仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#13-2

2014年編 #13-2

世界がまるで硬直したかのように、すべての動きが止まっていた。風さえも息を潜め、校庭の木々は葉一枚揺らさず、遠くの校舎の窓も凍てついたように静まり返っている。その凍りついた空間の中心に立つのは、もはやかつての面影すら残さない存在だった。

鉄黒い外骨格が全身を覆い、関節部からは鈍い金属光沢が漏れ出す。背中には棘のような突起が並び、その姿はまさに人間を超えた異形――フィアロイミュードと化した大悟そのものだった。彼の周囲には微かな重力の歪みが生まれ、地面の砂利や枯れ葉がゆっくりと浮き上がり、また舞い落ちる。その圧倒的な存在感と、重く冷たい空気に満ちた威圧感は、見る者の心臓を鷲掴みにするには十分すぎた。

悠真は口を開けたまま、呼吸することさえ忘れていた。隣に立つ朔也も、全身を硬直させ、手に持っていた教科書が音もなく地面に滑り落ちるのも気づかない。美穂は両手で口を押さえ、大きな瞳からは次々と涙が溢れ出し、頬を伝って落ちていく。かつては一緒に昼食を食べ、馬鹿な話をして笑い合い、テスト前には解答のポイントを教え合った仲間。その中の一人が、怪物そのものだった――この事実は、彼らの理解を遥かに超え、ただただ恐怖と混乱だけを残していた。

「さあ、これでお前の逃げ道はもうない。すべては暴かれた」

フィアの声が空気を震わせて響く。それは機械の駆動音が混ざったような、低く冷徹で、どこまでも無感情な重低音だった。その声一つ一つが、紫苑だけでなく、周りの三人の心にも鋭い針のように突き刺さる。フィアはゆっくりと右腕を上げ、鋭く尖った指先を、恐怖に凍りついた悠真たちの方へと向けた。

「お前が必死に守り、隠し続けてきたこの柔らかな『日常』という繭。それは今、俺の手によって引き裂かれた」

フィアの言葉が、紫苑の胸の奥深くに突き刺さる。

「お前一人が傷つく段階はもう終わったんだ。GTになれ、紫苑。この惨めな観客たちの前で、お前もまた、人ならざる者であることを証明してみせろ」

紫苑は自分の足元に視線を落とした。悠真と朔也は腰を抜かし、地面に座り込んだまま身動きもできず、美穂は泣きながら自分を見上げている。その視線の一つ一つが、まるで焼けるように熱く、痛く、紫苑の皮膚を、心を貫いていく。

本当は知られたくなかった。絶対に秘密にしておきたかった。彼らだけは、この血生臭く、理不尽で、危険な世界から遠く離れた場所にいてほしかった。笑って、悩んで、ただ普通の大学生としての日々を過ごしてほしかった。自分一人がこの運命を背負い、傷つき、苦しめばそれで良いと思っていたのだ。だが現実は、紫苑の願いなどお構いなしに、容赦なく彼の大切なものすべてを巻き込み、引き裂いていく。運命とは、なんと残酷なものなのだろう。

紫苑はゆっくりと顔を上げ、フィア――かつての親友であった男を見据える。迷いと痛み、そして怒りが入り混じった瞳の奥に、次第に固い覚悟が宿り始める。震える自分の左手を右手で強く握りしめ、紫苑は腰に手を回し、隠すように携帯していたGTドライバーを取り出し、しっかりと装着した。金属製のベルトが腰に収まる感触が、いつもよりも重く、冷たく感じられた。

「……変身……!」

低く、しかし力強い声でそう叫ぶと、紫苑はドライバーのグリップを勢いよく捻った。

次の瞬間、地鳴りのようなエンジン音が空気を揺るがし、辺り一面に響き渡る。青く鮮やかな閃光が紫苑の全身を包み込み、光の渦の中から硬質な金属音が次々と鳴り響いた。一瞬のうちに重厚で洗練された装甲が彼の体を覆い、頭部にはヘルメットが形成され、紫苑は人間の姿を脱ぎ捨て、戦士――GTへと変貌を遂げた。

「あ、あれは……!」

悠真が声にならない声を上げる。

「紫苑……嘘だろ……お前……そんな……」

朔也の声は震え、絶望的な響きを帯びていた。二人の中にあるのは、かつての友人への親しみではなく、信じられないという驚きと、自分たちとは違う存在になってしまった者への、拭い去ることのできない恐怖だった。

テレビのニュースや新聞で見る怪物との戦い。それは遠い世界の出来事で、自分たちの生活とは関係のないものだと思っていた。だが今、自分たちのすぐ目の前で、最も身近な友人がその戦いの当事者であり、怪物と対峙する存在であったことが明らかになった。彼らの信じていた日常、世界の仕組み、そういったものすべてが、根本から音を立てて崩れ去っていくのを、悠真たちはまざまざと感じていた。

「大悟っ……! お前、よくも! ちひろを……みんなをっ!」

GTの口元から漏れ出すように、紫苑の怒りと悲しみが混ざり合った叫び声が響く。変身によって高まった力が体中にみなぎるのを感じながら、紫苑はフィアに向かって一気に駆け出した。

かつては同じ教室で勉強し、同じ学食で同じメニューを頼み、テスト前には解答を教え合い、時にはくだらないことで笑いもした――そんな二人の拳が、今は凄まじい衝撃波を生み出しながら激突した。

金属同士がぶつかり合う耳をつんざくような音が響き、火花があたり一面に飛び散る。フィアの鋭い爪のような一撃がGTの装甲を擦り、赤い火花と共に細い傷跡を残す。反撃として放たれた紫苑の重い回し蹴りは、フィア腕に激突し、衝撃で周囲の地面が大きく抉れた。

「そうだ、その怒りだ、紫苑! だが、お前はまだ甘い。背負っている『日常』が、お前の動きを鈍らせている」

フィアの言葉は的確に紫苑の心の隙間を突いていた。

そう、紫苑には迷いがあった。背後には自分のせいで恐怖に怯え、混乱している悠真たちがいる。この戦いで彼らを巻き込み、傷つけるわけにはいかない――その思いが紫苑の動きに微妙な躊躇いを生み出し、フィアに対して常に後手に回る原因となっていた。攻撃する時も、防御する時も、彼らの安全を確認しながら戦わなければならず、思い切った行動が取れないのだ。

フィアはその紫苑の内面的な弱点を見逃さなかった。彼は素早く間合いを詰め、全身のエネルギーを一点に収束させ、力を込めた強力な一撃を、紫苑の装甲の隙間である胸元目掛けて打ち込んだ。

「ぐああぁぁぁっ!」

鈍い衝撃音と共に、紫苑の体が大きく後方に吹き飛ばされた。重い体が地面を滑り、途中で瓦礫やコンクリートの破片を巻き込みながら砕き、悠真たちのすぐ足元まで転がるように倒れ込む。地面には深い溝が刻まれ、激しい火花と共に砂煙と黒い煙が立ち上り、辺りを覆った。

「紫苑! 紫苑、しっかりして!」

美穂は恐怖と悲しみを押し殺し、煙の中に飛び込むように駆けつけ、倒れたGTの硬い装甲の腕に必死にしがみついた。その手は震えており、体温が伝わってくる。その温もりが、今の紫苑には何よりも切なく、苦しく、胸を締め付けた。自分はこんなにも大切な人たちを苦しめ、悲しませているのだ、という事実が重くのしかかる。

その時、フィアの全身を覆っていた鉄黒い金属結晶が、まるで溶けるように、あるいは霧散するようにして消えていった。異形の姿が解け、そこには元の人間の姿、つまり大悟が立っていた。パーカー姿のまま、何ごともなかったかのように悠然と立つ彼は、倒れ伏す紫苑と、それを庇うように立つ美穂、悠真、朔也の姿を冷たく見下ろしていた。その瞳には、かつて親友として紫苑に向けていたような温かな光や慈しみの色は微塵も残っておらず、ただ一つの目的を完遂しようとする、狂気とも言えるような冷徹な意志だけが宿っていた。

「これが本当の絶望だ」

大悟は静かに、だがはっきりと言い放った。

「信じていた友人が、愛した女が、そして自分自身さえもが……すべてが嘘の上に成り立っていた。この絶望を乗り越えてみろ、紫苑」

彼はそこで言葉を切り、空を見上げた。冬の空は澄み渡り、冷たい風が校庭を吹き抜けていく。

「紫苑、今夜、エリア0に来い。……覚えているだろう? 第二次グローバルフリーズの爆心地。そして、お前の親父――矢切が死んだあの場所だ」

紫苑の体がビクリと跳ね上がった。

忘れるはずがない。あの場所は、自分にとって最も辛く、悲しく、そして自分の運命が根本から変わってしまった地獄のような場所だった。父が目の前で命を落とし、世界が凍りつき、すべてが狂い始めた始まりの地点。

「そこで決着をつけよう。すべてを終わらせ、新しい世界の産声を聞くんだ。……来い、紫苑。逃げれば、お前が今しがみついているその残骸のような日常を、一人残らずこの手で消し去る」

大悟はそう告げると、周囲にかけられていた重加速の影響が解かれるように、空間の歪みが消えていく。彼は何もなかったかのように背中を向け、雑踏の中へと姿を消した。

世界が再び動き始めた。周囲にいた他の生徒たちや教師たちが、何が起きたのかと騒ぎ始め、遠くではサイレンの音も聞こえてくる。だが校庭の中心部だけは、時間が止まったかのように静まり返っていた。

倒れたままのGT――紫苑の周りには、美穂、悠真、朔也の三人だけが立ち尽くしている。重苦しい静寂が四人を包み込み、誰も言葉を発することができない。

やがて、悠真が口を開いた。その声はあまりにも震えており、かすれていた。

「紫苑……どういうことだよ、これ……。お前、一体何を隠してたんだ? 大悟は何なんだよ……! 何だよ、これ……!」

問いかけは鋭い刃となって、紫苑の心に深く突き刺さった。

もう、誰も笑っていない。楽しかった昼休みも、テスト前の焦りも、帰り道の他愛もない話も、すべてが遠い過去のものになってしまった。かつて彼らが共有していた幸福な日常は、今や灰色の瓦礫となって地面に散らばり、跡形もなく崩れ去っていた。

紫苑はヘルメットの奥で溢れ出した涙を拭うこともできずただ、澄み渡る空を見つめていた。父が死に、自分のすべてが変わってしまったあの場所で、今度こそすべてに決着をつけなければならない。それが終わりであり、新たな始まりとなるのか、それともさらなる絶望が待っているのか――誰にもわからない。

ただ一つ確かなことは、最後の夜が、今まさに始まろうとしているということだった。

 

(続)

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