仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

77 / 96
2014年編#13-4

2014年編#13-4

静寂が、まるで分厚い氷のように空間全体を覆い尽くしていた。

ここは地下深く、かつて人類が高度な文明を築き上げた名残の場所。だが今では、剥き出しになったコンクリートの壁は長い年月の湿気を吸い込み、所々に黒ずんだ染みが浮かび上がり、崩れかけた配管や散乱した機械の部品が、かつての繁栄が嘘のように無残に転がっている。時折、天井の亀裂から冷たい水が一滴、また一滴と落ちる音が響く――カタン、カタンと、まるで時の流れを数えるように、あるいはこれから起きる出来事を予告するかのように、不気味なリズムを刻み続けていた。

暗闇が支配するその空間の奥深く、三つの影が互いに距離を置き、対峙するように佇んでいた。彼らはロイミュード。人間が生み出した存在でありながら、今や人間を遥かに凌駕する力と知性、そして冷徹な論理を備え、この世界の実権を握りつつある存在だった。

「キング、申し訳ありません。ラフを失ったのは、私の責任です」

最初に静寂を破ったのは、クライの声だった。抑揚の少ない機械的な響きを帯びてはいたが、その奥には微かな悔恨と焦燥が混ざっているのを、空気の振動から感じ取ることができた。彼は深く頭を垂れ、視線を自分の足元に広がる闇に落としている。

クライにとって、ラフ――すなわちちひろの存在は、計画の要であった。紫苑という男の心を、徹底的に砕き、絶望の底へと突き落とすための、他に代えがたい「最高の装置」。それを予定よりも遥かに早く喪失したことは、緻密な計算に基づいて行動する彼にとって、到底許容できない誤算であり、自身の能力への疑問すら生じさせる事態だった。

だからこそ、彼はこうして自らの非を認め、主であるキングへと謝罪しているのだ。

だがそんなクライの心情など、まるで理解も共感もしないといった様子で、別の場所から嘲るような声が響いた。

「フン、愚かなことを。あんな操り人形同然の存在、最初からあんなまどろっこしい使い方をしているからこうなるのだ」

レイジである。彼は壁に肩をもたせ、両腕を胸の前で組み、暗闇の中でも鋭い光を放つ瞳でクライを睨みつけていた。その口調には明らかな軽蔑と怒りが含まれており、クライのやり方を完全に否定していた。

「人間の皮など被るからだ。人間の真似事をして、愛だの絆だの、心の交流だのと……くだらない不純物を計画に混ぜ込むから、肝心な場面で制御不能になり、勝手に消えるようなことになる。すべてお前のやり方が間違っているからだ」

レイジの思想は極めて単純明快で、そして凶悪だった。力こそが正義であり、圧倒的な力で相手をねじ伏せ、絶対的な恐怖を植え付けることこそが、支配の最も確実で効率的な方法だと信じて疑わない。策略や心理操作などといった、回りくどく不安定な手段を用いるクライのことを、彼は昔から見下していた。

「力で支配し、恐怖で服従させれば、何の問題も起きはしない。『第3世代』だか何だか知らないが、はじめから人間などという不確かで不安定な存在の感情などに期待をかけたお前の完全な敗北だ、クライ」

「なんだと……?」

クライの瞳が、瞬く間に青白い鋭い光を宿した。彼はゆっくりと頭を上げ、その光の瞳でレイジを真っ直ぐに睨み返す。空気が一気に張り詰め、二人の間には見えない緊張感の壁が生まれ、周囲のコンクリートの壁や床にまでその衝撃が伝わったのか、ピシリ、ピシリと乾いた亀裂の音が鳴り響いた。

知略と情報収集、そして観察に基づいた緻密な計画を至上とするクライと、純粋な破壊力と暴力による制圧を善しとするレイジ。二人の性質は根本的に異なり、常に反発し合い、対立を繰り返してきた。今この場でも、その相容れない思想の衝突が火花を散らし、今にも激しい戦いへと発展しようとしていた――その瞬間だった。

「いや、これでいい。」

部屋の最も奥、一段高くなった場所に置かれた、無機質で冷たい金属製の椅子――まるで玉座のようにも見えるその場所から、落ち着いた、しかし絶対的な権威と、何者も拒絶を許さない響きを持った声が発せられた。

クライもレイジも、その声を聞いた途端に口を閉ざし、同時にそちらへと向き直る。彼らの主、このロイミュードたちを統べる王、フィアこと大悟が、そこにいた。

暗闇の中で、彼の瞳だけが赤く妖しく、そして冷たく輝いている。長い時間をかけて人間の心を捨て去り、ロイミュードの王としての存在へと進化を遂げた彼の周囲には、生きた人間が放つ温かなオーラなど微塵もなく、死と再生を司る、まるで神話に出てくる神のような、あるいは冷酷な機械のような冷徹な空気が満ちていた。

「ラフが消えたこと、ちひろが自ら紫苑の手によって命を落としたことは、我々にとって予定外の不幸などではなく、計画の最終段階へ進むための必要な通過点に過ぎない」

大悟はゆっくりと立ち上がり、重厚で響きのある足音を立てながら、クライとレイジの前へと歩み出る。彼の姿形は、かつて大学のキャンパスで紫苑と共に笑い合い、未来を語り合っていたあの青年のものと同じはずなのに、今そこに立つ存在は、もはや別のものへと変わり果てていた。

「あの女は見事に役割を果たしてくれた。紫苑にとってちひろは、特別な存在だった。希望であり、心の拠り所であり、守るべき存在だった。だがその存在が、自分の手によって消え去った――この事実こそが、紫苑から最後の『甘さ』、人間としての弱さ、未練といったものを完全に削ぎ落としてくれた」

大悟の口元に、わずかに笑みが浮かぶ。だがそれは、喜びや楽しさからくるものではなく、まるで完璧な作品を前にした芸術家のような、あるいは緻密な計算通りに事が運んだことへの満足感に満ちた、冷たい笑みだった。

「これで紫苑の覚悟は決まった。あいつは今、自分の命や未来など顧みることなく、ただひたすらにすべての終わりを求めているに違いない。愛する者を失い、自分の無力さを噛み締め、罪の意識に押しつぶされながら……そうやって人間という種族が持つ、あらゆる感情の枷を外した時、初めてあいつは俺と同じ高みに立つ資格を得る」

そう語る大悟の言葉の端々には、狂気じみた考えと共に、かつての親友である紫苑に対する、歪みきった強い愛情と執着が混ざり合っていた。彼は紫苑を殺そうとしているのではない。ただ単に命を奪うことなど、彼にとっては何の意味も価値もない行為だ。彼が望んでいるのは、紫苑から人間としての一切の要素を奪い去り、自分と同じように孤独で、強く、そして何者にも囚われない存在へと変えること。そしてその上で、共にこの世界の真理を見つめ、新たな世界を築くことだった。

「紫苑は必ず来る。今夜、俺たちがかつて約束したあの場所、エリア0へと。奴は自分の手で俺を倒し、葬り去ることだけが、ちひろへの、罪を償う唯一の方法だと信じ込んでいる。なんと美しいことか。究極とも言える自己犠牲の精神、人間が最後に見せる最高にして最悪の輝きだ」

大悟は冷たく笑い、赤く光る瞳で目の前にいる二人の側近を見据えた。

「クライ、レイジ」

「はい」

二人は即座に姿勢を正し、主の言葉を待つ。

「計画はいよいよ最終段階へと突入する。レイジ、お前は外部からの干渉者、余分な者たちを一切近づけるな。この一幕は、俺と紫苑の二人だけのものだ。余計な不純物を入れて台無しにすることは許さない」

 

「任せろ、キング。何が起きようと、計画に狂いが生じることはない。邪魔者は全てぶっ潰す。」

 

 

「クライ、お前はその場で状況を監視し、必要とあらば事態が我々の計画通りに進むように調整を行え。あとの細かいこと、現場の処理などはすべて任せた」

「了解いたしました。お任せください。」

「行け」

「御意!」

二人は一礼すると、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、音もなく闇の中へと溶け込み、姿を消した。重圧に満ちた空間には、再び静寂が戻ってくる。そして聞こえるのは、相変わらずカタン、カタンと響く水滴の音だけだ。

誰もいなくなった空間で、大悟はただ一人、薄暗く低い天井を見上げた。彼の視線は分厚いコンクリートの壁を透過し、遥か地上の闇夜へと抜け、今まさに一歩、また一歩と決意を胸に歩みを進める紫苑の姿を捉えているかのようだった。

「待っているぞ、紫苑……俺のたった一人の親友であり、そしてこれから永遠に共にあるべき存在よ」

彼は低い声でそう呟き、口元にはさらに深い笑みが刻まれる。

「俺たちの長く続いた物語も、いよいよ最も相応しい結末を迎える時が来た。過去も現在も未来も、すべてを断ち切り、俺たちだけの世界を始めよう」

親友に対する最後の招きであり、敵としての決闘の宣言でもあるその言葉は、冷たい空気に乗って地下空間に響き渡った。地下に漂う冷気は、外の世界を覆う寒波よりも遥かに鋭く、そして冷たく、これから始まる壮絶な戦い、そして悲劇の序章を静かに、だが確かに告げているようだった。

 

(続)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。