仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

9 / 47
2014年編#2-3

2014年編#2-3

 

講義が全て終わり、太陽が沈みきって空が深い紺色に染まり始める頃、大学の正門は一日の終わりを告げるように、ひっそりと静まり返っていた。

昼間の騒がしさは嘘のように消え去り、通りを行き交う人の姿もまばらになった中、紫苑は悠真、朔也、美穂たちと別れ、いつものようにちひろと二人並んでゆっくりと歩いていた。

話す内容は他愛もないことばかり。今日の講義のこと、先生のくだらない冗談のこと、明日の予定のこと——そんな何気ない会話の一つ一つが、紫苑にとっては何物にも代えがたい宝物のように感じられた。自分が守らなければならない日常が、ここには確かに存在しているのだと、改めて心に刻み込むように聞いていた。

やがて分かれ道に差し掛かると、ちひろは足を止め、にっこりと笑顔を浮かべて紫苑に向き直った。夕闇の中でもその笑顔は明るく、紫苑の心を柔らかく照らしてくれる。

「じゃあ、紫苑くん、また明日ね! 気をつけて帰ってね」

「ああ、また明日。ちひろも暗い道、気をつけろよ」

紫苑が手を振って答えると、ちひろは元気よく頷き、自分の帰路へと走り出した。その背中が見えなくなるまで見送った後、紫苑は一人、静かな道に立った。

——次の瞬間、背後から低く落ち着いた声がかけられた。

「お茶でもどうだ?」

紫苑は心臓が一瞬大きく跳ね上がるのを感じ、素早く振り返る。そこに立っていたのは、昨夜暗闇の中で出会った男、三原彰だった。夜の闇に紛れるような隙のない黒いスーツ姿は変わらず、表情も口調も、昨日会った時と同じように無愛想で、感情の起伏がまったく感じられない。

思わず身構え、警戒心を露わにする紫苑だったが、今の自分には彼から聞かなければならないこと、知らなければならないことが山ほどあった。昨日の戦いのこと、手に入れた力のこと、亡くなった父のこと、世界を襲う危機のこと——疑問だらけの現状では、彼に従う以外に道はないように思えた。

「……分かりました。案内してください」

紫苑がそう答えると、三原は無言で頷き、くるりと背中を向けて歩き出した。紫苑は黙ってその後に続く。

向かった先は大学から少し離れた閑静な住宅街の一角にあり、木々に囲まれた古びた平屋の貸家だった。外壁は長い年月を経て色褪せ、屋根瓦には苔が生え、周囲の建物に比べると随分と時が止まったような佇まいで、誰も住んでいないのではないかと思わせるほどだった。

だが戸を開けて中に入ると、紫苑は思わず息を呑んだ。

外観から想像される古びた雰囲気とはまったく裏腹に、内部は異様な空間になっていた。畳が敷かれた日本間であるにもかかわらず、部屋の中央には大きな革張りのソファとガラス製のテーブルが置かれ、奥には大きなデスクが据えられている。その上には複数のモニターが並び、青白い光を放って様々なデータやグラフを映し出し、機械の低い駆動音が絶え間なく響いていた。壁一面に作り付けられた本棚には、背表紙に見慣れない専門用語や数式が記された分厚い書籍や技術資料がびっしりと詰め込まれ、さらに壁には大きな地図や複雑な設計図が何枚も貼られており、どう見ても普通の住居ではないことが明らかだった。

三原は紫苑をソファに座らせると、無造作にキッチンへ向かい、やがて湯気の立つコーヒーカップを二つ持って戻ってきた。テーブルの上には、元から置かれていたらしい何かの設計図や数値の書かれた資料が散乱しており、紫苑はそれらに目を奪われながらも、差し出されたコーヒーを受け取った。

三原は散乱した資料を片付ける様子もなく、自分もソファに深く腰を沈めると、そのまま無言で手元の資料に視線を落とし始めた。部屋には機械の音だけが流れ、重たい沈黙が二人の間に垂れ込める。紫苑は手持ち無沙汰にコーヒーカップを握りしめ、何と声をかけて良いのか分からず、ただ時間が過ぎるのを待つばかりだった。

この重たい空気に耐えかねたのは、ほどなくして紫苑の方だった。

「あの……」

「なんだ?」

三原は視線すら上げず、手元の資料をめくりながら短く答える。自分で呼んでおいてこの態度は何なのだ、と思わず苛立ちが込み上げてくるが、紫苑はそれを抑え込み、深呼吸を一つしてから、ずっと胸に抱えていた疑問の核心を突くことにした。

「一体、何が起きてるんですか? 昨日から突然色々なことが起きて、力を手に入れて、父が亡くなって……もう、何が何だかさっぱり分からないんです。全部、教えてください」

紫苑の真剣な問いかけに、ようやく三原は手元の資料から視線を離した。彼はゆっくりと資料をテーブルの上に置き、持っていたコーヒーカップを口元に運んで一口啜ると、静かに、しかしはっきりとした口調で語り始めた。

「……昨日、お前にドライバーを託して息を引き取った男の名は、矢切周平。次世代戦闘システムの開発者にして、かつて世界中の科学者から天才と呼ばれた男だ。そして俺は、彼と共に研究を続け、行動を共にしてきたパートナーだった」

「矢切……周平……」

その名前を口にした瞬間、紫苑の胸は強く締めつけられ、心臓が大きく跳ね上がった。記憶の彼方、ぼんやりとしか思い出せない幼い頃の光景——自分を抱きしめてくれた大きな手、優しく自分の名前を呼んでくれた低い声、見慣れない施設に預けられる間際に見た、悲しみに満ちた横顔。それらの断片が、今聞いた名前と一つになり、鮮明な輪郭を描き始めた。

自分の父親が、ただの人間ではなく、天才的な科学者であり、この世界の危機と深く関わっていた人物だったなんて——紫苑は驚きすぎて、言葉も出ない。

「あの男は、15年前からロイミュードの存在を察知し、彼らが引き起こす破壊から人類を守るため、長い年月をかけてこのGTシステムを作り上げた。お前が昨日身に着けたものも、戦士の力も、全て彼が生み出したものだ」

「ロイミュードって、一体何者なんですか? ただの怪物なんですか?」

紫苑の問いに、三原の表情は一変した。それまでの無愛想ながらも穏やかな雰囲気は消え、代わりに鋭く冷たい眼差しが紫苑に向けられる。

「……人類の敵だ。それ以外に言葉はない。何のために行動しているのか、我々にも全てを把握できているわけではない。だが確かなことは、彼らが存在する限り、この世界に平穏は訪れないということだ。今はそれ以上、詳しいことを教えるわけにはいかない——お前がまだそれを知るだけの力と覚悟を持っていないからだ」

三原の言葉は断定的で、それ以上の追及を許さない冷たさが込められており、紫苑はそれ以上問いかけることができなかった。

それから三原は、紫苑にGTシステムの基本構造や、シフトカーを使った戦闘方法、変身の仕組みなどについて詳しく説明し始めた。専門用語が次から次へと飛び出し、複雑な機構や理論が語られるたびに、紫苑の頭はますます混乱し、情報量の多さにまるで頭がパンクしてしまいそうな感覚に襲われた。それでも彼は一言も聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾け、重要な点は心に刻み込んでいった。

一通りの説明が終わり、部屋に再び沈黙が戻った時、三原はポケットに手を入れ、中から小さな物体を取り出すと、テーブルの上に軽く置いた。

「とりあえず、これを持っていろ。」

紫苑はテーブルの上に置かれたものに手を伸ばす。それは昨日変身する時に使った青いシフトカーと同じ形をしていたが、色は鮮やかなオレンジ色をしていた。手に取ってみると、ひんやりとした金属の感触が伝わり、微かにエネルギーの脈動を感じるようだった。

様々な疑問や不安を抱えたまま、紫苑はゆっくりと立ち上がる。そろそろ帰らなければ、と思った矢先、三原も立ち上がり、冷徹な眼差しのまま紫苑に言葉を続けた。

「ロイミュードの活動が確認され次第、すぐに連絡する。お前一人で戦わせるわけではない、お前をバックアップし、支援する専門のチームも編成してあるから安心しろ」

「チーム……?」

予想外の言葉に紫苑は思わず聞き返した。自分が戦う時は一人なのだと思っていたからだ。だが三原はその問いに答えることなく、紫苑の肩越しにドアの方を見やり、最後に釘を刺すように低く付け加えた。

「……あと、忘れないでくれ。GTシステムにはまだ解決されていない課題があってな。あまり長く変身し続けるなよ」

それだけ言い残すと、三原は紫苑を部屋の外に導き、背後で冷たく戸を閉めた。カチャリと鍵の閉まる音が、暗い夜の中に不気味に響いた。

夜風が身に染みるように吹き抜け、紫苑はゆっくりと歩き始める。手の中にはオレンジ色のシフトカーがしっかりと握られており、その重みが現実感を与えてくれる。

歩きながら紫苑は、昨日の戦いの終わりに視界のHUDに映し出されていた数字の列を思い出していた。コンマ一秒単位で確実に、そして無慈悲に減っていくタイマー。

刻々と減っていく数字。あのカウントダウンがついに「ゼロ」に達した時、一体自分に何が起きるのか。その先に待つ結末は——自分の命が失われることなのか、それとも自分自身が怪物に変わってしまうのか。それとも、もっと恐ろしい事態が世界全体に降りかかるのか。

答えのない問いが次々と頭に浮かび、紫苑の心に不安の波が押し寄せる。だが彼は立ち止まることなく、暗闇に包まれた道を力強く踏みしめ、家路を急いだ。

まだ始まったばかりの運命の中で、自分が背負うものの重さを、紫苑はこの夜、初めて心の底から実感したのだった。

(続)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。