仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#1-2

2019年編#1-2

エリア0の空を貫いたあの黄金の光柱が、闇を焼き払うように立ち昇ってから、ちょうど5年の歳月が流れた。

あの光景を今でも鮮明に覚えている者は、そう多くはない。人々の記憶からは徐々に薄れ、日常の喧騒の中に埋もれていった。だが、あの夜、その場に居合わせ、何もできずにただ見つめることしかできなかった一人の青年にとって、あれは決して消えることのない、心に刻まれた傷であり、そして生きるための礎となっていた。

鷹宮紫苑。

自らの命を燃やし尽くし、親友であった星川大悟――ロイミュードの王となり、絶望をその身に宿した存在――を道連れに、この世界から姿を消した青年。彼が最後に見せた輝きは、世界に平穏をもたらすと同時、残された者たちに重い宿命を背負わせることになった。

仮面ライダーGTの姿は消え、王・フィアの咆哮は聞こえなくなり、クライやレイジといった幹部たちの影も闇の中へと消え去った。だが、世界が完全に平和を取り戻したわけではなかった。王を失ったロイミュードたちは、その根絶やすことの難しい存在特性から、人間社会の隅々、ネットワークの隙間、都市の地下、人目につかない闇の部分へと潜み、生き延びていた。彼らにとって、人間の存在は侵食と進化のための糧であり、その本能は王の不在によって衰えるどころか、かえって静かに、しかし確実にその牙を研ぎ続けていたのである。

この目に見えない脅威に対抗するため、かつてロイミュードの研究と監視に携わっていた三原彰は、全ての知見と人脈、そして国家規模の予算と最先端の科学技術を結集させ、一つの組織を立ち上げた。

 

S.H.I.F.T.

――Strategic Hazard Investigation & Fighting Taskforce

戦略的危険調査・対処特務部隊。

 

 

かつては非公式な立場で「監視員」としてロイミュードの動向を追っていた存在は、今や国の権威と武力を背景に、ロイミュードを狩り、人類の安全を守るための鋭い牙へと変貌を遂げていた。

 

そしてこのS.H.I.F.T.の中でも、最も多くの任務をこなし、最も正確で、最も冷酷に敵を討つ男がいた。

 

神崎朔也。

 

5年前のあの夜までは、どこにでもいる普通の大学生であり、紫苑や大悟、そして仲間たちと笑い合い、未来について語り合う、柔和で優しい青年だった。だが、運命の日、大学のキャンパスで親友たちが次々と異形の姿へと変わり、ある者は光となり、ある者は闇となって消えていく様を、彼はただ立ち尽くし、拳を地面に打ちつけ、叫び声を上げることしかできなかった。自分の無力さを噛み締め、何も守れなかった絶望が、彼の心と体を根本から変えてしまったのだ。

 

現在の朔也に、かつての面影はほとんど残っていない。任務に就くときはもちろん、普段から感情を表に出すことは少なく、その目は常に冷静で、獲物を狙う狩人のような鋭さを湛えている。いや、それは狩人というよりも、標的の核心を確実に打ち抜く「処刑人」と呼ぶ方がふさわしかった。

 

(ロイミュード殲滅。これが俺の存在理由だ)

 

そう心に決め、朔也は今日も現場へと向かう。この日も市街地の一画でロイミュードの反応が検知され、急行した彼は、住民の避難誘導を済ませると、即座に敵と対峙。無駄のない動きで銃を構え、わずかな隙も見せずにその核を撃ち抜き、わずか数分で任務を完了させた。

 

鉄臭い硝煙の匂いを身に纏ったまま、彼はS.H.I.F.T.本部の司令室へと戻ってくる。

 

自動ドアが開く音と共に、「戻りました」という乾ききった声が室内に響いた。

 

司令室の中心にあるデスクで、三原は幾重にも展開されたホログラムパネルの情報を目を滑らせながら処理していた。彼の顔には5年という時間の重みが皺となって刻まれ、組織を率いる者としての責任と苦悩が、その背中を幾分か丸く見せている。

 

「ご苦労だったな。怪我はないか」

 

三原が問いかける声にも、朔也の表情は変わらない。彼は手に持ったヘルメットをコンソールの上に置き、機械のように正確に報告を始める。

 

「問題ありません。装甲の損耗も規定値の範囲内です。対象のロイミュード一体の殲滅を確認。周辺の重加速粒子濃度も急速に低下しており、二次的な被害の発生も見込まれません。後は解析班に現場を引き渡すだけです」

 

淡々と、必要な情報だけを述べる朔也の姿に、三原は小さく息をつき、眼鏡を押し上げながら言葉を続けた。

 

「そうか……。だがお前、射撃の精度がまた上がっているな。どんなに動く標的でも、必ず一撃で核を撃ち抜く。助かっているが……そろそろ休むことも考えろと、いつも言っているだろう」

 

心配そうな上官の言葉にも、朔也は視線を動かすだけで、表情一つ変えない。彼の目は、司令室の大型モニターに映し出される都市の全景を見つめていた。

 

「休む必要などありません」

 

その声には、迷いも、躊躇いもない。ただ一つの確信だけが込められていた。

 

「紫苑が命をかけて守ろうとした日常がある。俺たちはそれを、ただ失われた過去のものにするわけにはいかない。今度は俺たちが、この世界を『維持』しなければならないんです。そのためなら、俺の時間など、いくらでも削って構わない。眠ることも、安らぐことも、俺には必要ないんです」

 

そう語る朔也の内面には、単なる復讐心を超えた、一種の義務感とも使命感ともつかない、強い熱い塊が渦巻いていた。引き金を引く度、戦いの最中に危険が迫る度、彼の脳裏にはいつも5年前のあの光景が浮かぶ。

 

自分たちのために立ち上がり、最後には何も言わず、ただ背中を向けて光の中へと消えていった親友の姿。彼は何も託さなかった。「後を頼む」とも、「守ってくれ」とも、一言も言わなかった。だが、朔也にはわかっていた。紫苑が最後に見せた背中は、この世界を、そして自分たちの生きた証を、どうか守り続けて欲しいという無言の願いだったのだと。

 

それが今の朔也を突き動かす原動力であり、心の支えであり、生きている意味そのものだった。

 

「三原さん。モニターに反応が出ました。B-12区画で重加速の予兆、レベル3。間違いなくロイミュードの活動によるものです……行っていいですね?」

 

朔也が素早く状況を伝え、既に次の行動へと意識を向けるのを見て、三原は再び深い溜息をついた。彼は手元の端末を操作し、現場への進入と行動の許可を示すコードを送信する。

 

「……許可する。だが朔也、どうか忘れるな。お前は機械でも兵器でもない。生身の人間なのだということを」

 

その言葉に、朔也は初めてわずかに口元を緩めたように見えたが、それはすぐにいつもの冷静な表情へと戻った。

 

「わかっています。俺が人間だからこそ、こうして戦っているんです。人間としての想い、人間としての責任、それがあるから、俺は敵を討ち、世界を守り続ける」

 

ヘルメットを再び手に取り、出口へと向かう途中、朔也はふと自分のデスクの上に目を落とした。そこには昔、大学のキャンパスで紫苑、ちひろたちと一緒に撮った写真が立てかけてあった。皆が笑顔で、何の不安もない、あの頃の時間がそこには閉じ込められている。

 

朔也は一瞬だけその写真を見つめ、心の中で「必ず守る」と呟くと、すぐにその感傷を心の奥深くへと押し込め、冷徹な戦士の仮面を再び身に着けた。

 

彼が守るものは、もはや自分自身の幸せや、個人の未来などではない。かつて親友たちが愛し、普通の日常として生き、そして命を賭して守り抜いた、この何の変哲もなく、退屈で、だけど何物にも代えがたい「世界」そのものなのだ。

 

重厚な金属製の扉が開き、そして閉まる。廊下に響く足音は次第に遠くなり、やがて聞こえなくなった。

 

司令室には再び静寂が戻り、モニターの光だけが無数に瞬いている。S.H.I.F.T.の地下深く、そして街の至る所で、見えない戦いの歯車は今日も音を立てて回り続けている。

 

神崎朔也の戦いは、まだ終わらない。いや、終わらせるわけにはいかないのだ。

 

 

(続)

 

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