仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2014年編#2-2

2014年編#2-2

 

世界中が同時に時間を奪われ、動きを止めたかのような悪夢の一夜が明けた。

後に「第二次グローバルフリーズ」と名付けられることになるこの未曾有の大事件——あの夜、空は赤黒く染まり、街は破壊と絶望に包まれ、人々は自分たちの世界が終わりを告げたのだと思った。ロイミュードと呼ばれる怪物たちが繰り広げた蹂躙の中心地は、今では「エリア0」と呼ばれ、高いフェンスと厳重な警備によって外界から完全に遮断され、立ち入ることは誰にも許されていない。

朝の光が街並みを照らし始めた頃、どのチャンネルのニュースも、同じ話題で持ちきりだった。

「昨夜、都心部を中心に正体不明の巨大な怪物たちが出現し、大きな被害が出ました」

 

「それらの怪物は突如として活動を停止し、跡形もなく消滅したことが確認されています」

 

「そして目撃情報が相次いでいるのが、怪物たちと戦い、この危機から我々を救ったとされる『青い戦士』の存在です。目撃者たちは口を揃えて、紺碧の装甲に身を包み、超自然的な力で戦うその姿を語っており、まさに都市伝説が現実になったかのようだと——」

テレビの中でキャスターが興奮気味に話す声は、風に乗って漂ってくる焦げ臭い匂いと共に、街のあちこちに流れていた。建物の壁にはひびが入り、道路には亀裂が走り、あちこちに戦いの痕跡が残っているにもかかわらず、街は何事もなかったかのように日常を取り戻そうとしていた。

紫苑は重い足取りで大学の正門を潜った。一歩踏み出すごとに、体中に疲れが染み込み、まるで鉛の塊を抱えて歩いているような感覚だった。昨夜のことがまだ鮮明に脳裏に焼きついており、自分が経験したこと、見たもの、感じたこと——それら全てが現実のものだったのだという重みが、心と体にのしかかっていた。

キャンパス内には朝の活気が戻っており、至る所で人々の声が響いていた。「無事でよかった」「本当に心配した」と互いの身の安全を確かめ合い、抱き合って喜ぶ学生たちの姿があちこちに見られた。誰もが昨夜の恐怖を共有し、それでも生きていること、周りの人が無事であることに安堵し、こうしてまた会えたことを喜んでいる——そんな当たり前の光景が、紫苑には遠い世界の出来事のように感じられた。

「紫苑ーーーっ!!」

鼓膜を突き抜けるような、聞き慣れた大声が風に乗って届いた。

紫苑はゆっくりと振り返ると、そこには見慣れた4人の姿があった。ちひろが目に涙を浮かべ、頬を少し赤らめながらこちらに向かって全力で駆けてくる。その後ろからは、いつものにやけた顔が消え、真剣で緊張した表情の悠真、心配そうに眉をひそめた美穂、そして無口ながらもその眼差しに安堵と安心感を滲ませた朔也が続いていた。

彼らの姿を目にした瞬間、紫苑の胸の奥に溜まっていた凍てつくような緊張感や重苦しさが、少しだけ解けていくのを感じた。自分が無事であることを心から喜んでくれる人たちがいる——ただそれだけのことが、これほどまでに心強く、暖かいものだとは思わなかった。

「よかった……生きてたぁ……!」

ちひろは紫苑の前まで走ってくると、息を切らしながら両手で紫苑の腕を強く掴み、少し乱暴に叩いた。

「連絡つかないから、本気で心配したんだよ! 何度電話しても繋がらないし、メッセージも返ってこないし……もう、何かあったんじゃないかって、眠れなかったんだから!」

その言葉に込められた思いやり、そして叩かれた時の痛みさえ、今の紫苑には何よりも愛おしく、かけがえのないものに感じられた。この痛みが、この暖かさが、自分がまだここに存在している証拠なのだと思った。

「ごめん……」

紫苑は少し笑って謝った。

 

「スマホ、どこかで落としちゃったみたいでさ。慌ててたものだから、全然気がつかなくて……本当に心配かけた」

「ったく、あんなことがあったっていうのに、なんで普通に講義なんてあるんだよ!」

悠真が大きなため息をつきながら近づいてきて、紫苑の肩を軽く叩く。

 

「休講でいいだろ、休講で。誰だって心配事があるし、落ち着かないに決まってるのに、学校側は全然分かってないよな」

そのいつものぼやき声に、他の3人も少しだけ笑顔を取り戻す。4人全員の無事を確認できた瞬間、紫苑の胸を支配していた重たい雲はさらに薄れ、少しだけ呼吸が楽になったような気がした。

「けど、一体何だったんだろうね」

美穂が周囲の様子を眺めながら、ぽつりと言った。

 

「テレビで見たけど、あんな大きな怪物が本当にいたなんて……まだ信じられないよ。それに、街がこんなになっちゃって」

「なんか、4年くらい前にも同じようなことがあったらしいな」

朔也が静かに口を開く。

 

「当時はまだ高校生だったけど、一時期ニュースで毎日のように報道されてたんだ。でも、いつの間にか話題にもならなくなって、みんな忘れちゃったみたいだけど……まさか同じことがまた起きるなんてな」

彼らは次々に思ったことを話し、意見を交わし、昨夜の出来事について様々な推測を述べ合う。だが、彼らの言葉の一つ一つを聞きながらも、紫苑の心はどこか遠く、別の場所に漂っていた。

昨夜、戦いが終わり、破壊された街の中心地で一人立っていた自分。

体中の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになりながらも、自分が何をしたのか、何者になったのか、まだ完全には理解できていなかったその時——闇の中から一人の男が現れた。

黒いスーツに身を包み、無表情で、冷たい空気を纏ったその男は、紫苑の前に立つと無愛想に口を開いた。

「俺は三原彰だ」

ただそれだけ告げると、男は紫苑が手に持っていた金属製のベルトと機器——後にGTドライバーと呼ぶものだと知る——に視線を向けた。

「そのドライバーはお前のものだ。これから先、お前の運命はこれと共にある。常に肌身離さず持っておけ。絶対に他人に見せるな、手放すな。……じきに、また会うことになる」

それだけ言い残すと、男は再び闇の中に消えていった。紫苑はその背中に向かって、聞きたいことが山ほどあった。自分は何者なのか、この力は何なのか、あの怪物たちは何なのか、これから何が起きるのか——だが、声を出すことも、一歩踏み出すこともできず、ただ男が消えた暗がりを見つめていることしかできなかった。

今、背中に背負ったリュックの中には、ずっしりと重たい金属の塊が入っている。それは単なる物体ではなく、自分が戦う力であり、同時に重すぎる責任と運命そのものだった。笑い声が溢れ、平和な空気が流れるこのキャンパスの中で、この重さはあまりに不釣り合いで、まるで自分だけが別の世界からやってきた異邦人のような感覚に襲われる。

「紫苑?」

美穂が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「また上の空になってるよ。お腹空いてるの? それとも、まだ昨夜のことで落ち着かないの?」

紫苑ははっと我に返り、慌てて笑顔を作る。

 

「あ……いや、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだ。行こう、講義に遅れちゃう」

彼らは並んで歩き出し、他愛もない雑談を始める。悠真のくだらない冗談、ちひろの明るい笑い声、美穂の柔らかな話し方、朔也の静かな相槌——それら一つ一つが、紫苑にとってこの上なく貴重で、守るべき宝物のように思えた。

だが、自分がこれらを守るために手にした「力」の正体も、その代償も、まだ何も分かっていない。4年前にこの世を去った父が、最期の瞬間に自分に向けて見せた、懐かしくもどこか悲しい眼差し——あれにどんな意味が込められていたのかも、まだ誰も教えてくれない。

ただ一つ確かなことは、リュックの中のドライバーの重みだけが、昨夜起きた惨劇が悪夢などではなく、現実に起きたことだという事実を、静かに、そして鋭く突きつけ続けているということだけだった。

これから自分は何者かになり、何と戦い、何を失っていくのか——紫苑は答えのない問いを胸に抱えたまま、仲間たちの笑顔に囲まれながら、光と影が交差する運命の道を、一歩ずつ歩き始めていた。

(続)

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