか探しに行ってる間にそんなすごい光景を見逃すなんて、まったくついてない奴だな」

大悟の言葉は冗談めかしてはいたが、その瞳の奥には底の見えない深さがあり、紫苑は自分が試されているような、問い詰められているような感覚に襲われた。これほど頭の回転が速く、観察眼の鋭い大悟が、自分が現場を離れたタイミングと戦士の出現が重なったことを、単なる偶然として片付けているはずがない。彼は何かを感づいているのだろうか。

「……ああ、本当に。まったく、損をしたよ」

紫苑は精一杯の作り笑いを浮かべ、そう答えるのがやっとだった。嘘をつくたびに、自分の心が少しずつ汚れ、削られていくような気がしてならなかった。

「だがまあ、いいさ。俺たちは無事だったんだから。守られた俺たちからすれば、その戦士にただただ感謝するばかりだよ。おかげでちひろも、美穂も、悠真も、朔也も、今日こうして何事もなかったかのように大学に来て笑っていられるんだからな」

その言葉を聞いたとき、紫苑の胸に温かなものが込み上げると同時に、また新たな痛みが走った。彼らの笑顔は何よりも大切なものだ。だがその笑顔の裏には、自分が隠し続けている真実と、彼らに背負わせている不安があるのだ。

二人の間にしばらく沈黙が流れた。キャンパスを渡る風が、二人の間に流れる張り詰めた空気をゆっくりと揺らしていく。

すると大悟は突然、つま先で地面を軽く叩き、独り言のように低い声で語り始めた。だがその声は、確実に紫苑の心の奥まで届くような、力強い響きを持っていた。

「お前が今何で悩んでるのか、俺には分からない。だけどな、きっとお前は、俺たち、特にちひろたちには絶対に言えないようなことを抱えてるんだろ?」

紫苑は息を呑み、体を硬くした。隣に座る大悟はこちらを見ようともせず、ただ真っ直ぐに前を向いている。その横顔はどこか遠くを見つめているようでありながら、紫苑の心の動きをすべて把握しているかのようだった。

「だったらさ、別に俺たちに言わなくてもいい。言えないことは、言わなければいいんだ。その代わり……俺が、俺たちの周りのことは全部うまく辻褄を合わせてやる。お前が何をしているのか、何を抱えているのか、俺が俺なりに理解して、周りにはそれとなく合わせて話をしてやるから。だからお前は、お前のやるべきこと、やりたいことを、自分の信じるようにやればいい」

その言葉は紫苑にとって、暗闇の中に差し込んだ一条の光のような救いであり、同時に彼のすべてを見透かされているかのような戦慄をもたらした。大悟はどこまで真実に近づいているのだろうか。いや、もしかすると彼にとって、紫苑が仮面ライダーGTであるかどうかということ自体は、さほど重要な問題ではないのかもしれない。

彼が言いたいのは、たとえ紫苑がどんな秘密を持っていようと、自分はそれを批判も否定もせず、そのまま受け入れ、支えるという強い意志なのだ。紫苑が一人で背負おうとしていた重荷を、半分自分に預けてくれと、そう言っているのだ。

「大悟……」

 

紫苑は声を震わせた。言葉にならない感情が溢れ出し、目頭が熱くなる。

大悟はゆっくりと立ち上がり、柔らかな秋の陽光を背にして、紫苑を見下ろした。逆光のために顔の細部は見えにくかったが、その表情を見た瞬間、紫苑は幼い日の記憶を鮮明に思い出した。孤児院で共に育ったあの頃、まだ小さかった紫苑が予防接種を怖がって泣いていたとき、大悟は同じような表情で笑いかけ、「大丈夫だ、俺がついてるから」と言ってくれたのだ。今の笑顔は、あの時と驚くほど重なり合い、同じ温かさと安心感を与えてくれた。

「あんまり一人で全部抱え込んでつぶれるなよ、紫苑。俺たちはあの頃からずっと、どんな時でも背中を預け合える戦友だろ?」

大悟はそれだけ言うと、二度と振り返ることなく、にぎやかな学生たちの集まる人混みの中へと消えていった。

一人ベンチに残された紫苑は、しばらくぼうっと彼の消えていった道を見つめていた。背中に背負ったリュックの中には、変身アイテムであるGTドライバーが入っており、その重さはいつもと同じはずなのに、今はそれほど重く感じられなかった。心の中にどろどろと溜まり、澱のようになっていた重圧や苦しみが、大悟のたった数々の言葉によって、少しずつ溶かされ、流れ出していくのを感じた。

ちひろや悠真たちには決して打ち明けることのできない秘密。彼らを守るためには、自分が孤独になることもいとわないと思っていた。だが、自分の知らないところで、こんなにも自分のことを理解し、支えようとしてくれる存在がもう一人いたのだ。

(大悟……お前は一体、何者なんだ? 俺のことをどこまで知っていて、どこまで見通しているんだ?)

計り知れない謎と、それを上回る深い感謝の気持ちを抱えながら、紫苑はゆっくりと立ち上がった。

すると遠くの方から、聞き慣れた明るい声が自分を呼んでいるのが聞こえた。見ればちひろが悠真や美穂、朔也と一緒に手を振り、こちらに向かって走ってくるところだった。彼女たちの笑顔は太陽のように明るく、紫苑の心に再び力を与えてくれる。

大悟が自分にくれた約束、「辻褄を合わせてやる」という言葉を胸に、紫苑は自分が守るべき、そして自分を心から愛してくれるかけがえのない日常へと、ゆっくりと歩き出した。

頭上に広がる空はどこまでも高く、澄み切った青が広がっている。これから先、運命が自分にどれほど過酷な試練を与えようとも、どんな悲劇や困難が待ち受けていようとも、紫苑は決して屈することはないだろう。この柔らかな秋の陽光のような温かな時間、そして目の前にいる仲間たちの笑顔を守るためなら、自分は何度でも立ち上がり、戦い続けることができる。

紫苑はそっと心の中で誓った。この守るべきもののために、今日もまた戦い続けるのだ、と。

 

#7完

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