仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#2-1

2019年編#2-1

 

S.H.I.F.T.本部の最上階にあるモニター室は、まるで世界の鼓動を直接感じ取る心臓部のような場所だった。

 

壁一面を覆い尽くす大型ディスプレイ群には、都市の各所に設置された監視カメラから送られる鮮明な映像が絶え間なく流れ、その脇には重加速現象を捉えた複雑な測定データが幾重にも重なり合い、さらには各地へ派遣された部隊員たちの生体情報がリアルタイムで更新され続けている。部屋の中央には、空中に精密な三次元ホログラムを展開する巨大な作戦テーブルが重厚な存在感を放って鎮座し、天井からは無数の配線と光ファイバーがまるで血管のように伸び、この空間全体に情報の血流を送り込んでいた。室内には常に張り詰めた空気が満ち、わずかな物音もない静寂の中で、ディスプレイの光だけが人々の表情を浮かび上がらせていた。

 

カツ、カツ、という乾いた足音が長い廊下から響き渡り、モニター室の重厚な扉がゆっくりと開いた。そこに姿を現したのは、ヘルメットを腕に抱えた刈谷蒼だった。

 

彼の体にはまだ、つい先ほどまで戦いを繰り広げていた現場の熱気がまとわりついている。腕の中のヘルメットは戦闘の熱を吸収したかのようにわずかに温かく、手に触れると微かな振動が伝わってくるような気さえする。少しだけ乱れた黒髪の下からは、いつもの凛々しい鋭い瞳が覗き、その瞳にはまだ戦いの名残である緊張感が宿っていた。一見すると落ち着き払った様子だが、よく見れば肩のラインにはわずかな疲労が滲み、服の袖や裾には戦闘でついた擦り傷や汚れが残されている。それでも彼の瞳の奥には、消えることのない闘志の炎が確かに燃え盛り、これから続く戦いへの覚悟を静かに示していた。

 

蒼は室内の空気に身を置くと、背筋をピンと伸ばし、はっきりとした声で報告を上げた。

 

「戻りました。任務、完了です」

 

その張りのある声が静寂を破ると、部屋の奥に置かれた執務用デスクで、三原彰が手元の端末から視線を上げることもなく、無愛想な調子で応えた。彼の顔にはいつも通り表情の変化がなく、まるで彫刻のように無機質に見えるが、その指は休むことなくキーボードを叩き続け、膨大なデータの海の中から必要な情報を探し出しているのが見て取れた。

 

「ああ、ご苦労だった。現場の状況はどうだ? 建物の損壊状況、それから負傷者の有無……詳しく報告しろ」

 

「はい。現場周辺の建物には一部損壊が見られましたが、事前に行った避難誘導が徹底されていたおかげで、死傷者は一人も出ませんでした。また、戦闘によって発生した残存エネルギーの測定と回収作業、現場の痕跡の採取については、すでに解析班の到着を待って引き継ぎを完了しています。今後のデータ分析については彼らからの報告を待つ形になります」

 

蒼が一息に報告を終えると、三原はキーボードを叩く手を一瞬だけ止め、小さく息をついた。

 

「そうか……無事で何よりだ」

 

短い応答だったが、その声のトーンにはわずかながら張り詰めていた心の糸が緩むのがはっきりと分かった。三原にとって蒼は、S.H.I.F.T.が開発した最新の装備と技術を結集させた戦士であり、組織にとって欠かすことのできない貴重な戦力であった。だがそれ以上に、彼はまだ年若い少年であり、行方不明の父を探すという一心で戦いに身を投じていることを知っていた。だからこそ、毎回任務から無事に帰還する姿を見るたびに、安堵の念が先に立つのだった。

 

その時、部屋の扉が再び開き、今度は指揮服に身を包んだ神崎朔也が姿を現した。彼もまた別の部隊を率いて、今回の事変の現場周辺で警戒任務と住民の避難誘導にあたっていたところだ。頬にはわずかに埃や汚れがつき、髪も少し乱れているが、その歩みには一切の乱れがなく、鋭い目つきは依然として状況を把握し続けていることを示していた。

 

「お疲れ、蒼。随分と鮮烈なデビュー戦だったらしいな。司令室のモニターから一部始終を見ていたが、お前が戦う姿から放たれる熱気と闘志が、まるで画面越しにこちらまで伝わってくるようだったよ」

 

朔也は柔らかな笑みを浮かべて蒼のもとへ歩み寄り、その肩を軽く叩く。その手には戦場に足を踏み入れた者同士の確かな信頼感が込められており、蒼の緊張感を自然と解きほぐしていくようだった。

 

「ありがとうございます、朔也さん。でも……これはあくまで始まりに過ぎません。俺は自分の戦いを、ようやくスタートラインに立ったばかりなんです」

 

蒼の言葉は謙虚でありながらも、強い決意に満ちていた。つい先ほどまで命のやり取りをし、死線を潜り抜けてきた者同士とは思えないほど、穏やかで他愛のない会話が交わされ、モニター室に流れていた張り詰めた空気が少しずつ和らいでいく。ようやく訪れたわずかな休息の時間——そんな雰囲気が部屋を包み込んだ。

 

だが蒼はすぐに表情を引き締め、再び真剣なまなざしを浮かべると、三原の執務デスクへと一歩踏み出した。彼の足音は再び部屋に響き、先ほどまでの和やかな空気が静かに引き締まっていく。

 

「……三原さん。一つ、どうしても聞かせてください」

 

「なんだ?」

 

三原は端末の画面から目を離し、椅子をゆっくりと回転させて蒼の方へと向き直る。彼の表情は再びいつもの無表情に戻っていたが、その目は蒼の真剣な様子を受け止め、真摯な態度で応じていた。

 

蒼は大きく深呼吸をして、胸の内に秘めた思いを吐き出すように、三原の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、戦闘中に見せる闘志とはまた異なる、強い願いと不安、そして確固たる意志が映し出されていた。

 

「親父の足取りは、その後どうなっていますか? 今回の事変や、ここ最近のロイミュードの動きから、何か新しい手がかりは掴めましたか?」

 

その問いかけを聞いた瞬間、三原は再びキーボードに伸ばそうとしていた指をピタリと空中で止め、深く椅子に背中をもたせかけた。彼は眉間に深い皺を寄せ、難しい表情で蒼をじっと見つめ返し、しばらくの間無言のまま時間が流れた。部屋には再びディスプレイの動作音だけが響き、二人の間に重たい沈黙が横たわる。

 

やがて三原はゆっくりと首を横に振り、低い声で答えた。

 

「……いや、さっぱりだ。我々がどれだけ監視網を張り巡らせ、どれだけ痕跡を追跡しようとしても、決定的な手がかりどころか、彼の存在を示すわずかな痕跡すらも掴ませてくれない。まるで最初からこの世に存在していなかったかのように、完全に姿をくらましたままなんだ」

 

蒼がS.H.I.F.T.にスカウトされたのは、数ヶ月前のことだった。

 

当時、彼は行方不明になった父の消息を独りで追い求め、手がかりもなく街をさまよい歩いていた。母が亡くなってからは自分の足で各地を巡り、少しでも父に関する情報を集めようと必死だったが、得られるものは何もなく、ただ時間だけが過ぎていく日々が続いていた。そんなある日、彼の前に突然三原彰が現れたのだ。

 

三原は蒼と向かい合うと、最初から核心を突く言葉を告げた。

 

「お前の父を探し出す手助けをしよう。だがその代わりに、俺がお前に託す力を使って、この世界に迫る脅威と戦ってもらう。それが我々の契約であり、対価だ」

 

それが二人の間の約束であり、蒼が戦士として生きることになったきっかけだった。

 

蒼には忘れることのできない壮絶な過去があった。彼がまだ幼かった頃、父はある日突然、何も言わずに家族の前から姿を消した。警察に捜索願いを出しても手がかりはなく、時間が経つにつれて周囲の人々は「もう戻ってこないだろう」と諦めるようになっていった。それでも蒼と母は、いつか必ず帰ってくると信じて待ち続け、細々としながらも二人で生活を送っていた。

 

だが1年前、その平穏は突然崩れ去った。母が重い病に倒れ、床に伏せる日々が続き、やがて息を引き取る間際になって、蒼の手を強く握りしめ、かすれた声でこう囁いたのだ。

 

「……お父さんのことを、恨まないであげて……」

 

その言葉は、幼いながらにも蒼の心に深く刻まれ、疑問として長く残り続けることになった。父はなぜ突然姿を消したのか。何かに巻き込まれたのか、それとも自らの意志で去ったのか。そして今、父は生きているのか、それとも——。

 

蒼がインフェルナスドライバーを身につけ、戦う理由。それは決して正義感だけからではなかった。行方不明となった父をこの目で探し出し、もし生きているのならその背中を、もしすでにこの世にいないのならその真実を、自分の目で確かめなければならない。それだけが、彼を突き動かす原動力であり、この過酷な戦いの日々を生き抜く支えとなっていたのだ。

 

「……そうですか」

 

蒼は小さく呟き、静かに視線を落として俯く。手がかりがないことは分かっていたつもりでも、毎回この答えを聞くたびに、胸の奥が締めつけられるような痛みを感じる。自分の無力さを痛感し、同時にこの状況に対するいらだちが込み上げてくる。

 

現在、世界を取り巻く状況は混迷を極めていた。

 

5年前に起きたロイミュードとの大決戦の末、当時の彼らの王であったフィア——星川大悟は消息を絶ち、生死さえも不明のままとなった。だがそれと同時に、ロイミュードの最高幹部であったレイジとクライもまた、闇に紛れるように姿を消し、その行方を誰も知らないまま現在に至っている。

 

人々はあの大きな戦いの終結によって、一時は平和が戻ってきたかのように感じていた。だがS.H.I.F.T.が収集するデータや各地から寄せられる情報は、彼らが完全に滅びたわけではないことを明らかに示していた。

 

水面下で活動を続けるロイミュードの勢力は、確実に、そして徐々にその規模を拡大させていたのだ。かつてのように大々的に街を襲撃し、建物を破壊しながら暴れ回ることは少なくなった代わりに、彼らの行動はより巧妙で陰湿なものへと変化していた。目立つことなく社会に溶け込み、機会をうかがう——そんな様相を強めていたのである。

 

「奴らの真の目的は、相変わらず人類の絶滅……いや、『置き換え』だ」

 

三原が重々しい口調で語り始める。彼は指を伸ばしてディスプレイの一つを指し示すと、そこには人間の細胞構造とロイミュードの核となるコアが結合し、一体化していく様子を示した恐るべき構造図とデータが映し出された。

 

「力ずくで人間をねじ伏せ、恐怖で支配しようとするのではない。奴らが選んだのは『内なる侵食』だ。ロイミュードの因子を人間の細胞と融合させ、社会のあらゆる層、ありとあらゆる場所へと溶け込んでいく。そして人々が気づかないうちに、人間そのものを乗っ取り、支配権を握っていくのだ」

 

三原の言葉は部屋の中に重く響き、蒼も朔也も黙って聞き入っている。

 

「気がついた時には、社会の重要な役職や、交通、医療、インフラといった基幹部分はすべて奴らの手に落ちているかもしれない。隣にいる友人が、家族が、昨日までと同じ顔をしていながら、明日には怪物にすり替えられているかもしれないのだ。目に見えない恐怖が、音もなく世界を蝕み、人間社会を内部から崩壊させようとしている。これが現在我々が直面している現実なんだ」

 

だからこそS.H.I.F.T.は、組織の体制と活動方針を根本的に変革させたのだった。

 

かつては仮面ライダーという特異な戦士の力に依存し、彼らの活躍によって事態の収拾を図る体制だった。だがそれだけでは、目に見えない敵の侵食に対しては無力であることが明らかになった今、組織全体が一丸となり、情報網を拡充し、分析能力を高め、多方向から敵に対抗する体制へと進化を遂げていた。戦士たちの力は今も重要だが、それと同じくらいに情報と連携が重視されるようになったのである。

 

「侵食のスピードは、俺たちが予想していたよりも遥かに速い……」

 

朔也は改めて部屋中のモニター群を見渡し、低く重いため息のような呟きを漏らした。彼の脳裏には、5年前の大決戦の日、自らの身を挺して戦い、闇の中へと消えていった親友の背中が鮮明に浮かんでいた。もし彼が今もこの世界にいたならば、共にこの難局に立ち向かってくれただろうか——そんな思いが一瞬よぎり、心に痛みが走る。

 

「蒼、お前がこうして立派に任務をこなし、戦ってくれることは本当にありがたい。お前の存在だけで、どれほど多くの人々の命が救われ、安全が守られているか分からない」

 

朔也は蒼の肩に再び手を置き、真剣なまなざしで続けた。

 

「だがこれから先は、さらに休んでいる暇などなさそうだ。水面下に潜む敵は我々の想像をはるかに超えて多く、そして何よりも狡猾で悪質だ。俺たちの戦いはまだ始まったばかりであり、これからが本当の勝負なのだからな」

 

その言葉を受けて、蒼は何も言わずに深く、力強く頷いた。彼の心の中には、父を探すという個人的な願いと、世界を守るという使命が一つになって刻み込まれ、再び戦いへ向かうための覚悟が固まっていくのを感じていた。

 

モニター室の無数の光が、彼らの険しく長い道のりを淡く、しかし確かに照らし出している。窓の外には街の明かりが広がり、その向こうには深い闇が広がっていた。だがその闇の中にこそ、敵の姿があり、真実が隠されているのだ。

 

闇はますます深まり、そして戦いの時はまだ終わらない。蒼は静かにヘルメットを握りしめ、次なる戦いの時に備えて心を整え続けていた。

 

 

(続)

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