仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

7 / 47
2014年編#2-1

2014年編#2-1

 

紺碧の装甲が炎の明かりを受けて妖しくきらめき、流線型のボディが闇の中で一筋の青い光のように浮かんでいた。仮面ライダーGT――その正体である紫苑は、路地裏を埋め尽くすように迫り来るロイミュードの群れを前に、一歩も退かず立ちはだかっていた。ヘルメットの奥に輝く緑の単眼が、次々と襲いかかる敵の姿を冷徹に捉え続ける。

だが、手に入れた力が絶大なものである一方、それを使いこなす術を何も知らない紫苑にとって、現実はあまりにも厳しく、非情なものだった。

最初に襲いかかってきた一体が、金属の体を軋ませながら右腕を大きく振り上げる。紫苑はただ立ったまま、目の前の光景にただ驚くばかりで、回避することも防御することもできなかった。次の瞬間、重く鈍い衝撃が胸元に炸裂する。鉄塊そのもののような一撃は、装甲を大きく歪ませ、内臓にまで響くような鋭い痛みを全身に走らせた。紫苑は制御を失い、地面を何回も転がり、コンクリートの壁に背中から激突してようやく止まった。口の中には鉄錆の味が広がり、体中が悲鳴を上げるように痛み、手足はまるで自分のものではないかのように重く、思うように動かない。

「クソッ……どうやって倒すんだ、こんなの……!」

紫苑は地面に手をつき、なんとか体を起こそうとするものの、力が入らず再び崩れ落ちそうになる。見れば、さらに数体のロイミュードがゆっくりと、しかし確実に自分を取り囲むように動いている。彼らは無表情で、ただ破壊と殺戮だけを目的とした機械のように、獲物が逃げられないことを確信しながら近づいてくる。紫苑は防戦一方で、ただ敵の攻撃を受け続けるばかり。何度も地面に叩きつけられ、装甲の至る所に傷が刻まれ、青い光が弱まっていくのを感じた。このままでは確実に殺される――そんな絶望感が心の底から湧き上がり、視界が暗くなっていく。

その時だった。

突然、脳の奥深く、髄液を直接かき回されるような鋭い衝撃と、耐えがたい不快感が紫苑の意識を強く打った。まるで頭の中に何者かが無理やり侵入し、神経回路に直接干渉してくるかのような感覚で、紫苑は思わず叫び声を上げ、頭を抱えるように体を丸めた。

「っ……!」

だが、苦痛はほんの一瞬のことだった。次の瞬間、紫苑の視界はまったく別の様相へと一変した。

まるで網膜の裏側に直接映像が投影されるかのように、無数の数字や記号、複雑な幾何学模様が浮かび上がる。それは高度な情報表示システム――HUDであり、空間の座標軸、距離、角度、速度といった環境情報から、迫りくるロイミュード一体一体の体の構造、弱点、エネルギーの流れ、さらには次にどのような動きをするかといった予測情報までが、瞬時に解析され、鮮明に映し出されていた。

「そうか……! これで……!」

混乱し、焦り、恐怖でいっぱいだった頭の中が、氷のように冷たく、そして研ぎ澄まされたものへと変わっていく。感情は後回しになり、ただ純粋な論理と判断能力だけが残される。これこそがシステムの真の機能――装着者の思考を補助し、肉体の潜在能力を最大限に引き出すための支援機構だったのだ。システムは自動的に紫苑の肉体にかかっていたリミッターを次々と解除し、目の前の状況に対する最適な「解」を、次から次へと導き出していく。

先ほどまでの無様で拙い動きが嘘のように、GTの挙動は一変した。敵の攻撃が来るタイミング、軌道、回避するための最善のルート――それら全てが瞬時に把握でき、体はその指示に従って自然に動き出す。タイプツーリスモというフォームが持つ最大の特徴であり、最も強力な武器である圧倒的な加速力が、今、完全に解き放たれた。

青い残像が夜の街を疾走する。紫苑はまるで重力さえも無視するかのように、狭い路地を縦横無尽に駆け抜け、ロイミュードたちの攻撃を次々とかわしていく。敵たちは突然標的を見失い、混乱して互いにぶつかり合い、空しく腕を振り回すばかり。次の瞬間、GTの拳が一体の側面に炸裂し、重い金属音と共に装甲に深い亀裂が走り、火花が四方に散る。また別の個体には鋭い回し蹴りが命中し、体は大きく吹き飛ばされてコンクリートの壁に叩きつけられ、金属の破片が雨のように降り注いだ。

ただ走り、ただ打つだけではない。敵の構造を完全に把握した紫苑は、最も効果的な部位に正確に攻撃を加え、少ない力で最大のダメージを与えていく。無秩序だった戦いは、瞬く間にGTのペースに飲み込まれ、一方的な蹂躙へと変わっていった。青い光が闇の中を駆け巡るたびに、金属が軋む音と衝撃音が響き渡り、ロイミュードたちは次々と戦闘不能になって倒れていった。

 

その頃、戦いの場から少し離れた暗がりでは、別の出来事が静かに進行していた。

炎に照らされた路地の片隅に、紫苑の父である矢切が、穏やかな表情を浮かべたまま横たわっていた。長年の使命を果たし、全てを託すべき相手に託した彼の表情には、もはや苦痛も不安もなく、ただ安らかな眠りについたかのようだった。

その傍らに、いつの間にか一人の男が立っていた。

夜の闇に溶け込むような、隙のない黒いスーツに身を包み、髪型も整えられ、姿かたちだけを見ればどこかのエリート企業の社員か、あるいは国家機関の職員のように見える。だが、その全身から漂う雰囲気は極めて冷徹で、感情というものが完全に欠落しているかのようであり、見る者に無言の圧迫感を与えた。男は無言のままゆっくりとしゃがみ込み、見開かれたままの矢切の瞳をじっと見つめた。その瞳には、自分の全てを託した息子の未来を案じるような、そして自身の役割が終わったことへの安堵が映っていた。男はそっと指先を伸ばし、まるで長年の戦友を弔うかのように、ゆっくりと彼の瞼を下ろしてやった。

「矢切……」

低く、囁くような声が闇に消えた。それがこの男から発せられた唯一の言葉だった。男は立ち上がると、無感情に左腕に巻きつけた腕時計に視線を落とし、時間を確認するような仕草を見せた。秒針がカチカチと音を立てて進む様子を無表情に見届けた後、彼は一言も発することなく、静かにその場を後にした。闇の中にゆっくりと姿を消していく背中は、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、静かで、そして不気味だった。

 

一方、戦いの最中にある紫苑の視界には、新たな情報が次々と表示されていた。

敵の数、残りのエネルギー、自身の体力や装甲の損傷状態――それらに加え、やがて鮮やかな赤い警告色が点滅し始め、同時に必殺技の発動を促すガイドが浮かび上がった。空中には、キックの動きを示す簡略化されたイラスト――ピクトグラムがゆっくりと回転しながら表示され、最適なタイミングや角度、必要なエネルギー量までが細かく示されている。これ以上の戦闘を続けるよりも、一撃で決着をつけることが最善である――システムが導き出した答えだった。

「えっと……こうか……!?」

紫苑は表示された情報を瞬時に理解し、直感に従って行動する。彼は腰元のベルトから伸びるグリップに両手をかけ、力任せに何度も捻り上げた。金属が軋む音が響き、ベルト全体が明るく青く輝き始める。

『FULL THROTTLE!』

機械の駆動音が急激に跳ね上がり、まるで高性能エンジンが限界回転に達したかのような重低音が周囲に響き渡る。大気が震え、地面が小さく揺れ、周囲の建物のガラスや瓦礫がその振動でカタカタと音を立て始める。紫苑の全身には、今まで感じたことのないほど膨大なエネルギーが流れ込み、紺碧の装甲は太陽のような強い光を放つまでになった。

「行くぞ!」

叫ぶと同時に、紫苑は爆発的な加速力を生かして大きくジャンプした。体は空高く舞い上がり、一瞬だけ夜空に浮かぶ。その間にも、視界のHUDは標的の位置を精密に捉え続け、風向きや重力、敵のわずかな動きに合わせて計算を繰り返し、誤差数センチメートル単位で軌道を調整する。紫苑は空中で右足を前に突き出し、足先に青いエネルギーを一極集中させた。エネルギーは鋭く尖り、まるで光の槍のような形になって、標的であるロイミュードのエネルギー核を狙う。

次の瞬間、彼は一気に落下し、渾身の力を込めた飛び蹴りを、ロイミュードの体の中心部に叩き込んだ。

ドゴォォォンッ!

地鳴りのような轟音が辺り一面に響き渡り、衝撃波が周囲の建物の窓ガラスを次々と砕き、地面に大きな亀裂を走らせた。青い光が爆発し、標的となったロイミュードは内側から大きく弾け飛び、無数の金属の破片となって四方に散らばった。断片は火花を散らしながら地面に落ち、やがて黒い煙と共に静かに消えていった。

その光景を目の当たりにした他のロイミュードたちは、これまでの無敵な態度を一変させ、明らかに恐怖した様子で後退し始めた。彼らは単なる機械ではなく、生き物としての本能も持ち合わせており、自分たちと戦っている相手が、あまりにも桁外れな戦闘能力を持つことを瞬時に理解したのだ。残った数体は互いに素早く意思疎通を図ると、ゆっくりと、そして慎重に後退し始め、やがて闇の中に逃げ込み、姿を消していった。彼らが再び現れることはなく、戦いはこうして終わりを告げた。

炎に包まれ、焦げた臭いと鉄錆の香りが充満する街の片隅で、GTはただ一人、肩を激しく上下させながら立ち尽くしていた。全身に感じる疲労感は凄まじく、まるで骨の髄まで力が抜けてしまったかのようだ。だが、それ以上に、自分が生き延びたという実感と、これから先に待ち受ける未知なる運命への不安が、心の中で複雑に絡み合っていた。

そんな紫苑の視界の端では、HUDが依然として表示され続けており、様々な情報の中でも特に一つの数字が刻一刻と刻まれ続けていた。

00.09.47.63

その数字は一秒ごとに、いやコンマ一秒ごとに確実に減っていく。まるで自分の命そのものが削られていくかのような、不穏な響きを持っていたが、戦いの興奮と疲労の中で、紫苑はただ漠然と眺めることしかできなかった。

突如、静まり返った路地裏に、低く張りのある声が響いた。

「変身を解け!」

紫苑ははっとして素早く背後を振り返る。そこに立っていたのは、先ほど父の傍らにいた黒いスーツの男だった。いつ現れたのか、どこから来たのか、まったく気がつかなかった。闇に溶け込むような佇まい、無表情な顔立ち、そして全身から放たれる有無を言わせぬ圧迫感——まるでこの場所、この時間そのものを支配しているかのような雰囲気に、紫苑は思わず身構えた。だが、敵意は感じられない。それでも、この男がただの通行人ではなく、自分たちの事情を深く知る者であることだけは、直感的に理解できた。

紫苑は戸惑いながらも、男の言葉に従う他なかった。彼は左手首に装着されたブレス型デバイスに手をかけ、差し込まれていたシフトカーをゆっくりと引き抜いた。

瞬間、全身を覆っていた紺碧の装甲は、一つ一つ青い光の粒子となって舞い上がり、風にさらわれるように消えていく。重厚な感覚が体から離れ、軽くなった体が急に寒さを感じ始める。やがてその場に現れたのは、汗だくで息を弾ませ、衣服も破れ汚れた、一人の青年の姿だった。

夜の冷たい風が路地裏を吹き抜け、戦いで高揚し熱くなった体を一気に冷ましていく。肌寒さに身震いしながら、紫苑は目の前に立つ正体不明の男と、一歩も退かず真っ向から向き合った。

(続)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。