仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#2-4

2019年編#2-4

 

地面が、まるで大地そのものが怒りを叫ぶかのように激しく震動する。

 

レイジの放つ圧力は、もはや生身の人間が受け止められる次元を完全に超えていた。蒼が纏うインフェルナスの装甲は、この短時間の戦いだけで無数の亀裂が走り、至る所で青い火花が噴き出している。各部からは悲鳴のような軋み音が上がり、駆動系にも深刻な損傷が及んでいることが、視界のモニターからも明らかだった。

 

「はあああっ!」

 

レイジが再び雄叫びを上げ、巨体を大きく沈み込ませる。次の瞬間、地面が砕けるような衝撃と共に彼が跳躍、鉄塊そのものの拳が蒼目掛けて振り下ろされる。

 

「くらえええっ!」

 

蒼は渾身の力を込めてシフトブレードを構え、正面からその一撃を受け止めた。だが——

 

ガガガガガンッ!!

 

耳をつんざく金属同士の激突音が響き渡り、凄まじい衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。蒼の体は地面に強く叩きつけられ、ヘルメット越しにも歯を食いしばる音が響く。視界が一瞬白く染まり、全身の骨が軋み、内臓が文字通り揺さぶられる感覚に、思わず口の端に血が滲む。

 

「強い……っ! これまで戦ってきたどの敵とも、比べ物にならない!」

 

蒼は懸命に体勢を立て直し、シフトブレードを構えて次の攻撃に備えるが、レイジの攻撃には全く隙がない。一撃一撃が重く、速く、そして正確で、まともに受ければ装甲が悲鳴を上げることが分かっているため、わずかでも衝撃を逃がそうとするだけで精一杯だ。

 

『蒼! まともにすべてを受けるな! 力の方向を見極め、流せ! 相手は重量級だ、衝撃を逃がすことを考えろ!』

 

ヘルメット内のスピーカーから響く三原の声は、普段の冷静さが微塵もないほどに焦燥と緊張に満ちていた。常に状況を分析し、的確な指示を出す彼がこれほどまでに声を荒らげるのは、これが初めてのことだった。それだけ、今の状況が絶望的であることを示している。

 

「分かってますよ……そんなことは……でも、この圧力の前には……!」

 

蒼は歯を食いしばり、額に汗が滲むのを感じながら、何とか反撃のタイミングを窺う。だがレイジは常に最大出力の力で攻め立て、休む暇も与えてくれない。まさに「圧殺」という言葉がこれほど似合う状況はなく、蒼はただ防戦一方となり、徐々に、しかし確実に追い詰められていく。

 

——このままでは、本当に殺される。体が持たない。俺も、この場所で終わるのかもしれない。

 

心の底から絶望が湧き上がり、冷たいものが背筋を伝っていくのを感じた、まさにその時だった。

 

「何を、遊んでいる? レイジ。」

 

突如として戦場に響いたその声は、氷のように冷徹で、機械的で、感情というものが完全に欠落しているかのようだった。その声が空気を凍てつかせ、先ほどまでの激しい戦いの熱気が一瞬にして消え去る。

 

レイジが振り下ろそうとしていた拳が、蒼のわずか数センチ上でピタリと止まる。蒼が驚き、声の主を探そうと視線を巡らせた刹那——

 

ドゴォッ!!

 

見えない衝撃波が背後から渦巻き、まるで重い鉄塊で思い切り殴りつけられたかのような衝撃が、インフェルナスの装甲を貫き、蒼の体を内側から揺さぶった。

 

「があっ!」

 

防御の体勢すら取れないまま、蒼は地面に叩きつけられ、インフェルナスはバランスを崩して地面を数回転がり、近くに積まれた瓦礫の壁に激突してようやくその動きを止めた。

 

『まさか……この気配は……クライか……!?』

 

三原の声が震えていた。それは恐怖から来るものであり、彼が長年の経験の中でも、これほどまでに強い戦慄を覚えることはなかった。

 

戦場に立ち込めた砂煙と粉塵がゆっくりと晴れていく中、一つの影がゆっくりと姿を現した。

 

黒いローブを全身に纏い、その下からは白い仮面のような無表情な顔が覗かせる、背の高い男。彼は何の感情も表さない無機質な動作で、ゆっくりと自らの体を変質させていく。

 

漆黒の硬い装甲が体全体を覆い、背中には複数の鋭い棘が生え、手には巨大な鎌が生成される。その姿からは言葉にできないほどの冷酷な殺意と威圧感が放たれる。人間の姿から、幹部の一体——クライロイミュードへと変貌を遂げた彼は、ゆっくりとレイジの隣に並び立った。

 

「ちっ、水を差すなよ、クライ。今、この青いガキの絶望する顔を、時間をかけてゆっくりと楽しんでたとこだったんだぜ?」

 

レイジが不機嫌そうに舌打ちをして、大きな体を揺らす。だがクライは微動だにせず、平坦で抑揚のない声で応えた。

 

「戯れている暇はない。我々の目的を達成するためには、障害は少しでも早く取り除くべきだ。……レイジ、時間の無駄だ。一気に片付けるぞ」

 

そう言うとクライは空に向かって右手を掲げ、手のひらからロイミュードの核となるべき光の塊を無数にばら蒔いた。それらはキラキラと光を放ちながら周囲に散らばる。

 

すると次の瞬間、周囲に散乱していた鉄骨やコンクリートの破片、押しつぶされた自動車の残骸、道路のアスファルトの塊などが、まるで強力な磁石に引き寄せられる鉄粉のように、クライの周囲へと一斉に集まり始めた。それらは渦を巻きながら高速で回転し、互いに融合し、形を変え、構成されていく。

 

蒼が口を開けてその光景を見つめている間に、それらの瓦礫は見事なまでに再構成され、瞬く間に五体もの巨大な体躯を持つ存在へと変形した。それらは先ほどまで戦っていた下級ロイミュードとは比較にならないほどの分厚い装甲と凶悪な武器を備え、巨大なロイミュードが整然と二体の幹部の前に整列する。

 

幹部クラスが二体。さらに即席とはいえ戦闘力の高い大型ロイミュードが五体。

 

戦力差は絶望的と言うほかなかった。蒼一人では、相手になるどころか、時間を稼ぐことさえ不可能に思えた。

 

『くそっ……朔也の部隊も、現場に到着するまであと五分はかかる……! 蒼、今すぐ撤退しろ! 生き延びることが優先だ! これは命令だ!』

 

通信機器から三原の絶望的な叫びが届く。だが蒼は、損傷の激しいインフェルナスをゆっくりと立ち上がらせながら、静かに首を横に振った。

 

全身が悲鳴を上げている。指は感覚が薄れ、まともに動かせる関節は体の半分もない。モニターに表示される損傷率は既に七十パーセントを超え、いつ機能停止してもおかしくない状態だ。

 

だが、この場所のすぐ背後には、まだ避難が間に合っていない市民たちがいるかもしれないのだ。もしここで自分が逃げ出せば、この強大な敵は一気に市街地へとなだれ込み、多くの命が失われるだろう。

 

「逃げられるわけ……ないだろ……っ! 俺がここで食い止めなければ、街が終わる! 多くの人が死ぬんだ!」

 

蒼はシフトブレードを杖代わりにして体を支え、震える足で地に立つ。その姿は、自分が死ぬことを覚悟した者のそれだった。冷たい汗が背中を伝い、視界がわずかに歪み、意識が遠のいていくような感覚に襲われる。

 

——これが、俺の戦いの結末なのか。ここで、俺は散るのか。

 

そう覚悟を決め、最後の力を振り絞ってシフトブレードを構えた、まさにその時だった。

 

ウォォォォォンーーーーーッ!!

 

重加速によって澱み、どんよりと濁った空気を、まるで鋭い刃物で切り裂くような音が響き渡った。それは重厚でありながらも、どこか懐かしく、そして心の奥底から沸き立つような高揚感を呼び起こす、エンジンの排気音だった。

 

戦場にいた全員が、音のする方へと一斉に視線を向ける。

 

そこには、路地の彼方から猛スピードでこちらへと飛び込んでくる一台のバイクの姿があった。

 

流線型を極めた白銀の車体に、至る所に最新の強化パーツが取り付けられ、各部が光沢を放っている。古い型のマシンをベースにしているようだが、その面影を残しつつも、性能も外見も完全に次世代へと進化を遂げたそのマシンの名は——『ライドストライダー・改』。

 

キキィッ!

 

凄まじい制動音を立ててタイヤが地面を擦り、真っ白な煙とタイヤ痕を残しながらバイクが滑り込み、ロイミュードの軍団と蒼のちょうど中間地点で、美しく、そして力強く停止した。

 

搭乗者は無造作にサイドスタンドを蹴り出して立てると、ゆっくりとシートから降り立った。

 

身長は高く、引き締まった体つきの男は、背中に分厚い布でぐるぐると巻かれた細身の長い剣を一振り背負っていた。彼は何も言わずに剣を無造作に取り外すと、ガシャリと重く硬い音を立ててそれを地面へと突き立て、まるで巨大な壁となるかのように、悠然とした足取りでロイミュードの軍勢の前に立ちふさがった。

 

蒼はその姿を凝視し、まるで呼吸することさえ忘れたかのように、息を呑んだ。

 

ジャケットの袖から覗く男の右手は、元の肉や骨ではなく、剥き出しの金属で作られた精巧な義手に置き換えられ、太いケーブルがまるで筋肉や血管のように複雑に這い回っている。

 

そして顔の右半分——そこには、まるで砕け散った骨や皮膚を無理やり接着剤で繋ぎ合わせたかのような、生々しく、くっきりとした縫い傷が幾重にも走っていた。右目は生身のものではなく、暗闇の中でもはっきりと見える、冷たく機械的な赤い光を放つ電子眼へと変わり果てていた。

 

だが——蒼の目、そして画面の向こうの三原の目が釘付けになったのは、男の腰の部分だった。

 

そこには紛れもなく、かつて世界を救い、多くの人々に希望をもたらし、伝説とまで呼ばれた戦士が身に着けていた、白銀の変身ベルトが、厳かに、そして勇ましく、何ものにも負けない輝きを放っていたのだ。

 

「な……んだ、あの人は……? 」

 

蒼が言葉を失ってつぶやく声は、自分でも驚くほどに震えていた。

 

『まさか……まさか……紫苑……なのか……!? 』

 

モニター室の三原が椅子を蹴倒すように立ち上がり、信じられないものを見るような、愕然とした声を上げる。

 

姿はあまりにも変わり果て、痛ましく、見るものに衝撃を与えるものだった。だが、五年前のあの日、消息を絶ち、誰もが死んだと信じ、悲しみ、そして忘れようとしていた男——その存在が、今ここに、確かに在った。

 

紫苑と呼ばれる男から放たれる凄まじい威圧感。それは単なる力の強さだけではなく、数々の死線を潜り抜け、地獄の底を見てきた者だけが持つ、重く深い闘志であり、その奥底には言葉にできないほどの悲しみが渦巻いているようでもあった。

 

その気配と圧力に、先ほどまであれほど傲り、凶悪だったレイジでさえも、思わず一歩、後ずさる。クライでさえも、その仮面の下の目を細め、わずかに警戒の色を浮かべているのが分かった。

 

紫苑は無言のまま、赤く光る右目で敵全体をゆっくりと一望する。その瞳に宿った光は、五年前のあの頃よりも遥かに鋭く、そして何ものも寄せ付けないほどに冷たく、凍てついていた。

 

五年という長い年月の間、沈黙を続け、どこで何をしていたのか——それは誰も知らない。だが彼は、自らの意志でその長い沈黙を破り、地獄の底から這い上がり、再びこの戦いの舞台へと戻ってきたのだ。

 

風が吹き、紫苑のジャケットの裾がはためく。彼はまっすぐに敵を見据え、その場に立っていた。

 

鷹宮紫苑——伝説は、再び目を覚ました。

 

 

(続)

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