仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#12-1

2014年編#12-1

あの日、激しい雨の中でちひろと心を重ね合わせてから、季節は三度目の移ろいを見せ、気がつけば3ヶ月もの時が流れ去っていた。

冬の寒さはまだ身に染みるものの、時折吹く風の中には、わずかながらも春の予感が含まれるようになっている。木々の枝先も、固い蕾を少しずつ膨らませ始めていた。ロイミュードとの戦いはというと、まるで嵐が来る前の海のように、奇妙なほど静かな日々が続いていた。三原のもとで訓練と任務に身を投じる日々、そして大学のキャンパスに戻れば、そこには友人たちの笑い声と平凡な日常がある。紫苑は二つの世界を往復しながら、そのどちらにも真の意味で身を置けないような、宙づりにされたような感覚を抱え続けていた。

かつての親友であり、今は敵となった大悟——いや、フィアと名乗る男の裏切りは、今でも紫苑の胸の奥に消えることのない痛みとなって残っている。ふとした瞬間によぎるその痛みは、自分の選んだ道が正しいのか、そもそもこの戦いに意味があるのかと、彼を何度も迷わせた。だが、そんな時、いつも隣にはちひろがいた。彼女の存在だけが、紫苑を「人間」としての世界へと繋ぎ止め、戦い続けるための心の支えであり、どんな攻撃よりも強固な盾となってくれていた。

そして、時は流れ、2015年の2月14日。バレンタインデー。

しかし、大学のキャンパスに甘いチョコレートの香りが漂う一方で、学生たちの表情にはどこか悲壮感が漂っていた。それもそのはず、この日は同時に試験期間の真っ只中でもあった。恋の甘さを語るよりも先に、単位と進級がかかった現実的な戦いが待ち受けているのだ。

「はぁ……もうダメだ。試験勉強、まったく終わる気配が見えねえ。公式も用語も、頭に入ってこないで、右から左へ抜けていくだけだぜ。ったく、バレンタインなんて浮かれてる場合じゃない。恋愛どころか、俺の将来が暗闇に飲み込まれそうだ……」

いつもの学食の一角。テーブルの上には参考書やノートが山積みにされ、まるで砦のようになっている。その陰から顔を出した悠真が、生気の失せた目で天を仰ぎながら、絶望的な声でぼやいた。

「悠真、あまりにも締め切りギリギリになってから慌てすぎなんだよ。まったく、毎度毎度同じことを繰り返して。頼むから留年だけは避けてくれよ。俺たちが先に進級して、お前だけ一人取り残されるなんて光景、想像しただけで寝覚めが悪いだろ」

向かいに座る朔也は、ノートパソコンのキーボードを叩く指を止めることなく、冷静な口調で毒を吐く。その手元には、すでに要点が整理されたノートが広げられており、普段からの努力の差がはっきりと表れていた。

「二人とも、そんなに根詰めたら体に悪いよ。勉強も大事だけど、少しくらい休憩しないと、かえって効率が落ちちゃう。はい、これ、お疲れ様」

そんな張り詰めた空気を和らげるように、美穂とちひろが柔らかな笑顔を浮かべながら立ち上がった。二人は顔を見合わせて頷くと、持ってきていた紙袋の中から、チョコレートの包みや手作りのクッキー、マドレーヌなどを取り出し、テーブルの上に次々と並べていく。甘い香りが一気に周囲に広がり、周りの学生たちの視線も集め始める。

「おおっ! これは……まさに天使の贈り物! いや、女神だ! 女神様がこの俺のために舞い降りてくださったのか!」

悠真は先ほどまでの絶望が嘘のように目を輝かせ、まるで餌を待つ小動物のように身を乗り出すと、真っ先にチョコレートの包みを手に取った。「ありがとう! 一生恩に着る!」と大喜びしている。

そんな悠真のはしゃぎぶりを横目で見ながら、美穂は自分のバッグから、他のものとは少しだけ違う、リボンの飾りが繊細な小さな箱を取り出した。彼女はそれを大事そうに両手で持つと、隣に座るちひろの前にそっと差し出す。

「はい、ちひろ。」

「え? 私に? おかしいな、今日は私がみんなにあげる番だと思って用意してきたのに……」

ちひろは丸い瞳をさらに大きくして驚き、手元の自分が配るための菓子の袋と、美穂から差し出された箱を交互に見つめる。すると美穂は、「何を言ってるの」というように、優しくて温かい笑顔を浮かべた。

「だってほら、今日、2月14日でしょ? ちひろの誕生日じゃない」

その一言が発せられた瞬間、テーブルを囲んでいた紫苑、朔也、悠真の三人の動きが、まるで時間が止まったかのようにぴたりと静止した。口に運ぼうとしたチョコレートが空中で止まり、キーボードに置かれた指も動きを失う。

「へぇ~! そうだったのか! ちひろって、バレンタインデーが誕生日だったのか! すごいな、なんだか二つ分おめでたい感じで、お得な感じがするぜ!」

最初に我に返った悠真が、チョコレートを口の中に放り込みながら、感心したように言う。甘さが口いっぱいに広がると同時に、ちひろへの祝福の気持ちが湧き上がってきたようだ。

「バレンタインが誕生日とは……なかなか珍しいケースだな。それは確かに、忘れられにくいような、それとも逆に埋もれてしまうような、不思議な日取りだ」

朔也もようやく思考が追いついたらしく、感心したように頷きながら、手元のノートから視線を上げてちひろを見つめる。

だが、そんな二人の反応を見て、美穂は少し呆れたような、それでいてどこか悲しげなまなざしを向けた。

「ちょっと、二人ともひどいじゃない。ちひろが大学に入って最初の頃、自己紹介の時にちゃんと言ってたよ。『誕生日は2月14日です』って。それなのに、まったく覚えてなかったの?」

「……え、ああ、そ、そうだったっけ?」

紫苑も突然の問いかけに不意を突かれ、記憶の底を探るように眉をひそめる。

そんな気まずい空気が流れる中、ちひろは周りを和ませるようににっこりと笑った。

「……あはは! 大丈夫、大丈夫! みんな今は試験勉強で頭がいっぱいなんだから、そんな細かいことまで覚えてられないのは当たり前だよ。それに私、昔からそうなの。バレンタインデーってみんなチョコレートだの恋だので大忙しでしょ? だから私の誕生日はいつもバレンタインの影に隠れちゃって、忘れられるのなんて子供の頃から当たり前のことになってるの。もう慣れっこだから、全然気にしてないよ!」

ちひろはいつものように太陽のように明るく、まばゆい笑顔を浮かべておどけてみせる。だが、その笑顔を見つめる紫苑の目には、そこに隠された彼女の本当の心が映し出されるようだった。明るく振る舞い、周りの空気が悪くならないようにと自分の感情を押し殺し、いつも笑顔で済ませてしまう。そんな彼女の健気さが、今の紫苑には少しだけ寂しげで、胸が締め付けられるように感じられた。

ちひろはそっとテーブルの下に手を伸ばし、紫苑の指先にそっと触れる。言葉はなくとも、彼女は「本当に大丈夫だから、気にしないで」と、その瞳が語りかけていた。

学食の大きな窓の外には、柔らかな冬の陽光が降り注いでいる。まだ冷たい空気の中にも、確かな光が満ちており、キャンパスの木々や道を行き交う学生たちを暖かく照らしていた。

試験のことで頭を悩ませる会話、何気ない他愛もないおしゃべり、テーブルの上には甘いチョコレートの香りが立ち込めている。これはどこにでもあるような、ありふれた光景に過ぎないのかもしれない。だが、紫苑にとっては何物にも代えがたい、かけがえのない「平和」そのものだった。この時間がいつまでも続けばいいと、心から願わずにはいられなかった。

だが、紫苑の腰にかけたリュックの中には、GTドライバーが重く、冷たい存在感を放ったまま沈んでいた。

—お前が命がけで守ろうとしている日常こそが、最も醜く、脆く、偽りに満ちた嘘だ……

かつてフィアが口にした言葉が、チョコレートの甘さをすべて打ち砕くような冷たさとなって、紫苑の脳裏に何度も何度もよぎる。この穏やかで幸福な時間が、いつか必ず引き裂かれ、破壊されてしまう日が来ることを、紫苑は自分の本能が警鐘を鳴らすようにして感じ取っていた。

それでも、目の前で自分の誕生日を祝ってもらい、少し照れくさそうに、それでいて心の底から嬉しそうに笑うちひろを、この手で守ることができるのなら、自分は何度でもあの暗く絶望的な戦いの地獄へと戻る覚悟ができていた。たとえそれが嘘の世界だったとしても、彼女が笑っていられる世界である限り、自分は戦い続ける意味があるのだと信じていた。

嵐が来る前の凪いだ海のように、この時間はあまりにも美しく、そして儚く一瞬のものだった。

だが、この静寂を切り裂き、世界を闇へと突き落とす咆哮が、今まさに彼らのすぐそばまで迫ってきていることを、この時はまだ誰一人として知らなかった。

次なる戦いの火ぶくれは、すでに切って落とされようとしていた。

 

(続)

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