仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#2-3

2019年編 #2-3

 

数日後。

S.H.I.F.T.本部の静寂が、鋭い電子アラートの音で一気に破られた。高い天井に反響するその音は、緊急事態の到来を告げる合図であり、モニター室にいる全員の心臓を一瞬で締め付ける。

 

「警戒レベルA発令!市街地Cブロックにて複数の重加速反応を感知、生物センサーがロイミュードの出現を完全に捉えました! 反応数は……確認できるだけで十体以上、規模は過去最大級の可能性があります!」

 

オペレーターの声がわずかに震えながら告げる中、大型ディスプレイには衛星から送信されるリアルタイム映像と、赤く点滅し続ける危険座標が次々と浮かび上がっては消えていく。画面を埋め尽くす赤い点の密度の濃さに、室内の空気が一気に張り詰め、誰もが言葉を失ってその光景を見つめていた。

 

三原は執務用のデスクから勢いよく立ち上がり、鋭い眼光をディスプレイに向ける。地図上のCブロックは、商業施設や住宅街が密集する地域であり、このまま放置すれば甚大な被害が出ることは明白だ。彼は迷いなく、端末から指示を送信しながら、冷静かつ的確な声で命令を下した。その声にはいつもの冷徹さが漂い、緊迫した状況の中でも一切の揺らぎがない。

 

「蒼、直ちに出動しろ。標的は複数、かつ規模が大きい。市民の避難誘導と安全確保は別動隊に任せてある。お前の任務は現場に急行し、敵を完全に殲滅することだ。既に現場の座標と敵の反応データは、ライドストライカーのナビゲーションシステムへ送信済みだ。決して油断するな」

 

「了解です、三原さん! 」

 

刈谷蒼は待機室のソファから跳ね上がるように立ち上がり、応答すると同時に部屋を飛び出した。長身の体が廊下を駆け抜け、地下格納庫へと続く長いスロープを一気に駆け下りていく。彼の心には恐怖も迷いもなく、ただ任務を果たすという強い決意だけが燃えていた。

 

地下格納庫に足を踏み入れた瞬間、低く重厚なエンジン音が蒼を出迎える。照明に照らされたその場所には、彼の愛車であり、戦うための相棒でもあるライドストライカーが停まっていた。深い蒼色の車体はまるで深海のような深みと艶を持ち、エンジンは既に始動され、主人の到着を待ちわびるように規則的な振動を伝えている。

 

蒼は手早くヘルメットを頭に装着し、シートに腰を下ろす。グリップを握る手に力を込め、アクセルを一気に捻ると、両側に伸びた太い排気管が爆発的なまでの咆哮を上げ、格納庫内の空気を震わせた。重い車体が地面を強く蹴るように前進し、シャッターが開かれた出口へと向かっていく。

 

「行くぞ!」

 

外へと飛び出した蒼は、迷うことなくアクセルを全開にする。ライドストライカーは時速を一気に上げ、道路の舗装面を滑るように疾走する。彼の視線の先には、ただ一つ、現場となるCブロックの方向だけがあった。

 

市街地へと進むにつれ、道中の様子に蒼の眉間には自然と皺が寄る。道路には散乱したガラス片や破片が散らばり、至る所に避難した市民たちの慌ただしい足跡や、破壊された街路の痕跡が残されていた。空気はどこか重苦しく、生き物の気配が急速に薄れていくのを肌で感じる。

 

そして、現場へと到着した蒼の目の前には、想像を超える凄惨な光景が広がっていた。

 

数体の下級ロイミュードが、まるで意思のない破壊の権化と化して暴れ回っている。高層ビルの低層部分は壁が崩れ落ち、街路樹は根こそぎ倒されて道路を塞ぎ、コンクリートの塊が至る所に転がっていた。金属質で耳障りな咆哮が何重にも重なり、辺りには鉄とコンクリートが砕ける音、そして機械が軋む嫌な音が絶え間なく響き渡っている。既にこの周辺からは人の姿は完全に消え去り、代わりに立ち込める砂煙と、ロイミュードの放つ冷たく重圧的な空気だけが空間を満たしていた。

 

蒼はライドストライカーのブレーキを強く踏み、タイヤが悲鳴を上げるような急制動で車体を停める。勢いを殺さないままシートから滑り降りると、彼は落ち着いた一連の動作でジャケットの内ポケットへと手を差し入れた。指先に伝わるのは、冷たく硬質な金属の感触——シフトカーだ。彼はそれを取り出すと、手の中で軽く握りしめ、腰のホルダーに装着したシフトグリップを取り出し、シフトカーを滑らせるようにはめ込んでいく。

 

『MACHINE SET』

 

電子的な機械音が響き渡ると同時に、それは闘志の高まりを告げるような力強い待機音へと変化し、周囲の空気を震わせた。その音に反応するように、暴れ回っていたロイミュードたちの動きが一瞬で止まり、一斉に蒼の方へと向き直る。赤く輝く複眼が、一つの標的を捉えて光を放つ。

 

蒼は敵の群れを正面から見据え、全身に力を漲らせると、腹の底から絞り出すように力強く宣言した。

 

「変身!」

 

シフトグリップをベルトの本体部分へと叩き込むように連結させた瞬間、蒼の周囲の空間が不自然に歪み、空気が渦を巻く。

 

『INFERNUS BURN UP!』

 

轟音と共に蒼い炎が渦巻き上がり、瞬く間に蒼の体全体を包み込んでいく。炎は次第に高温のエネルギーへと変換され、彼の体を覆うようにして硬質な装甲を形成していく。青き戦士——仮面ライダーインフェルナスが、この荒廃した街中にその姿を現したのだ。

 

「これ以上の破壊は、俺が止める。邪魔者は……消えろ!」

 

インフェルナスは間髪入れずにベルトのバックル部分に手を伸ばし、操作を行う。すると側面から鋭い光沢を放つ刃が滑り出し、展開されていく。

 

『BLADE MODE!』

 

超高温のエネルギーを纏った高周波刃が出現し、周囲の空気さえも灼き尽くすかのように白熱し、青白い光を放つ。インフェルナスは地を強く蹴り、まるで自らが放つ炎そのものとなったかのような速度で、敵集団の中心目掛けて飛び込んでいった。

 

次の瞬間、辺りに響き渡ったのは、金属同士が激しくぶつかり合う音ではなく、滑らかで冷たい切断音だった。インフェルナスが軽やかな身のこなしでシフトブレードを振るうたび、ロイミュードの分厚く硬い装甲は、まるで柔らかいバターであるかのように容易く切り裂かれていく。圧倒的な力とスピード、そして精密な動きが一体となり、敵たちは抵抗する間もなく、次々と体を真っ二つにされ、あるいは手足を切断されていく。

 

まともに一撃を受けたロイミュードは、断末魔の叫びを上げながらバラバラに砕け、重たい金属音を立てて地面へと崩れ落ちた。インフェルナスは敵の攻撃を軽やかにかわしながら、一歩も後退することなく戦線を押し上げ、敵の陣形を完全に崩壊させていく。

 

敵の数が目に見えて減少し、体勢が完全に崩れたのを見極めると、インフェルナスは素早く間合いを取り、ベルトのバックルを再度操作して変形させた。

 

『MAGNUM MODE!』

 

先端部分が銃口へと変形し、開かれた銃口の奥ではエネルギーが渦を巻き始める。蒼は流れるような動作で残った敵へと照準を定め、装填されたシフトカーをさらに奥深くまで押し込み、引き金を引く。

 

『LIMIT RELEASE!』

 

電子音声が告げると同時に、銃口に青いプラズマエネルギーが星のように一点に収束し、周囲の空気を焼き尽くす勢いで、凄まじい反動と共に放たれた。

 

ドーン!

 

重低音と共に放たれた蒼い弾丸は、残ったロイミュードたちを文字通り芯から焼き尽くし、爆発的な光と熱と共に跡形もなく爆散させる。一瞬にして戦闘は終わりを告げ、先ほどまでの騒がしさが嘘のように、辺りにはただ爆発の煙と、物が焦げ付いた嫌な臭いだけが立ち込めていた。

 

インフェルナスは戦闘態勢を解くことなく、周囲に注意を払いながら煙の晴れるのを待つ。だが、その時——

 

「……ふん。そこそこやるみたいだな」

 

瓦礫の陰、煙の濃い部分から、低く重い声が響いた。

 

インフェルナスがゆっくりとその方向へ視線を向けると、白く煙る空気の中から、一人の男がゆっくりと姿を現した。腰には荒々しくローブを巻きつけ、上半身ははだけられ、鍛え上げられた分厚い筋肉の塊がむき出しになっている。濃い影の中から現れたその男の体からは、先ほどまで戦っていた下級ロイミュードたちとは比較にならないほどの、暴力的で圧倒的な威圧感が放たれ、周囲の空気が重力を増したかのように重く沈み込む。

 

モニター室でこの光景を監視していたS.H.I.F.T.本部のメンバーたちは、その姿を見た瞬間、思わず息を呑み、言葉を失う。三原の表情は、冷静さを保っていたそれまでとは打って変わって、初めて激しく動揺し、険しいものへと変わる。彼は信じられないものを見るように画面に顔を近づけ、声を荒らげて叫んだ。

 

『まさか……レイジ! 』

 

「こいつは……一体何者なんだ?」

 

インフェルナスもまた、目の前に現れた男の放つ存在感に、体の中心から力が湧き上がるのを感じながら、無意識のうちに身構える。肌に感じる圧力は、まさに危険そのものであり、今までに戦ってきたどの敵よりも強大で、そして凶悪なものだった。

 

レイジと呼ばれた男は、口の端を上げて悪魔のような不敵な笑みを浮かべると、首の骨をポキリと音を立てて鳴らし、全身に纏うオーラを一気に暗く濁ったものへと変えていく。黒い靄のようなものが体を覆い、彼の肉体は瞬く間に変質を遂げる。人間の姿から一転、禍々しい金属の鎧を身に纏い、巨大で分厚い拳を備えた凶悪な姿——幹部・レイジロイミュードへとその姿を変えたのだ。

 

通信回線を通じて、三原の緊迫した声が蒼へと届けられる。

 

『蒼……気をつけろ! そいつはロイミュードの最高幹部の一人、レイジだ! これまで相手をしてきた雑魚どもとはまったく格が違う! 5年前のGTですら、完全に倒すことができず、苦戦を強いられた強敵だ!』

 

その言葉を聞き、蒼の胸に衝撃が走る。GT——かつての英雄の名前だ。そのGTでさえ苦戦し、討ち果たせなかった相手が、今自分の目の前に立っている。だが、その事実は恐怖よりも、むしろ彼の闘争心を掻き立てるものであった。

 

だが、レイジの放つ圧倒的な存在感と殺気の前に、通信の声もかき消されてしまいそうになる。レイジは肩に装着された巨大な砲門を、ゆっくりとインフェルナスへと向け、凶悪に歪んだ笑みを浮かべる。その赤く光る瞳の奥には、ただ純粋で冷たい破壊への欲望だけが渦巻いていた。

 

「さあ、始めようじゃねえか。青い戦士よ……。5年前の殺し合いの続きをよ!」

 

二人の間の空気が悲鳴を上げるかのような重圧が周囲一帯を支配し、忘れ去られ、封印されたはずの5年前の悪夢が、再びこの街へと牙を剥いた。

 

インフェルナスはシフトブレードを両手で強く握り直し、構えをさらに低くして全身のエネルギーを最高度まで高めていく。装甲の隙間から蒼い炎が漏れ出し、彼の周囲の空気を歪ませる。

 

青き炎は、かつての英雄さえも苦しめた闇の存在に対し、今、自らの身を挺して挑みかかろうとしていた。宿命とも言える因縁の戦いが、今、ここに幕を開けたのだった。

 

 

(続)

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