仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#9-3

2014年編#9-3

退院後の穏やかな余生、そしてちひろとの間に流れたあの温かな沈黙は、冬の夜の夢のように儚く、あまりにも呆気なく幕を閉じた。

ちひろと別れてからわずか数分後、夜の静寂を切り裂いたのは、耳の奥に直接響くような、三原からの緊急通信だった。

『紫苑、休んでいる暇はなくなった。』

通信機器から流れてきたのは、三原の声だ。普段は冷静沈着な彼の声にしては、珍しく焦燥と緊迫感が滲んでいる。

『市街地西方の倉庫街に、非常に強力なロイミュードの反応を感知した。幹部クラスのものだ。今、正確な座標を送信する。……体の具合はどうだ? 行けるか?』

三原の問いかけに、紫苑は一度だけ自分の足元に伸びる長い影を見つめた。冷たいアスファルトの上に浮かんだその影は、まるで自分のこれから歩む道のように、暗く重々しく見えた。だが、紫苑の心に迷いはなかった。彼は何も言わずに懐に手を入れ、シフトカーをしっかりと握りしめる。

「了解です、三原さん。……今、すぐに向かいます」

通信を切ると、紫苑はエンジン音を高らかに響かせ、ライドストライダーに飛び乗った。生傷の残る体にはまだ無理が利かないはずだった。退院したばかりの体は、まだ完全には癒えておらず、少し激しい動きをするだけでも、包帯の下の皮膚が鋭く引き攣り、鈍い痛みが全身を駆け巡る。それでも彼は、アクセルを最大まで開き、冷たい夜風を全身に受けながら、闇の中へと突き進んでいった。

「待ってろ……必ず、俺が行く」

彼の目には、正義を貫く者としての決意の炎が燃え上がっていた。

現場となった倉庫街は、街の中心部から離れ、人通りもほとんどない場所だった。背の高い倉庫が建ち並び、街灯の明かりも届かないその一帯は、闇がそのまま壁のように立ち込めており、まさにロイミュードが潜むには絶好の場所と言えた。

ライドストライダーのエンジン音が静寂を切り裂くように響き渡り、紫苑は現場へと到着した。ゆっくりとバイクを停め、ヘルメットを脱ぎ捨てると、その瞬間、彼の全身の神経が鋭く研ぎ澄まされる。

「……この感じは」

闇の彼方から、重苦しく、それでいて金属同士が擦れ合うような、耳障りな機械音が響いてくる。まるで生き物が低く唸るような、不快な振動を伴ったその音。紫苑が闇の中を凝視すると、そこには異形の影が蠢いていた。

数体の下級ロイミュードが周囲を取り囲むように配置され、その中心には、格段に大きく、そして威圧的なオーラを放つ存在がいた。——ロイミュード幹部、ラフロイミュードに間違いなかった。

「ラフ……! どうしてこんな場所に……」

紫苑は驚きを抑え、すぐに戦闘態勢を取る。相手はロイミュードの中でも特に強力な幹部クラス。一筋縄ではいかない相手であり、万全の状態でも苦戦は必至だ。ましてや今の自分は、傷が完全に癒えていない身である。だが、ここで逃げ出すわけにはいかない。このまま奴らに好き勝手に暴れられれば、近隣の住民に危害が及ぶのは時間の問題だ。

紫苑は走行していたバイクから華麗に飛び降りると、手早くベルトを腰に巻きつけ、シフトカーをブレスに力強く装填した。

「変身!」

電子音声が高らかに宣言する。

『TYPE TURISMO』

次の瞬間、青い閃光が闇を一気に払い、視界を染め上げる。光の粒子が紫苑の全身を覆い、硬化し、鮮やかな青の装甲が姿を現す。こうして、仮面ライダーGT・タイプツーリスモへと変身した。

着地と同時に、紫苑は最大まで加速を開始する。タイプツーリスモの真骨頂である超高速移動。まるで空気さえも切り裂くような速度で疾走し、周囲の景色は流れるように後方へと飛んでいく。視界が引き伸ばされ、世界全体がスローモーションになったかのような錯覚に囚われるほどのスピードの中、紫苑はラフロイミュードの周囲を旋回し、その死角へと回り込む。

「はぁっ!」

鋭い気合いと共に、渾身の回し蹴りがラフの側面に叩き込まれる。衝突の瞬間、激しい火花が散り、重い金属音が倉庫街に木霊する。ラフは大きく体勢を崩し、数歩後方へとよろめいた。

「効いた……!」

だが、攻勢に出ようと紫苑が踏み出した足を止めたのは、奇妙な違和感だった。以前、初めてこのラフロイミュードと対峙した時にも生じた現象——敵の動きが、まるで見えない何かに操作されているかのように、不可解なタイミングで一瞬だけピタリと静止したのだ。

「何だ……? また動きが止まった? 」

まさに千載一遇の好機。紫苑は迷うことなく、今度は渾身の正拳突きをラフの核へと向けて放った。この一撃を喰らえば、さすがの幹部クラスといえども大きなダメージを受けるはずだ。

——だが、その拳が標的に届くことは、ついになかった。

紫苑の視界の上空から、何か鋭いものが空気を切り裂くように落下してくるのが見えた。それは音もなく、まるで闇そのものが形を持ったかのような影。紫苑が防御体勢を取る間もなく、その影は彼の体へと激突し、右の横腹に凄まじい衝撃が走った。

「ぐはっ……!?」

装甲をも貫くような強烈な一撃。紫苑は悲鳴を上げる間もなく、体が大きく浮き上がり、そのままコンクリートの地面を何十メートルも転がっていく。行く手に積まれていた木製のパレットや鉄材が次々と粉砕され、激しい土煙が辺り一面に立ち込める。ようやく壁に体を打ちつけて停止した時には、体中に鈍い痛みが走り、息もまともにできない状態だった。

「……世話が焼けるな」

土煙がゆっくりと晴れていく中、低く冷たい声が闇に響いた。そこに立っていたのは、全身から氷のような冷徹な殺気を漲らせた、もう一体の幹部ロイミュードだった。漆黒の装甲に身を包み、手には禍々しい形状をした大鎌を携えている——クライロイミュード。彼は先ほどまで動きを止めていたラフの前に立ち塞がり、まるで盾となるようにして紫苑の前に立ちはだかった。

クライは無造作に大鎌を一閃させる。鋭い風切り音が響き渡った次の瞬間、紫苑が目にしたのは信じられない光景だった。大鎌が薙ぎ払われた方向にいたのは、ラフの配下であったはずの下級ロイミュードたち。クライの一撃は彼らを容赦なく貫き、串刺しにしていたのだ。

「な……何をしている!? 自分の仲間を……!?」

紫苑が驚きの声を上げるのと同時に、串刺しにされた下級ロイミュードたちの体内で何か異変が起きた。彼らの核が異常なまでの輝きを放ち、その体組織は周囲に散乱していた瓦礫や鉄骨、コンクリートの破片までをも吸い込みながら、不規則かつ異常な速度で膨張を始めた。

「まさか……エネルギーを過剰供給して……!?」

ロイミュードたちは自らの体を制御できなくなり、理性を失い、ただ破壊衝動だけを持った巨大な化け物へと変貌を遂げていく。やがてそれは、倉庫の屋根をも突き破らんばかりの巨体へと成長し、その場にいた誰もが言葉を失うほどの威容を誇る、巨大ロイミュードが誕生した。

「お前の相手はこいつだ」

クライは冷たく言い放ち、まるで獲物を見下すような視線を紫苑に向けた。

「……精々、足掻くがいい」

言葉と共に、クライが手にした大鎌から黒い衝撃波が放たれる。紫苑は咄嗟に腕で顔を覆い、爆風と砂塵から身を守る。視界が完全に塞がれ、何も見えなくなったその刹那。

「ラフ、行くぞ」

クライはそう囁くと、まだ少し動きの鈍いラフロイミュードを軽々と抱え上げ、次の瞬間には霧や煙のように夜の闇へと溶け込むように姿を消した。残されたのは、ただ、地響きを立てて猛り狂う巨大な化け物と、たった一人の仮面ライダーだけだった。

「待て……! 逃がすか!」

視界が晴れ、クライたちの姿が完全に消えたことを悟った紫苑は、激しい怒りと共に駆け出そうとする。だが、足元が大きく揺れ、重圧が彼の体にのしかかる。目の前には、ビルさえも凌駕するほどの巨体が、怒りに任せて周囲の建物を破壊しながら咆哮を上げているのだ。この化け物を放置すれば、すぐ近くにある住宅街は文字通り一瞬で壊滅し、多くの罪のない人々が犠牲となるだろう。

紫苑は奥歯を噛みしめ、通信機を通じて三原へと状況を伝える。声には抑えきれない焦りと覚悟が込められていた。

「くそっ……三原さん! ロイミュード幹部を二体確認しましたが、いずれも逃走を許してしまいました! 現在、現場では融合・巨大化した個体が暴れています! すぐにライナーを!」

通信を終え、紫苑は再び戦闘態勢を取る。退院したばかりの体に、再び戦闘の緊張感が走り、傷口がまるで焼けるように熱く疼き始める。だが、彼は逃げ出すわけにはいかなかった。自分がここでこの化け物を食い止めなければならないのだ。

紫苑は自分の運命が、もはや後戻りのできない深い闇の淵へと、自ら足を踏み入れたことをはっきりと感じていた。それでも、彼の心に宿る正義の灯が消えることはない。

「来い……化け物!」

燃え上がり、崩れ落ちていく倉庫街の炎をその瞳に焼きつけ、仮面ライダーGTは、目の前に立ちはだかる巨大な悪意へと、再びその身を投じた。

「俺が……絶対に、ここでお前を止めてみせる!」

闇の夜に、青い戦士の雄叫びがいつまでも響き渡っていた。

 

(続)

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